元外交官 原田武夫氏のコラムより

「スティールメイト化する世界」

~ある先輩氏からのアドバイス~

先日、永田町・霞ヶ関界隈で活躍されている大先輩から、電話を頂いた。私からご挨拶を申し上げる間もなく、いつものとおり血気盛んな先輩氏は、これまたいつものとおり大声で携帯電話越しに次のようなアドバイスを一気呵成におっしゃった。

「原田くん、君がいろいろなところで盛んに発言しているのを楽しみに拝見させてもらっているよ。しかし、一つだけ気になったことがある。君は、5月1日に解禁になる三角合併を控え、米系を中心とした外資勢が安値で買い叩けるよう、日本株マーケットがその直前までの間にズドンと落ちると予測しているね。しかし、残念ながらそうはなりそうもない。今の相場を見ていると、電力株の高騰などを見るにつれ、君がまだ子どもだった1980年代前半の相場にそっくりなんだ。今回も、あの時と同じように、このまま一直線に上がっていく。株の予想は、君が思っているより、はるかに難しいものだ。気をつけたまえ」

世間の目にはさらされない日本の最深部の動きを、私にいつも噛み砕いてご教示下さるこの先輩氏からの文字どおり貴重なアドバイスを、私はじっと黙って聞いていた。先輩氏のアドバイスは、数十歳も年の違う私に対する暖かい好意の現れであり、また、忠告でもある。ありがたく拝聴すべきものであることは言うまでもない。

しかし、同時に先輩氏のこのアドバイスは、いつも以上にチャレンジングなものでもあった。なぜなら、先輩氏の朗々としたお声を電話口で聞きながら、私の胸には、一つの単語が思い浮かんだからだ。

スティールメイト状態にある世界のマーケット

「スティールメイト」――チェス用語の一つである。

スティールメイトとは、チェスの独特のルールの一つ。「次に動かすことの可能な駒がひとつもなく、しかも、そのままキングを動かさなければそのキングを取られることはない (つまりチェックされていない)こと」を指す。

難しいのは、時に試合が自分にとって明らかに優勢だと思われる展開であっても、下手をするとスティールメイトに持ち込まれる可能性があることである。チェスはこの点で、最後まで追い込み、王将を取ってしまう将棋と大きく異なっている。

いきなりなぜ、こんなチェス用語を持ち出すのかといぶかしがる読者の方もきっと多いことだろう。しかし、このチェス用語=「スティールメイト」こそ、今現在の日本をはじめとする世界中のマーケットの状況を説明するのに最も適当な考え方なのである。

~個人投資家として生き残るための5つのポイント~

私はこのコラムにおいて、日本の個人投資家として生き残るためには、一般にはまったく言われていない、次の5つのポイントをおさえることが、たとえば財務諸表を読みこなす技術や株式のテクニカル分析を極めるよりも先に必要だということを繰り返し説明してきた(拙著「NOと言える国家」(ビジネス社)も参照いただきたい)。

1)世界の中心には、米国を統治する閥族集団(これを「奥の院」と呼ぶ)がおり、彼らを中心として構成されているのが、米国を中心とした世界の覇権構造である。彼らは深い宗教心?に依拠しつつ、その信心の現れとして、世界中から富を徹底して奪いとり、これを集積することを生業としている。

2)世界のオーナーである「奥の院」からすれば、米国政府はブッシュ大統領以下、構成員全員が「マネージャー」に過ぎない。また、その長である大統領の座を巡って行われる選挙のために組織される民主・共和の両党からなる米国の「民主主義」という名の政治構造も、結局はゲームの中で胴元を務める「奥の院」の存在を隠すための仕組みに過ぎない。

3)「奥の院」に仕えるマネージャー国家としての米国は、自らの覇権構造を維持するため、サブマネージャーとでもいうべき諸国家を引き連れている。ドイツ、フランス、中国、ロシア、インドなどがその典型例である。これらのサブマネージャー国家は、マネージャー国家(=米国)がつくったゲームのルールを承認した上で、その覇権の維持を手伝うことで、いわば「おこぼれ」に預かろうとする国家たちである。

4)マネージャー国家とサブマネージャー国家による収奪の対象となるのが、ただひたすら働くことしか知らない哀れな国家=「ワーカー国家」である。その一方で、これらの3つとは別に、マネージャー国家がつくりあげるルールを徹底して撹乱(かくらん)することで、生き残りを図る国家もいる。これが「ハイエナ国家」である。前者の代表例が日本であり、後者の代表例が北朝鮮であり、イランである。

5)重要なのは、以上の世界構造の中でマネーが動いていく流れには一定の方向性が見られる点である。それは、さまざまな迂回(うかい)ルートはあるにせよ、富は最終的に「奥の院」の財布に入っていくということである。国境をまたぐ形で行われる、そのための集金作業を行うのが、「越境する投資主体」である。ファンド、あるいは投資銀行と呼ばれる「越境する投資主体」はこうした集金のためであれば、手段を選ばない。外交、軍事など、人間生活のあらゆる側面を駆使して行われるこの集金作業の中で活躍するのが、情報工作機関であり、また、一見したところマネージャー国家とは不倶戴天の敵のように思われている「ハイエナ国家」である。

~閉塞感だけが蔓延(まんえん)する世界情勢~

以上の基本構造を踏まえた上で、あらためて世界の現状を分析してみるとどうなるか。

たとえば北朝鮮情勢については、ブッシュ政権がこれまでの方針を大転換し、北朝鮮と直接協議をあからさまに行うようになったという意味で、動きがあるように見えなくもない。しかし、2月13日に閉幕した第5回六か国協議で合意された外交文書は、外交のプロたちが作ったとは思えないくらい、穴だらけのものだ。ブッシュ政権は表向き「外交上の大成果」と喧伝し、現にさらなる譲歩を重ねて北朝鮮に歩み寄るかのように見えるものの、北朝鮮が最終的な「大団円」に向け、これに乗るかはいたって不透明な状況にある。米朝関係が進展すれば、自ら米国が日本に北朝鮮との国交正常化に向けた圧力をかけ始めるものと考えられるが、そうでない以上、日朝関係も閉塞したままである。

また、地球の裏側に目を転ずると、イランを巡る情勢がますます緊迫化してきている。しかし、イラクについてはあれほどまでに一気呵成に武力攻撃に踏み切った米国は、今回、そこまで気合が入っているとは思えない態度に終始している。EUも制裁容認の方向へと舵を切ったものの、それでもなお、一時のような「イラン叩き」の勢いは見られない。それが証拠に、徐々に原油価格は上昇トレンドになってはいるが、決定的な形で「急騰」へ転じてもいないのである。しかも、インドにいたってはパキスタンと共に、イランとの間で10年越しの課題である天然ガス・パイプライン建設に向けた協議まで行ったのだと聞く。

さらに大きな視線で見てみると、米ロ関係についても閉塞感が漂う。2月9日、10日にドイツ・ミュンヘンで行われた安全保障会議で、プーチン大統領が東欧地域に「対イラン」を目的にミサイル防衛システムを設置しようとする米国を激しく非難した。しかしその一方で、北朝鮮については六か国協議の席上で米ロ間が争った形跡はない。イランについても、ここにきてまったく同じく平穏無事に推移してきている。

世の中の趨勢(すうせい)を占うという意味で決定的なのは、米国の大統領選(2008年12月)に向けた動向だ。だが、ここでもまた方向性の喪失と閉塞感が否めない。「基本的には民主党への政権移譲だろう」と誰しもが思いつつも、民主党全体としても見ると、中間選挙(昨年11月)に大躍進した割に共和党に対する決定打を打つにはいたっていない。イラクへの増派を求めるブッシュ政権を相手に議会で手こずっている姿だけが目につく。

そして、日本の内政状況を見ても、同じく閉塞感だけが蔓延(まんえん)している。北朝鮮情勢、とりわけ日本人拉致問題を巡る動きの悪さを原因として安倍晋三政権が窮地に陥るだろうということが、永田町とメディアでは「常識」となりつつある。しかし、それ以外の内政上のさまざまな問題をかけあわせても、安倍政権にとって致命傷にはなっていないのが現実だ。こうした政治状況は見ていて「茶番」として面白おかしいものではあるものの、マーケットでは「内政リスク」として認識されないままでいるのが不可思議ではある。その一方で、日本の旧財閥系企業の深遠な部分で活動する、ある種のネットワークの中では、安倍政権の「急所」に対する一斉攻撃が着々と仕込まれているとの情報も耳にする。

以上は世界の現状について、そのほんの一部を切り取ったに過ぎないものであるが、同時にそのトレンドを端的に示している。それはひと言でいえば、閉塞状況、しかもこれ以上打つ手がないかのように見える状況=「スティールメイト」なのだ。

~米朝協議はなぜドイツで行われたのか~

「世界を仕切るのが『奥の院』であり、そこにすべてが集約されるのであれば、彼らはいわば全知全能、すべてを裁けるのであって、そもそも閉塞状況など生じることがないのではないか」――読者の方々はそう言われるかもしれない。だが、問題は世界中の至るところで起きているスティールメイト化の原因をたどった結果、そこで拮抗しているプレーヤーがどのレベルの者たちかなのである。もっと端的にいえば、閥族集団である「奥の院」が果たして今、ゆるやかではあれ、一つにまとまりきれているのかなのだ。

現状を分析する限り、この問いに対する私の答えは「NO」である。その最大の論拠となるのが、1月16日よりドイツ・ベルリンで行われた米朝協議なのである。「なぜこの協議が北京でもなく、NYでもなく、これまでまったく関係がなかったドイツのベルリンで行われたのか」という点について、日本の大手メディアはまともな分析をした形跡がない。もちろん、「なぜベルリンだったのか」ということについては、米朝間のトップ・シークレットであるはずなので、その理由が開示されることはおそらく未来永劫ないであろう。しかし、ただ一つはっきりと言えるのは、覇権国である米国であっても、どうやらそれを凌駕(りょうが)する存在がいそうだということである。しかもそれは、日本と同様に米軍が国内に駐屯し、国家として米国に歯向かおうとすれば、すぐさまつぶされてしまうに違いない非核保有国・ドイツでもないだろうということにもすぐ気づく。となると、元来的にドイツにいるものの、国家としてのドイツを超える存在こそが、すべてを演出した主体だということになる。さらにいえば、イラン問題、そしてロシア問題のいずれも、ドイツは深く関与してきている国際問題だ。これらすべてが、小細に見ると、こうした「見えないドイツ」へと収斂(しゅうれん)していく。そして「見えないドイツ」とその対抗勢力とが、ステルスな戦いを続けている結果、生じた状況。―――それが、現在のスティールメイト化した世界に他ならないのである。

賢明な個人投資家でもある読者の方々は、以上の分析を知れば、「今後、マーケットはどうなるか」について、もはや予測がついたことと思う。スティールメイトが続くのは、プレーヤーがその局面を続けようという意思を持っている時だけなのである。すべてをリセットし、新しく局面をつくっていくとの共通意思が成立した瞬間、スティールメイトは解消する。

~新たなゲームの開始時期を待て~

日本をはじめとする世界的な株高は、決して景気循環や企業財務分析だけでは語れないものなのだ。日本、米国、ロシア、韓国、フランスと、次々に国政選挙が行われていく中で、それに向けたマーケットでの資金調達を行おうとする閥族集団同士がスティールメイト状態となり、異常なほど緊張感がみなぎってきた結果、もはや誰も説明ができないほどのラリーとなっているに過ぎないのである。したがって、冒頭の先輩氏にあえて反論するならば、日本がまだ閉鎖経済であった1980年代前半の株高と、金融ビッグバン後の「越境する投資主体」による草刈り場となった現在の日本における株高とを単純比較することはできない。

むしろ日本の個人投資家として今、この瞬間に神経を研ぎ澄ましておくべきなのは、「スティールメイト状態」がいつ解消し、新たなゲームが開始されるかなのである。その瞬間に、相場は「瓦落(がら)」となる。確かに、今回のスティールメイトは閥族同士の巨体と巨体のぶつかりあいだけに、そう簡単に解消されるはずもない。実際、これまで見えてきたシナリオは今年に入ってから大幅に遅れてきた感がある。しかし、ハシゴを外すと決めた瞬間には途方もないスピードとエネルギーで双方向から動くはずでもある。したがって、追加投資を重ねて相場の高揚感に酔ったふりをしつつも、緊張感をもって逃げ足を十分に確保しておくことこそが、正しい投資法だといえるだろう。

かねてから述べているとおり、私がこのコラムでお伝えしているのは、先輩氏の言葉でいう「株の予想」ではない。むしろ、マネーが織り成す「世界の潮目」というより大きな構造と、それを知るためのセンスの習得法こそがそのテーマである。今のスティールメイト化した状況の後にやってくるマーケットの急展開は、個別銘柄を云々する以上に、個人投資家はまず何を学ぶべきなのかをはっきりと示すことになるだろう。

~否決された竹中郵政民営化法案とはどのような法案か~



今回の衆議院解散劇の主要テーマであり、参院本会議で否決された「竹中郵政民営化法案」とはそもそもどのような法案だったかを考えてみる必要がある。

ご存じのように、2001年4月1日に「財政投融資制度」(財投)が廃止されて、郵便貯金や年金積立金を「官から官へ」資金運用を預託する制度が廃止された。

そして「日本郵政公社」が設立されて、郵便貯金については官僚たちの国策運営ではなく、金融市場で自主的に運用されることになった。それでも郵便貯金230兆円と簡易保険120兆円の計350兆円もの膨大な資金が、官僚組織によって非効率に運用されてきたのは、紛れもない事実である。この郵政公社を当初の約束では5年間の移行期間は存立させるとしていたのを、なぜか急にたったの2年半で急いで完全に民間企業に転換しようというのが今回の法案である。

もちろん、このような急な動きの裏には、アメリカのからの強い圧力があった。

このために、小泉首相や竹中平蔵郵政民営化担当相の政府側から、また松原 聡東洋大学経済学部教授をはじめ政府の御用学者や、今や公然と米国の手先言論と化している日本経済新聞を中心とする大新聞、テレビ局の大手メディアから急速に郵政民営化=改革というアジテーションが流されることになったのである。それが今年の4月からの流れである。

政府と同調する法案賛成論者たちの専門的な用語を使った説明を聞いていると「民で出来ることは民で」と、いかにももっともらしいことを語っているように聞こえるが、実際には、こうした論理はこの問題の本質を巧妙に覆い隠しているものと言わざる得ない。

なぜなら、この竹中郵政民営化法案が基本テーマは、はっきり、言ってしまえば、米国のロックフェラー財閥を中心とするニューヨークのユダヤ系金融資本が、日本の60歳以上の高齢者3000万人の“国民の最後の虎の子”である郵貯や簡保の350兆円の巨額の国民資金を奪い取ることにあるからである。

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