総務省統計局のホームページを見ると、世帯単位における裕福さ、生活レベルの度合いを示す指標の一つであるエンゲル係数は、昭和40年には38.1%、生活水準の向上に伴い低下が続き、昭和54年には30%を下回り、平成19年には23%となっている。そのエンゲル係数が平成25年より上昇、現在26%に迫っている。主因はアベノミクスによる円安による輸入物価の上昇と景気拡大が続いているのに、実質賃金が低下する過去の景気拡大局面では見られなかった事態が続いていることにある。

 ところで、アベノミクスという経済政策は、大規模な金融緩和、拡張的な財政政策、民間投資を呼び起こす成長戦略という三本の矢から成り立っている。しかしながら、バブル崩壊後、財政赤字を積み重ねてきた日本には財政余力が乏しく、既得権益が強い日本では、有効な成長戦略が打ち出せないなかで今まで有効に機能してきたと言えるのは、金融緩和だけである。大規模な金融政策導入の政策根拠となったのが、第二次安倍内閣が発足する総選挙前に出版された浜田宏一氏の「アメリカは日本経済の復活を知っている」という本である。そもそも中央銀行による異次元金融緩和とうものは、20089月のリーマンショックによって始まったものである。ITバブル崩壊の後、2000年代に2倍の価格に上がった米国の住宅価格が下落。そのため、20089月には、住宅証券(AAA格)が40%下落。この下落のため、住宅証券をもつ金融機関の連鎖的な破産が起こることになった。ところで米国の住宅ローンは、日本(200兆円)の約5倍(1000兆円)の巨大な証券市場を形成している。ところで、住宅ローンの回収率で決まる価値(MBS等の市場価格)が40%下がると、金融機関が受ける損害は、400兆円になる。ちなみに、米国の金融機関の総自己資本は200兆円レベルである。

そのため、20089月には、米国大手のほぼ全部の金融機関が実質で、債務超過になってしまった。金融機関の債務超過は、経済の取引に必要な流通するマネー量を急減させる。当然、株価も下がり、ドルも下落した。20088月は、1929年に始まり1933年まで続いた米国経済の大収縮、つまり信用恐慌になるほどのスケールのものであった。放置しておけば、信用恐慌を招くことが必至、そこで米政府は金融機関の連鎖的な倒産を避けるため、銀行に出資し、FRBは銀行が保有する不良化した債券を買い取ってドルを供給することにした。

その総額は、リーマン・ブラザースの倒産直後に1兆ドル、その後も1兆ドルを追加し、129月からのQE3の量的緩和(MBSの買い)も加わって、FRBのバランスシートは、3.3兆ドルと20089月以前の4倍以上に膨らんでいった。金額で言えば、FRB2.5兆ドル(250兆円)の米ドルを、金融機関に対し、増加供給した。買ったのは、米国債(1.8兆ドル:180兆円)と、値下がりして不良化した住宅証券(MBS1.1ドル兆:110兆円)である。FRBによる米国債の巨額購入は、米国の金利を下げ、国債価格を高騰させた。この目的は、国債をもつ金融機関に利益を与え、住宅証券の下落で失った自己資本を回復させることにあった。同じ目的で、もっと直接に米国FRBは、40%下落していたMBS(住宅ローンの回収を担保にした証券)を1.1兆ドルも、額面で買っている。米ドルを増発し続けてきた米国FRBは、「出口政策」を模索している。出口政策はFRBが買ってきた米国債やMBSを逆に売って、市場のドルを吸収して減らすことである。これを行うには、米国債を買い増ししてくれる強力なパートナーがいないと、米国はドル安になって金利が上がり、経済は不況に陥ることになる。世界最大の債権国である日本が採用したアベノミクスによる円安政策は、実は、米ドルとドル債買いであり、円と円債の売りである。このような仕組みで日本は、同盟国であるアメリカの経済をアベノミクスによって支え続けてきた。これがアベノミクスの舞台裏である。 

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