~本当の事を知って問題を直視しなければならない時代を迎えている~

孫崎 亨氏

 元外務省の国際情報局長であった孫崎 亨氏が生き生き、楽しそうに戦後史の真実を講演会で語る姿を見ていて最近、ある講演会でテレビにもよく出演する大手新聞社の論説委員T氏が日本の政治の現状を「日本の国民が馬鹿だから、日本の政治はこんなに悪くなった。」と不愉快そうに語っていた姿が脳裏に浮かんできた。

 彼はジャーナリズムの役割・責任などには一切言及せず、物事を判断する能力のない国民が悪い、原発再稼働に反対する現在の官邸デモは日本社会における大変危険な兆候:ポピュリズムだとさらに深刻な顔で語るのだった。そしてほとんど、まともな説明もなしに原発の再稼働は当然であるとし、それに反対する大衆は世の中の現実がわかっていないとボソボソと話すのであった。国際政治の舞台裏を見てきた元外交官孫崎氏が多くの日本人にそれが不愉快な現実であろうと真実を伝えようとしているのに対し、この有名な論説委員T氏の態度は、ポジショントークをしなければならない立場かもしれないが、その違いがあまりにも際立っていた。



 そう言えば、日本国を愛する知人の経営者がこの論説委員が所属する新聞の購読を最近取りやめたという。その理由は、米国のタカ派のシンクタンクに新聞社の論説が乗っ取られたような状況で日本人として読むに耐えないということだった。

この好対照のお二方の姿こそ、現在の日本社会を二極分化する言論状況を如実に物語っていると言えないだろうか。



 たしかに311以降、政府、大手マスコミ、官僚が行なっているのは、情報隠蔽と情報操作と情報誘導と歪曲・矮小だったのではないかと多くの人が、疑い始めるように、なってきている。そう言った大手マスコミが作り出している「情報操作された言語空間」を打ち破ろうとしている伝道師の一人が元外交官孫崎 亨氏である。



 今回の講演は「迫り来る大地震活動期は未曾有の国難である」と2005年2月23日の衆議院予算委員会公聴会で石橋神戸大教授が原発震災を強く警告した話から始まった。フクシマ原発事故のような原発震災は、6年も前に国会で警告されていたのである。マスコミでこのことが大きく取り上げられていた記憶がないが、如何だろうか。

 

そして、話は東京都知事石原慎太郎氏が火を付けた領土問題に。



ところで、下記の質問に対してどのようにお答えになるだろうか。



<北方領土問題> 

•日本はポツダム宣言を基礎に置くべきか。

<答え:置くべきである。>

•ポツダム宣言では領土はどう書いているか。

<答え:「カイロ」宣言ノ条項ハ履行セラルヘク又日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルヘシ。>

•米国はソ連の参戦を呼びかけたか、反対か。

<答え:呼びかけた。>

•トルーマンは千島占領を認めたか否か。

<答え:認めた。>

•サンフランシスコ講和条約で千島に触れているか。

<答え:触れている、千島の放棄を認めた。>

•吉田首相は国後・択捉を放棄の千島でないと言っているか、演説で南千島と言っ

ているか。

<答え:南千島と言っている。>

・重光外相が国後択捉をソ連にと言った時ダレスは任すといったか、脅したか。

 <答え:脅した。>

・米国は領土問題を残すのに利益を感じたか。

<答え:分断統治のために利益を感じた。>

<竹島>

•米国連邦機関に世界の地名、所属に責任を持つ米国地名委員会がある。現在竹島は日本領になっているか、韓国領か、中立か。

<答え:2008年に韓国領になっている。>

<尖閣諸島>

•中国は尖閣諸島を自国領とする根拠として何を言っているか。

<答え:中国、明・清時代、1556年、明は胡宗憲を倭寇討伐総督に任命、『籌海図編』に尖閣を海防区域にしている。1895年併合は日清戦争の結果、中国は日清戦争を侵略戦争と位置付けているため、返還義務があると考えている。1992年中国が「中華人民共和国領海および隣接区法」で尖閣を中国領と明文化した。

•「領土問題の棚上げ」が日本に有利なことがあるか。

<答え:1972年の日中国交回復以来、日中両国政府は両者の言い分が食い違う尖閣諸島の領有権問題は『棚上げ』にすることを申し合わせてきた。これは尖閣を実効支配する日本にとって、支配が継続することを意味する有利な取り決めであり、事実上、中国が日本の実効支配を認める取り決めだった。その『棚上げ』合意に基づき、日本は尖閣を自国の領土と主張しつつも、周辺海域で国内法を適用することはしなかったし、同じく中国側も表向きは領有権を主張しつつも、政府として目立った行動は取ってこなかった。そのような微妙なバランスの上に実質的には日本が実効支配したまま、両国ともにこれを大きな外交問題としない範囲で慎重に扱ってきたのが、これまでの尖閣問題だった。>



<尖閣諸島と米国>

•領有権について米国は尖閣を日本領、中国領、中立のいずれにしているか。

 <答え:米国は、領有権問題については日中のどちら側にもついていない。>

•尖閣が安保条約の対象であることと、米軍が尖閣の紛争に出るは同じか。

 <答え:違う。考えられるシナリオ:第一、中国攻撃、自衛隊守る。米国出て来ない。第二、守りきれなかったら、中国の管轄地、米国は出る必要なくなる。

アーミテージ「日本が自ら守らなければ(日本の施政下でなくなり)我々も尖閣を守ることは出来なくなる。」どっちみち出ない可能性大。>



一つ一つ、興味深い事実を聴衆に質問しながら孫崎氏は積み上げていく。不愉快な現実かもしれないが私たち日本人は、そろそろ冷戦時代の夢から醒めて本当の事を知って問題を直視しなければならない時代を迎えているのではないだろうか。

 

ところで、同じく元外交官の原田武夫氏が著書で

「日本のメディアは米国によって徹底して監視されているのである。かつて、作家・江藤淳は第2次世界大戦における敗戦後、占領統治を行ったGHQの下で、約8000人近くもの英語の話せる日本人が雇用され、彼らを使った日本のメディアに対する徹底した「検閲」が行われていた歴史的事実を検証した。しかし、その成果を示した著作「閉ざされた言語空間」(文春文庫)においては、この8000人近くの行方はもはや知れないという形で閉じられている。あたかも、米国による日本メディアに対する監視とコントロールが1952(昭和27)年のGHQによる占領統治の「終焉」とともに終わったかのような印象すら受ける。

 しかし、現実は全く違う。「彼ら」は引き続き、日本メディアを監視し続けているのである。しかも、その主たる部隊の一つは神奈川県・座間市にあり、そこで現実に77名もの「日本人」が米国のインテリジェンス・コミュニティーのために働き続けているのである。そして驚くべきことに、彼らの給料を「在日米軍に対する思いやり予算」という形で支払っているのは、私たち日本人なのだ。

「監視」しているということは、同時にインテリジェンス・サイクルの出口、すなわち「非公然活動」も展開されていることを意味する。」



「このことは事実か。」と元外務省の国際情報局長に懇談会の時に確認させていただいた処、「全くその通りだ。」との返事をいただいた。そして大阪大学の松田 武教授が書いた「戦後日本のおけるアメリカのソフトパワー~半永久的依存の起源~」(岩波書店)という本の名前を上げられ、アメリカが手塩にかけて育てた日本のエリートの中には、アメリカの覇権に対して異議申し立てをすることは許されない空気があり、現在までそれが続いていることを指摘されたのであった。



 ある意味、米国の情報戦略によってつくられた「史実に基づいたフィクション」が、今まで私たちが知っていた「戦後史」だったと考えるべき時代を迎えたのかもしれない。

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