戦後、日本経済を牽引してきたトヨタがリコール問題で揺れている。一部マスコミの指摘の通り、この問題をここまで大きくしたのは、トヨタの対応の拙さにあったことは言うまでもない。しかし、もっと大きな悪意(=陰謀)がこのリコール問題から、トヨタバッシングまで発展した今回の事件には、隠されているはずである。

現在の米国の国際政治・経済力の源泉は、諜報機関等を使った情報独占力、それに付随するマスコミ、シンクタンク等を使った広報戦略力、(そしてそれは世界金融システムをコントロールする力に結びついている。)そしてその軍事力が暗黙の脅しとしてそれらの後押しをしている構図であると考えればわかりやすいのではないか。。

であるならば、今回のトヨタバッシングが偶然の事件のはずがないのである。

トヨタは脇の甘さをつかれ、事件の中に放り込まれたのである。米公聴会にトヨタの豊田章男社長の出席を伝える日本のニュースを見る限り、日本政府がしっかりと日本の誇る世界企業であるトヨタを守るという姿勢が全く感じられないことは心許ない限りである。

元外交官の天木直人氏もこの問題をブログで次のように指摘している。

トヨタ・リコール問題から目が離せない。日本にとって好ましい決着は何か。

それはもちろんトヨタ車の信用が回復され、トヨタ車が再び世界のトヨタとして復活することだ。トヨタという一私企業のためにそう言っているのではない。日本経済にとって、そして日本の国民生活にとって、そうあるべきなのだ。そうであれば、今こそ官民が結束、協力して、その目的に向かって努力をしなければならない。



この問題を報じる日本のメディアは、その観点からこの問題を報じなければならない。今度の問題が、もっぱらトヨタの技術的欠陥から由来しているものであれば話は単純だ。トヨタが説明責任を果たし、早急に策を講じて再び国際競争に参加すればいい。

しかし、今回のトヨタ・リコール問題は、もはやそれだけの問題ではなくなっている。イメージ戦争、情報戦争にまで及んでしまった。

その背景に、米国のトヨタたたきがあるとか、鳩山政権への意趣返しがあるとかの報道の真偽は知らない。そんな事を詮索してもあまり意味は無い。

重要な事は、もしトヨタが実体以上に叩かれているのなら、それを国をあげて正しく是正しなければいけないということだ。

それはまさしく対米外交力なのである。対米外交力は官民一体となって行わなければならない。

しかし、今回のトヨタのリコール問題を見ていると、それがまったく感じられない。

外務官僚が民間に冷淡なのはお家芸だ。ましてや対米外交となると、外務官僚は国民より米国政府のご機嫌とりに忙しい。今回のトヨタ・リコール問題は、政治主導を掲げた鳩山民主党政権の政治センスの問題である。鳩山民主党政権が、私企業といえども国民であり、その国民が困っている時に政府が助ける事は政治の重要な責任であると、どこまで思っているか。鳩山政権の閣僚の発言を聞いているとそれが感じられない。

日本の民間企業もまた、もっと政府を活用する意識を持ったほうがいい。とかく日本の民は官に助けを求めることをいさぎよしとしない。どうせ官はたすけてくれない、というあきらめがあるのか。それとも官に迷惑をかけて申し訳ないと恐縮する官尊民卑の意識が働くのか。世界のトヨタだから対米外交は自力でやってみせるというプライドがあるのか。

しかし、事は重大な局面にある。いまこそ官民は結束して事にあたるべきである。

いや、すでに官民は十分に協力しているのかもしれない。官も民も、いくら協力してもこれ以上の知恵がないのかもしれない。

しかし、そうであればもっと大問題ということになる。米国の出方が読めない。米国で効果的なロビーができない。ここまで米国に協力してきてなお、米国内に味方を見つけられない。もしそうであれば何のための日米同盟なのか、という事になる。

今度のトヨタ・リコール問題は、いみじくも日本の対米外交力を試すことになった。

ところで、現在の国際政治・経済のシステムのルールを決めているのは、実質上、米国を中心とした欧米のエリートである。そうであるならば、彼らが共謀すれば、日本においてはスーパー企業のトヨタと言えども、これからでも、彼らが本気になれば、その経営権を奪うことさえ、可能だと小生は考える。綻びが見え始めたとは言え、情報を独占管理し、国際金融をコントロールできる彼らが、本気になれば、ある意味何だって可能だと考えるべきではないか。たとえば、意図的にビッグスリーの一つの株価を釣り上げ(彼らにはどんな材料だってでっち上げることができるはずだ)、これから、トヨタをさらに追い込み、その一つと三角合併を迫ることだって考えられないわけではないだろう。

我々日本人が肝に銘じるべきは、米国のエリートは日本の国益や日本の企業のために知恵を絞っているわけではないことだ。前回のレポートでもご紹介したように、米国に多用な恐喝を受けて米国債を買わされているだけでは、この先、どう考えても日本は、じり貧である。今ほど日本の総合力が問われている時はない。

<参考資料>

*月刊テーミス2月号より

「トヨタなどが標的にされて米中は日本の自動車「排撃」で手を結んだ」

~組織的なクレームや「日本の環境車締め出し法案」に加えバフェット氏の中国支援も~

闇のラルフ・ネーダーがいる

’09年末、米国の消費者団体から、米国トヨタ関係者の心胆を寒からしめるようなリポートが発表された。

「米国で販売された自動車でクレームが多かったのはトヨタ。クレーム全体に占める割合もGM28%に対し、トヨタ41%とトップになった」

発表したのは米国の有力消費者団体専門誌『コンシュマー・リポート』だ。米国の運輸省高速道路安全局(NHTSA)が’08年型の車種を対象に調査したデータに基づくという。

「闇のラルフ・ネーダーがいる」在米の日系自動車関係者の間でこんな見方が広がっている。トヨタを代表に日本車の起こした事故を徹底的に調査し、米国の調査機関やマスコミに持ち込んで事件化するのだ。

ラルフ・ネーダーとは米国で1970年代に活躍した消費者運動家の元祖だ。米企業の問題のある製品を徹底的に調査し、告発し、全米の大手企業を震え上がらせた。

実際、問題はトヨタの代表車種である「カローラ」に始まり、’09年11月には米国で最人気車種となった「レクサス」にも飛び火、アクセルペダルにフロアマットが引っ掛かる問題が指摘され、426万台の「リコール」に追い込まれた。さらに今年1月21日には、8車種、計約230万台を昨年とは別の不具合でリコールすると発表した。これらは米消費者からのクレームが発端だった。

あるトヨタ系ディーラーはいう。

「米安全局は日本車に甘いとビッグスリーや全米自動車業界から批判されてきた。風向きが全く変わった」

昨年12月、日本政府のエコカー補助制度に米国の自動車産業界が非難の声を上げた。日本車に適用される補助が米国のエコカーに適用されないのは「不公平貿易の象徴」というのだ。GMなどビッグスリーが加盟する全米自動車政策協議会(AAPC)に加え、民主党のスタベノウ女性上院議員も、改善に向け日本政府に圧力をかけるようオバマ大統領に求めた。さらに1月12日には、クリントン国務長官が岡田外相との会談で、「米国車を排除していると米議会で懸念が高まっている」と対応を求めた。そして、日本政府はこの1月、米国車も対象になるよう制度を見直す方針を打ち出したのだ。

米民主党の関係者によると、米国議会では、日本車を対象に米国市場での輸入規制を盛り込んだ報復法案が密かに準備されているという。報復法案の名称は「環境車技術互恵法案」(仮称)などが検討されており、環境車の各国ごとの競争条件の平等化を求めるのが趣旨だ。

しかし、自動車産業界に詳しいジャーナリストは「米国での日本車メーカーの雇用規模などを考えると、

’90年代の円高のときのような一方的な日本叩きは起こりにくい」とみる。

1千600cc以下優遇措置の真意

だが、すでに韓国の自動車メーカーは、この報復法案から韓国車を対象外にするよう猛烈なロビー活動を展開しているといわれる。疎遠になった日米関係を象徴するかのように、日本の自動車メーカーは情報遮断されているという見方さえある。

「環境車技術の先進性は日本メーカーの利点ですが、技術のグローバルスタンダードは政治の決めること。コンピュータのOSで日本の技術者が開発したトロンが、米マイクロソフトのウィンドウズに敗れ去った歴史が繰り返されようとしている」(ワシントン在住の産業アナリスト)

一方、新車販売市場で’09年に米国を抜き世界最大の自動車市場(1千300万台)になった中国はどうか。

日本メーカーが展開する二大戦略は「環境車と新興国市場」だ。中国市場は日本メーカーにとって米国以上に魅力的な「自由市場」に映る。しかし、米国の産業ロイビストは「この『環境技術法案』の適用を中国にも打診しているフシがある」という。米中で共通の環境技術法案を作成し、米中共通のライバルである日本車を、市場から「合法的」に制約しようというグローバルな産業政策の動きが出ているというのだ。

実は、トヨタが米国で受けた逆風は、中国でも激しくなっている。

「リコール大王」??。中国の新聞各紙は、トヨタの北米リコールをこう大きく書き立てた。中国でもトヨタ車に対する抗議が相次ぎ、トヨタは「レクサス」などのリコールに追い込まれた。

さらに昨年、中国でトヨタを狙い撃ちしたとされる優遇政策が発動された。中国政府は内陸部の自動車需要を喚起するため、エンジン排気量1千600cc以下の小型乗用車を対象に自動車取得税を大幅に引き下げる優遇措置を打ち出したのだ。トヨタの販売車種は排気量1千600ccを超える車が大半というラインアップ。優遇支援対象外の車が販売店に並び、現場は苦戦に追い込まれた。

それだけではない。在米日系自動車メーカーの間で「中国メーカーに米国での電気自動車の販売認可が下りそうだ」との見方が出始めている。

世界一を狙う中国電気自動車

その取り持ち役は、米国を代表する著名投資家、ウォーレン・バフェット氏だ。同氏の率いる投資ファンドは、中国の電気自動車メーカー、BYD(比亜迪)の株式約10%を取得し、大株主に躍り出た。同氏は二次電池メーカーであるBYDの電気乗用車進出を評価し、その将来性を高く買っているという。

関係者によると、今年に入り、バフェット氏は米国での販売網開拓についてBYD側と協議し、電気自動車に必要な電気ステーションの整備に関してもBYDの販売促進に助言を与えたという。米歴代政権は米金融危機での同氏の「救済投資」に一目も二目も置いている。

BYDは中国の深圳に本社を置くリチウム電池メーカーだ。リチウム電池では世界トップクラスといわれ、中国の中小自動車メーカーを買収し、自動車メーカーの仲間入りを果たした。「電池大王」の異名を取る創業者の王伝福氏の旗振りで、昨年、家庭用の電気で充電できるプラグイン型ハイブリッド車「F3DM」の量産に乗り出し国内販売を始めた。次世代エコカーとして、日本や欧米メーカーが開発に鎬を削っている分野で、プラグイン型ハイブリッド車の量産開始は世界初という。

BYDは、トヨタに代わる世界一の座を虎視眈々と狙っている。国内販売は10万台に満たない後発メーカーだが、プラグイン型ハイブリッド車は価格が約15万元(約200万円)とトヨタが販売する「プリウス」より約10万元も安いのが魅力だ。

BYDが発表する新車には、日本の「カローラ」や独メルセデス・ベンツの「SLクラス」などを真似た「コピー車が多い」(日系自動車の技術担当者役員)との批判が多いのも事実だ。だが、BYDには中国政府の巨額の補助金と、米国投資家の支援という米中2か国の支援がある。

日本政府も減税だけでなく、日本の環境車を世界の標準にもっていくような強力な政策を推進すべきだ。 (2010年2月号掲載)

*元外交官 原田武夫氏のブログより

「密かに進む米朝接近と逆回転し始めたオバマ日本勢」

中国勢とあからさまに衝突する米国勢今年(2010年)に入り、米国勢による日本勢・中国勢との“衝突”が日に日に激しくなりつつある。日本では「期待の星」であるかのごとく描かれてきた、オバマ大統領の下での急展開なのでやや違和感を拭えない読者も数多くいるのではないかと思う。

中国勢との“衝突”に際し、表向きの焦点となっているのがいわゆる「グーグル検閲問題」だ。ヒラリー・クリントン国務長官が声明まで発表し、“インターネットの自由は民主主義の維持につながる”と豪語してやまない米国勢に対し、「バブルを米国勢によって突き崩された日本勢の二の舞は決してしない」と、中国勢も反撃に余念がない。オバマ大統領は昨年(2009年)11月に中国を公式訪問したばかりである。それがたかだか2カ月ほどで友好関係の崩壊となっているのだからあきれてしまう。

他方、日本勢との“衝突”はある意味、より深刻だ。今年(2010年)1月に入り、米国勢は突如として日本の“越境する自動車産業の雄”トヨタを名指しでバッシングし始めた。その勢いはすさまじく、米連邦議会では2つの委員会が特別調査を行い、しかも制裁のための課徴金まで課すといった有様だ。日本の大手メディアは全く報じていないが、この間、ワシントンにある日本大使館前では、米国勢(その中でも労働組合の大物たち)がこぞって参集し、「反トヨタ」の怪気炎を上げていると聞く。「オバマ演説で英語を学ぼう」などと言っていた一部の日本勢がいかに呑気であったのか、がこれでお分かり頂けるであろう。そう、米国勢が狙っているのはただ一つ、黄金の国・ジパング=日本の“マーケット”、そしてそこにある卓越した技術力と莫大な富なのである。

密かに進む米朝接近この様な視点からマーケットとそれを取り巻く国内外情勢を東京・国立市にある我が研究所でウォッチしていると、一つの気になる情報が飛び込んできた。

このように米国勢を中心に緊張が高まっている東アジアの中で、北朝鮮勢が突如、米国勢に対して「朝鮮戦争中の行方不明兵士の捜索許可」を出したというのである。米太平洋司令部最高幹部自身がそうした申し出のあったことを認めており、実際、北朝鮮側と協議を開始するのだという(1月26日付米国:ホノルル・アドヴァタイザー参照)。そう、米朝はこのタイミングで明らかに“接近”しているのである。

これで、賢明なる読者の方々にはお分かり頂けたのではないかと思う。米国勢は明らかに一つの明確な戦略を現在遂行中なのである。すなわち、こういうことだ。―― 米国勢にとっては北朝鮮勢の持つ各種の経済的利権は垂涎の的である。したがってすぐにでも直接交渉で、これを奪いたいところなのであるが、どうしても立ちはだかるライバルがいる。一つは中国勢、そしてもう一つが日本勢である。他方で、米国勢は日本勢と中国勢からもその莫大な富をそれぞれ奪いたいと考えている。

そこで一計を案じたのである。まず中国勢との関係では、彼らにとって“弁慶の泣き所”である「政治的自由」に直結するインターネット検閲の問題を強調する。中国勢がこれを忌避しようと躍起になればなるほど、値をつり上げていき、最後は多額の「米国債」を購入させる。他方、日本勢との関係ではその経済の根幹にある自動車産業最大手をあからさまに叩きのめす。当然、日本の財界はどよめくので、同じく値をつり上げていき、最後も同じく多額の「米国債」を購入させる。「米国債」を買えば非難を緩めてやるというわけなのだ。

そしてそうした大立ち回りを演じている間、日中両国は北朝鮮問題がいかに重要であったとしても、身動きをなかなかとれない状況に置かれることになる。その限りにおいて、米国勢は明らかにフリーハンドで、対北朝鮮交渉に臨むことが出来るのだ。だが、万一、そうした実態に気づかれてしまっては困るので、「米国勢にのみ直接関与する人道問題だ。他国は介入しないでほしい」と絶対的に言える問題を、しかも他国が介入出来ない軍部ルートにおいて取り上げる形をとりつつ、実質としての米朝交渉を継続するというわけなのである。その限りにおいて、今こそ考えなければならないのは「米朝接近」なのだ。

対北朝鮮政策については、手も足も出ない感のある鳩山由紀夫政権だが、そもそも昨年(2009年)8月末の衆院選挙が行われる直前から、現在は渦中の人である小沢一郎・民主党幹事長が党内に対し「米朝が近々接近した際に日本がとるべき対北朝鮮交渉ルートを探れ」と指示を出していたとの非公開情報がある。本来であれば正に“その時”がまもなくやってくるはずなのであるが、当の司令塔であるべき小沢一郎幹事長がご案内のとおりの「厳しい状況」に引き続き置かれてしまっているのである。そのために「手も足も出ない」状況にあるのが日本勢というべきだろう。

こうなってみてから思うことが一つある。「オバマ率いる米国勢は決して“死んで”などいない」ということだ。就任2年目にして早々にマサチューセッツ州の連邦議会上院補選で“瀕死のパンチ”を食らった後、これまで掲げてきた政策を続々と変更してきたオバマ大統領。「ボラティリティー(変動性)」の維持こそが、マーケットで収益を上げ続ける最高の手段だが、正にそのための“道化師役”に収まりつつある。

*ダイヤモンドオンラインより

「トヨタが米国民を怒らせた本当の理由を語ろう」

~米著名自動車コンサルタントのマリアン・ケラー氏に聞く~

大規模リコール(回収・無償修理)問題に直面するトヨタ自動車の対応を巡る米国の論調が、バッシングの様相を呈してきた。米国を代表する自動車コンサルタントのマリアン・ケラー氏は、トヨタ側のうかつな問題発言といい、事態把握能力の低下といい、通常では考えられないことが起きていると警鐘を鳴らす。

―大規模リコール(回収・無償修理)問題を受けて、米国でトヨタ叩き(たたき)が過熱している。なぜトヨタはかくも叩かれなければならないのか?

私自身、今回の問題がこれ以上エスカレートすることを望んでいないので、順を追って冷静に説明したい。

まずリコール自体は、珍しいことではない。私のもとにも先日、日産自動車からリコールのレターが届いたばかりだ。通常のリコールならば、車をディーラーに持って行き、すぐに無償で修理してもらえるというタイプのものだろう。

今回のトヨタのリコールの中でも、たとえば、最新モデルの「プリウス」はそうしたケースだ。発売後に欠陥が明らかになり、無償で修理してもらえる。そうしたリコールはこれまでも業界で行われてきた通常の手続きのようなものであり、本来はメーカーの評判を悪くするようなものではない。

では、なぜ今回のトヨタのケースは違ったのか。

それは、率直に言えば、欠陥製品を出しながらそのことを否定し続けているという印象を世間に与えてしまったからだ。

米国のメディアはだいぶ以前から、米道路交通安全局(NHTSA)にここ数年、トヨタ車を購入した消費者からさまざまな苦情が寄せられていたことを報じていたが、トヨタはNHTSAにドライバー側の問題だと説明し、NHTSAもその説明を受け入れていた。だが、アクセスペダルがフロアマットにひっかかったことが原因とされる昨年の死亡事故(カリフォルニア州サンディエゴ郊外でレクサスに乗った家族4人が死亡した事故)がさかんに報道されるに至って、状況は一変したのだ。フロアマットに対する苦情は、以前からあったわけで、なぜもっと早くしかるべき対応を取れなかったのだとの批判が高まるのも当然だろう。

それでも、品質問題に関する豊田章男社長の2月初旬の会見が(トヨタがNHTSAにフロアマットの取り外しなど安全対策実施を通知した)昨年10月、いや2週間前でもいい、もっと早く行われていたら、(米国における)トヨタ批判の大合唱はこれほどまでは高まらなかったのではないか。トップが責任を公にすれば、後はメーカーとクルマの所有者とのあいだの問題として収まるからだ。

だが、それをしなかったうえに、別の経営幹部が要らぬ発言までしてしまった。(トヨタの)佐々木眞一副社長がインディアナ州のCTS社のアクセスペダルを採用した理由について、「現地への貢献を考慮したため」という趣旨の発言をしたのは、はっきり言って、言語道断だ。もちろんCTS社の技術力を評価するという前置きもあったが、あのひと言だけで、まるで現地のために劣った企業と取引したと言っているように聞こえてしまった。

デンソー製ペダルと比較すると、CTS製は明らかに少ない部品数で設計されており、コスト削減も背後にあったはずだ。佐々木氏の発言は、 米国民に侮辱的で傲慢なものと理解されてしまった。

やや厳しいことを言えば、トヨタはグローバル製造企業であっても、真のインターナショナル企業にはなり得ていないということだろう。異なる文化を超えて意図するところが正しく伝わるよう、何らかの助けが必要なのではないか。

―トヨタの品質管理に何か根本的な問題が起きているのだろうか。

私にも内情は分からない。

ただ、先ほどリコール自体は珍しいことではないと言ったが、今回のトヨタのケースは数モデルにわたり、しかも何年もの製造年にわたってリコールされるという大掛かりなものである点では、やはり珍しいと言わざるを得ない。

(トヨタに限ったことではないが)コストを極力削減しようとして部品を共有したこともひとつの理由だろう。コストは安くすむが、欠陥が出た際には問題は拡大してしまう。

ただ、そうした自動車業界の潮流はさておき、質問に戻れば、今回のリコール問題以前にも、ここ数年、数モデルでトヨタらしくない欠陥が続いていたことは事実だ。たとえば、テキサスで製造したピックアップトラックのタンドラでは、発売後にカムシャフトの不備でエンジン部分にひびが入るという問題が出た。タンドラでは他にも小さな欠陥がいくつかあった。また数モデルのエンジンでスレッジ(金属粉)が大量に発生するという問題も報じられた。

いずれの場合も、トヨタが静かに処理したので、今回のような騒ぎにはならなかった。もっとも、トヨタ・ディーラーたちによれば、ここ数年保証期間内の新車の修理コストが上がっていたらしく、それを考え併せると、トヨタの完璧な品質神話にかげりが差していることは事実だ。

―今回のトヨタの対応については、米国の識者の多くが「Too little Too late(不十分で遅すぎる)」と指摘している。対応が後手に回ってしまうのはなぜだとみるか?

リコールにはもちろん多大なコストがかかるからだろう。しかし、(ドライバー側の問題というトヨタの当初の認識に表れているように)、はっきり言えば、問題を重視していなかったということではないか。

では、なぜ問題を重視できなかったのか。突き詰めれば、その原因は、トヨタ社内のコミュニケーションの問題だ。はっきりとはわからないが、事態を分析するのは、米国のエンジニアなのか、日本側の人間なのか、決断を下すのは誰なのか――関係者間のコーディネーションがうまく働かず、その結果、起こっている問題にしかるべき手を打てなかったということではないか。

そもそもアメリカ政府が2人の人間をわざわざ日本に送って、問題の深刻さを伝えねばならなかったことは、通常では考えられない。殊にトヨタは、いつもアメリカの政府機関の調査には協力的だったにも関わらず、だ。

―アメリカの消費者は、トヨタ車を買うことを躊躇するようになるだろうか。

こう答えよう。1960年代、70年代に、アメリカの国産自動車産業は(顧客離れという)深刻な事態に陥った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターが技術的な欠陥車を出しながら、それを認めず、ドライバーの非難に終始したためだ。そのような姿勢がアメリカの車のブランドを殺し、トヨタなどの日本車に入り込む隙を与えたと私は考えている。

トヨタも、同じ道を辿らないとは限らない。今やアメリカの車の質は向上した。また、韓国の車の質も向上した。質という面でも、トヨタ車に代わる消費者の選択肢は多数存在するわけだ。今回のリコール問題でトヨタに不信感を抱いた消費者が、他のメーカーの車に率先して乗り換えていったとしてもまったく不思議ではない。

―もう、そうした動きは出ているのか。

まだだ。市場は混乱していて、トヨタ車のオーナーたちはとにかく修理が早く終わることを求めている。重要なターニングポイントは、4~5月頃ではないか。おそらくトヨタはその頃に、ディスカウントを行うなどの大々的なキャンペーンに打って出なければならない事態に追い込まれるだろう。さもなければ、販売を再び活気づけることはできないのではないか。

―今後起こりうる最悪のシナリオは?

リコール対象車で修理後に再び問題が浮上することだ。そのようなことがあれば、トヨタにとって回復しがたい打撃となるだろう。現在すでに電気系統に問題があるのではないかという声があるが、それも含め、まだ第三の問題が潜んでいたということになれば、消費者は他社の車に殺到する。ただ、仮にそうした事態が起こらず、人びとが自然とこの問題を忘れていったとしても、トヨタは今後のためになぜこれほど対応が遅れたか問題の本質を見つめ直す必要がある。

―トヨタに対する集団訴訟は頻発するのか。

アメリカでは集団訴訟は避けられない。すでに動き回っている弁護士はたくさんいるだろう。大半のケースは裁判に至らないだろうが、いくつかは裁判所に持ち込まれる。裁判の過程で、トヨタが何をして何をしなかったかがきっと明らかになるはずだ。

マリアン・ケラー(Maryann N. Keller)

米国を代表する自動車業界コンサルタント。1994~99年、全米自動車業界アナリスト協会会長。現在は、マリアン・ケラー・アソシエーツ代表として、コンサルタント業に従事。著書に『GM帝国の崩壊』『激突―トヨタ、GM、VWの熾烈な闘い』(共に草思社)がある。

(聞き手/ジャーナリスト、瀧口範子)

*「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」より

日本は「やっぱり信頼できる同盟国?」

~米国債保有ナンバーワンに返り咲いて中国はなぜ342億ドルの米国債をだまって売り抜けたか?~

米財務省は09年12月統計での外国の米国債保有リストを発表した。なかでも中国が342億ドルを売り抜けて保有を劇的に減らしたことが明るみに出たため債券市場に少なからぬ衝撃を与えた。

「動機は政治的圧力に決まっている」とするアナリストは米国に多い。「チベット、人権、台湾への武器輸出、そしてグーグル問題と米中間に立て続けにおきた難題解決のため北京はワシントンへ圧力をかける政治的武器にした」(アルジャジーラ、2月17日)

米財務省が国別の米国債保有の詳細を発表したのは16日、英国フィナンシャルタイムズなどは、この「事件」を大きく報じた(17日付け)が、日本のマスコミは反応が鈍い。英誌FTは「中国が昨年師走に342億ドルもの米国債を売却したのは、ドル下落傾向を見込み、同時に米国の予算の赤字が肥大化することをふまえての行為だろう」とした。

ちなみに2009年12月末の米国債権保有は

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

1)日本     7686億ドル

2)中国     7554

3)イギリス   3025

4)産油国    1868

5)カリブ海   1847

6)ブラジル   1606

7)香港     1529

8)ロシア    1185億ドル

となって日本が首位に返り咲いた。

(注 上表のうち「イギリス」の統計にはマン島、チャネル諸島などオフショアを含む。「産油国」のカテゴリーにはサウジ、UAE、バーレンのほか、エクアドル、ベネズエラ、イラン、イラク、クエート、オーマン、カタール、アルジェリア、リビア、ガボンを含む。また「カリブ海」とはいわゆる“タックスヘブン”でバハマ、バミューダ、ケイマン、パナマ、オランダ領アンチレス群島に英国領バージン諸島も含む)。

「産油国」と「カリブ金融機関」の謎

謎は幾らでもあるが、まず「カリブ」に区分けされた英領バージン諸島はたった1ドルで会社の設立登記ができるペーパーカンパニーの本場である。ここにはあちこちに弁護士事務所があり、香港籍の企業が二万社以上登録されている。何をしているのか曖昧、責任者は殆どが外国人。しかも英領バージン諸島に登記された企業の多くが中国共産党幹部のダミーと見積もられている。香港とカリブ海は同期間に合計で50億ドルほど米国債保有を「増やして」いる。

つぎに「中国はドルの下落をみこしてドル建て財産を減少させ、ほかの通貨へとシフトさせる分散投資の一環であり、政治性はない」という見方(ウォールストリートジャーナル、2月17日付け)。

「全体では342億ドルを減らしたが、同期間に長期債のほうは46億ドル分も増やしている。つまり短期証券を売却したが長期債を買い増ししたのであって、賢い投資に切り替えただけ」(市場関係者)。「ユーロの下落を目撃し、いま現在は再びドル資産にもどしているはずであり、心配の必要はない」(ファンドマネージャー)。

とはいえ「中国が米国債権保有で世界という絶頂時点から、すでに合計で461億ドルを減らしている。中国が米国債を購入するという財政的余裕が出て、本格参入した2000年は790億ドルに過ぎなかった(現在の台湾がちょうど790億ドル)のであり、それが2009年五月は8015億ドルに達していた」(ウォールストリートジャーナル、同日)。

国は政治的意図で市場を攪乱する実力を身につけた

中国が340億ドル分の米国債を市場で売り抜いた同時期に日本は110億ドル分を増やしたため、世界一に返り咲いたのだが、おりしもワシントンで始まったチャイナ・バッシングの風に乗って、「やっぱり日本は鳩山反米政権と雖も同盟国なんだ」という妙な解釈もまかり通っている。市場の現場から言えば、日本が購入しているとは言っても、それは政府ではなく、民間の機関投資家であり、金融機関であり、つまりは金利が安くて魅力ある投資対象が日本国内にない限り、資産運用を金利の高い、リスクの少ない米国債権で運用するのはファンドマネージャーとしては当然の行為に過ぎない。中国はこの点で購入しているのは中国の国有金融機関と国有ファンドであり、政府の意図がまるまる働いている。換言するなら中国はある時、命令一下、突如大量に売りに走り、市場の暴落を企図しての政治的行為にでた場合、その保有額から言っても世界債券市場と金利相場をガタガタに攪乱する実力を身につけたのだ。

この事実を西側は知っておいたほうが良いだろう。

*前回のレポートで指摘したように日本は郵政資金で米国債を買い増しているのでさらに保有高が伸びることになるだろう。

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