消費税を社会保障目的税化することに財務省はなぜ、こだわるのであろうか。

 当然、財務省には戦略・意図があるはずだ。

それには、消費税について基本的なことを考えてみる必要がある。

消費税は、1954年にフランス大蔵省の官僚モーリス・ローレが考案した間接税の一種である。消費税を定義すると、次のようになる。

「消費税は、財貨・サービスの取引により生ずる付加価値に着目して課税する仕組みであることから、欧米では、VAT──バリュー・アッデド・タックス/付加価値税、もしくは、GST ──グッズ・アンド・サービセズ・タックス/物品税と呼ばれる。」                    ウィキペディアより

 ・VAT──Value-Added Tax

 ・GST──Goods and Services Tax

 元財務官僚の高橋洋一氏によると、消費税は海外では地方(州政府)の財源にするのがオーソドックスであるとのことである。消費税は受ける行政サービスの対価として課せられる「応能税」的な性格を持つ税金なのである。そのため、応能税である消費税は、細かなところまで住民へのサービスが行える地方に納められるのがスジであるといえよう。(*今でも1%は地方消費税となっている)

つまり、市民に対して基礎的なサービスをするのは地方なので、地方税にするのが最も合理的なのである。

現在、日本が当面しているさまざまな難問を解決するには、権限や財源が中央に集中している明治維新以来の中央集権官僚国家の体制改革をする必要があると、この二十年来語られてきた。2008年4月に当時、与党だった自民党のまとめた道州制案などもその国家改造計画の一つである。 

よく言われる「地域主権」を確立した地方分権国家への道である。

地方分権を本当に実現するための国から地方への財源委譲は15兆円~20兆円程かかると言われている。これほどの巨額の財源を委譲できるのは、消費税以外には考えられない。

つまり、真の地方分権を実現するまで可能な限り、消費税の低い税率を上げたとしても7~8%を維持して、地方自冶体の基幹税として消費税を国から地方へ税源移譲すべきだということになる。もちろん、このことを一番嫌っているのは、当然、財布の紐を握る財務省である。

地方への税源委譲などとんでもないし、消費税を地方税にするなど絶対に認められないというわけである。

そのためにそうさせない仕掛けを今回の「社会保障と税の一体改革」の中に仕組んだのである。おそらく、それが「消費税の社会保障目的税化」なのであろう。

 

ところで、この「社会保障と税の一体改革」だが、肝心の社会保障の中身がほとんど議論されず、はじめから消費増税ありきで進んでいる。そのために民主党の国会議員の先生方の中には、「税と社会保障の一体改革」と言い間違えするケースが目立つ。

 表看板はあくまで「社会保障と税の・・」であるものの、社会保障を議論しないで、増税だけを推進したい本音が思わず洩れてしまっていると考えてもよいのではないか。

 消費税は徴税コストが安いにもかかわらず、巨額の税収が安定的に得られるので、財務省にとっては、メリットの多い税金だ。しかも消費増税をスタートさせた後で、一部の物品に関しては軽減税率を適用する計画であり、それを決める権限を財務省が握ることになる。

 情報によれば、新聞購読料金の消費税に関しては英国のように税率をゼロにするという確約を既に与えていて、増税やむなしの世論づくりに大手新聞社を協力させているという噂までも聞こえてくる。その意味で、新聞の増税やむなしの論調は、本当の意味で国民の声を反映しているとはいえない営業努力とも言えよう。

 頭のいい財務官僚エリートが考え出したのが、「消費税の社会保障目的税化」である。そうすることによって、将来税率をさらに上げるとき、社会保障の財源が足りないことを理由にできるので引き上げやすいということに加えて、何よりも消費税を国税として固定化できるという大きなメリットがある。

 したがって、民主党が「社会保障と税の一体改革」を進めるということは、地方分権はやらないということをアッピールしているのと同じだと我々は考えるべきである。

 本来であれば、「社会保障と税の一体改革」検討チームは増税の前に増大する社会保障費をいかに軽減するかについて、真剣に検討すべきだったはずだ。

 社会保障の財源問題を軽減するためには、社会保障の運営を効率化することが必要だ。そのためには国と地方の役割分担が重要で、年金は保険としての機能を生かすためには全国をカバーするほうがいいに決まっている。一方、医療・介護など他の社会保障では、人口1000万~2000万人程度の「道州」を単位とするほうが、地域特性を生かして効率的な保険運営できるのではないか。しかし、今回の政府の「社会保障改革案」では、地方分権と社会保障改革の関係について、ほとんど言及されていないのが現実である。  

あまりも不思議なのは、いつも「地域主権」を主張している地方議員、首長が、異議を唱えないことである。

地域主権を目指す時にいつも問題となるのは、地方行政費用をどのように賄うかということだったのではないか。民主主義の根本原理として歴史の教科書にも載っている言葉に「課税なくして代表なし」というものがある。これは税が政府の形を決めている基本となっていることを示している。

そして、国全体の税収のうち、地方がどの程度を占めているかも現在の政治のあり方を決定づけている。

 

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