「パックスアメリカーナの時代」が黄昏時に入ったとは言え、太平洋戦争に負けた日本が米国の「特別行政自冶区」である現実には何の変わりもない。いまだに多くの日本人が日本をりっぱな独立国だとずっと勘違いしているが、また、米国の支配層はずっと勘違いしていてくれるように願ってはいるが、残念ながら現在の日本は真の独立国ではない。

 

「戦後日本という不思議の国」には、数々の神話が散りばめられ、美しい装飾が施されているが、勝者であるアメリカのマッカーサーと昭和天皇のギリギリの交渉の結果、成立した特別行政自冶区でしかないことは、間違いのないところだろう。それが徹底したリアリストであった昭和天皇が天皇制を残すためにした苦渋の決断であったのだ。そのことを豊下楢彦氏は近著「昭和天皇の戦後~<憲法・安保体制>にいたる道~」できっちりと「天皇実録」に基づいて証明している。

 その視点で見てはじめて日本の戦後史の実態が見えてくる。その意味で、今回の安保法案、いわゆる戦争法案は昭和天皇が創り出した<戦後の米国との均衡点>を明らかに逸脱している政治行為である。米国のジャパンハンドラーも、日本の為政者もおそらく戦後史の原点を忘却の彼方に押しやってしまったのである。

昭和天皇の戦後日本


ところで、「日米相互防衛援助協定(MSA協定)」というものがある。そこにはこう書かれている。

 

「各政府は,経済の安定が国際の平和及び安全保障に欠くことができないという原則と矛盾しない限り,他方の政府に対し,及びこの協定の両署名政府が各場合に合意するその他の政府に対し,援助を供与する政府が承認することがある装備,資材,役務その他の援助を,両署名政府の間で行うべき細目取極に従つて,使用に供するものとする」

 

つまり、戦後の日本は国の財政基盤が許す限り、米国の軍事行動に対して経済的に協力するということなのである。ところが国力の低下により、世界の警察官がもはや維持できなくなりつつある米国は、その取り決めを逸脱した集団自衛権の行使を今回、日本に求めてきたのである。そして、御所、天皇に向かって発砲するという前代未聞の蛮行を「蛤御門の変」で犯した長州卒族の末裔が何を勘違いしたか、米国のジャパンハンドラーの言うことを120%聞き入れてしまったのが、現在の日本である。

これはこの国の暗黙の統治機構に対するある意味、「クーデター」である。その意味でこれからは、反作用の力が大きく働いてくるのは必然である。恐らく、その反作用の動きは昭和天皇の創った均衡点へ振り子を戻すに止まらず、日本が「特別行政自冶区」でなくなる動きに繋がっていくはずである。従米で凝り固まった日本のマスコミは解説しないが、最近、ロシアのプーチンはシリアにISIS(イスラム国)対策とは思えないほどのロシア正規軍を派遣している。最終的な狙いは、ネオコン=戦争屋と表裏一体のイスラエルであろう。1948年にシオニズムに基づいて建国されたイスラエルがその後、世界の兵器需要の増加(戦争経済)にどれだけ貢献したか、冷静に考えてみれば、すぐわかることである。

中東地図 日本語



いよいよ2001年の911以降、世界をいいようにコントロールしてきた戦争屋=ネオコンがメインストリートから退場する時を迎えようとしているのかもしれない。

従米を自らの権力の源泉とする安保利権を守ろうとする日本の官僚は、傲慢にも「天皇制の下におけるアメリカンデモクラシーというこの国の在り方」を都合良く忘れてしまったのだろうか。彼らは敗戦後もこの国に天皇制が残っている理由を忘れてしまったエリート?なのである。米国による戦後教育の成果であろう。

<参考資料>

*週刊現代より

「デモ隊も見逃した「陰の主役」たち」

 

外務省の超エリート

条約局マフィアという言葉を聞かれたことがおありだろうか。外務省の超エリート・旧条約局(現国際法局)の局長経験者を中心に形成された人脈のことだ。

たとえば安保法制懇の柳井俊二座長。国家安全保障局の谷内正太郎局長。外務省一の切れ者とされる兼原信克内閣官房副長官補。安倍首相が法制局長官に起用した小松一郎氏(昨年病死)。みんな条約局長(国際法局長)経験者で、条約局マフィアの代表格と見なされている。安保法制を執拗に画策してきたのは彼らである。彼らこそ官邸の主役だと言っていいだろう。私はこれまで官僚の掌で政治家が踊る姿を何度も見てきたが、今ほど官僚が政治を思うままに動かす局面を見たことがない。先月末、河出書房新社から出た『安倍「壊憲」政権に異議あり 保守からの発言』(佐高信編著)で山崎拓元自民党副総裁がこう語っていた。

〈いまの内閣はまたぞろ官僚支配内閣になっている。自民党支配の内閣ではない。(中略)官僚が好きなようにやっているという状況が出来している〉

安倍壊憲政権に異議あり

ご承知のように山崎さんは自民党タカ派(改憲派)の有力者だった人で、防衛庁長官もつとめた安保政策の専門家だ。

山崎さんは、安倍首相には集団的自衛権の行使を政治的実績にするという目論見があり、それに官僚が従って法制化した――という部分ももちろんあるのだがと断って、こうつづける。

〈むしろこの機会にとにかく自衛隊を海外へ外交のツールとして展開させたいという、外務官僚の宿願が安保法制を推し進めるようになってきた。これは大変危険な事態です。もちろん集団的自衛権の問題ではあるのですが、集団安全保障のほうに官僚たちの宿願があるわけで、積極的平和主義という名のもとにそれをやろうとしている〉

山崎さんの言う外務官僚とは即ち条約局マフィアのことだろう。ちなみに集団安保とは、国連決議に基づいて侵略国を叩く措置だ。同じ武力行使でも「守る」ことを目的とする集団的自衛権とはまるで次元が違う。

 

彼らが集団安保に拘る理由

条約局マフィアが集団安保にそこまで拘る理由は何か。山崎さんによればこういうことだ。日本は今までODA(政府開発援助)で外交をしてきた。だが、1998年に1兆円をはるかに超えていたODA予算が、今はその4割しかない。一方、アフリカや発展途上国へのODA支援では中国の力が強い。人海戦術もあって支援が厚いので日本は対抗できなくなっている。また中国の軍事力膨張に対しASEAN10(東南アジア諸国連合10ヵ国)が怯えてきている状況もある。

そこで我が国も自衛隊という軍事力を外交のツールとして駆使したいということです。これは外務官僚の意志であり、同時にアメリカの要請でもあります。世界の警察官としてふるまってきたアメリカは、軍備が老朽化して、軍事費も減らして足元が弱っている。そこでアメリカは警察犬が欲しいということで、日本という警察犬を引きまわそうとしている

山崎さんの解説には説得力がある。彼は(1)安倍首相の目論見(2)外務官僚の意志(3)米国の要請――という3つの視点から法案を分析している。そのうえで実は「軍事力を外交のツールとして駆使」するための集団安保こそ条約局マフィアの狙いなんだよと重大な警告を発している。では、彼らはどうやって宿願を果たしたのか。その手口の一端を朝日新聞が連載「検証集団的自衛権」で書いている。

 

昨年5月の会見で首相は外務省が求める集団安保への参加を否定し「湾岸戦争やイラクでの戦闘に参加することは、これからも決してない」と明言した。

集団安保まで認めるのは「憲法の論理として無理」との意見が礒崎陽輔首相補佐官(国家安全保障担当・総務省出身)らを中心に政府内で強かったからだ。

ところが外務官僚は諦めなかった。集団的自衛権をめぐる与党協議にこっそり集団安保を潜り込ませようと画策した。たとえば議論の叩き台となる事例集。ホルムズ海峡の機雷除去のケースではイラストに米国旗とともに国連旗を並べた。

二つの旗から自衛艦に矢印がのび「機雷掃海活動への参加要請」と記されていた。米国を守るための機雷除去は集団的自衛権だが、国連から要請されると集団安保になる。それを見て集団安保推進派の「ヒゲの隊長」こと佐藤正久参院議員は外務省の仕掛けに気づき、ニヤリとしたという。事例集作成の中心になったのは条約局マフィアの兼原信克副長官補だった。朝日は外務省の狙いを〈1991年の湾岸戦争で国際社会から「カネだけ出した」と批判されて以来、自衛隊の活動範囲を広げて「外交カード」を増やしたい考えがあった〉と説明している。

画策はさらにつづく。

その後の与党協議で配られた「高村(自民党副総裁)試案」では従来の「自衛権発動の3要件」が「武力行使の3要件」に変わった。自衛権を逸脱する集団安保を加える含みを持たせたのである。それと並行して首相の国会答弁も軌道修正された。

決戦場となったのは616日の自民側と政府側の会議だった。集団安保をめぐって推進派と慎重派の意見が対立した。その議論にじっと耳を傾けていた高村正彦副総裁は最終的に推進派に軍配を上げた。朝日はこう締めくくっている。

〈反発する公明党に配慮し、閣議決定文に「集団安全保障」の文字は書き込まれなかった。しかし、国家安全保障局が作った想定問答には、武力行使の3要件を満たせば、「憲法上許容される」と記された。/密室で繰り広げられた集団安保をめぐる暗闘。外務省の悲願であった武力行使への道が開けた〉

法案採決を目前にして私は自衛隊員の心情を思う。外務官僚の「カード」や「ツール」にされてしまったら、彼らの浮かぶ瀬はどこにあるのだろうかと。(引用終わり)

CNNより

「ロシア、シリアで空爆準備か ISISとは別の標的も」

2015.09.29

ワシントン(CNN)シリアで軍備増強の動きを見せているロシアが、近く空爆に踏み切るとの観測が強まっている。シリアでは米軍率いる有志連合も過激派「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」に対する空爆を行っているが、米当局者によれば、ロシアの空爆ではISIS以外の標的が狙われる可能性もある。

2人の米当局者によると、ロシアは27日にかけ、シリアで空爆開始に向けた動きを見せた。同国は公にはISISを標的に据える。しかしロシア軍の動きを見る限り、空爆の狙いは別の所にある様子がうかがえるという。

米国防当局者は先に、ロシアの動きはシリアのアサド政権崩壊に備えて、その後の影響力確保を狙ったものとの分析を示していた。一方、シリアの同盟国であるロシアが、アサド政権支援に乗り出せるよう態勢を整えているとの見方もある。米国はアサド大統領の退陣を要求している。

米情報当局によると、ロシアの港で多段式ロケット発射システムの発射台と思われる物体が確認された。これがシリア行きの船に積み込まれる可能性もある。さらに、少数の長距離爆撃機がロシア南部の飛行場に移動していることも判明。これでシリアに対する長距離爆撃が可能になるという。

プーチンとオバマ

シリアのハマーには、ロシアとの連携のための拠点が設置されたが、用途は分かっていない。南西部のイドリブやハマー、ラタキアにはロシアの偵察用無人機が送り込まれた。しかしいずれもISISの拠点からは離れている。米政府は、ロシアがいつ空爆に踏み切ってもおかしくない状況と見て警戒を強めている。オバマ米大統領は28日に開かれるロシアのプーチン大統領との首脳会談で、ロシアの意図について説明を求める見通し。(引用終わり)

*田中宇氏の国際ニュース解説より

 

「ロシア主導の国連軍が米国製テロ組織を退治する?」

2015年9月24日  田中 宇

 

 9月28日、国連総会で、ロシアのプーチン大統領の演説が予定されている。この演説でプーチンは、シリアとイラクで拡大している「イスラム国(ISIS)」やアルカイダ系の「アルヌスラ戦線」など、スンニ派イスラム教徒のテロ組織を掃討する国際軍を編成することを提案する予定と報じられている。

 ロシアはすでに、8月末からシリアの地中海岸のラタキア周辺に2千人規模の自国軍を派遣し、ラタキアの飛行場を拡大し、迎撃ミサイルを配備して、ロシアの戦闘機や輸送機が離発着できるようにしている。ラタキアには冷戦時代から、ロシア海軍の基地が置かれている。ロシア軍のシリア派遣は、ISISに負けそうになっているアサド大統領のシリア政府軍をテコ入れするためで、アサド政権はロシアの派兵を歓迎している。

 

国連総会でのプーチンの提案は、シリアに派遣されているロシア軍に国連軍としての資格を付与するとともに、ロシア以外の諸国がロシアと同様の立場(親アサド)でシリアに派兵したり補給支援し、国連の多国籍軍としてISISやアルヌスラを退治する戦争を開始することを、国連安保理で決議しようとするものだ。ロシアは現在、輪番制になっている安保理の議長国であり、根回しがやりやすい。毎年9月に行われている国連総会へのプーチンの出席は10年ぶりで、プーチンがこの提案を重視していることがうかがえる。

 プーチンの提案は、安保理で可決されない可能性も高い。米国は以前から、ISISの掃討を目標として掲げる一方で、アサド政権の転覆も目標としてきた。アサド政権のシリア政府軍によるISISとの戦いを支援することでISISを掃討しようとするプーチン案は、アサド政権を強化することであり、米国にとって受け入れがたい。米国が安保理で拒否権を発動し、プーチンの提案を葬り去る可能性がある。この件を分析した記事の中には、米国が拒否権を発動するため、プーチンは国連総会に3日間出席する予定を1日に短縮し、怒って早々に帰国するだろうと予測するものもある。

 とはいえ、米国がこの件で必ず拒否権を発動するとは限らない。私が見るところ、米国が反対(拒否権発動)でなく棄権し、プーチンの提案が安保理で可決される可能性が日に日に高まっている。米国のケリー国務長官は、数日前まで、ロシアのシリア派兵を、アサドの延命に手を貸していると批判していたが、9月22日に態度を転換し、ロシアのシリア派兵はISISと戦う米軍を支援する意味で歓迎だと言い出した。米国は依然、アサド打倒を目標として掲げるが、当面、ISISが掃討されるまでは、ロシアがアサドを支援してISISを退治することを容認しよう、というのがケリーら米政府の新たな態度になっている。事態は流動的だ。米政府は、プーチン提案への賛否について、まだ何も表明していない。

 ISISは、イラク駐留中の米軍によって涵養されたテロ組織だ。米軍は、ISISを空爆する作戦をやりつつも、ISISの拠点だとわかっている場所への空爆を控えたり、イラク軍と戦うISISに米軍機が武器や食料を投下してやったりして、戦うふりをしてISISを強化してきた。米軍は、露軍の駐留に猛反対しても不思議でない。

 

 しかし最近、露軍駐留に対する米軍内の意見が「歓迎」の方向になっている。露軍が空爆するなら、米軍がISISを空爆する(ふりをする)必要がなくなって良いし、露軍がISISとの戦いで苦戦するほど、ソ連崩壊の一因となった1980年代のソ連軍のアフガニスタン占領と同様の重荷をロシアに背負わせ、プーチンのロシアが自滅していく流れになるので歓迎だ、という理由だ。国務省も国防総省も、ロシアにやらせてみたら良いじゃないかという姿勢で、米国がプーチン提案に反対しない可能性も高いと考えられる。

 国連安保理でプーチンの提案が可決されると、それは戦後の国連の創設以来の大転換となる。国連を創設した米国は、もともと米英仏と露中が安保理常任理事国として並び立つ「多極型」の国際秩序を戦後の覇権体制として考えていたが、国連創設後間もなく冷戦が激化し、米英仏と露中が対決して安保理は何も決められない状態になった。安保理で重要な提案をするのは米国だけで、露中は自分たちの利益に反しない場合だけ賛成し、利益に反するときは反対(拒否権発動)する受動的な態度を続けた。

 冷戦終結後も、この態勢が続いたが、01年の911事件後、米国の世界戦略はどんどん好戦的、過激になり、一線を越えて頓珍漢な水準にまで達している。

たとえばシリアに関して米国は、存在しない架空の「穏健派イスラム教スンニ派武装勢力」を支援してISISとシリア政府軍との2正面内戦を戦わせる策をとっている。昨年来、穏健派勢力が存在せず架空であることが露呈すると、米議会は、5億ドルという巨額資金をかけて穏健派勢力を募集して軍事訓練する法律を作って施行したが、集まった穏健派は数十人しかおらず、彼ら(第30部隊)もシリアに入国したらすぐアルヌスラに武器を奪われてしまった。上記の件は以前の記事に書いたが、その後シリアに入国した第2派の第30部隊は、入国直後にアルヌスラにすすんで投降し、米国からもらったばかりの新しい武器も全部渡してしまった。彼らの中の司令官は「米国製の武器を得るため、最初から寝返るつもりで米国の募集に応じた」と言っている。米国の対シリア戦略は完全に破綻している。

 

 米国がこんな無能ないし茶番な策を延々と続けている以上、中東はいつまでも混乱し、何百万人もの難民が発生し、彼らの一部が欧州に押し寄せる事態が続く。このままだと、ISISがアサド政権を倒してシリア全土を乗っ取り、シリアとイラクの一部が、リビアのような無政府状態の恒久内戦に陥りかねない。米国に任せておけないと考えたプーチンのロシアが、シリア政府軍を支援してISISを倒すため、ラタキアの露軍基地を強化して駐留してきたことは、中東の安定に寄与する「良いこと」である。加えてプーチンが、自国軍だけでなく国連軍を組織してISISと戦うことを国連で提案することは、国連の創設以来初めて、ロシア(というより米国以外の国)が、自国の国益を越えた、世界の安定や平和に寄与する方向で、国連軍の組織を提案したものであり、画期的だ。

 シリアではすでにイランが、アサド政権を支援しつつISISと戦っている。ロシアはイランと協調してシリアに進出した。イランは、イラクの政府軍やシーア派民兵、レバノンのシーア派民兵(ヒズボラ)を支援してISISと戦っているが、その担当責任者であるスレイマニ司令官(Qasem Soleimani)が7月にロシアを訪問してプーチンらと会い、シリアでの露イランの協調について話し合っている。米軍筋は、7月のスレイマニ訪露が、ロシアのラタキア進駐にとってとても大事な会合だったと分析している。

 ロシアはその後、米議会がイランとの核協約を阻止できないことが確定的になった8月下旬まで待って、ラタキア進駐を開始した。米議会がイラン協約を阻止し、米国がイランを許さない状態のまま、ロシアがイランを助けることになるラタキア進駐を挙行すると、米国のタカ派にロシアを攻撃する口実を与えることになるので、ロシアは8月末まで待った。

 露軍のラタキア進駐に関して、イランも米国も、事前に察知していなかったと政府が言っているが、両方とも大ウソだ。シリアの外相は、ロシアとイランは軍事的に密接に協調しつつ、シリアを守っていると述べている。ロシアはラタキアがある地中海岸を中心にISISと戦い、イランはシリアの首都ダマスカスや、傘下のヒズボラが守るレバノン国境沿いに展開して戦っており、地域的な分担もできている。

 また、米国のケリー国務長官は、今春から何度もロシアを訪問してシリア問題について話し合っており、ロシアがシリアの内戦終結やISIS退治に貢献することを前から支持している。米国が露軍の進駐計画を事前に知らなかったはずはない。8月末時点で、ロシアはシリア進駐を事前に米政府に通告したと指摘されている。そもそも、露軍のシリア進駐を先に望んだのは、国内の軍産複合体との暗闘で苦戦していたオバマの方だ。 オバマはISISの掃討を望んだが、彼の命令で動くはずの米軍は勝手にこっそりISISを支援し続けていた。自国軍に頼れないオバマは、ロシアに頼るしかなかった。米国がイラン制裁を解くことが、オバマの要請に対するプーチンの条件だったのだろう。オバマがイランとの核協約を急ぎ、軍産に牛耳られた米議会がそれを阻止しようとしたのも、ロシア主導のシリア(中東)安定策を実現するか阻止するかの米国内の政争だったことになる。オバマのこれまでの動きからみて、米国はプーチン提案に拒否権を発動しないのでないかというのが私の見立てだ。

 

米軍(軍産)は、いまだにISISを支援している。露軍がラタキアに進駐を開始した後、ISISの軍勢が露軍基地を襲撃し、露軍の海兵隊と戦闘になった。ロシアのメディアによると、露軍が殺したISIS兵士の遺体を確認したところ、露軍基地を空撮した精密な衛星写真を持っていたという。このような精密写真をISISに提供しうるのは米軍、NATO軍、もしくはイスラエル軍しかいない。軍産がいまだにISISを支援していることが見てとれる。

 ISISがシリア政府軍の攻撃を事前に把握したり、政府軍の拠点を襲撃しやすいよう、米軍がISISに精密な衛星写真をリアルタイムで供給してきたことを、ロシアは以前から知っていた。これに対抗し、ロシアが衛星写真をリアルタイムでシリア政府軍に供給することが、露軍のシリア進駐の目的の一つだったことは、以前の記事に書いた。

 ISISをめぐる軍産との暗闘で、オバマは最近、自分の政権でISIS掃討の外交面の責任者だった元米軍司令官のジョン・アレン(John Allen)の辞任を決めた。昨年秋、アレンをISIS掃討担当にしたのは表向きオバマ自身だったが、アレンはISISをこっそり支援する米軍の「ペトラウス派」の一員で、シリアの穏健派武装勢力を強化するために安全地帯(飛行禁止区域)をシリア国内に作ること(穏健派などいないので実際はISISを強化する安全地帯になる。もともとトルコの発案)を提案したり、ISISと戦うため米軍の地上軍をシリアに派遣す(イラク侵攻と同様の占領の泥沼にはまる)べきだと提唱したりしてきた。いずれの案も、しつこく提案したがオバマに却下されている。

 ペトラウス派とは、元米軍司令官、元CIA長官のデビッド・ペトラウスを頭目とする派閥で、米軍内でこっそりISISを支援する勢力だ。ペトラウス自身、シリアに(ISISが強くなれる)飛行禁止区域を作るべきだと言い続けている。だが、上記のジョン・アレンの辞任は、オバマ政権に対するペトラウス派の影響力の終わりを意味すると指摘されている。オバマは、ペトラウス派を追い出すことで、軍産がISISを支援できないようにして、ロシアをこっそり支援している。

 ペトラウス派やトルコ政府が飛行禁止区域を作りたがったシリアのトルコ国境沿いの地域では今、クルド軍(YPG)がISISを追い出している。ISISは従来、トルコとシリアを自由に行き来することで、トルコの諜報機関から補給を受けて力を維持していたが、両国間の越境ルートは一つをのぞいてすべてクルド軍が押さえ、クルド軍は最後の一つ(Jarabulus)を攻略しようとしている。事態は、ISISの敗北、トルコの窮地、クルドの勝利に向かっている。クルド人が対トルコ国境に自治区(事実上の独立国)を作ることは、アサド政権も認めている。

 トルコの権力者エルドアン大統領は先日、モスクワを訪問し、シリア問題についてプーチンと会談した。エルドアンの訪露は、シリアに対するロシアの影響力の急伸を意味している。米国が安保理で拒否権を発動してシリアに駐留したロシアが孤立するなら、エルドアンが急いで訪露する必要はない。

 もう一人、エルドアンと前後して急いで訪露した権力者がいた。イスラエルのネタニヤフ首相だ。イスラエルは、以前からゴラン高原越しにシリアを砲撃しており、今後も攻撃を続けるとロシアに伝え、相互の戦闘にならないよう連絡網を設けるためにネタニヤフが9月21日に日帰りで訪露してプーチンと3時間会談したと報じられている。だが、その手の話だけなら、首相と大統領の会談でなく、国防相や実務者の会議でいいはずだ。

 オバマの米国が中東で傍観の姿勢を強め、米国の黙認を受けてロシアがシリアに駐留し、イスラエルの仇敵であるイランに味方してアサドをテコ入れし、軍産が涵養したISISを潰そうとしている。ロシアを後見人として、中東におけるイランの影響力が拡大している。ネタニヤフは、プーチンに「イスラエルの安全を守る気はあるのか」と尋ねたに違いない。プーチンは「イスラエルの懸念は理解できる。シリア(やイラン、ヒズボラ)がイスラエルを攻撃することはない」と答えた。ネタニヤフがアサド政権の継続やISISとアルカイダの掃討を容認するなら、ロシアはイランやヒズボラやアサドがイスラエルを攻撃させないよう監視するという密約が結ばれた(もしくは再確認された)のでないかと考えられる。

 ロシアとイスラエルは、シリアでの活動を相互に報告して協力する協議会を設置した。この協議会には、ロシアと並んでシリアで活動するイラン軍の司令官も出席するかもしれない。ISISなどテロ組織が掃討された後、この協議会は、ロシアがイスラエルとイラン、シリア、ヒズボラとの停戦(和解)を仲裁する機関になりうる。イスラエルにとって、自国の安全を維持してくれる国が、米国からロシアにすり替わりつつある。

 

国連安保理で、プーチンの提案に対して米国が拒否権を発動した場合、ロシアは孤独な闘いを強いられそうだが、実はそうでない。露軍のシリア進駐は、コーカサス、中央アジア諸国から中国(新疆ウイグル自治区)にかけての地域でISISやアルカイダがはびこることを防ぐための「テロ戦争」として行われている。ロシア軍は「CSTO軍」としてシリアに駐留している。CSTOは、ロシア、中央アジア(カザフスタン、キルギス、タジキスタン)、ベラルーシ、アルメニアという旧ソ連諸国で構成される軍事同盟体だ。

 

 CSTOの兄弟組織として、CSTOに中国を加えたような構成になっているSCO(上海協力機構)がある。中国の新疆ウイグル自治区からは、数百人のウイグル人が、タイやトルコを経由してシリアに入り、イスラム戦士(テロリスト)としてISISに参加している。トルコ国境近くのシリア国内で、ISISが占領して村人を追い出した村(Jisr-al Shagour)に、ウイグル人を集めて住まわせる計画をISISが進めていると報じられている。この計画が進展すると、中国の新疆ウイグル自治区で、イスラム戦士をこっそり募集する動きが強まる。中国政府は、シリア政府が望むなら、この計画を潰すためにロシア主導のISIS退治に軍事的に参加することを検討すると表明している。

 

(上記の、シリアにISISのウイグル村を作る計画の黒幕は、以前からウイグルの独立運動をこっそり支援してきたトルコの諜報機関だと、イスラエルのメディアが報じている。トルコの諜報機関は、8月にタイのバンコクで起きたヒンドゥ寺院(廟)の爆破テロの実行犯を支援していた疑いもある。トルコのAKP政権は、ISISとの戦いでクルド人が伸張して与党の座をずり落ちかけているので、政権維持のために意図的に混乱を醸成している)

 ロシアだけでなく中国もISIS掃討戦に参加するとなると、これは上海機構のテロ戦争である(もともと上海機構は911後、中国と中央アジアのテロ対策組織として作られた)。中露はBRICSの主導役でもあるので、BRICS(中露印伯南ア)も、このテロ戦争を支持しそうだ。中国が主導する発展途上国の集団「G77」(134カ国)も賛成だろう。G7以外の多くの国が、プーチン提案を支持することになる。

 

ロシア軍のシリア進駐に対しては、欧州諸国も支持し始めている。ドイツのメルケル首相やショイブレ財務相が賛意を表明したし、オーストリアの外相はイランを訪問し、シリアの内戦終結のための交渉にアサド政権も入れてやるべきだと表明した。これらの発言の背景に、シリアに対するこれまでの米国主導の戦略が、200万人のシリア人が難民となり、その一部が欧州に押し寄せるという失敗の状況を生んでおり、好戦的で非現実的な米国でなく、中東の安定を模索する現実的なロシアと組んで、シリア危機の解決に取り組む方が良いという現実がある。欧州は、ISIS掃討に関するプーチンの提案に賛成だろう。

 ロシアは、シリアに軍事駐留するだけでなく、テロリストをのぞくシリアの各派とアサド政権をモスクワに集め、内戦の終結をめざす外交交渉も以前から仲裁している。プーチンは、シリアの内戦を解決したら、次はリビアの内戦終結も手がけるつもりかもしれない。その布石なのか、プーチンは今年、リビアの隣国であるエジプトの(元)軍事政権と仲良くしている。すでに書いたように、ロシアはイスラエルとイランの和解も仲裁し得る。先日は、パレスチナのアッバース大統領もモスクワを訪問しており、イスラエルがその気なら、パレスチナ問題もロシアに仲裁を頼める。

 

 これらのロシアの動きの脇には、経済面中心の伴侶として中国がいる。シリアをめぐるプーチンの国連での提案は、世界が米国覇権体制から多極型覇権体制へと転換していく大きな一つのきっかけとして重要だ。プーチンの提案に対し、米国が拒否権を発動したら多極型への転換がゆっくり進み、発動しなければ早く進む。どちらの場合でも、米国がロシアと立ち並ぶかたちでシリア内戦の解決やISIS退治を進めていくことはないだろう。米国が入ってくると、流れの全体が米国流の過激で好戦的な、失敗する方向に引っ張られる。国内で軍産と暗闘するオバマは、そんな自国の状況をよく知っているはずだ。オバマは、米国を健全な覇権国に戻すのをあきらめ、世界を多極型に転換させることで、世界を安定させようとしている。

 

露中やBRICSにEUが加わり、イスラエルまでがロシアにすり寄って、中東の問題を解決していこうとしている。米国は傍観している。そんな中で日本は、軍隊(自衛隊)をこれまでより自由に海外派兵できるようにした。安倍政権や官僚機構としては、対米従属を強化するため、米国が望む海外派兵の自由化を進めたつもりだろう。しかし、この日本の動きを、世界を多極型に転換していくプーチンのシリア提案と重ねて見ると、全く違う構図が見えてくる。

 


 プーチンが日本に言いそうなことは「せっかく自由に海外派兵して戦闘できるようにしたのだから、日本の自衛隊もシリアに進駐してISISと戦ってくれよ。南スーダンも良いけど、戦闘でなく建設工事が中心だろ。勧善懲悪のテロリスト退治の方が、自衛隊の国際イメージアップになるぞ。昨年、貴国のジャーナリストが無惨に殺されて大騒ぎしてたよね。仇討ちしたいだろ?。ラタキアの滑走路と港を貸してやるよ。日本に派兵を頼みたいってオバマ君に言ったら、そりゃいいねって賛成してたよ。単独派兵が重荷なら、日本と中国と韓国で合同軍を組むとかどう?」といったところか。

 この手のお招きに対し、以前なら「米国にいただいた平和憲法がございますので、残念ながら海外での戦闘に参加できません」とお断りできたのだが、官僚と安倍の努力の結果、それはもうできなくなった。対米従属を強化するはずの安倍政権の海外派兵策は、米国が傍観する中、ロシアや中国に招かれて多極化に貢献する策になろうとしている。今後、世界が多極化するほど、この傾向が強まる。8月の記事「インド洋を隠然と制する中国」の末尾でも、このことを指摘した。


 

 ISISは、米国が涵養した組織だ。ロシアは、ISISと戦う義理がない。それなのにロシアはISISとの戦いを買って出ている。軍港ラタキアの保持とか、シリアや中東を傘下に入れる地政学的な野心とか、ロシアには国際的な強欲さもあるが、シリアに進軍してISISと戦うリスクは、それらの利得を上回っている。シリア人の多くは今、アサド政権を支持しており、ロシアがアサド政権を支援することを歓迎している。ロシアは世界の平和と安定に貢献している。えらいと思う。

 

 反戦派の人々は「戦争をする人に、えらい人などいない。戦争反対。おまえは好戦派だ」と言うだろう。しかし、中東の多くの人々は、リスクをかけてラタキアに進軍してISISと戦い始めたロシアに感謝している。そもそも日本国憲法は、対米従属の国是を暗黙の前提にしている。米国の覇権が衰退している今、護憲派はこの点をもっと議論しないとダメだ。自衛隊がラタキアに行くべきだとは思わないが、ロシアには敬意を表するべきだ。(引用終わり)


Sorry, the comment form is closed at this time.

© 2011 山本正樹 オフィシャルブログ Suffusion theme by Sayontan Sinha