昨年末、東京地検特捜部が動き、JR東海のリニア中央新幹線建設工事をめぐり、ゼネコン大手の大林組が「スーパーゼネコン」と呼ばれる大手4社で不正な受注調整=談合をしていたことが明らかになりました。ところで、大手メディアではほとんど、報道されていませんが、リニア新幹線=「夢の超特急」は実は現在、大きな課題に直面しています。そして、このことは関係する地域の首長、地方議員の間では党派を問わず、常識となっています。もちろん国会でも議論され、平成261016日の国土交通委員会では共産党の辰巳康太郎参議院議員がリニア新幹線の環境に与える影響について質問をしています。

それでは、リニア工事のどのような点が大きな課題とされているのでしょうか。まず、第一に挙げられるのは、膨大な残土の処理。リニア新幹線は品川・名古屋間の86%246kmがトンネル工事となり、約5680万㎥という、東京ドーム約50杯分という膨大な建設残土が発生しますが、その活用先が確定しているのは二割程度に過ぎません。国の公共事業が残土の活用先を指定してから事業認可することを考えると大変な状況であることは間違いないでしょう。第二に水枯れの問題。例えば、リニアのトンネル工事で大井川の流量が毎秒最大で約2トン減少すると予想されています。因みに毎秒2トンというのは、下流七市63万人分の水利権量に匹敵するものです。この事態に201743日、静岡県知事も「全水量を確実に大井川に戻すことを表明するように」JR東海に要望しましたが、427日、「影響の程度をできる限り低減する」という回答をしたままに止まっています。第三に住民立ち退きの問題。リニアは直線走行のために否が応でも家屋や田畑に計画線を引かざるを得ないからです。JR東海の発表によると、収用が予測される地権者は登記簿上、品川・名古屋間で約5000人とされ、その内訳は東京都約50人、神奈川県約1500人、山梨県約1300人、長野県約400人、静岡県1人、岐阜県約1000人、愛知県約700人、これらの地権者への補償や土地取得費として、JR東海は約3420億円を見込んでいますが、立ち木トラスト運動のような根強い収用反対運動が展開され、工事の先行きを不透明なものにしています。第四が乗客の安全確保の問題です。リニアは強力な超電導磁石で車体を地上から10cm浮かせ、最高時速500キロで地上を飛びますが、そのために客室の床上30cmで、4300ミリガウスの電磁波が発生する乗り物です。その影響をどのように評価するか、専門家の意見は分かれていますが、小児白血病、小児脳腫瘍の発症率が大幅に上がるとの指摘もあり、その安全性に疑いが持たれていることも事実です。

もう一つ、忘れてならないことは、従来の新幹線に比較すると、同距離の走行で3倍以上の電力が必要だということです。第五に岐阜県におけるウラン残土排出の可能性です。これもウラン残土が出ないことを前提としているので、実際には何の対策もない状態になっています。以上、いろいろな課題を列挙してきましたが、一番の問題は、リニアの技術が世界では採用されない40年前の技術だということでしょう。たしかにリニアが構想された時代は、速く、効率よく、成長・拡大するものを重視する価値観が主流でした。これから人口が減少していく日本で求められるのは大都市圏を短時間で結ぶことではなく、本当の意味での地方再生。リニアは技術も発想も過去のものになっているのではないでしょうか。

*東愛知新聞に投稿したものです。

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