<日本郵政の不祥事とは>



現在、世間の注目を浴びているのが日本郵政の社長人事である。

西川善文社長の再任を巡り、鳩山総務大臣が日本郵政の一連の不祥事を理由に強く反対していた。ところが意外なことに、更迭されたのは鳩山総務大臣の方であった。



まず不祥事の一つである郵便事業会社の障害者団体向け割引制度の悪用事件を考えてみよう。今のところこの事件には郵便事業会社に加え、厚労省、広告代理店、割引制度の悪用企業などが関わっている。しかし根本は郵便事業会社の割引制度である。この図式は、10年前のDMの大量発送に伴う別後納郵便の割引制度の悪用と全く同じである。

この時に問題になったのは「エンデバー」「郵和」というDM取扱い業者であった。郵便局がこのような不正に手を染めた原因は、収益を上げるためのノルマであった。予算達成のノルマは、地方の郵政局、郵便局、担当課毎に設定された。つまり郵便局同士が競争関係に置かれたのである。

今日、郵政事業が民営化され、さらに収益を上げるよう大きなプレッシャーがかかっている。しかし国民が期待しているのは非効率的な経営の是正による収益アップである。郵政社員への過酷なノルマ課すことまで期待しているのではない。

ましてや割引制度の悪用など考えられない。また利用者への負担増加による収益増加なんてもってのほかである。もしこれらが郵政事業民営化の実態なら、民営化路線を止めさっさと元の形に戻すべきである。障害者団体向け割引制度の悪用事件はおそらく氷山の一角だと思われる。



そしてより大きな問題は、「かんぽの宿」の一括売却問題である。

報道されているように「かんぽの宿」は一旦オリックスの子会社への売却が決定されていた。国が日本郵政の株式を100%保有している現状では、「かんぽの宿」は国有資産ということになる。

この売却決定の過程が不透明ということが問題になり、売却は白紙に戻された。ところが売却が中止された途端、この不透明な国有財産の売却過程に関する報道が尻すぼみになった。しかしこの出来事は一連の政府傘下の企業の民営化にとって重大である。

「かんぽの宿」は赤字だから、全部売り払うという話が前提になっている。今の日本郵政には「かんぽの宿」の経営改善という選択肢が最初から存在しないのである。経営努力したが良くならなかったので、売却するという話ではない。もっとも経営改善を行っても赤字が続くという話なら、オリックスも買おうとしなかったであろうが。

以前に売却された「かんぽの宿」の中には、経営合理化によって黒字化したところも結構あるという話である。また「かんぽの宿」が大きな赤字経営という話も考えてみれば、眉唾ものである。「かんぽの宿」の採算計算において、固定資産の償却年数を60年から急に25年に短縮したということである。これによって経費をかなり水増しして、赤字を偽装っている疑いがある。

事業の採算を誤魔化すための常套手段が減価償却費である。儲かっていないように見せかけるために償却年数を縮めるのである。道路公団の民営化騒ぎでは、償却年数を70年から40年にしていた。ものすごく儲かっているはずの道路公団を、「赤字の垂れ流し」の経営と嘘をつくための道具として、減価償却費を使ったのである。また道路公団の採算計算に使われた長期金利は年4%という実態とかけ離れたとんでもない数字であった。

今日、高速道路会社がものすごく儲かっていることがようやく知られるようになって、「高速料金1,000円政策」まで実施されている。民主党は高速料金の無料化まで検討している。しかし数年前まで、「赤字の垂れ流し」だからさっさと売り払えと言った声が大きかったのである。世界一高い高速料金で、あれだけ混雑しているのに、高速道路が儲かっていないはずがないではないか。



<不良債権まぶし>



「かんぽの宿」の売却では、相も変わらず怪人たちが跋扈している。まずオリックス会長の宮内義彦氏は、規制緩和小委員会座長を始め、政府の規制改革のキーマンを続け、「ミスター規制緩和」と呼ばれていた。しかも規制緩和がオリックスの商売と密接に関係していた。

「かんぽの宿」の売却に関しては、「第三者検討委員会」と「郵政民営化承継財産評価委員会」というものがある。これらは一応、中立の第三者機関を装っている。しかしここにはオリックスと関係の深い者がいる。

「かんぽの宿」の売却では、メリルリンチがアドバイザリィー契約者として登場する。手数料が売却資産の簿価の3%で、最低保証額が6億円ということである。通常、不動産の仲介手数料は売買額を元に算出する。ところが今回は簿価を元に手数料を計算するというのだから全く意味が分らない。

メリルリンチは、膨大な不良債権を抱えバンク・オブ・アメリカに救済合併された。メリルリンチには公的資金が投入され、事実上破綻した。ところが隙を見て社員に多額のボーナスが支払われたということで問題になった。「強欲資本主義」を象徴するような投資銀行である。このようなメリルリンチからアドバイスを受けようというのだから、どうしようもない。本当に国民を馬鹿にした話である。

もちろん、真打ちは、日本郵政の西川社長である。西川社長は三井住友銀行の頭取からの転身である。またさくら銀行との合併の前は住友銀行の頭取であった。西川氏の経歴については、文芸春秋2004年1月号に「西川善文研究」のタイトルでレポートが載っていた。

西川氏は、本来の銀行業務で業績を上げトップに上りつめたのではない。ずっと不良債権の処理を担当してきた。しかも普通の不良債権ではない。旧住友銀行には、安宅産業、平和相互、イトマンなど、巨額の不動産に関連した不良債権があった。その処理を専門に行ってきたのが融資第三部という部署である。この融資第三部の主的存在が西川氏であった。

西川氏らが行ってきたことは、これらの不良債権を表沙汰にせず、密かに処理することであった。しかし不良債権が特殊なだけに簡単には処理できず、2004年の時点でもかなり残っていたという話である。西川氏みたいな経歴の者がトップに就かざるを得ないほど、これらの不良債権の処理は旧住友銀行にとって死活問題であった。

西川氏らが行ったのは、ある意味で不良債権隠しである。実質子会社の不動産会社に不動産と融資を振替える(いわゆる飛ばし)。しかしこれではこの会社への融資が破綻懸念先債権になるため、この子会社に収益が出る事業をくっ付ける。また逆に収益の出ている子会社に不良債権をくっ付ける。いわゆる「不良債権まぶし」である。これらの処理で、破綻懸念先債権を要管理先債権や要注意先債権に変えていた。このような実質子会社が40社もあるという。

米国で優良債権に不良債権を組合わせたCDO(債務担保証券)が問題になったが、西川氏の融資第三部はずっと前から同様のことを行っていたのである。ちなみにこのような処理をせず、不良債権をそのまま実質子会社に飛ばしていた長銀は馬鹿正直に破綻した。

西川善文氏の得意技は、人の目を欺くことである。「かんぽの宿」の売却でも「第三者検討委員会」と「郵政民営化承継財産評価委員会」といったいい加減なものをでっち上げている。

日本の郵政事業は地味な仕事の積み重ねである。郵便貯金は小額な貯金を集めたものである。郵便は一家、一家訪ね歩いて届けるものである。このような事業を長年続けて、郵政事業の資産は成立っている。郵政事業の金は、大金持ちから集めたヘッジファンドの金とは違うのである。メリルリンチや西川善文氏は、本来の日本郵政とは対極の存在といえよう。



<国有資産の纂奪者>



「かんぽの宿」の一括売却騒動で頭に浮かぶのは、ソ連崩壊時の国有資産の纂奪である。「改革」の名のもとにエリツィン政権は、国有財産である油田などをタダ同然で民間人に売り飛ばした。買ったのは「オルガルヒ」と呼ばれる新興財閥群である。

「オルガルヒ」のリーダ格だったのは、ボリス・ベレゾフスキーである。他にミハイル・ホドルコフスキー(石油)、ロマン・アブラモビッチ(石油)、ウラジミル・グシンスキー(メディア)などがいた。彼等はエリツィン政権に食込み、一夜にして億万長者になった。ちなみにここにあげた面々は、不思議なことに皆、ユダヤ人であった。

エリツィンの後を継いだプーチン大統領は、これの新興財閥経営者を脱税や詐欺で逮捕した。逮捕を逃れようとした者は海外に逃亡した。プーチン大統領は、纂奪者から資産を国民に取り戻した英雄ということになる。

日本人は、この一連の出来事を「やはりロシアだな」と笑って見ていた。とうてい同じような事が日本で起るとは思われなかった。ところが「かんぽの宿」の一括売却騒動を見ていると、情けないことにエリツィン時代のロシアと全く変わらないではないか。



通常、この手の「改革」運動というものは、頭の悪いな観念論者(経済学者、政治家、マスコミ人など)と、「改革」を利用して利益を得ようとする頭の良い者たちが結び付いていることが多い。もちろん、日本の『構造改革運動』も例外ではない。

例えばタクシーの規制緩和をリードしたのがリース会社の社長である。日本のタクシーの半分くらいはリースであり、規制緩和によるタクシーの増車は確実にリース会社の利益に繋がる。もちろん、日本の大手マスコミはこのような事を一切伝えない。

観念論者の『構造改革派』は、郵政改革は構造改革の本丸だと叫んでいた。しかし郵政の事業はどんどん成長するとは思われないものばかりである。しかし今回のタダのような値段での「かんぽの宿」の一括売却事件の発覚で、貪欲な人々の狙いの一部が明らかになったと言えよう。

「かんぽの宿」の安値売却には周到な準備が行われていた。まず郵政事業の分割の際、「かんぽの宿」はかんぽ生命の下ではなく日本郵政の下に置かれた。つまり最初から「かんぽの宿」は安値で叩き売るつもりだったと見られる。また「かんぽの宿」が経営的にお荷物ということを装うための細工がなされた。償却年数の極端な短縮などもその一つである。これは生田郵政公社総裁時代に行われている。また、「第三者検討委員会」と「郵政民営化承継財産評価委員会」といった、中立を装った第三者機関の設置も準備の一つである。しかしこれらにはもちろん、中立性のかけらもない。

簡易保険の事業として「かんぽの宿」の経営を行うことの是非はある。しかしその資産をタダ同然で売払うこととは全く別問題である。だいたい「かんぽの宿」の経営状況は言われているほど悪くない。「赤字のたれ流し」と言いふらしているのは安値売却を企んでいる者達である。また償却年数を極端に短縮しているのだから、一旦黒字化すれば黒字はどんどん大きくなると思われる。



<郵政各社の人事から>



一般の人々は、西川社長が単身で伏魔殿の郵政事業に乗込み、辣腕を振るって事業を立直しているというマスコミのプロパガンダを受け入れている。これには長年の民間は「善」であり、行政=役人は自分の既得権を守る「悪」という、単純な刷込みがマスコミでなされていたことが大きく影響している。ところが事実は全く違うのである。自民党の頭の悪い若手議員が、次々とマスコミに登場し、鳩山前総務相の行動を批難している。郵政事業は民営化の移行期間にあり、政治が民間企業の経営に介入するのは間違いと主張している。したがって西川氏を擁護し、鳩山総務相の更迭を当然と言っている。しかし、今回の政府・与党の判断は致命的な失敗だろう。

おそらく、これをきっかけに郵政事業がどれだけ酷い状況になっているか、徐々に明らかになるものと思われる。その一つとして次のような郵政各社の住友グループ出身者の人事が注目を集め始めている。それにしても三井・住友の郵政への食い込み方は尋常ではない。裏にはゴールドマンサックスがついている。



日本郵政

代表取締役社長 西川善文(三井住友銀行頭取)

執行役副社長  寺坂元之(元スミセイ損保社長)

専務執行役   横山邦男(三井住友銀行)

常務執行役   妹尾良昭(住友銀行、大和証券SMBC)



郵便局会社

代表取締役社長 寺坂元之(元スミセイ損保社長)

専務執行役   日高信行(三井住友海上火災)

常務執行役   河村学 (住友生命保険)



ゆうちょ銀行

執行役副社長  福島純夫(住友銀行、大和証券SMBC)

常務執行役   向井理寄(住友信託銀行)

常務執行役   宇野輝 (住友銀行、三井住友カード)

執行役     村島正浩(三井住友銀行)



これらは役員クラスであり、下の者をどれだけ連れてきているのか今のところ不明である。郵政各社には他の民間企業出身者がいるが、三井・住友グループが圧倒的に突出している。まさに日本の郵政事業は三井住友銀行を中心とした住友グループに支配されていると言って良いだろう。

一時、自民党の中では、喧嘩両成敗で鳩山総務相と西川氏の両氏を同時に退陣させるという案が出ていた。これによって「かんぽの宿」問題の幕引きを狙ったのである。 しかし菅選対副委員長などの働きによって、鳩山総務相だけの更迭劇となった。まさに「貧すれば鈍する」ような判断である。

もともと、郵政事業は成長性が乏しい。しかし莫大な資金と優良な不動産を抱えている。不動産という点では、「かんぽの宿」などは全体から見れば小さいものである。昔、郵便局は、郵便物を鉄道で送っていた関係で、駅に近い一等地に大きな配送施設を持っている。これらの再開発事業が、これから巨大な利権となる。

日本郵政と郵便局会社の執行役に清水弘之氏という人物がいる。清水氏は三井不動産の出身ということで、上記の表には載せなかった。しかし住友と三井の関係から、極めて西川グループに近いと推察される。このように着々と準備は整えられているのである。後で振返って見れば、「かんぽの宿」の一括売却問題はむしろ小さな問題ということになるのかもしれない。



現在、民主党、社民党、国民新党の野党三党の有志議員から、西川氏は特別背任未遂罪で刑事告発されている。ポイントは「第三者検討委員会」と「郵政民営化承継財産評価委員会」といった第三者機関の中立性ということになろう。最近、西川氏は第三者機関の中立性を強調した発言を続けている。刑事訴追を免れることに必死なのである。



取りあえず、郵政人事を巡る混乱には終止符が打たれそうだ。鳩山総務相の更迭と日本郵政の西川社長の続投が決定された。ただし「かんぽの宿」の一括売却を実務的に仕切ってきた実行部隊の辞任が、西川続投の条件になっている。実行部隊は、三井住友銀行の出身者の4名で構成され、リーダは専務執行役の横山邦男氏である。彼等は「チーム西川」と呼ばれていた。

このシナリオは前から囁かれていたものである。西川社長の知らない所で「かんぽの宿」の叩き売りが画策されたものにして、この責任を横山邦男専務執行役に押付けるというものであった。まさかと思っていたが、ほぼこの線で事が進んでいる。

やはり鳩山総務相の更迭だけで「一件落着」とは行かなかった。むしろ鳩山総務相の更迭で、問題がはじけたということだろう。これから西川体制で行われてきた酷い経営がどんどん明らかになっていくことになると思われる。

しかし問題の核心は、国有資産が纂奪され、関係者に安く叩き売られようとしたことである。鳩山総務相更迭の前後、テレビに出演し鳩山氏を強く批難し、西川氏を擁護していた政治家には、中川秀直氏、河野太郎氏そして世耕弘成氏などがいた。おそらく『構造改革派』と目される自民党議員は同様の事を考えているのだろう。

これらの政治家は、自分達の主張がいまだに国民の間でも支持されているという錯覚に陥っている。ところが鳩山総務相の更迭の後の世間の反応が、予想外であったことで愕然としている状態である。

いまだに『構造改革派』には2005年の郵政選挙での大勝の悪影響が残っているようだ。国民はまだ小泉改革の類を熱烈に支持していると勘違いしているのである。しかし、歩調を合わせているのは、大手のマスコミだけである。しかもそのマスコミの中でも一部西川氏批難に転じるところが出ている。この逆転現象は今後加速していくことはあっても止むことはあるまい。

彼らは07年の参議院選挙での自民党大敗という事実を無視したがっている。現在の衆議院の大量議席はその2年前に獲得したものである。4年間も解散総選挙がなかったのだから、残念ながら現在の自民党の議席は今の選挙民の気持を反映していない。

もともと、ほとんどの国民(国会議員を含めても)は、郵政の民営化に反対か、あるいは必要性を感じていなかった(当初、賛成していた者はわずか25%程度)。それを米国金融資本が5,000億円もの巨費を投じて日本のマスコミをコントロールして何も知らない大衆を洗脳したのである。当時、「郵政を民営化すれば、郵貯に眠っている莫大な資金が民間に流れ、経済は活性化する」など、とんでもないデマがまかり通っていた。しかし今回の国有資産の纂奪劇を見て、「やはり騙されたか」と思った人も少なからずいると思われる。



傲慢な日本のマスコミ人(特にインナーと呼ばれる実力者達)は、小泉政権は自分達が作ったという思いがあるようだ。全ての全国紙が「小泉首相は、守旧派の反体勢力の抵抗にひるまず、改革を断固つら抜け」と一斉に同じ内容の社説を掲げたこともある。何と馬鹿なことだろう。

このような莫大な金を電通等の広告代理店を通して貰ったマスコミは、小泉改革をずっと応援してきた。圧倒的に多かった郵政改革反対の世論をひっくり返したのも、テレビ局を含めたこのような大手マスコミの働きが大きかった。このように自分たちが肩入れしてきた小泉政権の目玉政策である郵政民営化に関する問題だからこそ、大手マスコミが及び腰になるのも無理はない。

今回、大手マスコミの攻撃対象はむしろ鳩山前総務相であった。「民営化を進める郵政の人事に担当大臣と言えど口を挟むべきではない」は、まだましな方であり、「目立ちがり屋のスダドプレー」とか「変わり者で虚言癖がある大臣」といった的外れな解説まであった。鳩山前総務相の資質を問題にするばかりであり、「国の財産が盗まれようとしている」という発言内容の方は全く無視していたのである。

もし鳩山前総務相の発言が間違っていたなら、「チーム西川」は辞任する必要はない。しかし後ろめたい思いがあるこそ、彼等は辞任して銀行に戻るものと解釈される。 税務会計で残存価格(簿価)というものがある。2年前まで、税務会計上、取得価格の10%の残存価格(簿価)を残して減価償却費を計上できるというものである。また償却限度は95%であった。残存価格(簿価)については、スクラップとして売却した時に除却損として損金にできる。かんぽの宿の取得価格は2,400億円であり、償却限度まで減価償却しても5%である120億円の残存価格が残る計算になる。つまりオリックス不動産にスクラップ価格より低い109億円で一括売却しようとしたのである。また取得価格に土地代が含まれていれば、土地については減価償却はない。

さらにかんぽの宿の70施設に加え、9ケ所の社宅施設などが一括売却の対象に含まれていた。社宅については宅地としての価値が考えられる。

またかんぽの宿は毎年50億円の赤字という話ばかりが強調されている。しかしその中身はほとんど吟味されていない。例えば固定資産の減価償却年数を極端に短くし、赤字経営を演出している可能性が大きいのである。実際、1万円で売られたかんぽの宿が、直に6,000万円で転売されたケースも報告されているではないか。



このようにかんぽの宿の一括売却は疑わしい事だらけである。では大手マスコミがかんぽの宿の売却に伴う問題を全く知らなかったと言えるのかということになる。

例えば「チーム西川」のリーダの横山邦男専務執行役は三井住友銀行の社宅に住んでいた。これではみなし公務員である横山氏が民間企業から利益を受けていることになると、国会でも取上げられたことがあったはずだ。

また横山邦男専務執行役と一緒になって「かんぽの宿」に携わっていた日本郵政の伊藤和博執行役は、オリックスが出資している不動産会社ザイマックスの出身である。 ちなみに三井住友銀行は、オリックスのクレジット会社に51%の出資をするなどオリックスとは関係が深い。これらの事は大手マスコミも先刻承知のはずだ。

しかし、これだけ疑わしい事が多いのに、いまだに大手マスコミは西川氏サイドに立っている。佐藤総務相が「チーム西川」の辞任を求めた事を伝えた日経新聞の記事はたった19行であった。

このように考えていくと、巷間言われているように仮に民主党政権が実現したなら、郵政問題は大疑獄事件として国民の前に浮かび上がってくる可能性も否定できないだろう。

その時になって多くの人が初めて日本で言われていた構造改革の本当の意味を知ることになるのかもしれない。

その意味で、2009年にこのような郵政不祥事が表沙汰になったのは時代の必然なのかもしれない。



*参考資料 以前お送りしたレポート「アジアの時代」より一部抜粋



~米国が1980年代に始めた「構造改革」と言う名の「破壊ビジネス」と「ワシントン・コンセンサス」:「グローバリズム」が学校教育で習わないが1980年代以降の現代金融史そのものである。

最近、米国の現状について「軍産複合体」ならぬ「インテリジェンス産業複合体(The Intelligence-Industrial Complex)なる呼び名を提唱し、話題を呼んでいる Tim Shorrock の“Spies for Hire” (08年)によれば、80年代初頭より民営化(privatization)という名の“破壊”を米国で推進したレーガン大統領(当時)の発想にまずあったのは、巨大な国家軍事機構を抱え、米国と対立する旧ソ連(および東側世界)だったのだという。

その意味で、レーガン大統領にとって「民営化」とはビジネスである以上に、より観念的な思い込みという意味での「イデオロギー」に近いものであったと言った方が良いのかもしれない。この考えを創造したのが、米国のタカ派シンクタンクとして名高いランド研究所である

そうしたイデオロギー色の強かったこの流れのバックボーンとなったのが、レーガン大統領によって任命され、まずは米国の政府機関を“効率化”という名目の下、切り売りできないかを検討するための委員会(The Grace Commission)の長となった W.R. Grace and Company のCEO、J. Peter Grace らによる活動であった。

たとえば1984年に同委員会が出した報告書には2,500もの勧告が記されており、1960年代より提唱されながら実現に至らなかった民営化プロジェクトの実現が強く求められている。

イラン危機の中で政権をもぎ取り、自ら“強いアメリカ”を体現したレーガン大統領の強力なバックアップの下、“破壊ビジネス”が米国に根付いていくこととなる。

しかし、米国がいくら広いとはいえ、国内のみでこうした「破壊ビジネス」を展開していたのでは、やがて限界がやってくる。そこでほぼ同時期より、諸外国に対し、こうした民営化という名の「破壊ビジネス」を強制するための理論武装:構造改革が行われるに至った。これが総称して「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれるものである。

この「ワシントン・コンセンサス」がアジア、さらには日本へとその触手を決定的な形で伸ばし始める重大な契機となったのが、1997年から98年までに仕掛けられたアジア通貨経済危機なのであった。そこで経済危機に陥ったアジア各国に対し、IMF(国際通貨基金)が特定の処方箋を提示し、各国は唯々諾々とこれを受け入れなければならなかったという厳しい政治的経済的現実がある。

そこで飲まされた“処方箋”によってアジア各国は、グローバル・スタンダードという名のアメリカン・スタンダードへと無理やり背丈とサイズを合わさせられたのである。これが結果として、米国をベースとする多国籍企業、あるいはファンドや投資銀行といった“越境する投資主体=国際金融資本”たちがいとも簡単に金儲けをしやすくなる環境を整えるための巧妙な仕掛けであったことは、言うまでもない。



その上に築かれたのが、米国による一極覇権構造であった。



それでは今、過去30年近くにわたり世界を規定してきたこうした枠組みは、一体、どうなるのであろうか。

「分散化する世界」:「多極化する世界」を日本の大手メディアは、なぜか一切語ろうとしないが、昨年、マーケットの世界で強い反響を呼んだレポートがある。

世界銀行(IBRD)がリーマン・ショック以前の08年5月21日にリリースした

「成長レポート(“The Growth Report.Strategies for Sustained Growth and Inclusive Development”)」

http://cgd.s3.amazonaws.com/GrowthReportComplete.pdf

この報告書は、次の時代に向けた成長戦略を世界銀行が探るにあたり、ノーベル経済学賞受賞者であり、現在はスタンフォード大学教授をつとめるマイケル・スペンスを筆頭とする賢人委員会に討議を依頼し、2年半にわたる議論の結果、とりまとめられたものである。

その中に、「成長を必要としている国家は皆全く同じというわけではない」という旨のくだりがある。一見何気ないメッセージではあるが、その衝撃度ははかりしれない。なぜなら、これをもってワシントン・コンセンサスという1つの処方箋の画一的な適用が否定されてしまっているからである。実際、この報告書では単一の処方箋を提示することなく、戦後世界における経済成長例をサンプルにしつつ(その中には当然、日本も含まれている)、全体で4つの望ましい成長パターンを提示しているのである。

それだけではない。繰り返すが、これまでの米国による世界運営のやり方は「ワシントン・コンセンサス」という1つの処方箋を経済成長のための唯一絶対的なものとして掲げ、これに合致しない全てのものを他国の政府に切り捨てさせ(=民営化させ)るというものであった。しかし驚くべきことに同報告書は、それが「この問題(=経済成長)に対する甚だ不完全な言明」であると糾弾するのである。

かつて90年代後半に米国政府の財務長官をつとめ、ワシントン・コンセンサスの旗振り役でもあったロバート・ルービンすら参画しているこの委員会による報告書はさらに、必要なのは「小さな政府」ではなく「効果的な政府(effective government)」であるとし、それは結局のところそこにより集う個人の才能(talent)である以上、「ふさわしい人材を集めることが先決だ」と断言する。

このようにして、米国が書いた画一的な処方箋:グローバリズムから解放され、世界の国々はやがて、米国による覇権から解放されることになる。

これから、間違いなく世界は分散化:多極化するのである。

多極化したなかで、これから大きく発展する可能性を秘めているのが、アジアということになるのであろう。

その意味で、今ほど、日本人に独立自尊の気概が求められている時はない。

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