~いっそう厳しさを増す日本の政治と経済への視線~

*ダイモンドオンライン3月14日号より

 地震大国・日本――。大津波を引き起こし東北沿岸に甚大な被害をもたらした東日本巨大地震は、そのリスクを世界にあらためて認識させた。
 日本時間3月11日金曜日午後の地震発生以降、世界の主要メディアは先を争って緊急特番を放送。東日本大震災は、それまでヘッドラインを独占していた中東・北アフリカの政情不安関連のニュースに代わって、連日トップで大きく報じられ、さらにそのニュース映像がユーチューブなどの動画投稿サイトを通じて世界中にばら撒かれた。

 東京電力福島第1原子力発電所1号機のメルトダウン(炉心溶融)の可能性が日本国内で伝えられた12日、特に同1号機建屋で爆発があった夕方以降は、海外メディアの報道の中心はこの問題に大きくシフト。CNNなど複数のメディアでは、専門家を招いて、旧ソ連時代の1986年に起きた史上最悪の原発事故であるチェルノブイリ原発事故との比較検証を繰り返し行っている。
 ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズなど米有力紙の電子版のトップページも、福島原発事故関連の記事で埋め尽くされた。日本企業の原発の海外輸出戦略にネガティブな影響を与えるのは必定だ。
 今回の巨大地震に際しては、一部の速報メディアが当初、大きな地震が東京を襲ったことを急ぎ報じ、それがソーシャルメディアで拡散されたこともあってか、東京が甚大な被害を受けたとの誤解も国外の一部では飛び交ったようだ。ダイヤモンド・オンライン編集部にも地震発生からしばらくすると、海外の複数の寄稿者から、安否確認とともに、東京の被害状況ばかりを尋ねるメールが多数飛び込んだ。しかし、すぐさま震源地などに関する詳細な情報が海外に伝わったことで、市場の大きな混乱にはつながらなかったようだ。
 海外メディアはその後も地震・津波による被害状況や原発事故関連のニュースを繰り返し報じているが、それとともに、日本経済やマーケットへの影響などについて、震災報道に追われる日本のメディア以上に、さまざまな分析報道を浴びせかけている。
 投資家向けの有力メディアとして知られるブルームバーグは、リーマンショックを予測したことで知られるニューヨーク大学のヌリエル・ルービニ教授とのインタビューを掲載。「日本にとって、財政赤字削減に苦しんでいる最悪の時期に巨大地震が発生した」との同教授の見方を伝えている。

 ルービニ教授は、資産が破壊されたことを考えれば、株式市場にも確実にネガティブであり、消費者心理にも大きな(マイナスの)影響を与えると語ったほか、景気回復のために大規模な景気刺激策が必要との見方を示唆した。

 一方、ロイター通信では、企業や投資家が外国資産を売却し資金を日本国内に還流させるリパトリエーションが起こるとの観測から円高の進展を予測する識者の声を複数掲載している。
 確かに、円は1995年に発生した阪神・淡路大震災後の3カ月間で対ドルで約20%上昇している。米著名投資家デニス・ガートマン氏は、円が数日から数週間以内に1ドル=75円に上昇する可能性もあるとロイター通信に語っている。実際、11日の円相場は地震発生直後こそ円安に振れたが、そのあとは主要通貨すべてに対して上昇している。


 もっとも、円高がガートマン氏の予想レベルまでさらに一段と進むかは、海外識者の見方も分かれている。そもそも日米貿易戦争の真っ最中だった1990年代半ば当時とは、政治的な背景事情が違う。むしろ、企業の生産拠点へのダメージが明らかになり、操業停止が長期化したりすれば、日本経済の減速懸念が高まり、逆に円安に振れやすくなるとの論調も多い。とはいえ、たとえ円安に振れたとしても、原発事故などに伴い電力供給不安まで現実化している経済活動の混乱状態を考えれば、株高の要因は見出しにくい。すでに海外ファンドの投機的な動きなどを背景に、先週末には先物も下落している。

 また、日本経済そのものの行く末についても、前述のルービニ教授だけでなく、今回の大震災を受けて、いっそう厳しい論調が増えている。

 英エコノミスト誌やフィナンシャル・タイムズ(FT)などの英国の有力メディアは、東北地方の生産額が日本のGDPに占める割合は8%程度であり、東日本大震災に伴う経済的損失は関西の巨大経済圏を直撃した阪神・淡路大震災に比べて小さいとの見方を示しているが、日本経済の中長期の見通しについてはまったく楽観していない。

 FTは3月11日の記事で、地震が経済に与える影響は当初想定よりも小さくなるものだとしながらも、日本経済が戦後最悪のリセッションから抜け出せるかどうかについて消費者や投資家の間に存在する疑いは、今回の大震災によって、さらに増すだろうと指摘している。
 FTも予想するように、短期的には首都圏を中心に買いだめ現象が広がることによる消費押し上げ効果や、復興に向けた建設需要の高まりが見込まれるが、いずれも一過性のものにすぎない。むしろ、復興費用の支出によって、日本の財政健全化の道のりがいっそう険しくなったことは間違いない。

 この未曽有の危機に際して、菅政権はリーダーシップを発揮できるのか?
海外のメディアはこの点にも大きく注目している。


 英ガーディアン紙の電子版は、「日本はリーダーシップが必要だ。しかしナオト・カンに実行できるのか」と題したコラムを掲載。今回の大震災前から日本を覆う問題――政治的脆弱性やリーダーシップの不在――に対して警鐘を鳴らしている。

「戦後65年間で最も厳しい危機」と菅首相が形容した未曾有の国難に際して、海外から支援の申し入れは相次ぐ。しかしそれとは別に、日本の政治と経済を見つめる海外の視線は、いっそう厳しく険しいものになりつつある。
(ダイヤモンド・オンライン編集部)

政治を根本から変えなければならない緊急の時を迎えている。今こそ、政治を庶民(市民、県民、国民)の手に取り戻さなければいけない。

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