今回は、意図的に1951年のサン・フランシスコ講和条約の締結位しか、戦後史を勉強させられない中学生、高校生が読むべき教科書のような本が出版されたので、紹介させていただく。

内容は、今までレポートで指摘させていただいた内容と重複するところが多いが、やはり、元外務省の国際情報局長の要職にいた人間が、この本を書いたということに大きな意味があるのではないか。

国際政治の世界の現実≒パワーポリティックス≒諜報の世界≒国益を追求するには手段を選ばないが嫌いなナイーブな人間(≒戦後の米国によるマインドコントロールによって大量生産された日本の知識人のような人々)たとえば、いろいろ国内問題では鋭い指摘をする評論家の内田 樹氏のような人も国際政治を見る段になると、途端にナイーブになって、この本を陰謀論だと指摘してしまうのが日本の悲しい現実である。

 この本の一番の特色が、日本の戦後史が米国に対する「追随路線」と「自立路線」のせめぎ合いの歴史であり、(若干、単純化し過ぎたきらいも考えないわけではないが、)その視点で見ることで今が見え、今後が見えてくることを解き明かしている点だと思われる。

 ただ、「満州の妖怪」と呼ばれた岸 信介氏をどのように捉えるかと言う点、江藤 淳氏が「忘れたことと忘れさせられたこと」という本で書いているように日本は無条件降伏したわけではないということに触れられていないことに対しては、もう少し、配慮があってもよかったのではないだろうか。そうは言っても、今も日本で続く大手マスコミが作り出している「閉ざされた言語空間」を思うとき、是非、読んでいただきたい本であることは間違いない。



<孫崎 亨氏(まござき うける)氏のプロフィール>

東京大学法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。東大卒業を待たず中退のうえ、1966年外務省入省した。英国、ソ連、米国(ハーバード大学国際問題研究所研究員)、イラク、カナダ勤務を経て、駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使を歴任。国際情報局長時代は各国情報機関と積極的に交流。外務省のいわゆる「情報屋」として、岡崎久彦の後輩にあたり、直接の部下だったこともある。後述のように親米派の岡崎とは対極の考えを持つが、在職中は互いの立場を尊重し、信頼関係もあったようである(『日米同盟の正体』あとがき)。

(以下、本書より抜粋)

戦後の歴代首相を「自主」と「対米追随」に分類

(1)自主派(積極的に現状を変えようと米国に働きかけた人たち)

重光葵(降伏直後の軍事植民地化政策を阻止。のちに米軍完全撤退案を米国に示す)

石橋湛山(敗戦直後、膨大な米軍駐留経費の削減を求める)

芦田均(外相時代、米国に対し米軍の「有事駐留」案を示す)

岸信介(従属色の強い旧安保条約を改定。さらに米軍基地の治外法権を認めた行政協定の見直しも行おうと試みる)

鳩山一郎(対米自主路線をとなえ、米国が敵視するソ連との国交回復を実現)

佐藤栄作(ベトナム戦争で沖縄の米軍基地の価値が高まるなか、沖縄返還を実施)

田中角栄(米国の強い反対を押しきって、日中国交回復を実現)

福田赳夫(ASEAN外交を推進するなど、米国一辺倒でない外交を展開)

宮沢喜一(基本的に対米協調。しかしクリントン大統領に対しては対等以上の態度で交渉)

細川護煕(「樋口レポート」の作成を指示。「日米同盟」よりも「多角的安全保障」を重視)

鳩山由起夫 (「普天間基地の県外、国外への移設」と「東アジア共同体」を提唱)

(2) 対米追随派(米国に従い、その信頼を得ることで国益を最大化しようとした人たち)

吉田茂(米国に従い、その信頼を得ることで国益を最大化しようとした人たち)

池田勇人(安保闘争以降、安全保障問題を封印し、経済に特化)

三木武夫(米国が嫌った田中角栄を裁判で有罪にするため、特別な行動をとる)

中曽根康弘(安全保障面では「日本は不沈空母になる」発言、経済面ではプラザ合意で円高基調の土台をつくる)

小泉純一郎(安全保障では自衛隊の海外派遣、経済では郵政民営化など制度の米国化推進)



海部俊樹

小渕恵三

森嘉朗、

安倍晋三

麻生太郎

管直人

野田佳彦

(3) 一部抵抗派(特定の問題について米国からの圧力に抵抗した人たち)

鈴木善幸(米国からの防衛費増額要請を拒否。米国との軍事協力は行わないと明言)

竹下登(金融面では協力。その一方、安全保障面では米国が世界的規模で自衛隊が協力するよう要請してきたことに抵抗)

橋本龍太郎(長野五輪中の米軍の武力行使自粛を要求。「米国債を大幅に売りたい」発言」)

福田康夫 (アフガンへの陸上自衛隊の大規模派遣要求を拒否。破綻寸前の米金融会社への巨額融資に消極姿勢)

*長期政権となった吉田茂、池田勇人、中曽根康弘、小泉純一郎の各首相は、いずれも「対米追従」の人たちである。

日本社会の中に「自主派」の首相を引きずりおろし、「対米追随派」にすげかえるためのシステムが埋め込まれていると著者は指摘している。

1.検察

なかでも特捜部はしばしば政治家を起訴。特捜部の前進はGHQの指揮下にあった「隠匿退蔵物資事件特捜部」で終戦直後、日本人が隠した「お宝」を探し出しGHQに差し出すのがその役目だった。したがって、検察特捜部は、創設当初からどの組織よりも米国と密接な関係を維持してきた。

2.報道

占領期から今日まで、米国は大手マスコミのなかに、「米国と特別な関係をもつ人びと」を育成してきた。

3.外務省、防衛省、財務省、大学などのなかにも、「米国と特別な関係をもつ人びと」が育成されている。

自主派の政治家」を追い落とすパターン

①占領軍の指示により公職追放する

鳩山一郎、石橋湛山

②検察が起訴し、マスコミが大々的に報道し、政治生命を絶つ

芦田均、田中角栄、少し異色ですが小沢一郎

③政権内の重要人物を切ることを求め、結果的に内閣を崩壊させる

片山哲、細川護煕

④米国が支持しないことを強調し、党内の反対勢力の勢いを強める

鳩山由紀夫、福田康夫

⑤選挙で敗北  

宮沢喜一

⑥大衆を動員し、政権を崩壊させる

岸信介

≪この六つのパターンのいずれにおいても、大手マスコミが連動して、それぞれの首相に反対する強力なキャンペーンを行なっています。今回、戦後70年の歴史を振り返ってみて、改めてマスコミが日本の政変に深く関与している事実を知りました。

このように米国は、好ましくないと思う日本の首相を、いくつかのシステムを駆使して 排除することができます。難しいことではありません。 たとえば米国の大統領が日本の首相となかなか会ってくれず、そのことを大手マスコミが 問題にすれば、それだけで政権は持ちません。それが日本の現実なのです。≫

・参照:233ページ

≪2009年に自民党から民主党に政権交代が起こった際にも、当初米国にきびしい姿勢をとった鳩山由紀夫氏や小沢一郎氏に代わって、いつのまにか、野田佳彦氏、前原誠司氏など、米国との関係を重視する松下政経塾出身者が民主党内で勢力をもつようになります。米国がいかに長期的戦略をもって日本に対応しているか・・・≫

・参照:360ページ

≪鳩山政権が普天間基地の「最低でも県外移転」を主張して、米国につぶされたのは誰の眼から見てもあきらかでした。おそらくそのためでしょう。鳩山首相をひきついだ菅首相、野田首相は、ふたりとも極端な対米追従路線に転換します。その代表が、TPP参加問題です。≫

*ところで、この本について、鳩山グループの勉強会で孫崎氏が講演しているが、その中でこの本にも書かれていない、「日米安保に隠された岸信介元首相の仕掛け」を孫崎氏が語っている。知らない人もおられると思うので、紹介させていただく。

講演動画より抜粋:http://t.co/FFaadPM9

孫崎

一回安保条約を破棄すれば現行の日米地位協定も切れる。そして、新しい安保条約の下に新たな地位協定をつくればいい。

今の地位協定で米軍の配置を変えようとしても、米軍がNOと言えば何もできない。安保条約自体を一度破棄することによって、もう一度我々の意向が入った地位協定を作ることができる。

山田元農相の質問

安保条約を詳しくは読んでないですけれども、あの中に破棄できるようになっているわけですね?

孫崎

そうです。

山田

どういう場合に破棄できるんですか?

孫崎

10年経ったら、通告すればいいんです。そしたら一年後に破棄できるんです。通告だけでいんです。

それを岸(信介元首相)さんが盛り込んだんです。1970年以降はもうそれでいい。岸さんの時はまだできなかった。だから、1970年以降の政治家にできるように仕組んだんだと思います。

山田

それをずっと更新されてきたわけですね。

孫崎

いや、だから今も止めると言えばいいんです。

鳩山総理が「俺は1年後にやめる」という通告をすれば終わるんです。

山田

それが一番地位協定を変えるのに早いですね。

孫崎

そうだったんです。いや、わたし今の話は、実は私の頭でわかっていたのではなくて、2日前にツイッターの人から電話があったんですよ。

「先生の本を今読んでいるんだけれども、岸さんがこういうことをやったというけれども、岸さんが10年で止めるということをいい、それが地位協定とこういう関係になっているというのを、あなた何で言わないんですか」って言われたんですよ。

私、気が付かなかったんだと・・・。だからツイッターというのはいろんな人がいろいろなことを教えてくれるんですよね。



戦後、67回目の終戦記念日を迎えた今、日本を本当の独立国にするためにも多くの人に読んでいただきたい本である。

*98ページ分無料でダウンロードできます。以下。http://www.sogensha.co.jp/pdf/preview_sengoshi.pdf

 

<参考資料>(外務省のホームページより)

 

「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」

 

 日本国及びアメリカ合衆国は、両国の間に伝統的に存在する平和及び友好の関係を強化し、並びに民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配を擁護することを希望し、

 また、両国の間の一層緊密な経済的協力を促進し、並びにそれぞれの国における経済的安定及び福祉の条件を助長することを希望し、国際連合憲章の目的及び原則に対する信念並びにすべての国民及びすべての政府とともに平和のうちに生きようとする願望を再確認し、両国が国際連合憲章に定める個別的又は集団的自衛の固有の権利を有していることを確認し、両国が極東における国際の平和及び安全の維持に共通の関心を有することを考慮し、相互協力及び安全保障条約を締結することを決意し、よつて、次のとおり協定する。

第一条

 締約国は、国際連合憲章に定めるところに従い、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によつて国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びにそれぞれの国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むことを約束する。

 締約国は、他の平和愛好国と協同して、国際の平和及び安全を維持する国際連合の任務が一層効果的に遂行されるように国際連合を強化することに努力する。

第二条

 締約国は、その自由な諸制度を強化することにより、これらの制度の基礎をなす原則の理解を促進することにより、並びに安定及び福祉の条件を助長することによつて、平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を促進する。

第三条

 締約国は、個別的に及び相互に協力して、継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる。

第四条

 締約国は、この条約の実施に関して随時協議し、また、日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に対する脅威が生じたときはいつでも、いずれか一方の締約国の要請により協議する。

第五条

 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。

 前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。

第六条

 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。

 前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定(改正を含む。)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。

第七条

 この条約は、国際連合憲章に基づく締約国の権利及び義務又は国際の平和及び安全を維持する国際連合の責任に対しては、どのような影響も及ぼすものではなく、また、及ぼすものと解釈してはならない。

第八条

 この条約は、日本国及びアメリカ合衆国により各自の憲法上の手続に従つて批准されなければならない。この条約は、両国が東京で批准書を交換した日に効力を生ずる。

第九条

 千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約は、この条約の効力発生の時に効力を失う。

第十条

 この条約は、日本区域における国際の平和及び安全の維持のため十分な定めをする国際連合の措置が効力を生じたと日本国政府及びアメリカ合衆国政府が認める時まで効力を有する。

 もつとも、この条約が十年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了させる意思を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行なわれた後一年で終了する。

 

以上の証拠として、下名の全権委員は、この条約に署名した。

 千九百六十年一月十九日にワシントンで、ひとしく正文である日本語及び英語により本書二通を作成した。

日本国のために

 岸信介

 藤山愛一郎

 石井光次郎

 足立正

 朝海浩一郎

アメリカ合衆国のために

 クリスチャン・A・ハーター

 ダグラス・マックアーサー二世

 J・グレイアム・パースンズ 

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