戦後日本は、米国の指導の下に、ゼロから出発して原発大国となった。

 そして、米国から提供を受けた技術に莫大な研究開発予算を投入して独自技術の開発に努めてきた。原発機材の輸入のためには関税を免除。さらには、必要な予算は電気料金に上乗せして多くの国民が、気がつかないうちに徴収してきた。もちろん、漁業権者や地元住民との調整のために政府が前面に出て交渉にあたった。また、原発反対デモがあると機動隊まで投入して抑え込んできた歴史もある。しかも、多くの事故情報はもちろん、重要な情報は、半世紀以上に亘り、隠ぺいされてきた。「企業秘密」を盾に電源ごとの詳細なコスト情報は公開されず、都合の良い「仮定計算」で原発が一番安いと言う宣伝活動を国民に対して行ってきた。

 そして現在、今回の事故の後始末を政府丸抱え、莫大な国民負担を前提としたスキームで行おうとしている。

 考えてみれば、国策として「原発推進」することが『国家の意思』だった。しかし、このことは、有馬哲夫氏の「原発・正力・CIA」~機密文書で読む昭和裏面史~という本を読めばわかるが、本当に原発のことを深く考えた国策ではなかったことも注目すべきであろう。

また、国が積極的に進めた原発に比較すれば、再生可能エネルギーは明らかに差別されてきた。やはり、これには核保有国になりたいという思いが底流にあると考えるべきであろう。

だからこそ、電力会社の不当に高い送電料金や事実上事業を制約する接続約款、環境問題、地元対策などでも政府は後押しをする意思を全く持ってこなかったのだろう。そして、必要以上に再生可能エネルギーの弱点が政府・電力会社によって強調されてきたのである。

 仮に、原発並みの意気込みで国家を挙げて再生可能エネルギーの推進をしてきたなら、夢物語と言われるグリーンエネルギー革命が日本で現実化していたかもしれない。

 100%安全だと言っていた原発で事故が起きた以上、すべての情報の公開が求められるのである。当たり前のことだが、正しい判断をするためには、正確な情報がなければ不可能だ。安全に関する情報だけではない。東電のみならず、全電力会社の経営情報をこれから全面公開すべきだろう。政府が持っているエネルギーに関するあらゆる情報も公開する必要があることは言うまでもない。

 考えてみれば、電力会社は全く競争をしない不思議な民間会社である。ある意味、国民を人質に取ったビジネスとも言えよう。たとえば、東電一社で年1,000億円以上使うという広告費一つを取っても全く競争のない電力会社に本当にそんな巨額の広告費が必要か疑問だ。全面的なコスト情報の公開で電力料金の大幅引き下げにつながる可能性すらあるのではないか。

 絶対安全だと言ってこれだけの事故を起こした以上、本当の情報を国民に政府・電力会社は公開する義務があるはずだ。 

そして、当たり前のことだが、国民生活の安全・安心を第一に考えるのが政府の責務である思い出してもらいたい。 田中良紹氏が大変いい指摘をしている。以下。

                                                                    ( 53日に発表されたデータ)

 

*田中良紹の国会探検より  「うそつき」 

 大震災以来の政治に感じるどうしようもない「違和感」の原因を考え続けてきた。

 退陣の危機に追い込まれていたため震災を政権延命の手段と考えてしまうパフォーマンス政治。手柄を独り占めしたいのか「お友達」だけを集め、全政治勢力を結集しようとしなかった身内政治。パニックを恐れて情報を隠してしまう隠蔽政治。責任の所在が曖昧なままの無責任政治。「違和感」の原因は様々だが、終始付きまとうのは「国民は嘘をつかされ続けてきたのではないか」という疑念である。 

 例の海水注入問題では、当初東京電力が廃炉になる事を恐れて海水注入を躊躇したのに対し、菅総理の指示で海水注入は行なわれたと言われた。「国民の敵」東京電力と「国民の味方」菅総理という構図である。ところがその後、東京電力の海水注入を菅総理が55分間中断させたという話が出てきた。「国民の敵」が入れ替わった訳だ。

 すると今度は「敵役」として原子力安全委員長が登場した。東京電力の海水注入が開始された後で、菅総理が海水注入による「再臨界」の危険性を斑目原子力安全委員長に問いただしたところ「危険性がある」と答えたため中断したとされた。これに斑目氏が噛み付いた。「そんな事を言うはずがない」と言うのである。結局、菅総理に「可能性はゼロではない」と答えたという事になった。

 その時点で菅総理は「そもそも東京電力が海水注入を開始していた事実を知らなかった」と国会で答弁した。知らなかったのだから中断させるはずがないと言うのである。これを聞いて私の頭は混乱し始めた。海水注入を知らない総理がどうして原子力安全委員長に海水注入の危険性を問う必要があるのか。

 それに「海水注入を渋る東京電力VS海水注入を指示した総理」という構図はどうなるのか。理解不能な話になった。理解不能な話を理解するには誰かが「嘘」をついていると考えるしかない。最も疑わしいのは「海水注入を知らなかった」と言い切った菅総理である。

 菅総理が東京電力の海水注入を知らなかったなら原子力安全委員長とのやり取りも、当初言われた構図も信憑性が薄くなる。自分のパフォーマンスのために東京電力に「敵役」を押し付け、その代わり東京電力を潰さない、政府が賠償の面倒を見ると裏約束をしたのではないかと思えてくる。

 いよいよ菅総理の「嘘」が追及される話になると思っていたら事態は思わぬ方向に展開した。東京電力が「海水注入の中断はなかった」と発表したのである。現地責任者の吉田昌郎所長が独断で注水を継続したという話になった。これで一件落着の雰囲気である。しかし何事も疑ってみる私の第一印象は「うまく逃げたな」である。

 この話が裏を取る事の出来ない話になったからである。前にも書いたが福島原子力発電所の現場は今や日本の国民生活と日本経済の存亡をかけた戦場である。その指揮官の判断で結果的に国民生活が守られる方向になったとなれば誰も糾弾できない。しかも裏を取ることも出来ない。この話も本当かどうか分からないが事態を収束させる効果はある。そこに彼らは逃げ込んだ。しかしこれで「知らなかった」と言った疑惑は消えるのか。

放射性物質の拡散予測SPEEDI(スピーディ)を巡る菅政権の無責任ぶりをフジテレビが放送していた。SPEEDIは気象条件などから放射性物質の広がりを、コンピューターを使って予測するシステムで、原発事故が起きた場合、そのデータは文部科学省、経済産業省原子力保安院、原子力安全委員会、関係都道府県などに提供される。 

 ところがその内容が国民には公表されていなかったという事で、番組は関係先を取材し、どこも自分の所管ではないとたらい回しにされる模様を放送していた。そしてスタジオの識者が「どうなっているのだ」と怒って見せるのだが、役所の担当者に怒ってみても仕方がない。

 番組の中で細野豪志総理補佐官が語っていたように菅政権は「パニックを恐れて公表を控えた」のである。細野氏はその事を反省していたが、公表しなかったために被爆をしなくても良い人が被爆をした。これはその責任を誰が取るのかという問題である。ところが番組はそういう方向にならない。「日本の組織は滅茶苦茶だ」と責任の所在を広げてあいまいにし、「あいつもこいつも悪い」と鬱憤晴らしをして終るのである。

 そして問題なのはこの番組で枝野官房長官がSPEEDIのデータを「報告を受けていない」と発言した部分である。番組はそこを問題にすべきであった。この発言が本当ならば霞が関を掌握しなければならない立場の官房長官は失格と言わざるを得ない。そんな政権に政治を任せておけないと言う話になる。

 しかし原子力災害が起きている時に放射能データを官邸に報告しない役人などいるはずがない。つまり枝野官房長官も嘘をついている可能性が高いのである。むしろ細野氏が言ったように菅政権はパニックを恐れて情報を隠蔽した。それで周辺住民の被害は拡大した。その責任を追及されると困るので「情報を共有出来なかった」と嘘をついて組織上の問題にすりかえているのである。

番組はまさにそのように視聴者を誘導した。かくして国民は「日本は駄目な国ねえ」などと言って終る。おめでたい限りである。菅政権が国民のパニックを恐れて情報を公表しなかったとすれば、自らの危機管理能力に自信がなかったか、或いは国民を愚かだと思っていたかのどちらかである。

 しかし国民がどんなに愚かでも嘘はつき通せるものではない。それに仮に「海水注入を知らなかった」、「SPEEDIの報告を受けていなかった」のが真実ならば、それはそれで政権担当能力はゼロ。とても国難の時に政権を任せるわけにはいかないと言わざるを得ないのである。

<田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>

1945年宮城県仙台市生まれ。
1969年慶應義塾大学経済学部卒業。
同年(株)東京放送(TBS)入社。
ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。
1990年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。

<参考資料>

(東京新聞の特報面『ニュースの追跡』で、3月12日に菅首相が福島原発の視察する時に、SPEEDIの予測図を官邸に取り寄せていたことが書かれている。)

ふざけるな!菅首相 自分だけSPEEDI利用(日刊ゲンダイ2011/5/19)
  原発視察前に

福島第1原発でメトルダウンや水素爆発が起きた3月11日から16日までの間、国民に隠し続けられた「SPEEDI」情報の予測図が一度だけ首相官邸に届けられていたことが分かった。きょう(19日)東京新聞で報じている。
配信時間は12日午前1時12分。菅直人首相はこの日の朝に原発を視察している。周辺住民が放射能を浴び続けている中、菅首相が自分の身の安全を守ろうとしたのではという疑惑も浮かんでいる。問題の予測図の目的は1号機で原子炉格納容器の内部圧力を下げるベントを

3月12日午前3時半から開始した場合の影響確認だという。放射性物質が原発から海側に飛んでいることが分かっていた。
首相は視察のためSPEEDIを利用し、放射性物質が海側に飛ぶことを確認したうえで原発に行ったようだ。

(東京新聞5・19より)

首相視察前 一度だけ官邸に
 SPEEDIの予測図

 



東京電力福島第一原発でメルトダウンや水素爆発が次々と起きた三月十一日から十六日までの間、国民に隠し続けた国の緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の予測図が一度だけ首相官邸に届けられた。配信時間は十二日午前一時十二分。菅直人首相は同日朝、原発を視察している。周辺住民が放射能を浴び続ける中、首相は自分の身を守るために重要情報を利用したのではないか―。
そんな疑問も浮かんでくる。(佐藤圭)
 問題の予測図は、外部被ばくによる放射線量や甲状腺に放射性ヨウ素が取り込まれて被ばくする線量の積算値など三種類。目的は1号機で、原子炉格納容器の内部圧力を下げるベント(排気)を三月十二日午前三時半から懐紙した場合の影響確認だった。原子炉の生データが得られなかったため、一定量の放射性物質の放出を仮定して試算した。これらによると、放射性物質は、原発から海側に飛んでいる。
 当時の政府内の動きはどうだったか。海江田万里経済産業相は十二日午前一時半、1号機のベントを急ぐよう東電に指示した。首相は同日午前七時十一分、陸上自衛隊のヘリで原発に到着。ベントが実施されたのは、首相が原発を離れた後だった。政府関係者らの話では、首相が現地で東電にベントを促したことになっているが、野党は、首相の視察がベントを遅らせた可能性に言及している。
   放射性物質の流れ確認か

 予測図を官邸に届けたのは経済産業省原子力安全・保安院。官邸にはSPEEDIの専用端末が設置されていない。保安院が自らの端末からプリントアウトした予測図を官邸にファックス送信した。保安院は、政府の原子力災害対策本部の事務局として官邸に報告した格好となっている。
 保安院は十一日から十六日昼ごろまでの間、文部科学省の委託でSPEEDIを運営する原子力安全技術センター(東京)から計四十二回、予測図の配信を受けている。保安院の前川之則原子力防災課長は、官邸に一度だけ報告した経緯について「官邸の状況は分からないが、情報提供は一度だけだった」と説明。官邸にSPEEDI端末がないことには「SPEEDIの情報は、専門家が使うものだ。情報を集約する役目の官邸に置く必要はない。無用の長物になる」と主張する。

 「住民の避難には活用しなかったのに」

 政府は、SPEEDI情報を「社会に混乱を招く」との理由で原則非公開にしてきたが、四月十九日付「こちら特報部」は「官邸が公表を止めた」と指摘。結局、政府は今月二日、「公表が遅れたことを心よりおわびする」(細野豪志首相補佐官)と陳謝した上で、順次公開を始めている。
 衆院科学技術特別委員長の川内博史衆院議員(民主)は「首相は、放射性物質が海側に飛ぶことを確認してから原発に行ったことになる。自分の視察のためにはSPEEDIを使ったのに、住民の避難には全く活用しなかった。首相は自分のことしか考えていない」と批判する。(引用終)

<SPEEDIとは>

緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI:スピーディ※)は、原子力発電所などから大量の放射性物質が放出されたり、そのおそれがあるという緊急事態に、周辺環境における放射性物質の大気中濃度および被ばく線量など環境への影響を、放出源情報、気象条件および地形データを基に迅速に予測するシステム。

 このSPEEDIは、関係府省と関係道府県、オフサイトセンターおよび日本気象協会とが、原子力安全技術センターに設置された中央情報処理計算機を中心にネットワークで結ばれていて、関係道府県からの気象観測点データとモニタリングポストからの放射線データ、および日本気象協会からのGPVデータ、アメダスデータを常時収集し、緊急時に備えている。

 万一、原子力発電所などで事故が発生した場合、収集したデータおよび通報された放出源情報を基に、風速場、放射性物質の大気中濃度および被ばく線量などの予測計算を行う。

これらの結果は、ネットワークを介して文部科学省、経済産業省、原子力安全委員会、関係道府県およびオフサイトセンターに迅速に提供され、防災対策を講じるための重要な情報として活用される。

※SPEEDI:System for Prediction of Environmental Emergency Dose Informationの頭文字。

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