ビル・トッテン氏のコラムから引用

(福島原発事故のあと、私の好きな京都の和食屋の主人からメールをいただいた。店に食事にきた若い男女の話である。) 

(ビル・トッテン)

ただちに原発閉鎖を



食事の予約時間に遅れてきたため、店主の最初の印象はあまりよくなく、東京から避難してきたお金持ちの夫婦くらいに思って話を聞いていた。すると 明日から福島の原子力発電所のインフラ工事に行くといい、もう会えなくなるかもしれないので、最後に奥さんと京都に1泊しにきたのだと男性は言った。そして予約の時間に遅れてしまったのは、先に福島へ行っている仲間にカップ麺を送ろうと京都中を探し回っていたからだと(京都でも買いだめをしている人がいるらしいのだ)。

帰りがけ、店主が玄関に設置しておいた「被災地への募金箱」に、奥さんはそっと1万円を入れて帰られた。そのあとすぐ、店主は日持ちのするオカズと方除けのお札を、2人の宿泊するホテルのフロントに届けたと言い、「原発の現場で、命がけで戦っておられる方々が無事にお帰りになることを毎日祈るしかできません」とメールは結ばれていた。

読み終わって、とてもせつなかった。被災地から離れていることもあり、東京のような節電をしていない京都ではコンビニエンスストアなど、相変わらず明るすぎる電気がついていて、原発事故があったことも忘れてしまうほどだ。しかし原発からは今でも人の命を脅かす放射能が出続け、多くの人が危険にさらされ続けている。特にこの男性のような「カミカゼ特攻隊」として他の人を救うためにその仕事を請け負うことによってすぐに死ぬか、または、その仕事をしたことによって命が短くなってしまう人が数多く出たし、これからも出るのだ。この男性とその奥さん、また作業にあたっている自衛隊、消防士、下請け会社の人たちとその家族のことを考えると胸が痛む。

絶対に安全だと言いながら、首都圏が使う電気にもかかわらず首都圏では作らずに遠く離れたところに原子力発電所は建てられた。そして、一度事故が起きれば、命をかけてその後始末をしなければならないのは東電の幹部でも原子力安全保安院でもなく、生活のために働いている日本国民なのである。

今回の原発問題で本当に責任をとるべきは、人命を核のルーレットに賭けることを決めた中曽根康弘やその他の無責任な政治家であると私は思っている。しかし、もはやこの国に原子力発電所がやまほどできてしまっているからには、国民がすべきことは、これ以上の大惨事を起こさないためにも、全ての原子力発電所を閉鎖するよう政府に求めることだ。

原発の事故処理のために、今でも多くの技術者や作業員の方々が健康被害を及ぼすで、あろう量の放射線にさらされ、被ばく線量が累積する中で瓦礫の撤去、高濃度汚染水の移送、ロボットの操作などに当たっている。命を犠牲にしなければ作れないような電力は不要だと国民は言わなければいけない。原発がなければ停電だという脅しに屈することなく、不便な生活を選択するという意思表示をするべきである。今大人が声をあげなければ、日本の子供たちの未来はない。(引用終)
 
 

~原爆の被爆国が原発事故で再び被曝している悲劇を我々はどう考えるべきなのか~

 <世界の原子力発電所の状況>

 現在、31カ国が原発を所有している。原発による発電量が最も多い国は米国であり、その発電量は石油換算(TOEで年に2億1800万トンにもなる(2008年)。

 それにフランスの1億1500万トン、日本の6730万トン、ロシアの4280万トン、韓国の3930万トン、ドイツの3870万トン、カナダの2450万トンが続く。日本は世界第3位だが、韓国も第5位につけており、ドイツを上回っている。

 その他を見ると、意外にも旧共産圏に多い。チェルノブイリを抱えるウクライナは今でも原発保有国だ。石油換算で2340万トンもの発電を行っている。その他でも、チェコが694万トン、スロバキアが440万トン、ブルガリアが413万トン、ハンガリーが388万トン、ルーマニアが293万トン、リトアニアが262万トン、スロベニアが164万トン、アルメニアが64万トンとなっている。

 旧共産圏以外では、中国が1780万トン、台湾が1060万トン、インドが383万トン、ブラジルが364万トン、南アフリカが339万トン、メキシコが256万トン、アルゼンチンが191万トン、パキスタンが42万トンである。その他では、環境問題に関心が深いとされるスウェーデンが意外にも1670万トンと原発大国になっている。また、スペインが1540万トン、イギリスが1370万トン、ベルギーが1190万トン、スイスが725万トン、フィンランドが598万トン、オランダが109万トンとなっている。

 原発を保有している国はここに示したものが全てであり、先進国でもオーストリア、オーストラリア、デンマーク、アイルランド、イタリア、ノルウェー、ニュージーランド、ポルトガルは原発を所有していない。ここまで見てくると、一概に原発は先進国の持ち物と言うことができないことがわかる。

 (世界における原子力発電所設備容量(2008年1月現在,日本原子力産業協会他)は,アメリカが 104基で 10,606万キロワット,フランスが 59基で 6,602万キロワット,そして3番目に日本の 55基〔2011年3月では54基〕で 4,946キロワットであった。この発電出力は,日本で2位の電気事業会社である関西電力が 3,576万キロワットである。)



米国に原発導入を指導された日本
 

地震国で津波も多く,平地面積も少ない日本は,原子力の恐ろしさを誰よりも知っているはずなのに,なぜ原発大国への道を選んだのか改めて考えてみれば、本当に不思議である。

ゴジラ,鉄腕アトムから大阪万博を経て,田中角栄の電源三法,そして今日の福島に至る道のりを回顧すれば,どうして現在日本が,54基もの原発を抱える世界有数の原発大国になってしまったのか,その道程がみえてくる。
 被爆国日本は,原子爆弾によって原子力の威力を米国によって痛感させられた。占領後、GHQに聞かされた「原子力の威力」が,当時唯一の核保有国だったアメリカの権勢の象徴として,戦後の日本の針路に大きな影響を与えたことは間違いないだろう。原子力の威力も怖さも知っている日本が,最初に原子力開発への第一歩を踏み出したきっかけは,アメリカの意向にあった。もちろん、当時の日本の為政者たちには、あわよくば将来、核保有国になろうという下心があったことは言うまでもないだろう。1951年にサンフランシスコ講和条約が締結され,米国のアイゼンハワー大統領が国連演説のなかで「原子力の平和利用」を提唱した1953年,早くも日本では原子炉建造予算2億3500万円が国会で可決している。その予算案を当時、改進党の中曽根康弘代議士が提出したのは,米国によるビキニ環礁の水爆実験に日本の第五福竜丸が被爆した2日後であった。そのために大活躍したのが有名な読売新聞の正力松太郎であった。
 アメリカが日本に原子力発電を奨めた理由は,冷戦下における自由主義陣営に原子力の果実の分け前を与えることで,日本などの同盟国の共産化を防ぐ目的があった。もちろん、戦略国家米国のことなので、日本が再び敵国になった時に格好の攻撃目標を作る意味合いまで考えていた可能性も否定できない。また、1900年代初頭、長岡半太郎博士を筆頭に世界の最高峰だった日本の理論物理学を考えれば、原子力の独自開発を許さないためにも必要な措置だったと考えられる。当然、米国の原発技術提供の裏にはいろいろな密約が隠されていても不思議ではない。

ご存知のように日本では1960年代から続々,原発の建造が始まったが,この段階ですでに原発はさまざまな問題:負の遺産を生みだしていた。
 そして,田中角栄首相が登場(1972年7月)すると,原子力政策は決定的な変質をする。「日本列島改造論」の一翼を担う形で実施された電源三法〔電源開発促進法,電源開発促進対策特別会計法,発電用施設周辺地域整備法〕は過疎地への原発の誘致が完全に利権として定着するきっかけを作ったのである。
 自民党衆議院議員河野太郎は,現在、脱原発を明言する数少ない政治家の1人であるが,「自民党の原発関係の勉強会や部会には,原発を誘致した地元の議員しか来ていないため,エネルギー政策の議論をついぞしたことがない」と語っている。要するに,日本の原子力政策は,エネルギー政策という表の顔のほか,地元への利益誘導や過疎地への再分配政策という裏の顔を併せもつかたちで,今日まで推進されてきたのである。

米国に従属している日本の実態
 

2011年5月16日の『朝日新聞』朝刊(1面と3面の連続記事「米首脳『無策なら強制退去』」)には,東電福島第1原発事故が発生した際,アメリカのオバマ大統領がこの事故に対する日本政府の対応の遅れにいらだち,「日本政府がこのまま原発事故の対応策をとらずにいるならば,アメリカ人=8万人の米軍を強制退去させる可能性がある」と通告していた。また、横田基地、横須賀基地維持のために浜岡原発を止めるように管直人総理に圧力をかけたという話もあるが、兎に角興味深い記事である。
ところで、福島第一原発の周囲20キロ圏を、住民でさえ立ち入れない完全封鎖区域(「警戒区域」)にするという国民の財産権の侵害(憲法29条違反)を政府は公然と強行したのか。大前研一氏がブログで書いているように大事故を起こした福島第一原発の敷地をこのあとこのまま、全国の原発から出る放射性廃棄物の中間処理場という名の最終処分場にするという密かな決断をしている可能性も十分考えられるところである。 
 青森県の六カ所村のプルサーマル運転によるプルトニウムと使用済み核燃料を5000トン貯蔵できるはずの「中間貯蔵施設」の計画も、その真実は高レベル放射性廃棄物の最終処分場であったが、この計画もプルトニウムの再処理工場の稼働が、相次ぐ事故で、遂にこの2月に頓挫が決定している。

もし、密かにそういう意図を持っているとしたら、これから何も知らされていない福島県民にどういう説明を現政権の方々はするつもりなのだろうか。



もう一度、ここで確認しておこう。もともと米国が日本の原発設置を推進したのは、原発を売り込み、冷戦構造の中に日本を組み込むためだった。

ところがスリーマイル島事故以来、アメリカは新しい原発を作っていない。気がつくと「原発後進国」になってしまっている。しかし、事故処理と廃炉技術では国際競争力がある。

福島原発の事故処理ではフランスの「アレバ」にいいところをさらわれてしまい、米国は地団駄踏んだ。だから、米国は、おそらく日本に向かってこんな通告をしてきたのではないか。「あなたがた日本は原発を適切にコントロールできないという組織的無能を全世界に露呈した。周辺国に多大の迷惑をかけた以上、日本が原子力発電を続けることは国際世論が許さぬ」と。表だって、この指摘に日本政府は反論できない。それに浜岡原発で事故が起きると、アメリカの西太平洋戦略の要衝である横須賀の第七艦隊司令部の機能に障害が出る。それは米国にとって絶対に許されないことである。

驚いたことに、菅首相の浜岡原発操業中止要請を中部電力が承諾した時点から、ほとんどすべての新聞の社説は(週刊誌を含めて)、ほぼ一斉に「脱原発」の論調に変わっていった。
福島原発において日本の原子力行政の不備と、危機管理の瑕疵が露呈してからあとも、政府も霞ヶ関も財界も、「福島は例外的事例であり、福島以外の原発は十分に安全基準を満たしており、これからも原発は堅持する」という立場を貫いており、メディアの多くもそれに追随していたはずだ。

よほど強い圧力が働いたとしか考えられない。考えてみれば、日本が脱原発に舵を切り替えることで、米国はきわめて大きな利益を得る。


(1) 第七艦隊の司令部である、横須賀基地の軍事的安全性が保証される。

(2) スリーマイル島事件以来30年間原発の新規開設をしていないせいで、原発技術において日本とフランスに大きな後れをとったアメリカの「原発企業」は最大の競争相手日本を市場から退場させることができる。

(3)もし、54基の原発を日本が順次廃炉にしてゆく政策をとれば、巨大な「廃炉ビジネス」需要が発生する。廃炉技術において国際競争力をもつアメリカの「原発企業」にとってビッグなビジネスチャンスである。

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