「悪夢のシナリオの可能性」

現在、新年度に向けて国・県・市町村で予算案が提示され、議論が始まっている。

もちろん、景気の悪さを反映し、税収不足を見込み、国債、地方債の発行額が増えることになる。

ちなみに豊橋市のように中核都市の中で上位にランクする堅実な地方自治体でも地方交付税の交付団体となり、来年度は普通交付税を3億円受け取ることになる。

また、前年比53.5%増の臨時財政対策債を60億円発行せざる得ない予算案だ。

他の地方自治体の財政状況も推して知るべしであろう。

ところで、日本政府の財源を支える日本国債は現在、誰が保有しているのだろうか。

2009年度末の保有状況を見てみると、ゆうちょと民間生命保険と社会保障基金で383兆円、56%保有していることがわかる。外国人は44兆円のわずか6%に過ぎない。


それでは、上記の臨時財政対策債のような地方債は誰が保有しているのだろうか。






現在、わが国の地方債の保有者は、郵貯・簡保の占める割合が約35%であり、共済(ほとんどがJA 共済)も約2 割弱を保有している。また、引き受け段階では割合の高い都銀、地銀は保有段階においては割合を低下させており(とりわけ都市銀行は3%)、引き受けた地方債の多くを手放している。

このように、借金が多額の日本の国政、地方行政の財政を支えているのが、国民の虎の子である郵便局の郵政資金なのである。このことをしっかり、ご理解いただいた上で以下の文章を読んでいただきたい。

あるブログに近未来に起こりうるであろう現実をシミュレーションした寓話が掲載されていた。確かに今のままの政治・経済情勢が続けば有り得ることである。

「クリスマスシーズンを間近に控えた東京・新宿西口。例年なら、プレゼントを買い求める大勢の客で賑わうはずの駅前百貨店。サラリーマンのポケットの中は「企業の国際競争力の増大」および「所得格差の解消」という逆風にさらされている。

2,3年前までのデフレは何だったのであろうか?

物価の値上がりや15%の消費税負担とは裏腹に、収入は一度も上がっていない。

8年前に組んだ住宅ローンの返済額は容赦なく、マイホーム族の家計を直撃している。

金融危機で生まれたのは、貧困層であった。

すぐそばの新宿公園では、ホームレスが大挙押し寄せ、テント村をつくっている。

しわしわの5000円札を差し出し、3500円の「のり弁当」と1500円のおつりを受け取ったサラリーマンはそう頭の中で反芻し、高層ビルの一群の中に消えていった。

5年前から、新宿西口ではお馴染みだったワゴン出張での弁当屋から、客が一人、また一人と消えていった。食材の相次ぐ値上げにより、恒例の500円弁当が消え、幕の内弁当が5000円で売られている。もっとも、給料日前の食いつなぎの食材だったカップラーメンが1080円のご時勢から見れば、適正価格といえるのかもしれないが。

東京大手町の大手証券会社の前では、2、3人のサラリーマンが厳しい表情で先物相場の電子ボードに表示される3ケタの数字を凝視している。



<1バレル=250ドル>



一週間前に原油価格1バレルが200ドルを突破して以来、日経新聞はもちろん、朝日、読売などのメジャー新聞がこぞって原油価格の上昇とそれに伴う食料高を報道。そして、原油の上昇が日本に住むわれわれの生活にどのような悪影響を与えるかを、シミュレーションを交えて説明する特集記事を見ない日はない。

ガソリン価格が1リットル300円を突破し、史上初の180円台などと日本国内が騒いでいた時期が懐かしく感じられる今日この頃だ。

「先週末、車を処分したよ。もう半年も運転していないし、維持費だけが無駄に出費となっていたからね」

「遅かったんじゃないか?俺はもうガソリンがリッター200円になった時点で、廃車にしたよ。地方の田舎ならともかく、都会ではタクシーを効果的に利用した方が年間の収支では安いご時勢だ」

「えっ、そうなのか。俺は小さい子供もいるし、まだマイカーは手放せなかったが」

そう呟いた中年サラリーマンの脳裏では、車検が目前に迫る中で、その金策をどうするべきかという難題がぐるぐると駆け巡る。右の拳は、初冬だというのにしっとりと汗ばんでいた.。」

一読いただければわかるように、スタグフレーションの悪夢が描かれている。

以前のレポートで今回の小沢一郎氏の不起訴の裏に郵政資金による米国債購入の裏取引が米国との間であったのではないかという推理を紹介させていただいた。

「小沢幹事長の不起訴が、検察があれだけ動きながらも唐突に確定したことと同時に郵貯資金の米国行きが決まったことは、関係ないと思えと言われても難しい。元々どう考えても立件不能な案件で小沢幹事長と民主党を、大手メディアを総動員して追い詰めてきたこと自体が、これを狙っていたとしか考えられない。「ハゲタカ外資に日本人の虎の子の郵政資金が奪われる」と小泉・竹中氏による郵政民営化に反対していた亀井大臣にしても本心で言いたくて言っていることではないだろう。ゆうちょ銀の資金が米国債で運営されるということは、郵便貯金することが、米国政府に税金を払っていると同等なことになってしまうことだ。」

郵政資金で米国債を買うことを進めていくことがどういう帰結をもたらすのかを筋道立てて考えると展開が読めてくる。

ところで、ご存じのように新BIS規則が日本に強要されたことにより、実質利回りが変動する国債は市中金利との逆ザヤリスクがある為、かつての国債の重要引き受け先であった民間銀行での購入は減少しつつある。唯一、ゆうちょ銀行のみ、この規制の例外になっている。円発行のための日銀保有を除いて、ゆうちょ銀行と生命保険が事実上、現実には唯一の国債引き受け先になりつつあるのはこのためである。

当時の財務省が日本の予算組のことを考えて、ゆうちょ銀行に民営化後も国債を引き続き引き受けさせるために新BISの対象から外し、郵政民営化法でゆうちょ銀行の資金運用先は「国債、地方債、政府保証債と銀行預金」としたのである。

ちなみに、現在の郵便貯金180兆円はかつては、資金運用部特別会計と言われていたもので、財政投融資改革によって資金運用部がなくなり、現在の特別会計となって、現行の特別会計総額170兆円の原資のうち150兆円は、郵政民営化法にしたがったゆうちょ銀行による国債購入で賄っている。

では、亀井大臣発言のように郵政民営化法の考え方を覆して、ゆうちょ銀行による米国債(米国財務省証券)の購入を進めていくとどのような事態が起きるのであろうか。もしくは、ゆうちょ銀行を新BIS規制の対象として新BISが言うように「利回りが低いリスク商品」である国債を、ゆうちょが大量保有できなくする方向にするとどうなるのであろうか?

郵政民営化と新BIS規制。このふたつの米国によって仕掛けられた罠によって、ゆうちょ銀行の預金がアメリカの財務省証券、もしくはアメリカの投資銀行が仕掛けた海外金融商品に換わっていくと、日本という国は、自分の国の国債のやがて、消化ができなくなり、国債相場の暴落の日を待つだけの状況に徐々に追い込まれていく。(取りあえずは財政法に違反する日本銀行による国債保有を増やしていくことになるのだろうが、どちらにしろ「円」という通貨の価値が下がり、物価が上昇していくことになる。)

当然、国債の暴落は、金利の上昇と強烈なスタグフレーションを引き起こす。そして何よりも、一般会計と特別会計合わせて実質300兆円という日本の国家予算の原資の3分の2である200兆円を失うことを意味する。日本国は破産し、民間は大不況となり、国民はハイパーインフレに窮することになるだろう。この時に、国際金融資本は日本の技術力のある会社のほとんどの経営権を手に入れようと待ち構えているのだろう。

つまり、ゆうちょによる米国財務省証券の購入は、日本人が郵便貯金することで、アメリカ財務省に税金を払うことになるばかりでなく、日本国債が暴落し、日本が財政破綻させられることを意味する地獄への道である。

それだけに、今回の件には明らかに、米国政府からの強烈な脅しがあったことが想像されるが、なぜこのタイミングなのだろうか。

おそらく、 現在、米国のエリートは中国経済が早ければ今年の7月、遅くとも今年の11月に一度は大きな調整をすると考えているのだろう。もしかすると早いうちの人民元切り上げが予定されているのかもしれない。中国は北京オリンピック、上海万博と好景気を演出してきたが、これが秋までしか持たないというのが、米国エリートの共通認識になっているのかもしれない。

以前のレポートで紹介した中国共産党幹部の権力闘争を背景に 仮に中国経済がクラッシュすると、現在中国が引き受けている米国財務省証券が消化されなくなる。即、米国は財政破綻である。

何としてもこれを先延ばしするために、日本のゆうちょ預金180兆円(簡易保険と合わせれば300兆円)で米財務省証券を購入させようという魂胆であろう。

問題なのは、これで(連邦政府だけで、実際には日本円で6,000兆円は、債務があると言われる)アメリカの財政破綻は一時的に避けられるかも知れないが、世界一の債権大国(こんなものは、今の日本には絵に描いた餅だが、)にもかかわらず、日本が、国債が消化できずに米国より先に財政破綻してしまうというトンデモナイ話になってしまうことである。

また、過去に宮澤首相が財務省証券を売りたいと言ったら、「それは宣戦布告とみなす」と米国から言われたように、現在、日本には米財務省証券を一度買ったら売ることが許されていない。(以前のレポートでも指摘したが、どうも密約があるようである。)その意味でまさに米国債購入は米財務省に税金を払うのと同じなのである。

現在、自民党は国会の審議拒否するような体たらくだが、本当に日本国のことを考えるならそんなことをしている場合ではないはずだ。亀井大臣の郵政資金による、米国債購入の記者会見を厳しく追及すべきなのである。

ところで、為替は現在、1ドルは90円ぐらいだが、もし、秋から冬にかけて中国経済がリセッションした場合には1ドル=60円台、70円台まで一気に下がることになるだろう。

その場合には米国債が日本国債よりいくら利回りがいいと言っても、為替差損でゆうちょ資金が三割から四割目減りして大損することは言うまでもない。また、為替仕組み債等で有利な運用をしているといまだに、信じ込んでいる日本の機関投資家、年金資金、大学の基金等が、信じられない損失を被ることになるのは言うまでもない。

もっとも中国のように国有企業を管理する国務院国有資産監督管理委員会(SASAC)が、外資系金融機関六社に対して、「国有企業はデリバティブ契約のデフォルト(債務不履行)の権利を留保している」と通達し、「中国企業はデリバティブの損は払わない」と宣言してしまえば、逃げることはできるが、現在の日本政府にとてもできる芸当ではないだろう。

このようにちょっと考えるだけでも現在、日本の政治・経済は、2,3年後、日本がどうなるかという(日本政府、地方自治体が早ければ、2012年には、まともな予算が組めなくなるような状況が考えられる)真のリーダーが生死を分ける選択をすべき大変な節目にある状況である。バンクーバーオリンピック騒ぎの裏で恐るべき事態が進行しているのである。

それにもかかわらず、日本の政治は、外圧の動き(米国、朝鮮、中国等の)によって右往左往し、目指すべき処もわからず漂流しているように思われるのは杞憂だろうか。

(米国に上記のようなことを強要されても、悪夢のシナリオを避けることができるとしたら、以前のレポートでも言及した「天皇の金塊」のような隠し資産を日本が本当に持っている時だけだろう。)

<参考資料>

「欧米日すべてが財政破綻する?

2010年2月12日  田中 宇

2月10日のFT紙に、米ハーバード大学の歴史学者ニアール・ファーグソンの「ギリシャ財政危機は米国に飛び火する」と題する論文が載った。

それによると、EUは、ギリシャからポルトガルに飛び火した国債危機を救済する制度を持っておらず、今後数カ月間はユーロ圏の危機が続き、資金逃避先としてドルや米国債が買われる。

だが、米国も財政赤字が急増し、赤字を増やして挙行した雇用対策も大した効果がなく、米議会は「米国は二度と均衡財政に戻らない」とまで予測している。米国の財政破綻を防いできたのは、金融救済策として連銀が米国債を買い、人民元のドルペッグ維持のため中国が米国債を買うという、2つの買い手がいたからだ。だが、連銀は「金融が安定してきた」として米国債の買い支え(量的緩和策)をやめる方向に動いている。

中国の米国債購入も減り、06年には新規発行の米国債の47%を買っていたのが、昨年は5%しか買わなかった。

米国は「世界最大の赤字国(66兆ドル以上あると推計されている。)が、いつまで世界最強でいられるか」という問題を抱えている。国債危機は、近く英国に波及するが、問題は、その後いつ米国に危機が波及するかであり、これは欧米全体の財政危機であるとファーグソンは書いている。(A Greek crisis is coming to America)

英国でロスチャイルド家の研究をして著名になった英国人ファーグソンは、911とともに米ニューヨークに移り、すぐに米国の言論界で有名になった。マスコミを操作する筋から引っ張り上げられた観がある。彼は当初「米国は911を機に、顕在的な帝国に転換すべきだ」とタカ派の(英国の国益になる)論調を発していた。

その後、イラク占領の失敗、リーマンショック後の経済危機などを経て、彼は、米国が破綻に向かっていると指摘するようになった。08年には「米国は、19世紀に過剰な借金で財政破綻したオスマントルコ帝国のように崩壊しそうだ」と書き、昨秋のG20サミット後には「ドルは、中国に見捨てられて崩壊する。それは意外に早く起きるだろう」「来年はドル安になる」と述べている。

台湾問題の制裁で中国が米国債を売る?

国際金融の現状を見ると、ファーグソンの予測や分析が、かなり当を得たものだと感じられる。先日、米連銀のバーナンキ議長は「量的緩和策をやめるので、民間銀行から企業・消費者への融資の金利が上がる」との予測を発表した。連銀は「米金融界が安定し、景気は回復しつつある」と分析し、民間銀行への資金流通を引き締め、その後利上げもする予定だ。実際には、米経済は回復しておらず、連銀が引き締めを開始する3月以降、状況が再び悪化しそうだ。米国の住宅ローン全体の2割は、担保価値が負債を下回る債務超過になっており、ローン金利の上昇は、住宅市況と景気全般をさらに悪化させる。

格付け機関のムーディーズは先日、米経済が成長鈍化した場合、税収減と景気対策の財政再出動が重なって、米国の財政状況がさらに悪化するので、米国債は今のトリプルAから格下げされうると発表した。連銀の下支えがなくなるので、バンカメやシティといった米国の大手商業銀行も、格付け会社から格下げの方向に見直しされている。

連銀と並んで、米国債とドルを買い支えてきた中国も、先日米政府が台湾への武器輸出を決めた後、いつまで米国を救済し続けるか不透明になってきた。中国軍の幹部は2月9日、台湾に武器を売る米国を制裁するために、米国債の一部を売って米経済を混乱させるのがよいと提案した。

実際には、中国は人民元のドルペッグをやめないと表明し続けており、米国債を投げ売りする可能性は低い。中国軍幹部の発言は口だけの脅しと考えられる。だが、米経済が不況の二番底に向かう半面、中国経済が驚くべき高成長になるという、米中が対照的な状況になる中で、ドルペッグは中国のインフレを激化させている。

中国のシンクタンク(China International Capital Corp)は、6月にカナダで開かれるG20サミットの前後に、中国政府が人民元の対ドル為替を切り上げると予測している。同社は、以前は「人民元は3月に切り上げられる」と予測していたが、2月4日に米政府が中国に「人民元を上げろ」と圧力をかけ、中国が「圧力を受けて人民元を上げたと思われるのはいやだ」と考えた結果、切り上げは6月に延期されたと説明している。この説明が正しいかどうか不明だが、人民元が切り上げを必要とする時期に入った感じはする。中国政府が人民元の上昇を容認するほど、中国はドルや米国債を買わなくなる。

いつ英米に危機が飛び火するか

2月11日には、アジア重視のスイス人投資家マーク・ファーバーも、CNBCテレビで「いずれ、米国を含むすべての(先進)諸国の財政が破綻する。新興諸国は、先進国より財政が健全だ(だから新興諸国より先進国の方が破綻する)」と述べている。

また、以前からドル崩壊や多極化を予測してきた欧州のシンクタンクEU2020は昨年末の段階で「2010年春、ギリシャの財政危機が欧州各国から英国、米国に飛び火し、先進諸国が全体的に国債破綻に瀕する新事態が起きる」と予測していた。(LEAP/E2020 Spring 2010-A new tipping point of the global systemic crisishttp://www.leap2020.eu/GEAB-N-40-is-available!-Spring-2010-A-new-tipping-point-of-the-global-systemic-crisis-When-the-slip-knot-around-public_a4093.html

この予測通り「2010年春」に先進諸国の国債破綻が起きるとしたら、今後の数週間はギリシャ、ポルトガル、スペインなどユーロ圏諸国の国債危機が続くものの、3月末に連銀が量的緩和策をやめる時期に入ると、その後6月のG20サミットあたりにかけて、危機が米国や英国に飛び火し、G20サミットで人民元の切り上げや、新たな世界的な金融危機対策がとられるといったシナリオが考えられる。その間に英米側から新たな延命策が発せられれば、危機は先延ばしされるが、延命策も無限ではない。今年じゅうに危機が再燃する可能性が高い。



日本は財政破綻しにくい?

「すべての先進諸国が財政破綻する」と言う場合、米英とユーロ圏だけでなく、日本やオーストラリア、カナダなども財政破綻すると考えられるが、それはあり得るのか。  まず日本から考えてみると、確かに日本は累積の財政赤字が世界最大規模であり、英米の国債が売れなくなって破綻するなら、日本国債の破綻も当然考えられる。しかし、日本は国債の90%以上を国内の投資家に買わせている。

日本国民の預金が政府に貸し出され、30年かけていろいろな土木建造物が全国各地に作られ、巨額の財政赤字が残った。国民の預金が有効に使われたかどうかは疑問であるが、政府の監督下にある日本の機関投資家(生命保険等)が日本国債を買わない傾向を強めるとは考えにくい。米英は資金逃避を防ぐため、日本を含むあらゆる他の国々を「危険だ」と吹聴する報道の傾向を強めている。日本人は米英発の論調に流されやすいので、今にも日本が財政破綻しそうだという感じが強まるだろう。だが、金のやりとりがおおむね国内で完結している日本の財政は、昨今のような国際的な資金流出による危機の中では、意外と破綻しにくい。ファーグソンも、以前の論文でそのことを指摘している。

Newsweek:NialFerguson-AnEmpireatRiskhttp://www.forexhound.com/article/Stocks/Stocks/Newsweek_Niall_Ferguson_An_Empire_at_Risk/168908

オーストラリアやカナダは、英米より財政と金融が安定している。両国は資源輸出国なので、今後予測される資源インフレの中でむしろ優勢になる。先日、豪州の野党が「我が国はまもなく財政破綻する」と表明して物議を醸したが、実際には、豪州の財政赤字は先進諸国内で最低水準だ。豪野党はむしろ、アングロサクソンの一員として英米の財政を救おうと、自国の財政を意図的に悪く描いてみせたのかもしれない。欧州のユーロ圏も、短期的に財政危機が続くものの、長期的にはむしろ危機を利用して、EU加盟諸国の国権をEU当局が奪い、超国家組織としてのEUが強化される。独仏を中心とする欧州大陸諸国が、英米に従属してきた従来の状態を脱出していく方向になる。EU当局は昨秋、事実上の大統領制を確立し、超国家組織として権限を強めていける体制になっている。

今回、ギリシャが他の諸国からいくら批判されても放漫な経済政策を改めなかった経緯が問題視され「加盟国の経済政策の決定権をEUに集約すべきだ」という論調がEU上層部で出ている。EU統合は、加盟国の国民には不評で、デンマークやフランス、オランダ、アイルランドなどの国民投票で何度も否決されている。だが、そのたびに欧州のエリートたちは、否決された政策の名前だけ変えて再評決にかけるなど、本質的に非民主的なやり方でEU統合を強行し、かなり成功している。その流れで見ると、ギリシャの財政危機を口実に、経済政策に関する政治統合が進められていくと予測される。

今のユーロ圏の国債危機が、やがて英米の財政破綻へと波及したら、英米の覇権は解体される。中国はドルペッグをあきらめ、人民元はアジアの国際通貨として地位を高め、アジアは対米従属を脱して中国中心の地域になる。一方、EUは政治統合を進め、欧州も米英の傘下から抜けて自立した地域になる。これは、私が数年来予測してきた多極化の進展である。

英国は、しぶとく生き残りを画策している。先日カナダで開かれたG7の財務相会議で、英国は、国際的な金融破綻を救済する基金として、世界の大手金融機関に国際的な金融取引税(トービン税)を課すことを提案し、他の諸国の同意を得た。これまでトービン税に反対してきた米オバマ政権も、自国の金融救済に使えると考えたのか賛成に転じた。今後、4月のIMF理事会での了承を経て、6月のG20サミットで正式決定される見通しとなった。

英米はこの基金で自分たちを救済しようとしており、この件は英米中心主義の延命策である。たがその一方で、トービン税の導入は、G20、IMF、国連といった「世界政府」的な機関に独自財源を与え、多極型の世界構造の樹立に不可欠な要件を満たすことになる。英国が、自国を救うために、世界を多極型に転換させるトービン税制の導入を提唱せねばならなくなったこと自体、英国の国際的な影響力の低下を象徴している。

*田中氏は、日本は財政破綻しにくいと指摘しているが、日本の財政を支えている日本人の虎の子が郵政資金(郵便貯金、簡易保険=約300兆円)である。その運用を米国債ですることを強要された場合には、彼の言うようにはならないのである。

*スタグフレーション

スタグフレーションとは、インフレ(物価水準の上昇)と景気後退が同時に発生した場合のことを言う。スタグフレーション(stagflation:景気沈滞下のインフレ)は、スタグネーション(stagnation:沈滞)とインフレーション(inflation)の合成語。

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