Toshiba Digital Cameraあじあ号

*満鉄の「あじあ特急」が新幹線を産んだのだ!

安倍政権が戦後最長政権となったのは

 第二次安倍政権が戦後最長の7年8ヶ月の長期政権(2012年12月~2020年8月)になったのは、野田佳彦氏のよる民主党政権の自己崩壊という僥倖に恵まれたこともあるが、安倍晋三氏が戦後の高度成長を演出した満州の妖怪と呼ばれた岸信介氏の孫であったということが一番大きな要因であったと考えられる。

これからそのことを順次、説明していくが、文字通り、安倍晋三氏は満州国モデルを創り出した人脈群のプリンスであったので、その能力とは関係なく戦後最長の政権となったのである。

 ところで日本の戦後経済復興と満州国モデルとの関連性は、今までもよく指摘されてきたところである。

NHKでも1980年代に特集されたことがあったと記憶しているが、「日本株式会社を創った男、宮崎正義の生涯」小林英夫著という本がある。

日本株式会社を創った男

満鉄調査部きってのソ連通で、参謀本部作戦課長職にあった石原莞爾に先生といわれた宮崎正義は、満州国の建国にあたって満州産業開発第一次5カ年計画のグランドデザインを設計、その実施計画を「大蔵省第一次満州国派遣団」などの渡満組で、岸信介、星野直樹、武部六蔵、椎名悦三郎、古海忠之、田中恭、美濃部洋次、佐々木義武、向坂正男、田村敏雄など、多くの高級官僚が練り上げた。

さらに宮崎は、日本に帰国して、戦時統制経済の設計図を描いた影の立役者でもあった。彼が、主唱した「間接金融」「資本と経営の分離」などの官僚統制の手法は、日本的経営システムの根幹をなすものである。その意味で、「日本株式会社」を創案した人物といっても、過言ではないだろう。宮崎が立案した官僚主導の統制経済体制は、その後、岸信介ら「革新官僚」に引き継がれ、戦時体制を支えていった。そして、戦後の日本の復興と高度成長も、その延長線上に築かれていく。このことを野口悠紀雄氏は「1940年体制」という本で詳細に分析している。

A級戦犯で巣鴨の囚人だった岸信介

極東軍事裁判の起訴状が提出されたのは、昭和天皇の誕生日である1946年4月29日、大半の囚人が以後、2年8ヶ月間をこの場所で過ごすことになった。そして1948年12月23日、現上皇明仁の誕生日に合わせ7人のA級戦犯の処刑が執行された。しかし、すべての犯罪者が処刑されたわけではない。19人のA級戦犯が不起訴処分となり、翌日自由の身となった。その中に、日本の戦後社会を動かしていくことになる岸信介、児玉誉士夫、笹川良一、正力松太郎、緒方竹虎、阿片王と呼ばれた里見甫らがいたのである。

2007年にニューヨーク・タイムズの記者ティム・ワイナーが「Legacy of Ashes. The History of the CIA」という本を出版。2008年には「CIA秘録」(文藝春秋)として翻訳されているので読んだ方も多いであろう。

 灰の遺産

ワイナーはこの本の中で次のように書いている。

「2人の戦争犯罪人が、他の戦争犯罪人たちが絞首台に連れて行かれた前日に、戦後三年間入れられていた巣鴨刑務所から釈放された」その2人とは岸信介と、児玉誉士夫である。

岸信介は、1896年山口県生まれ。東京大学の法学部を卒業して農商務省に入り、東条内閣の対米宣戦時の商工大臣であり、敗戦後A級戦犯に指定されたが、釈放され、その後総理大臣になって対米安全保障条約・新条約の締結を行うなど、戦後日本の方向を決定づけた。

児玉誉士夫は、1911年福島県生まれ。戦前右翼の活動家として活躍し、戦中は海軍の庇護の元に中国で「児玉機関」と言う組織を動かし、強奪的にタングステン、モリブデン、などの貴金属、宝石類を大量に集め、それを海軍の力を利用して日本に送り届けた。敗戦後、A級戦犯とされるが釈放された後、中国から持ち帰った巨額の資産を元に、政界に影響を及ぼし、やくざ・暴力団・右翼のまとめ役、フィクサーとして力を振るった。

 Anchor Books版に書かれていて、文藝春秋社版に書かれていない文章は、以下。

「Two of the most influential agents the United States ever recruited helped carry out the CIA’s mission to controll the government.」

Anchor Books

「かつてアメリカがリクルートした二人の一番影響力のあるエイジェントがCIAの日本政府を支配する任務を遂行するのを助けた」で、その二人の男とは、岸信介と児玉誉士夫である。

 リクルート、エイジェント、この二つの言葉の持つ意味はあまりに重たい。会社にリクルートされて其の会社に勤めたら、其の会社の人間で、エイジェントとなったら、その会社の人間だ。これが会社でもなく、アメリカ政府なのだから、岸信介と児玉誉士夫は、アメリカ政府に雇われて、アメリカ政府のために働く人間になったということを意味している。文藝春秋社版では、この岸信介が「アメリカのエイジェント」だったことを明確に書かないように忖度しているが、戦後、岸信介と児玉誉士夫は、明らかにCIAのエイジェントとなったのである。

そして、CIAの助けによって、岸信介は自民党の党首となり、首相となった。

盟友である児玉誉士夫は暴力団のナンバーワンとなり、CIAに協力した。

岸信介と、児玉誉士夫が、戦後の日本の政治の形を作り、岸信介は、児玉誉士夫の金を使って選挙に勝つことができた。衆議院議員になると、岸信介はその後、50年に渡って日本を支配する自由民主党を保守合同によって作り上げた。

このCIAと自民党との相互関係で一番重要だったのは、金と情報の交換だったようである。その金で自民党を支援し、内部情報提供者をリクルートした。アメリカは、一世代後に、代議士になったり、大臣になったり、党の長老になったりすることが見込める若い人間たちとの間に金銭による関係を作り上げていったのである。岸信介は党の指導者として、CIAが自分の配下の議員たち1人1人をリクルートして支配するのを許したのである。

 この部分、Anchor Books版では、次のように書かれている。

「As the party’s leader, he(岸信介)allowed the CIA to recruit and run his political followers on a seat-by-seat basis in the Japanese parliament.」

 文藝春秋社版では、そこのところが、

「岸は保守合同後、幹事長に就任する党の有力者だったが、議会のなかに、岸に協力する議員を増やす工作をCIAが始めるのを黙認することになる」と書かれている。

 Anchor Books版に描かれた岸は、自分の配下をCIAに売る悪辣な男である。

岸信介は、トップに上り詰めるための策動をする間に、日本とアメリカの間の安全保障条約を作り直す作業をCIAと一緒にすると約束した。岸信介は、日本の外交政策をアメリカの要求を満たすように変えると約束した。それによると、アメリカは日本に軍事基地を保持し、核兵器を貯蔵しても良いということになったのである。

 それに対して、岸信介はアメリカの秘密の政治的な協力を要請した。ワイナーは、1994年10月9日付けのNew York Timesに「CIA Spent Millions to Support Japanese Right in 50’s and 60’s. 」(CIAは日本の右翼を助けるために1950年代から60年代に書けて何百万ドルもの金を使った)と言う記事を書いている。そこには、次のようなことが書かれていた。

1970年頃に、日本とアメリカの貿易摩擦が起こっていたし、その頃には自民党も経済的に自立できていたので、自民党に対する資金援助は終わった。しかし、CIAは長期間にわたって築き上げたその関係を利用した。1970年代から1980年代初期に東京に駐在していたCIA職員は「我々は全ての政府機関に入り込んでいた」と語った。

「CIAは首相の側近までリクルートしており、同時に農林省とも同じような関係を結んでいたので、日米農産物貿易交渉で、日本がどのようなことを言うか事前に知っていた」とも語った。元警察庁長官で、1970年代に自民党の代議士になり、1969年には法務大臣になった後藤田正晴は、自分が諜報活動に深く関わってきた1950年代60年代について「私はCIAと深いつながりを持っていた」と言っている。

1958年に、当時の自民党の大蔵大臣だった佐藤栄作が選挙資金の援助をCIAに要求して、その資金で自民党は選挙に勝った。1976年にロッキード事件が起こって日本は騒然としたが、それは、同時にCIAにとって、それまでの工作が暴露される恐れのある危険な事件だった。ハワイで隠退生活をしている元のCIAの職員は電話で、次のようなことを語った。

「この事件は、ロッキードなんかよりもっともっと深いのだ。もし、日本という国のことについて知りたかったら、自民党の結党時のことと、それに対してCIAがどれだけ深く関わったか知らなければ駄目だ。」

このように日本政府は満州国が関東軍によってコントロールされてきたように米国の情報機関によってコントロールされてきたのである。

日米安保条約と日満議定書

作家の保坂正康氏が以下に書いているように日米安保条約と日満議定書には、

いずれも宗主国がその国を属国にしておくための取り決めであるという共通点がある。

*日刊ゲンダイ2020/01/31より引用

吉田も岸も…安保条約と日満議定書の皮肉な共通点

あの60年安保闘争とは一体何だったのだろうか。今なお見落とされている視点を私なりに整理しておきたい。

 吉田茂首相はなぜ昭和26年9月7日の夕方にサンフランシスコの第8軍司令部で日米安保条約に単独で署名したのか。

「いずれ問題になるだろうから」と呟きながらである。岸信介首相は何度も「片務条約を双務条約に変えるのがなぜ悪い」と執拗に開き直った。この2つの発言の行き着く先は昭和7年9月に日本政府が満州国と交わした日満議定書に行き着く。この議定書は斎藤実内閣が満州国と交わしたもので、これをもって新たな独立国として認めることになった。この議定書は日本軍の無条件駐屯を認めた上に、秘密の内容(関東軍司令官の推薦者を満州国政府は受け入れるなど)も含み、満州国が独立国だというのは絵空ごとであった。吉田も岸もこれを押し付けた側の官僚として、議定書のカラクリを理解していたのである。そして今、日米安保条約は基地の提供をはじめ多くの点で議定書のカラクリと重なり合う。かつて不平等を押し付けた日本が、敗戦によって独立を損なわれた中で安保条約を受け入れなければならない。2人には耐えられなかったのであろう。しかし彼らはこの屈辱的な条約を「東西冷戦」という言葉をもって免罪にしようと試みた。東西冷戦下であったから、アメリカ側の言い分は受け入れなければならないのだというのが2人の共通点であった。そのため2人は事あるごとに共産主義者の陰謀とか、悪辣な企みといった言葉を繰り返した。共産主義の企みがなければ、この日米安保は必要でさえないのだと。

 やがて共産主義は倒れた。吉田や岸の判断に寄り添うならば、日米安保の役割は終わったはずであった。しかしこの条約はふたつの意味で残った。ひとつは日本の軍事力を懸念する声に対してアメリカが日本をコントロールするための政策だ。もうひとつは日本人に軍事肥大の声を定着させずにおくという国際社会の期待に応えるためだ。吉田も岸も、日本を軍事的にアメリカの属国にしておくほうがふさわしいと計算したのであろう。日満議定書の文面を読んで、吉田も岸も感じた歴史上の羞恥心は帝国主義的性格だからこそ、より強く感じていたのであろう。(引用終わり)


日米安保条約第五条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。

一方、日満議定書には

日本國及滿洲國ハ締約國ノ一方ノ領土及治安ニ對スル一切ノ脅威ハ同時ニ締約國ノ他方ノ安寧及存立ニ對スル脅威タルノ事實ヲ確認シ兩國共同シテ國家ノ防衞ニ當ルベキコトヲ約ス之ガ爲所要ノ日本國軍ハ滿洲國内ニ駐屯スルモノトス


上記の条文をよく読んでいただきたい。全く同じことを言っているのがおわかりになるだろう。

 

戦後駐留する在日米軍は、旧満州国の関東軍

だから、以下のようことは、さがせばいくらでも出てくる。

・米国政府は、日本のアメリカ大使館の借地料未払いのままにしていたが、

アメリカ政府が東京都港区赤坂にある在日アメリカ大使館の敷地(国有地約1万3000平方メートル)の賃料を1998年以降払っていないことが、9月30日の社民党照屋衆院議員の質問主意書に対する政府答弁書で明らかになっている。

1997年までアメリカ政府が支払った賃料はわずか月額20万8千円で、年間では約250万円だった。98年以降は日米間で契約変更について合意できていないため払われていない。これに比べてイギリスの場合は東京都千代田区にあるイギリス大使館の敷地約3万5000平方メートルの賃料は月額で291万6000円、年間3500万でキッチリと支払われている。

・日本の携帯電話は、米軍から周波数帯の返還によって始めて可能になったのである。政治家は一人も参加していない日米合同委員会によって米軍優先の電波の割り当てが決められているのである。

下記のアドレスの日米合同委員会の取り決めを読めば一目瞭然である。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/sfa/kyoutei/pdfs/03_02.pdf

・現在も日本の空域は、下記のように米軍が完全にコントロールしている。

東京上空1沖縄の空域支配権

私たちは、長く続く植民地状態に慣れてしまったために異常な状況下にいることを意識しなくなっている。すっかり、植民地根性に染まってしまったのである。

つまり、私たち日本人は、見事に完成した満州国モデルバージョン2.0とも呼ぶべき戦後日本に住んでいると考えれば、今の状況を一番すっきり理解することができるのである。しかしながら、その不自然な社会システムそのものが、金属疲労を起こし、限界が来ているために現在、政官財でいろいろな不祥事が起きていると考えても間違いないだろう。

 

<属国であることが最大の国益である>という国是から抜け出さなければならない時を日本という国は迎えている。

<参考>ウィキペディアより

日本における満州人脈

満州国の実質的支配層であった日本人上級官僚や当時の大陸右翼、満鉄調査部の関係者などが母体である。二・二六事件に関与して左遷された軍人や、共産主義者からの転向者も多い。ソビエト連邦の経済政策を参考として、満州国の経済建設の実績をあげた。満鉄調査部事件などで共産主義活動の嫌疑をかけられ検挙された者もいる。ここで培われた経済統制の手法は戦時体制の確立や、戦後の日本の経済政策にも生かされていく。岸総理や右翼の児玉誉士夫などの大物が名を連ね、戦後保守政治に影響力を及ぼした。

 

主なメンバー

岸信介(1936年(昭和11年)10月に満州国国務院実業部総務司長、1937年(昭和12年)7月に産業部次長、1939年(昭和14年)3月には総務庁次長に就任)

佐藤栄作(当時鉄道省から上海の華中鉄道設立のために出向)

難波経一(満州国民政部禁煙総局長)

池田勇人

松岡洋右(1935年(昭和10年)8月2日から1939年(昭和14年)3月24日まで南満州鉄道第14代総裁)

東條英機(関東軍参謀長)

椎名悦三郎(満州国産業部鉱工司長)

後藤新平(1906年(明治39年)11月13日から1908年(明治41年)7月14日まで南満州鉄道初代総裁)

二反長音蔵

吉田茂(1907年(明治40年)2月から1909年(明治42年)まで駐奉天日本領事館に領事官補として赴任、1925年(大正14年)10月から昭和3年(1928年)まで駐中華民国奉天・大日本帝国総領事)

星野直樹

大平正芳(1939年(昭和14年)6月20日から1940年(昭和15年)10月まで興亜院蒙疆連絡部経済課主任(1939年10月から経済課長)として着任)

愛知揆一(興亜院華北連絡部書記官)

長沼弘毅(興亜院華中連絡部書記官)

高畠義彦(海南島厚生公司東京事務所責任者)

関屋悌蔵(新京特別市副市長)

鮎川義介(満州重工業開発株式会社総裁)

麻生太賀吉

福家俊一(上海の国策新聞「大陸新報」社長)

甘粕正彦

影佐禎昭(陸軍中将。特務機関員。谷垣禎一の祖父)

石原莞爾(陸軍中将。1928年(昭和3年)10月 – 関東軍作戦主任参謀。1931年(昭和6年)10月 – 関東軍作戦課長。1937年(昭和12年)9月 – 関東軍参謀副長。1938年(昭和13年)8月 – 兼満州国在勤帝国大使館附陸軍武官)

楠本実隆(陸軍少将。特務機関員)

橋本欣五郎(陸軍大佐。1922年(大正11年)4月 – 関東軍司令部附仰付(ハルピン特務機関)。1923年(大正12年)8月 – 関東軍司令部附仰付(満州里特務機関))

古海忠之(満州国総務庁次長)

岩畔豪雄

阪田誠盛

里見甫

笹川良一

児玉誉士夫

 

大韓民国における満州人脈

大韓民国のチンイルパの中でも最大勢力の派閥である。メンバーの多くは日本統治時代満州国軍人であった。朴大統領などもこの人脈に属していたことからかつての軍事独裁政権下では一大勢力を誇った。民主化が達成された現在は影響力を低下させている。

満州国軍出身者の多くは北部(現在の北朝鮮)が故郷だったが、共産化によって越南して南朝鮮国防警備隊に入隊した。彼らは五族(日、韓、満、蒙、漢)の競争で生き残る能力を鍛え、また満州国軍の日本人顧問に慣れていたので米軍政の顧問制度に適応した。そのため建軍期の韓国軍で日本軍出身者と共に影響力を拡大していった。

主なメンバー

朴正煕(元大韓民国大統領)

白善燁(元大韓民国参謀総長)

李周一

丁一権

 

*朝鮮半島と満州の関連性を知るにはこの本が参考になる。

大日本・満州帝国の遺産

2021年4月5日から、宮城県、大阪府及び兵庫県においてコロナの「まん延防止等重点措置」が適用され、地方においてもクラスターが続発、国は東京都、京都府、大阪府、兵庫県の緊急事態宣言を発出、その後、愛知県、福岡県にも、緊急事態宣言の発出を決定。現在、5月末日までが取りあえず緊急事態の期間となっているが、コロナウイルスの変異株の広がりも含めて全国的に感染が広がりやすい状況となっており、日本政府のオリンピック開催への堅い決意表明にもかかわらず、7月の東京オリンピック開催自体が危ぶまれる状況となっている。

海外メディアのオリンピック、コロナに関するする日本政府の対応への批判も痛烈になってきている。

オリンピックのスポンサーである日本のマスメディアは、自分自身は意見を述べないが、海外メディアの批判は取り上げているので、その一つを紹介しておく。以下。

東京五輪「茶番を止める時だ」米教授がNYタイムズに寄稿(毎日新聞)

5月12日(水)

サッカーの元米五輪代表で米パシフィック大のジュールズ・ボイコフ教授(政治学)は11日、東京オリンピック・パラリンピックについて米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)に「スポーツイベントは(感染を広げる)スーパースプレッダーになるべきではない」と題したコラムを寄稿した。ボイコフ氏は「科学に耳を傾け、危険な茶番劇を止める時だ」として中止するよう訴えた。

 ボイコフ氏は、医療体制がすでに厳しくなっている日本で新型コロナウイルスの感染者が増えていると指摘。「五輪の魅力は、世界中からさまざまなスポーツ選手が一堂に会して競い合う非日常性にあるが、世界的な公衆衛生上の危機の際には、致命的な結果をもたらす可能性がある」と警告した。

 また「五輪というローラー車はゴロゴロと音をたてて進んでいる。その理由は三つある。金、金、そして金だ」と指摘。国際オリンピック委員会(IOC)など主催者が「公衆衛生のために自分たちの利益を犠牲にするつもりはない」と批判した。その上で「金よりも大切なものがある。IOCは気づくのに遅れたが、正しいことをする時間はまだある」として、IOCは中止を決めるべきだと指摘した。

 ボイコフ氏は五輪に関する著書がある。3月には東京五輪の放送権を持つ米NBCのウェブサイトに寄稿し、聖火リレーの中止を求めるなど、開催を前提に議論が進む大会のあり方に疑問を示してきた。【ニューヨーク隅俊之】(引用終わり)

東京オリンピックイメージ

そもそも今回の東京オリンピック誘致は何のために行われたのか

 

それは、2011年3月11日の東日本大震災による災害からの復興をアピールするイベントとしての役割を期待されたものだった。1964年開催の東京オリンピックも戦争からの復興をアピールするものであったことを思い起こしてもいいかもしれない。たしかに前回のオリンピックは戦後復興を象徴するものだったが、今回のオリンピックは福島の復興を偽るものだ。その意味で今回は、国の内部問題から内外の注目をそらす最適なイベントとしてオリンピックが選ばれたのだと、冷静に私たちは考えるべきなのである。これが、競技スポーツが持つ世界的な魅力によって様々な社会正義を求める声をわからなくする「スポーツウオッシング」というものである。

はっきり言ってしまえば、2011年3月11日に発令された「原子力緊急事態宣言」がいまだに解除されていないこと、ICRP(国際放射線防護委員会)が推奨する緊急時のみの短期間の基準値を事故以前の基準に戻す目処が立たないので、緊急事態宣言を解除できない、どうしようもない厳しい現実から日本国民の目をそらすためのオリンピックであると言っても過言ではない。マスメディアは既得権益層に完全に組み込まれているので、このことを指摘することができないのである。

それだけに日本政府の東京オリンピック誘致にかける思いは余程、強かったのだろうということがわかるのが、JOC竹田会長による東京オリンピック誘致に関する贈賄事件である。以下、BBCから。

東京五輪招致汚職容疑、JOC竹田会長を訴追手続き 仏当局

2019年1月11日

2020年の東京五輪・パラリンピック招致を巡り、仏検察当局が日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長(71)について贈賄容疑の捜査を正式に開始したことが明らかになった。仏検察当局が11日、明らかにした。

仏検察当局は2016年春、日本の招致委員会が国際オリンピック委員会(IOC)委員だったラミン・ディアク国際陸上競技連盟(IAAF)前会長の息子に2800万シンガポールドル(約2億2000万円)を支払ったとされる疑惑を捜査していると明らかにしていた。竹田会長は、五輪招致委の理事長だった。

複数の通信社と仏紙ル・モンドは11日、検察当局の話として、パリの予審判事が昨年12月の時点で竹田会長に対する「予審手続き」を開始していたと伝えた。フランスの法律で予審手続き開始とは、正式な刑事捜査の開始を意味する。竹田会長は日本メディアに対して、これは正式起訴ではなく、新事実は何もなく、事態は何も変わっていないと説明。12月の時点で仏当局の捜査に協力し、問題行為は何もなかったと聴取に答えたという。(引用終わり)

このラミン・ディアク国際陸上競技連盟(IAAF)前会長は2015年、ロシアのドーピング疑惑を隠蔽する代わりに賄賂を受け取った汚職で起訴され、IOC委員を停止され、辞任している。そして彼の父、マッサタ・ディアクは、2016年以降、国際刑事機構(インターポール)に汚職、マネーロンダリングで最重要指名手配リストに載っている曰く付きの人物である。このようなことからも日本政府は、何が何でもオリンピックを開催したかったことがよくわかるのである。

美化されすぎたオリンピズム

 

私たちは、小学生の頃からあまりにも美化されすぎたオリンピックの創始者ピエール・ド・クーベルタン男爵(1863年~1937年)の話を聞かされているので、その人物、歴史的背景を正確に掴むことができないでいる。

あなたは、オリンピック種目のほとんどが19世紀末の植民地時代に西ヨーロッパで作り上げられたものであることに素朴な疑問を持ったことはないだろうか。それは、19世紀が西洋列強による植民地の時代だったからである。

おそらく、彼は1896年、初めての近代オリンピックがアテネで開催された当時、西洋列強の植民地になることが非ヨーロッパの国々とって幸福であると考えていたのではないか。だから、アフリカ人の参加についてクーベルタンは「スポーツはアフリカを征服する」、アジア諸国からの参加についても「オリンピックのアジア到達は大きな勝利だと考えている。オリンピズムに関して言えば、国際的な競争は必ず、実りのあるものになる。オリンピックを開催する名誉を得るのは世界の国にとって好ましいことだ。」と述べているのである。

E・ウェーバー(カルフォニア大学教授)の「ピエール・ド・クーベルタンとフランスにおける組織スポーツの導入」(1970)によれば、クーベルタンの思想は次の6つにまとめられる。

(1)  クーベルタンの思想は19世紀的貴族のロマンチックなエリート主義

(2)  保守的伝統に依存しつつ国際主義・平和主義を標榜していること

(3)  近代的民主主義と競争社会の原理に裏打ちされたエリート主義が競争を公正に行うことを建前とする(実はそうではない)スポーツの世界と合致すること

(4)  大衆を中等教育から差別する仕組みとスポーツの反実用性との対応が中等教育とスポーツ活動との接近を可能にすること(労働者階級や貧しい家庭の若者を対象としたスポーツは、「ぶらぶらさせない」ことと「暇な手」をふさぐことを目的としているが、これには欧米諸国では長い伝統がある。)

(5)  中立を建て前とするスポーツの観念と,その政治利用を許す現実との矛盾を生み出す根源は、この19世紀末のエリート主義の矛盾の反映であること

(6)  労働者階級の国際主義と平和主義とブルジョアの国際主義と平和主義の対立の中でクーベルタンのスポーツ教育は世紀末の青年層をとらえた新芸術運動、フォービズム、キュービズム,未来派と同列のものと考えられること

このような背景を持つクーベルタン男爵の近代オリンピック運動は、「西洋列強に追いつき、追い越す」ことを最大の目的とし、富国強兵に邁進していた日本国に熱狂的に迎えられることになる。「より速く、より高く、より強く」という達成モデルと身体活動のグローバルなスポーツ化は、近代日本にとっては、当時、まさに目指すべき目標であったのである。

私たちが忘れてならないことは、人間の運動モデルには、オリンピックが強力に推し進める達成モデルのほかに、一般大衆参加を促進する健康とフィットネスのモデル、舞踊と民俗の伝統を組み込んだ身体体験モデルの二つがあるということである。そして健康とフィットネスのモデル、身体体験モデルに内在する喜び、健康、社交性と自己実現のための普遍的で生涯を通じた身体活動の方が健全な社会を維持するためには遙かに重要であることは考えるまでもないだろう。

また、IOC(国際オリンピック委員会)が掲げるスポーツは特別だという「スポーツ例外主義」によって恐ろしく中立的でない人物がその会長を務めてきたこともこの際、日本人は知っておいたほうがいいのではないだろうか。1952年から1972年まで会長を務めたアベリー・ブランデージは、1936年のベルリンオリンピックボイコットを求めた米国に対抗し、強力にヒトラーを支持したことで有名だし、その後を継いだ閣下と呼ばれることを好んだファン・アントニオ・サマランチは、スペインの独裁者フランコを支持するファシストであった。このような民主的でない人たちがIOCを牛耳ってきたのである。

開催前にトラブル続きの東京五輪

これほど、不祥事が続出しているイベントも珍しいのではないか。

エンブレム問題勃発

 2015年、佐野研二郎氏がデザインしたエンブレムが盗作疑惑で不採用と決定した。ポスター等は廃棄。

新国立競技場工事の現場監督23才男性が過労自殺

 新国立競技場の工事で現場監督を務めていた23才の男性が2017年3月に失踪。その後、長野県で遺体として見つかり、自殺と断定された。デザイン案が変更となり、着工が予定より1年遅れ、急ピッチで進めるため、現場では過剰労働が強いられていた。自殺した男性の残業時間も1か月190時間以上だったという。

ボクシング、テコンドーなど各団体の不祥事

 2018年夏、日本ボクシング連盟が助成金の不正流用や不当判定で告発を受け、山根明氏(80才)が会長を辞任。辞任表明会見は約3分間だった。同年、テコンドーやレスリング、体操などの競技で、コーチによるパワハラ問題が明るみに出て、旧態然とした体育会体質に批判が寄せられた。

「有明テニスの森公園」の工事業者が経営破綻

 テニス会場となる江東区『有明テニスの森公園』の工事を請け負った会社が2018年10月に倒産。工事の一部が中断する事態となった。倒産の理由は、急激な事業拡大だった。当初の完成予定は2019年7月だったが、別の業者が引き継ぎ、同年9月末から開催された『楽天オープン』に間に合わせた。

開閉会式の演出担当者がパワハラで辞任

 開閉会式の演出担当のメンバーで、広告会社電通のクリエイティブ・ディレクターの男性(43才)が同社の関連会社社員にパワハラをしていたとして、2019年末に懲戒処分を受け、辞任。開閉会式の業務に関してのパワハラ事案があったことが明らかになった。

競技場デザイン問題

 故ザハ・ハディッド氏がデザインした競技場は巨額の建築費がネックとなり実現に至らず、選考に携わった建築家・安藤忠雄氏は、「デザインで選んだだけで、その先のことは知らない」と弁明した。

新国立競技場は完成したものの…

 新国立競技場に足を運んだ人たちからは、「座席が狭い」「椅子が硬い」「トイレが少ない」と不満が続出している。冷房設備がないため、真夏の開催が不安視されている。

「やりがい搾取」と揶揄のボランティア問題

 研修などの名目で拘束されたりもする五輪ボランティア。“やりがい”をうたってはいるものの、医療現場などからは「真夏の高温の環境下、無償での奉仕に価するのか」という声も上がっている。

チケット販売トラブル

 2019年5月、チケット販売の開始当初は販売サイトにつながらず、1時間以上待ったケースも。

大腸菌だらけの会場

 トライアスロンなどの会場となるお台場の海からは基準値を超える大腸菌が検出され、選手からも「トイレのようなにおいがする」と声が上がった。

疑惑の退任

 2019年、不正疑惑が浮上し、記者会見を開いた竹田恆和会長(当時)。一方的な弁明が読み上げられ、7分で終わった。

いきなりの札幌開催に変更

 札幌開催の決定後に開催された選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)・マラソン強化戦略プロジェクト」のリーダー・瀬古利彦氏は「急に札幌に行けといわれても…」と戸惑いを見せた。(女性セブン2020年2月27日号より)

枚挙の暇がないほどの不祥事のオンパレードである。今もパソナの人件費中抜き問題等がマスコミで報道されている。やはり、これは、原子力緊急事態宣言下にある厳しい現実を無視してフクシマ復興をアピールするという動機があまりにも不純だったせいではないだろうか。

21世紀は「より速く、より高く、より強く」が人間に求められる時代か?

 

急速なAI(人工知能)の進歩が社会のあり方を大きく変えようとしている。

オックスフォード大学などの調査結果では今後10〜20年の間で約半数の仕事が消える可能性があると言われている。

AIによってなくなる可能性がある仕事・職業は?

一般事務員、銀行員、警備員、建設作業員、スーパー・コンビニ店員、タクシー運転手。電車運転士。ライター、集金人、ホテル客室係・ホテルのフロントマン。工場勤務者等である。

AIが発達しても「なくならない仕事」は?

営業職、データサイエンティスト、介護職、カウンセラー、コンサルタント等である。このような時代背景を考えると、現在の生身の人間に「より速く、より高く、より強く」が求められる時代は、これから終わっていくと考えた方がいいのではないか。ところで今、日本政府は、ムーンショット計画をというものを大真面目に推進している。

そこには、「2030年までに、1つのタスクに対して、1人で10体以上のアバターを、アバター1体の場合と同等の速度、精度で操作できる技術を開発し、その運用等に必要な基盤を構築する。」というような吃驚するようなことが書かれているが、これは世界のグロバールエリートが集うダボス会議でも議題になっていることから考えてもこれから紆余曲折を経て進んでいくことである。

そのように変わっていく社会で生身の人間が「より速く、より高く、より強く」を競うことに何の意味があるのだろうか。

そうなれば、一般大衆参加を促進する健康とフィットネスのモデル、舞踊と民俗の伝統を組み込んだ身体体験モデルの方がより健康な人間社会を実現するために重要視されるようになることは、火を見るよりも明らかである。

例えば、腎臓透析の医療費は日本においては1兆3千億円に達そうとしているが、この透析患者のほとんどは、糖尿病由来の腎不全である。節制をすれば、透析患者にはならないのである。健康とフィットネスのモデルや伝統を組み込んだ身体体験モデルがメインストリームになれば、どれだけの人たちが健康になり、医療費が節約できることか、私たちは真剣に考えてみる必要があるだろう。

ムーンショット計画 目標1

何れにしても今回の東京オリンピック誘致は、原子力緊急事態宣言下にある日本の現実を直視したくない、誤魔化したい誘惑から始まったものであり、その動機の不純さ故にこのような不祥事ばかりが続いているのではないだろうか。

ところで、人口2357万人の台湾では、コロナの死亡者が累積で12人しかいない(2021年5月15日時点)、一方日本は、1万1640人(2021年5月17日時点)である。

この違いは、どこから生まれているのであろうか。それは、オリンピック開催に拘った日本政府が台湾のような厳しい入国制限をしなかったからである。

私たちは、フクシマ原発事故、オリンピック騒動、コロナウイルスがあぶり出した日本社会の機能不全を見たくはないだろうが、ありのままに直視すべき時を迎えている。その意味で今こそ、一人一人が「思い起こせば、先の大戦の時もそうだったが、なぜ今も、私たちの政府は他国のように国民の命を守ることができないのか(=粗末に扱うのか)」と、虚心にかえって問いかけてみるべきなのである。

2020年10月31日号で英国エコノミストが「バイデンでなければならないわけ」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62749)を書いたことに象徴されるように、2020年の米国大統領選挙のマスメディア報道は、米国も日本も反トランプ一辺倒で見事に統一され、挙げ句の果てにツィーターやフェイスブック等のソーシャルメディアも現職大統領であるトランプの発言を封じるという検閲行為に出ることで、はからずもその正体が露わになるという異例の展開になっている。日本の有名評論家のU氏まで、ソーシャルメディアによる検閲行為を称賛していたことには呆れたが、(*さすがにドイツのメルケル首相は、ソーシャルメディアの検閲を批判している。)多様な意見が全く反映されることのないように、現在のマスメディアが画一的、均一的にコントロールされていることを、今回の米国大統領選挙ほど、明らかにしたものはないだろう。

さらに、日本のマスメディアにおいては、先進諸外国のような<クロスオーナーシップ>制度、「電波利用オークション」制度がない。そのため、全国紙の新聞と全国ネットワーク化したテレビ局が、同一資本系列化し、読売新聞、日本テレビ系列のような1,000万部近い発行部数を持つ巨大新聞と全国津々浦々にネット局を持つ放送局が巨大なコングロマリット・メディアを形づくっている。また、日本にはご存じのように諸外国には存在しない<記者クラブ>が、国・地方自冶体・議会・主要経済団体・裁判所などに設置され、形の上では、多数の新聞社、テレビ局が存在しているにもかかわらず、行政や事業者が提供するプレスリリースなどの画一的な情報によって記事が作成されているのが、悲しい現実である。

その結果、マスメディアには、国、地方自冶体などの行政、大規模経済組織などを監視すべき機能を期待されているにもかかわらず、現在、日本のマスコミは、強大な権力、財力を持つ組織の広報機関に成り下がってしまっていると考えても間違いない状況にある。

例えば、2011年フクシマ原発事故においても殆ど、報道検証はされていないが、巨大な広告スポンサーである電力業界に配慮して客観的な報道がされたとは、とても言える状況ではなかったことに現在では、多くの人たちは気がついているだろう。また、現在のソーシャルメディアに幻想を抱いている人も多いが、ツィーターやフェイスブック等のソーシャルメディアとCIA等のアメリカ情報機関との結びつきを私たちは頭に入れておく必要がある。

少々古いが翻訳記事があるので、引用しておく。以下。


ソーシャルメディアはCIAの道具:

人々をスパイするのに使われているフェイスブック、グーグルや他のソーシャルメディア”


Prof Michel Chossudovsky

Global Research

2017年8月28日

2011年に発表された“ソーシャルメディアはCIAの道具。本当だ”と題するCBSニュース記事はCBSを含む主要マスコミが報じ損ねている“語られることのない真実”を明らかにした。

CIAは“人々をスパイするため、フェイスブック、ツイッター、グーグルや他のソーシャルメディアを利用している。”

CBSが公表したこの記事は主要マスコミのウソに反論している。記事はCIAと、検索エンジン、ソーシャルメディアや巨大広告コングロマリットの陰険な関係を裏付けている。“CIAがフェイスブックやツイッターやグーグル(GOOG)や他のソーシャルメディアを利用して人々をスパイしていると考えるのに、アルミホイルの帽子をかぶる必要はない。CIAが、報道発表で、技術投資部門In-Q-Tel経由で出資している全てのソーシャル・メディア・ヴェンチャーの便利なリスト[リンクは無効]を公開してくれているのだ。“

報道は“プライバシー”は広告主に脅かされているが、同時にこうした広告主が“ CIAと結託して”アメリカ諜報機関の代わりに、連係して活動していることを認めている。

(引用終わり)

如何だろうか。

CIA、NSA、国土安全保障省と契約しているソーシャルメディア企業にとって、個人をスパイするのは大いに儲かる商売になっているから、私たちが無料でサービスを使うことができる仕組みになっていると考えても間違いないと言うことだろう。このCBS報道は、世界最大の広告代理店の一つが収集した何百万人ものアメリカ人の個人情報が、CIAに販売されていることを明らかに示唆しているものである。

今、私たちは、このような私企業が、個人の発言を制限する権限を持つことをどう、考えるのかが、本当は問われている。

 

トランプは普通の職業政治家ではない

 ところで、日本人は、この4年間、マスメディアによるトランプ批判ばかりを聞かされていたので、トランプは、どうしようもない政治家だと思わされているが、本当だろうか。


例えば、私の周囲の人々は、トランプがこの4年間、無償で大統領職を務めていることを殆ど知らない。選挙資金も殆ど自前で賄ったはずである。4年前の選挙では、共和党支持者で有名なコーク兄弟からも献金を受けてないほどだ。(*参考「アメリカの真の支配者 コーク一族」ダニエル・シェルマン著 講談社2015年)

コーク一族

もちろん、これはトランプが大金持ち(*フォーブスが実施した調査によると、トランプ氏の推定資産総額は2017年10月現在31億ドル(約3500億円))、トランプ本人は1兆円だと公言している。)だからできることだが、利権に縛られた日本の政治家のイメージとは大きく異なるものではないだろうか。

ここ日本でも、市長や知事を目指す人が、報酬も貰わず、選挙資金も自前で賄って市民や県民には大きな減税のような政策を実行したら、多くの庶民は、その政治家を熱狂的に支持するのではないだろうか。その意味でトランプが選挙で多くのアメリカ人の支持を集めるのも当然だと考えるべきなのである。日本の経営コンサルタントの立花 聡氏が、トランプがなぜ、無償で大統領務めているかについて、興味深い分析をしているので、簡単に紹介する。これを読めば、トランプが普通の職業政治家でないことがよくわかるはずだ。以下。


立花 聡 (たちばな・さとし)エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。


恥を知らない人と金銭欲のない人

 世の中で手ごわいのは、恥を知らない人、または金銭欲のない人。一番手ごわいのは、その両方を併せ持つ人だ。というのが私の持論だ。金銭欲故に恥を捨てる人はたくさんいるが、無恥故に金銭の無欲者になる人はほとんど見ない。しかし、金銭欲を超えた欲求になると、話は別だ。超越的な自己実現という第5段階の欲求の頂点に立つために、恥を捨てる必要が生まれる、そういう場面もあるからだ。そこで恥の価値と自己実現の価値を天秤にかけて後者に傾いた場合、恥を捨てることになる。これは「恥を知らない」と「金銭欲がない」という二項共存現象として表出する。

 もう1つの側面は神という次元で、神には恥も欲(5段階すべて包羅する)も存在の必要がない故に、「無」という絶対的純潔さから神の存在に至高の価値を付与され、聖化されるのである。

 トランプ氏を見る限り、一般人特に日本人の常識としての「慎み」や「恥」の概念に照らしてみると、少なくとも肯定的な評価は得られないだろう。だとすれば、彼は政治家としてある種の二項共存者であると言わざるを得ない。プラス思考的にいえば、神に近い存在、あるいは神とはコインの裏表の関係にある、という類の仮説が生まれてもおかしくない。

 政治家の清廉とは、清貧ではない。清貧だからこそ金銭欲に駆られることも珍しい現象ではない。国家統治の観点からして、民主主義の多数決よりも、金銭的個益を度外視する賢君の独裁が合理性を有する。言い換えれば、最上段の超越的な自己実現の欲求の元で、安易にポピュリズムの罠に陥ることなく国家の全体的利益を追求する姿勢はむしろ理性的であって、為政者の「歴史に名を残す」欲求も健全な源泉と原動力になる。

 God Bless America!「アメリカに神のご加護あれ」と唱えるトランプ氏。その瞬間、彼は神の代理人地位をひそかに自認している。私にはそう見えてしまうときがある。

(引用終わり)

*参考:「How common is Trump’s $1 salary?」BBC https://www.bbc.com/news/election-us-2016-37977433

それでは、普通の職業政治家でないトランプは、何をしようとしていたのか。

これは以前にも書いたが、以下のことである。

彼が何をしようとしていたかを理解するためには、第二次世界大戦以降の世界経済の変遷を振り返る必要がある。大戦後、すべての技術、お金、金(ゴールド)、インフラがアメリカ合衆国に集中していた。そのため、西側諸国の経済は、米国が共産圏であるソ連に対抗するために豊富な資金、技術を、提供をすることによって離陸し、成長してきた。そして1965年以降、西ドイツ、日本が経済的に頭角をあらわすとともに、米国はベトナム戦争等の巨額の出費もあり、いわゆるドルの垂れ流し状態に。その結果、起きたのが、1971年のニクソンショックで、彼は金とドルの交換の停止、10%の輸入課徴金の導入等の政策を発表し、第二次世界大戦後の通貨枠組み:ブレトン・ウッズ体制を解体、世界の通貨体制を変動相場制に移行させたが、その後も米国の赤字基調は変わらず、1985年にはプラザ合意による大幅なドルの切り下げという事態に陥る。

貿易黒字を貯めこむ日本は、内需拡大を迫られ、その後、バブル経済が発生。1965年以降、日米貿易摩擦が発生し、製造業間の調整交渉が日米両政府によって重ねられてきたが、80年代後半以降、米国はトヨタの負け(製造業)をソロモン(金融業)で取り返す戦略に転換していく。日本が貯めこんだドルを米国債、株式に投資させることで儲けることにしたわけだ。この方式を新興国に当てはめ、始まったのが、資本の移動の自由を保障する現在のグローバル金融である。そして、グローバル金融を支えたのが、IT革命。つまり、賃金の安い新興国に米国企業が工場を作る投資をし、その製品を米国に輸出させた儲けは、米国の金融機関が吸い上げるという仕組みである。この仕組みを円滑に機能させるためには、米国のルール:新自由主義と新保守主義の思潮から作り出された価値観(ワシントンコンセンサス)をすべての国に受け入れさせる必要がある。

これが現在のグローバリズムの仕組みである。ここで、軍需産業維持のための戦争と価値観の押し付け外交が密接に結びついていくことになる。ルールを押し付けるためには、米軍が世界展開している必要があるからだ。しかしながら、2008年のリーマンショックでグローバル金融がうまく、機能しないことが露呈し、中央銀行による異常な金融緩和が始まったが、各国中央銀行の資産の異常な膨張を見れば、一目瞭然だが、現在、それもすでに限界に達している。

一番のポイントは、湾岸戦争以降、多くの「プアホワイト」という白人を含むアメリカの若者が戦死しているという事実であろう。(*不法移民は戦争に行かない。)トランプは米国の設立メンバーの子孫でありながら、貧しい生活に甘んじている、星条旗を愛している、息子たちが戦死した人たちに向けて本音で語っていることを私たち日本人も理解する必要がある。彼は、自分を支持する人々に仕事を取り戻すためにもう、海外からモノを買わないと宣言している。要するにもう、世界を席巻するメイドインチャイナは、買わないということだ。これが米中貿易摩擦である。

トランプは、国内問題を優先(アメリカファースト)する反グローバリズムの政治家なのである。

家族、宗教心に根ざす倫理がなければ資本主義は効力をなくし、腐敗していく

「今だけ、自分だけ、お金だけ」を優先する現在の新自由主義を基調とするグローバリズムは、起業の自由や資本主義というものは、宗教あるいは家族から発生する倫理を基盤としなければ機能しないという歴史的事実を無視している。このことは、有名なマックス・ウエーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」という本を読めば、よくわかるはずだ。日本でも<一生懸命働く勤勉さ>と<私より公を尊重する協調性>の根源を石田梅岩の石門心学に求めた山本七平氏の「日本資本主義の精神」とい
う本が資本主義と倫理の関係を明らかにしている。その意味でトランプが米国のキリス
ト教原理主義にきわめて近い人物であることも偶然ではないだろう。

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 日本資本主義の精神

ところで、トランプは4年間で成果を上げたのか

興味深い調査があるので、紹介する。

それは、2020年10月に公表されたギャラップの世論調査「2020大統領選概観」である。調査によれば、「4年前よりも今の方が暮らし向きは良い」と回答したアメリカ人は、56%にも及んでいる。これは、オバマ(2012年、45%)、ブッシュ(2004年、47%)、レーガン(1984年、44%)といった歴代大統領の再選時の数字を大きく上回っている。また、「大統領としてどちらに適性があるか」との問いにはバイデン49%、トランプ44%であったが、「どちらの政策に同意するか」の問いではトランプ49%、バイデン46%と、評価がまったく逆転していることにも注目すべきだ。

要するにトランプ政権は、「アメリカ国民の雇用の拡大」という、当初から最優先のものとして掲げていた公約を十分に達成していたということである。コロナ禍が顕在化する直前の2020年1月時点では、アメリカの就業者数はトランプ政権下で約700万人増加し、失業率は3.5%という、アメリカ経済の黄金時代であった1960年代末以来の水準にまで改善している。アメリカはトランプ政権の最初の3年間で、歴史上稀に見る「高雇用経済」を実現していたのである。その結果、巨大な財政赤字をさらに膨らませたことは事実だが、そんなことを一般有権者は気にかけるだろうか。

また、トランプは、公約通り世界に展開する米軍の規模を縮小させている。以下。

 

米軍、海外70基地を削減 世界41カ国に517 最多は日本の121

沖縄タイムズ2018年9月7日

【平安名純代・米国特約記者】米国防総省がこのほど公表した2017米会計年度基地構造報告書(16年9月末時点)によると、米国外にある米軍基地・施設数は計517で、前年度に比べて70削減されていることが5日までに分かった。07年度の米軍基地・施設数は計823で、10年間で37%減少したことになる。

同省が所有する基地・施設数は、米国内50州に4166(陸軍1588、海軍787、空軍1528、海兵隊172、ワシントン本部管理部91)、グアム準州など八つの米領に110(陸軍39、海軍62、空軍9)だった。

 海外の基地・施設数は、41カ国に517(陸軍199、海軍125、空軍170、海兵隊23)で、陸軍は前年度比で56減り、海軍は3減、空軍は12の減少となった。海兵隊は1増となった。

 海外で最も多いのは日本の121(前年度比1減)で、資産評価額は775億7270万ドル(約8兆6114億円)。

 次いでドイツの120(同61減)で評価額は517億8460万ドル(5兆7486億円)、韓国の78(同5減)で229億1140万ドル(2兆5434億円)などとなり、日本が数・資産価値ともにドイツを大きく上回っている。

 報告書は、米国防総省が会計年度ごとに米議会へ提出していたが、トランプ政権発足後は作業が遅れ、2年半ぶりの公表となった。

(引用終わり)

トランプが米軍を世界から引き揚げるという公約を忠実に守っていることがわかるだろう。

トランプ陣営が主張したバイデン陣営による大統領選挙不正とは

トランプ陣営は、民主党のバイデンが今回の大統領選挙で大規模な不正選挙を行ったと主張し、選挙の無効を訴えていた。その集大成と言えるのが、「選挙不正」徹底調査した「ナヴァロ報告書」である。経済学者・公共政策学者であるナヴァロ氏は2020年12月17日、記者会見を開き、「徹底した欺瞞 選挙違反の6つの局面」と題する合計36ページの調査報告書を公表している。(https://bannonswarroom.com/wp-content/uploads/2020/12/The-Immaculate-Deception-12.15.20-1.pdf

http://www.venus.dti.ne.jp/~inoue-m/el_2020pe_na.html#ny

今回の選挙の勝敗を分けたとされるアリゾナ、ジョージア、ミシガン、ネバダ、ペンシルベニア、ウィスコンシン計6州に焦点を絞り、いずれの州でも選挙運動から投票、開票、集計に至る各プロセスでバイデン氏を有利にする組織的な不正工作があったと断定し、不正の調査を求めたものである。トランプ陣営は米大統領選について多数の訴訟を提起し、多数の証拠(宣誓供述書など)を提出。しかし多くの裁判官は証拠を見ようともせず、当事者適格などの形式的要件で却下している。本来なら選挙の不正は、民主主義の根幹を支える一番重要なプロセスなのだから、マスメディアは、検証報道すべきだが、黙殺している。もし、ここに書かれていることが真実なら民主主義のプロセスそのものが死んでいると言えよう。

ところで私たちは、民主主義社会の概念を正しく理解しているのだろうか

 そもそも私たちが理解している民主主義社会の概念は、一般の人々が自分たちの問題を自分で考え、その決定にそれなりに影響を及ぼせる手段を持っていて、情報へのアクセスが開かれている環境にある社会ということであろう。今、私たちが知らなければならないのは、もう一つの社会を支配しているエリートが考えている民主主義社会の概念である。そこでは、一般の人々を彼ら自身の問題に決してかかわらせてはならず、情報へのアクセスは一部の人間のあいだだけで厳重に管理しておかなければならないとするものである。このような民主主義社会の考え方が17世紀に起きた英国の初期の民主主義革命との時から実行されてきたし、現在まで通用してきたことを私たちは、しっかりと理解すべき時を迎えている。このことを端的に説明しているのが、自由民主主義の思想家であったW・リップマンの名著「世論」(岩波文庫)である。是非、読んでいただきたい。

それでは、リップマンの考えを簡単に説明しよう。

彼は、社会における公益を理解して実現できるのはそれだけの」「知性」を持った「責任感」のある「特別な人間たち」だけだと考えていた。そこから彼は正しく機能している民主主義社会には、複数の市民階級が存在すると主張したのである。

第一の市民階級は、総体的な問題の処理に積極的な役割を担わなければならない。これは専門知識をもつ特別階級である。政治、経済、イデオロギーのシステムにおける諸問題の分析、実行、意思決定、管理する人々は人口の一部でしかない。彼は、それ以外の人々を「とまどえる群れ」と呼んだ。エリートは「とまどえる群れ」の横暴や怒号から身を守らなければならない。この「とまどえる群れ」である大衆の役割は、「観客」になることであって行動に参加することではない。これが<観客民主主義>というものである。

そうは言っても民主主義を標榜している以上、彼らの役割をそれだけに限るわけにはいかない。そこで彼らには特別階級の誰かに支持を表明することが許される。「私たちはこの人をリーダーにしたい」、「あの女性をリーダーにしたい」というような発言をする機会を与えられる。これが民主主義社会における選挙であり、それが終わったら、あとは観客に戻って傍観していればいいというのが、彼が考える正しく機能している民主主義社会の姿なのである。

そこには一般大衆の大部分は、愚かで何も理解できないという冷徹な認識がある。

そこで必要になるのが、「合意のでっち上げ」、「納得の創造」である。

そのためにメディアと教育機関と大衆文化は切り離しておかなければならない。政治を動かす階級と意思決定者は、ある程度、そうしたでっち上げに現実性を持たせなければならず、それと同時に大衆がほどほどにそれを信じこむようにすることも必要だ。

そのために考え出されたのが組織的宣伝であり、プロパガンダの手法だ。

冷戦後、元々、軍事技術であったインターネット技術の公開によって情報機関等は、個人情報を安易に収集することは可能になったが、その一方でいろいろな個人が、自由に情報発信ができるような環境が整備された結果、マスメディアによる「納得の創造」が以前に比べると格段に難しくなってしまったのである。そのことを物語っているのが既存メディアに対する信頼度の低下である。以下の資料を見ていただきたい。

*メディアへの信頼度が高いだけに世論誘導されやすい日本


<新聞・雑誌やテレビといった主要メディアへの信頼度は、欧米諸国と比較して格段に高い>2015年10月27日舞田敏彦(教育社会学者)(ニューズウイーク)より引用。

日米メディア信頼度2015年(ニューズウイーク)

少々古い資料だが、アメリにおいてはマスメディアを使って世論をコントロールすること自体がもはや、難しくなっていることが一目瞭然である。

ここで少し考えていただきたい。

マスメディアを使って、大衆に対して、W・リップマンのようなエリートが考えた「納得の創造」ができないなら、彼らはどのように考え、行動するだろうか。

ある意味、今回の大統領選挙で暴露されてしまった大規模な選挙不正は、大衆に対する「納得の創造」に失敗すれば、次に彼らが取る必然の手段だと考えるべきではないだろうか。

エリートを自称する人々は、大衆、すなわち、「とまどえる群れ」に本当の決定権を持たせてはいけないと確固たる信念を持っているのだから、そう行動すると考えるのが自然である。その意味で、トランプはアメリカ政治史に時々、登場する、エリートが毛嫌いする、ヒューイ・ロング(ルイジアナ州において絶大な人気と権力を集中させ、ルイジアナ州知事と連邦上院議員を務めた(1893~1935))のような民衆の味方であるポピュリストの政治家なのである。

<参考資料>


*現代ビジネス2021年2月14日号

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/80172

「アメリカ人だからこそ言いたい、この大統領選挙には納得できない」

~真の問題はメディアとの深すぎる癒着~ロバート・D・エルドリッヂ政治学者


フェイスブックやツイッター がトランプ陣営の発信を制限した結果、「検閲なし」SNSが大盛況に

「パーマー」と「ランブル」は、アメリカの保守派の間でツイッターやYouTubeに代わるソーシャルメディアとして現在、急速に人気が高まっており、トランプ陣営の発信を掲載し、その視聴回数は数百万回にものぼっている。まだ、大きな変化はこれからだろうが、ソーシャルメディアのプラットフォームもこれから大きく変化しそうな兆しが見えている。トランプ自身も独自のメディアを立ち上げると明言していることにも注目すべきであろう。現在、クラブハウスというSNSがブレークし始めているが、今回の大統領選挙でグーグル、フェイスブック、ツィーターの一人勝ちの時代は、意外に早く終わるかもしれないという現象が起きたことも興味深い。

何れにしても今回の米国大統領選挙の一連の出来事が明らかにしたことは、大きく社会が変化する時には、すでに既得権益者に組み込まれてしまっているマスメディアもソーシャルメディアも機能しないということである。

たしかにトランプは一端、その戦いからは、身を引いたが、今も米国では、大衆とイスタブリシュメントとの戦いは、続いていることも忘れてはならないだろう。それは、上述した、大衆が自分たちの問題を自分で考え、その決定にそれなりに影響を及ぼせる手段を持っていて、情報へのアクセスが開かれている環境にある、本当の民主主義社会を実現するための戦いでもある。

 また、リーマンショック以後のグローバル金融を世界各国の中央銀行が異常な金融緩和で支え続けてきたが、それも限界にきていることを再度、指摘しておきたい。

 そう言えば、ソビエト連邦崩壊前の東ドイツ国民は、自国がなくなってしまうことを想像することもできなかったようである。

偽りの現実の賞味期限が迫っている。


*一年前には、誰も予想できなかったベルリンの壁崩壊

ベルリンの壁崩壊

10月16日公開のアニメーション映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が、もはや社会現象と呼べるほどの記録的大ヒットとなっている。

先日、やっと、この映画を見ることができたが、大人でも十分、楽しむことができる作品に仕上がっていることを確認することができた。今まで更新不可能と言われていたあの宮崎駿氏の「千と千尋の神隠し」(2001年)の歴代最高興収308億円を超えるのもほぼ、間違いないようである。

コロナ禍の中でこれだけの数字を上げていることにやはり、注目すべきであり、特筆すべき社会現象が日本に起きていると考えるべきであろう.                                                                                                                                                                                               鬼滅の刃

 物語の舞台は大正時代、平穏につつましく生きる一家の長男である竈門炭治郎が炭売りから家に戻ると、家族は「鬼」に惨殺され、唯一の生き残りである妹、禰豆子(ねずこ)は鬼となっていた。最愛の妹を人間に戻すため、そして一家の仇を討つため、心優しい炭治郎が鬼狩りの道へと進んでいくという、ある意味、荒唐無稽な話である。

登場する鬼とは、元々、人間であり、人を食らうことで生命を繋ぐ生き物となってしまったものたちのことである。鬼は、不老不死であり、超人的な身体能力や怪力を持っている。中には特異な能力<鬼血術>を使う者もいる。彼らの弱点は、太陽光と首を斬られることである。この辺の設定は、伝統的な吸血鬼の物語を踏襲しているので、受け入れ易いのではないかと思われる。

今回の映画では登場しないが、鬼のラスボスが鬼舞辻無惨 (きぶつじむざん )であり、鬼の始祖とされている。自身の血を与えることで人間を鬼に変えられる唯一の存在であり、炭治郎の妹である禰豆子を鬼へと変えた張本人である。元々、彼も人間で、とても病弱であった彼は一千年ほど前に医者の薬で鬼になってしまったとされている。

炭治郎たちの最終目標は、このラスボスである鬼舞辻無惨を倒すことである。これが物語の骨格である。

 それでは、なぜ、この物語が特にこの映画がこれほど、多くの子供から大人までの共感を生んでいるのか、考えてみよう。

今回、公開された無限列車編の映画は、鬼を退治する鬼殺隊の柱(「鬼殺隊」において、最高位に立つ九人の剣士のこと。)である煉獄杏寿郎(れんごくきょうじゅろう)の物語である。

多くの識者が指摘しているが、この映画が訴えているのは、「強いものは弱いものを守るべきだ」というあまりにも単純な理想である。

物語を読んでいけば、すぐにわかることだが、この漫画が描く鬼舞辻無惨を頂点とする鬼の社会は、新自由主義の市場原理が支配する、より強くなるためには人の命など、実際にはどうでもいいと思っている、「今だけ、自分だけ、お金だけ」の現代社会そのものである。その中で、「お前が強く生まれたのは、弱い人たちを守るためだ」という、母の教えを利己主義の鬼側ではなく、利他主義の人側に立って頑なに生きようとする煉獄杏寿郎の生き様がこの映画のなかで異様に光り輝いて見える仕掛けになっている。それは、私たち一人一人が本当は、<世のため、人のために生きたい>という思いを現実社会に適応するために抑えているが、誰もが持っているからであろう。

 ところで、安倍総理の突然の辞任で今秋、首相に就任した菅義偉氏は、「自助、共助、公助」という政策理念を掲げ、あの竹中平蔵氏をブレインに新自由主義路線をコロナ禍の中で貫徹しようとしている。

この「自助、共助、公助」という言葉が最初に使われた政府関係文書は、平成バブルが崩壊した1994年の「二十一世紀福祉ビジョン」(1994年3月、厚生労働大臣の私的懇談会である「高齢社会福祉ビジョン懇談会」によってだされた提言。21世紀の少子・高齢社会における社会保障の全体像や、主要施策の基本方向、財源構造のあり方などについての中長期的な方向性を具体的・定量的に示した。)であった。

このような提言がなされた背景には、バブル経済の崩壊があり、日本型の土建国家モデル、無償で受けられる福祉サービス(現物給付)より所得の確保(現金給付)を優先させたモデルの崩壊がある。この頃からセイフティーネットの議論がさかんになるが、実際にはセイフティーネットが整備されないまま、規制緩和が米国の圧力を受けた新自由主義者によって進められてしまったのが日本の現実である。その意味で先進国のなかで突出した自殺者が多い国に日本がなっているのも当然なのである。

要するに現在、日本という国においては、「自助、共助を基本として、その残りの部分を国が担う」という弱者切り捨ての発想で福祉政策が進められていると考えるべきなのだろう。

考えてみれば、渡部昇一氏のような論客がサミュエル・スマイルズの「自助論」を紹介して自己責任論が持てはやされるようになったのもバブル経済が終焉した頃からである。

自助論

その結果、現在、公の責任は限りなく曖昧なものになってしまっている。

いまだに勘違いさせられている人もいるが、元々、消費税は社会保障給付費の持続性を確保する名目で導入され、その後、何回か税率が引き上げられてきたが、実際には法人税と所得税の穴埋めに使われて大企業や富裕層が恩恵を受けているに過ぎないことが明らかになっている。

 以上のことを少し考えればわかるが、私たちは、この漫画が描く鬼社会の組織原理で生きることを余儀なくされているのである。だから、私たちはこの映画を見て今の社会で失われてしまった「強いものは、弱いものを助けるべきだ」という煉獄杏寿郎の力強いメッセージに共感してしまうのだろう。ただ、これほど、この映画が大きなヒットになったことは、今のままの社会では、いけないという思いを多くの日本人がまだ、持っているということも意味している。それがアフターコロナの社会を築いていく上で、これから大きな意味を持ってくるのではないか。

そう言えば、フランスの碩学、ジャック・アタリ氏が興味深いことを述べていたので引用させていただく。以下。

「命の経済」に転換へ国際社会は総力を 仏経済学者ジャック・アタリ氏

2020年7月26日(東京新聞)

世界で甚大な被害を引き起こしている新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、社会生活を大きく制限した。以前から新たなウイルスの大流行に警鐘を鳴らしてきたフランスの経済学者で思想家のジャック・アタリ氏(76)は社会の準備不足を懸念、命を重視した経済システムへの転換を訴える。(聞き手=パリ支局・竹田佳彦)

ジャック・アタリ

◆保健分野への準備不十分

 2016年の著作で、新しいタイプのインフルエンザが明日にでも流行する兆しがあると指摘した。世界は気候変動の危機に加え、疾病大流行のリスクがあるが、準備してきたとは言い難い。とりわけ欧州は、米国に比べても保健分野への投資が不十分だった。今後も温暖化によって蚊が大量発生すれば、新型ウイルスが大流行しかねない。

 今回の新型コロナでは、中国当局による感染者数の公表に疑問も残るが、世界が大損害をこうむったのは間違いない。一方、韓国は15年に流行した中東呼吸器症候群(MERS)を教訓に疾病管理本部を強化し、流行後の管理態勢を整備した。今回の対策の成功例といえる。

 感染実態を把握する検査とマスク着用を徹底し、感染者が出た際には行動確認をする。ロックダウン(都市封鎖)ではなく、韓国式対策をしていれば、各国は経済的、人的にも被害を抑制できただろう。これまでは自動車や航空、化学などの産業が重視されてきたが、見直す時が来た。医療衛生や教育、研究、食糧…。今後は命に関わる分野を重視した「命の経済」を目指す必要がある。

◆欧州、経済・医療で強い連帯

 パンデミック後の世界秩序をめぐり、感染の広がった欧州で中国が存在感を高めたといわれる。だが、それは誤りだ。確かに各国に医療支援はしたが、マスクなど象徴的な物資を少々送った程度で、政治的な打算が働いたやり方だ。

 欧州には非常に強い連帯があった。欧州中央銀行(ECB)は量的金融緩和政策を拡大し、各国経済を支援。フランスの患者をスイスやドイツが受け入れるなど、各国は医療でも相互に協力した。7500億ユーロ(約92兆円)規模の復興基金も動き始めている。自然なやり方で助け合っており、中国の影響力が強まったとはいえない。

 国際社会の中で、中国は米国の代わりにはなり得ず、将来の超大国でもない。国の指導者に対する表現の自由がない国は真の超大国ではないし、恐怖政治で国は良くならない。崩壊したソビエト連邦は軍事大国以上でも以下でもなかった。

◆超大国は存在しなくなる

 中国は独裁国家であり、世界に示せるモデルも持っていない。自国民を養うという強迫観念にとらわれて食糧の入手先を血眼になって探している。太平洋の支配をもくろむが、ベトナム、カザフスタン、ロシアなど周辺国は中国に対して疑心暗鬼だ。地域ですら覇権を握れていないのだ。

 とはいえ、今後は米中の二大国が併存する世界になる。日本や欧州、世界的な大企業は一大勢力かもしれないが、超大国は存在しなくなる。あえて巨大な勢力があるとすれば、自然だ。人類を圧倒するほどの力を持っているのだから。

 米中対立が深刻化する中、これからは13世紀以降初めてリーダーがいない世界になる。世界秩序はなくなり、ますます分裂していく恐れがある。

◆利己的な利他主義が鍵

 私が今後の世界で鍵となると考えるのが「利他主義」だ。他人のために尽くすことが、めぐりめぐって結局は自らの利益になる。

 例えばマスクを考えてみよう。他人を感染から守るために着けるが、同様に他人も着ければ自分の身を守ることにつながる。「利己的な利他主義」の好例だ。自らに利益がなければ、人は利他的になりにくい。外出制限は利他主義の対極にある。自己の中に閉じこもるだけの愚策であり、経済危機も引き起こした。

 パンデミック後の世界は他者としての将来世代の利益を考慮しなければならない。何が将来世代にとって重要なのか。政治家らも考える時だ。

 人類の安全保障や将来のため、生活のあり方や思考法を変えて「命の経済」に向かわなければならない。新型ウイルスに限らず、気候変動による危機なども叫ばれる中、国際社会には総力を挙げた取り組みが求められている。

(引用終わり)

 アタリ氏が言うようにこれからコロナ以後の世界で鍵となるのが「利他主義」なのである。

「今だけ、自分だけ、お金だけ」の社会から他人のために尽くす社会への転換が求められていることを象徴する社会現象が「鬼滅の刃」の大ヒットだったのではないだろうか。少なくとも私たちがそういった社会への憧憬を抱いていることだけは間違いないだろう。

今から百年以上も前に詩人、石川啄木が時代閉塞の状況を次のように嘆いている。

「我々青年を囲繞(いぎょうする)空気は、今やもうすこしも流動しなくなった。強権の勢力は普(あまねく)国内に行わたっている。現代社会組織はその隅々(すみずみ)まで発達している。――そうしてその発達がもはや完成に近い程度まで進んでいることは、その制度の有する欠陥の日一日明白になっていることによって知ることができる。」

 そして今も、あの小泉純一郎氏によって顕著になった「テレビ型劇場政治」の展開が続く中で “本当の価値”、簡単な言葉でいうと生死にかかわる選択の問題は、311という戦後日本の大きな節目を告げる事件があったにもかかわらず、ある意味、現実逃避の東京オリンピック騒ぎのなかでかき消されていき、直感的、直情的、非論理的、扇動的な政治が、今も展開され続けている。2011年3月11日に発令された「原子力緊急事態宣言」は、いまだに解除されていないのだが、多くの国民はそのことさえ、忘れてしまっている。

さらに驚くべきことは、コロナパンデミックによって東京オリンピックの開催がほぼ、絶望的になったにもかかわらず、今回の都知事選挙の結果を見れば、明らかなように日本社会全体が現実逃避の現状維持の選択を許容し続けていることである。

全く未来の展望が見えない時代閉塞の状況にあるにも関わらず、それを認めたくない空気が日本社会に蔓延しているのである。世界的なコロナ危機が襲い、世界全体の経済システムが大きく変わろうとしているにも関わらず、諦められないカジノ誘致、万博誘致、リニア新幹線。

おそらく、それらは、私たち多くの日本人が、あの平成バブルの時代に戻れる、<ジャパンアズナンバーワン>の幻想に耽ることができるから今も取り上げられているのだろう。それは、明らかに厳しい現実を直視したくない、大きな時代の変化を認めたくない気持ちが生む現実逃避である。

 なぜ、私たちはこんなにも惨めな現実にしがみ付きたいほど不安なのか

それは、私たちが簡単に明るい未来を展望できない状況に陥っているからだ。

ちょっと、振り返ってみればわかるが、戦後日本経済のピークは1980年代でその経済膨張は、結果的にはバブル経済を生み、バブル崩壊に到る。その結果、終身雇用と年功序列を基本とした日本型経営は完全に過去のものになり、戦後、高度成長によって創られた企業と個人の幸福な関係は、あっという間に終焉を迎えてしまった。

実際、日本企業の業績を見ると興味深い事実が浮かび上がってくる。

日本企業の売り上げは、1990年代前半にピークを迎え、その後は全く増えていないのだ。バブル期の売上高のピークは、1991年度の1475兆円。これに対し、2017年度は1554兆円と全体で5%も伸びていない。要するに日本企業の売上高は、30年近く、ほとんど伸びていないのである。それにもかかわらず、企業の経常利益は、バブル期のピークである1989年度の39兆円に対し、2017年度は84兆円と215%も伸び、過去最高益を更新している。

このことは何を意味しているのか。

グローバリズムの進展がもたらした株主優先資本主義路線に従って、企業経営者は、労働分配率を、給与カット、非正規雇用の活用によって大幅に圧縮し、売上高が上がらなくても利益を出せるようにしたことを如実に物語っている。

実際、この間、日本企業の外国株主比率は上がり続けているし、また、この間、日本企業は、中国が上位10社のうち4社を占め、韓国のサムソンが4位に入り、日本はソニーがやっと10位に入っている現在の5Gの特許件数を見ても分かるように、独自製品やイノベーションにも大きく遅れを取ってしまったので、企業利益を、ほとんど労働分配率を下げることによって出してきたと言っても過言ではないだろう。その象徴がリストラの神様であった日産のカルロス・ゴーンである。その意味でカルロス・ゴーンの逮捕劇、海外逃亡は、大きな時代の変化を象徴する事件であったと言えよう。

普遍的職業の消滅=サラリーマンの終焉

現在の日本社会においては、今までは安心で確実な選択であるはずの高学歴、大企業、東京暮らしを手に入れても必ずしも安心が手にはいることにはならない。今回の新型コロナパンデミックがそのことをはっきりと浮かび上がらせている。

かつて精神科医の中井久夫氏が「現代中年論~<つながり>の精神病理」(ちくま学芸文庫)のなかで「ある気質、ある特性、ある特異性、ある個性、ある特技のなどの持主でなければ就けないという職業でなく、普通の人が青少年期という自己決定の時期において、やけつくほどになりたく思うものがない場合に選択する職業であり、多くの性格や好みや希望や安定性をそれぞれの形である程度実現する基盤になりうるもの」として<普遍的職業>というものを定義した。日本ではいわゆるサラリーマンが高度成長期を経てこの普遍的職業になったのであるが、バブル崩壊とともにそういう時代は終わり、特技のないものには、働く場がなくなりつつあり、コンビニのような特別な技能を有しない水準のサービス業しか仕事がない時代を迎えてしまったのである。そう言った意味で、普通の人にとって、これほど、生きにくい時代はないと言えよう。

日本のように完全雇用を実現させることによって、その稼ぎをセーフティーネットとしてきた社会では、その稼ぎが不安定になれば、社会のセーフティーネットそのものが完全に空洞化してしまうのである。日本の先進国の中でも突出して高い自殺率がそのことを如実に物語っている。

 コロナ危機は大都会から移住を促す

コロナ危機が起こる以前から若者たちの間に田舎暮らしが憧れとなり、実際に移住したり、都心で働いて週末だけ田舎で暮らす二地域居住が小さなブームとなっていたが、今回のコロナ騒動は、その動きをもっと大きなものにしていくことは間違いない。

地方圏の移住相談窓口を持ち、移住相談会を実施している東京有楽町の「ふるさと回帰支援センター」のセミナー等の参加者数は、2012年には4058人、2018年には4万人を超えている。コロナ騒ぎの後の現在は、予約制になるほどの盛況ぶりである。

興味深いのは、田舎を目指す若者たちが起業、多業、兼業、複業で生計を立てているということだろう。彼らはかつての普遍的職業であったサラリーマンをやって生きていこうとは全く思っていないのだ。新しい地方づくりを考える政治家は、この点に改めて注目するべきだろう。

私たちに必要なのは次の社会の物語だ

日本の長い歴史を振り返ってみればわかるが、日本では、この国独自の<伝統>と海外からもたらされた<未来>とが出会ったときに真に新しいものが生まれている。

たとえば、1万年以上、続いた<世界で最も豊かな狩猟採集社会>であった縄文社会は、存続の危機に瀕した時、渡来人がもたらした米づくりとモノづくりの文化を取り入れ、融合することで独自の水田稲作文明を作り上げた。また、約3000万人が、山水の自然の恵みだけを元手に生活した江戸時代に熟成させた技術や文化が、西洋の近代科学技術と融合することで、世界最高水準のモノづくり産業が生まれている。

 そういった意味で、アフタコロナの日本の新しい物語は、一見、何もかもあるように思われる東京のような大都会ではなく、自然豊かな日本の伝統を残す地方から第四次産業革命(デジタル技術革命)を起こすことによって生まれてくる可能性がきわめて高い。

なぜなら、既存の技術設備がない、自然が豊かな小規模の地域の方が新しいデジタル技術の試行錯誤をしやすいからである。

その意味で、今秋の豊橋市長選においてこの地域にふさわしい新しい豊橋、東三河の物語を市長選に挑戦する政治家が語ることができるかに私たちは、注目すべきだろう。

私たちが一番、聞きたいのは、この時代閉塞の状況を打ち破る地方発の新しい物語なのだから。

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