2005年にNHKのBS-1においてBBC(英国)で2004年に制作されたドキュメンタリー番組「テロとの戦いの幻想」 The Power of Nightmares (3回シリーズ)が放送された。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/programmes/3755686.stm

ところで、この番組の主題は「アルカイダなどという組織が体系立ってテロを実施することは有り得ない」(ただし、ネオコンとイスラミストは存在する)というユニークな視点で制作されていた。

ネオコンとイスラム原理主義は一つの点で共通しているとこの番組は言う。過ぎ去った日の理想である。現実への妥協ではなく、あくなき理想の追求、これがまた悲劇を生む。このことは、『神々の軍隊』で描かれた2・26事件の皇道派の青年将校の悲劇を考えてみればあまりにもはっきりする。彼らは原理的には、正しかったかも知れないが、魑魅魍魎の戦争期の「悪の論理」に叩きつぶされてしまった。

その点でイスラム原理主義とアメリカのネオコン派は同じなのだが、決定的に違うのはアメリカのネオコンが、「嘘でも良いから一般大衆の信じることができる大義をでっち上げろ!」=「高貴なる嘘をつくれ!」と考えていることだろう。

ところで、この考え方の主導を行ったのが、アメリカの政治哲学者のレオ・シュトラウスであった。この番組では、シュトラウスが、勧善懲悪の西部劇テレビ番組をこよなく愛好していたこと、弁護士ペリー・メイスンを愛好していたことなどを例に挙げながら、「シュトラウスは政治的なコメンタリーもほとんど一切残さなかったが、堕落したアメリカの大衆に対して、今一度“神話”を作り出す必要がある、と考えていたと主張している。

このシュトラウシアンのネオコン源流説をここまで判りやすく解説したのは今回の番組が初めてであろう。このシュトラウスの言う“神話“のことを、「高貴な嘘」という。

 もともと、「高貴な嘘」(ノーブル・ライ)という概念はプラトンの「法律」という本に書かれていたものだ。悪意で解釈すれば、「嘘も100回言えば真実だ」(ゲッペルス)ということだ。善意で解釈すれば「子供には神話を最初に教える必要がある。ある程度物が分かるようになってから科学を教えても遅くはない。それが教育的な配慮だ。」と言うものである。大衆を騙すのは権力者にとって必要悪?であるという考え方である。

残念ことだが、権力者が大衆を騙すのは、政治の世界では、いつの時代でも当たり前の話だ。だからこそ、政治家の評価はその政治家の人格を基準にするべきではなく結果としてどれだけ国や地域を豊かにしたか、それを基準とすべきだということになるのだろう。本当の事を言ってしまえば、政治というものは、結果責任がすべてなのであろう。

 要するに米国の支配者たちは、キリスト教原理主義者やネオコンにとって真理だと思えるものが、すなわち「真理」だということにしたかったということだ。もちろん、それは他の人々にとっては真理ではない、ただの妄想である。アメリカの市場原理主義もこのような「高貴な嘘」に基づいている。政治家が国民を騙すのはいつも当たり前の話であるというのが、このBBC番組のテーマでもあった。

そして、この番組はアルカイダなんて言う組織は幻想だと堂々と主張して、イギリスのドキュメンタリー賞を受賞したのである。

ところで、現在の朝鮮半島を巡る情勢、普天間基地問題、イラン経済制裁問題には、どんな高貴な嘘が隠されているのだろうか。

日本のマスコミでおそらく、一番欧米のエリートの意志を伝えているメディアは、ダイヤモンド社ではないだろうか。そこで、ダイヤモンドオンラインから、特別レポートを引用し、分析してみよう。



(引用)

ホワイトハウス国家安保会議の元アジア部長が見た

北朝鮮魚雷攻撃の真相と戦争の本当の可能性

2010年6月1日

~ビクター・チャ 元ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)アジア部長に聞く 123韓国哨戒艦の沈没事件に北朝鮮が関与していたことが明らかとなり、朝鮮半島の緊張がにわかに高まっている。北朝鮮の魚雷攻撃の背景には何があるのか、韓国との武力衝突の可能性はあるのか、米国や中国はどう出るのか、日本は何をすべきか…。ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のアジア部長を務めた経験を持つビクター・チャ・ジョージタウン大学教授に聞いた。

(聞き手・ジャーナリスト 矢部武)

ビクター・チャ Victor Cha)プロフィール

現在はジョージタウン大学アジア研究プログラムのディレクター。戦略国際問題研究所(CSIS)の上級研究員を兼務。米国の対アジア外交、アジア研究の第一人者。2004年から07年までホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)アジア部長として、対韓国・北朝鮮・日本などの外交政策に携わる。また、北朝鮮核問題をめぐる6カ国協議の米次席代表を務める。英オクスフォード大学で政治学修士号、コロンビア大学で博士号を取得。著書に”Nuclear North Korea: A Debate on Engagement Strategies”(2003)、”Alignment Despite Antagonism: The U.S.-Korea-Japan Security Triangle”(1999)などがある。

国際軍民合同調査団は「韓国哨戒艦の沈没を北朝鮮の魚雷攻撃によるもの」と結論づけたが、北朝鮮が軍事挑発を行った本当の狙いは何か。

一つは2009年11月に黄海で起きた南北艦艇銃撃戦の報復であろう。北朝鮮の警備艇が韓国側領域に侵入したため韓国軍艦艇と撃ち合いになり、北朝鮮側の兵士数人が死傷した事件である。

もう一つ考えられる理由は、韓国の李明博政権に対する威嚇だ。北朝鮮は、李政権が太陽政策を実利・相互主義に転換したことに強い不満を持っている。李明博大統領はビジネスマンとして大成功した人物であり、対北政策もビジネスの論理で考える。つまり、北朝鮮に無条件の援助や投資を行なうのではなく、条件付きできちっとリターンを求めるということだ。その前の10年間、太陽政策のもとで寛大すぎる援助を受けていた北朝鮮にとって、李明博政権の政策は我慢できないだろう。そこで李政権を威嚇し、対北政策を転換させようと考えたのではないか。

米朝会談の行き詰まりを打開する狙いもあったのか。

それはないと思う。実はこの事件が起きる(326日)直前、米国政府はニューヨークで行われる予定の専門家会議に出席する北朝鮮代表のビザ発給を認めた。ところが北朝鮮が韓国艦を撃沈したことで、ホワイトハウスはビザ発給を停止してしまった。この会議が米朝会談への道を開く可能性は大いにあったわけで、北朝鮮はそのチャンスを自ら潰してしまったのだ。

北朝鮮は韓国と戦争する気はあるのか。

戦争する気はないと思う。ただ、北朝鮮は緊迫した状況を作り上げ、それを外交の道具にしたいだけだろう。平和を脅かすような状況をつくり、「我々の要求を受け入れなければ平和を維持できなくなる」と脅して自らの利益を得ようとする。恐喝と同じ手法である。

もし南北で戦争になったら、結末はどうなるか。

戦争になれば、韓国・米国側が勝利することは間違いないだろう。しかし、朝鮮半島は火の海となり、南北双方とも計り知れないダメージを受けることになろう。従って、戦争は誰も望んでいないはずだ。

北朝鮮は韓国側との「全ての国交を断絶する」と宣言したが。

北朝鮮は韓国側の対応策に反応しているだけだ。韓国が「開城工業団地を除いた南北経済協力事業を中止する」と発表したため、「それなら我々は全ての国交を断絶する」とエスカレートする形で応じたのだ。今のところ北朝鮮は開城工業団地の韓国政府職員を追い出したが、労働者は追い出していない。

北朝鮮は本気で国交断絶するつもりはないと。

これまでのところはそう見える。しかし、この緊張状態を過小評価することはできない。朝鮮半島はいま、非常に緊迫した状況にある。北朝鮮の軍隊は厳戒態勢に入っているだろうし、韓国海軍も米軍との合同演習を始めた。

制裁を行う場合も北朝鮮を抑え込むために十分強力でなければならないが、強すぎると北朝鮮を戦争に追い込むことになりかねないので慎重にしなければならない。

韓国は国連安保理で北朝鮮への追加制裁を求めたが。

適切な対応だと思う。北朝鮮の魚雷攻撃は明らかに休戦協定違反であり、国連安保理は北朝鮮制裁決議を行うべきだ。そのためには中国の協力が欠かせないが、北朝鮮の関与を示す証拠が出た後も中国は慎重な姿勢を崩していない。クリントン国務長官が今回の中国訪問でどれだけ成果をあげられたかにかかってくると思う。

国連安保理の追加制裁が行われるとすればどのようなものになるか。

おそらく前回の北朝鮮制裁1874号(2009年5月に行われた北朝鮮の核実験に対する決議)より厳しいものになるだろう。金融取引の禁止や関連口座の凍結など金融制裁の他、武器輸出禁止なども含まれるのではないか。

安保理の制裁決議案が採択されない場合、米国はどうするか?

米国は北朝鮮の“テロ支援国家”再指定を検討している。国際軍民合同調査団の報告書が出た後、約20人の上院/下院議員が北朝鮮を非難し、韓国を支持する内容の声明を出したりと、連邦議会では再指定を求める声が高まっている。

日本はどうすべきか?

朝鮮半島の緊迫状態は、日米韓3カ国の安全保障協力を強化する良い機会ととらえることもできる。鳩山政権は安全保障問題に焦点をあて、韓国、米国との連携強化に取り組まざるを得ないだろう。3カ国の連携強化は結果的に中国に対し、北朝鮮に断固とした対応をとるよう圧力をかけることになり、問題解決に役立つ。

沖縄の米軍基地は東アジアの安全保障にどれほど重要か。

沖縄の基地は日米同盟のシンボル的な存在になっており、非常に重要だ。とくに最近は普天間基地移設問題を巡る日米間の摩擦もあり、沖縄の基地は近隣諸国からは日米同盟の強さと弱さを示す指標のように見える。鳩山政権は普天間問題で迷走したが、韓国哨戒艦事件が起きたことで東アジアの安全保障と日米同盟の重要性を再確認したのではないか。

(引用終わり)

普通に読んでいただければ、すぐ、わかるように今回の事件は北朝鮮にとって何のメリットもないことをホワイトハウス国家安保会議の元アジア部長ビクター・チャ 氏もはっきりと認めている。また、北朝鮮ははっきり、戦争をする気はないとも言っている。そして、万が一戦争になれば、韓国・米側が勝利するとも明言している。

考えてみれば、現在、中国は、国威発揚をかけて上海万博を開催している。大阪万博の動員記録を超える入場者数、7,000万人以上を目指しているようだ。また、北朝鮮は、その中国から石油、穀物の援助がなければ、生きていけない国である。

中国が望んでいるのは、上海万博の成功である。そのためには半島情勢が平穏無事であることを望んでいるはずだ。今、北朝鮮に騒ぎを起こして欲しくないのである。

ご存じのように、将軍様、金正日氏は脳梗塞、もしくは脳卒中で左半身か、右半身に麻痺症状が残っている。こんな時に、よりによって戦争の危険があるような挑発行動を自国の軍に命じるだろうか。不可思議である。ビクター・チャ氏は、インタビューに答えて「鳩山政権は普天間問題で迷走したが、韓国哨戒艦事件が起きたことで東アジアの安全保障と日米同盟の重要性を再確認したのではないか。」と念押ししているのも興味深い処である。すなわち、今回の事件で一番得をし、多くのカードを手にしたのが米国なのである。普天間基地移転問題で駄々をこねている鳩山政権に朝鮮半島で有事が起きた場合に米国は日本を守ってやらないという脅しのカード、在韓米軍が2012年に撤退する韓国には、改めて米軍の存在感を示すカード、上海万博を成功させたい中国には、人民元切り上げを迫り、米国債を売らせない圧力をかけるカード、このように考えていくと米国を利することばかりである。

アガサ・クリスティーの推理小説なら、これで、犯人は決まりなのだが、

ところで、国際ニュース解説の田中 宇氏も興味深い分析をしている。

(引用)

「韓国軍艦沈没事件その後」

2010年5月31日  田中 宇

5月20日、韓国海軍の哨戒艦(コルベット)「天安」が3月に沈没した事件について、韓国と米英豪スウェーデンで構成する「軍民合同調査団」が調査報告書を発表した。調査団は、5月15日に沈没現場の近くで漁船が引き上げたとされる魚雷の残骸を公開し、北朝鮮が発行したとされる魚雷のパンフレットや設計図と、魚雷の残骸が「酷似している」ことから、天安艦は北朝鮮の小型潜水艇が発射したその魚雷によって撃沈されたとの結論を発表した。この発表を受け、日米韓などのマスコミは「これで北朝鮮の犯行が確定した」と報じた。日本では、ほぼ同じタイミングで鳩山首相が普天間基地の沖縄県外移転をあきらめたので、米国などでは「朝鮮半島が戦争になりそうなので、鳩山は、沖縄の米軍基地の県外移転は無理だとの判断に転じたようだ」という分析が出ている。

北朝鮮政府の国防委員会は5月28日、平壌で記者会見を開き「北朝鮮は天安艦を攻撃していない。米韓の調査報告は作り話だ」と発表した。北の国防委員会は金正日が委員長で、北朝鮮で最も強い権力を持つ。この委員会が記者会見をするのは珍しい。記者会見は、平壌に駐在する各国の報道機関と外交官が招待され、全編が国営テレビで実況中継された。5月30日には、平壌で10万人の市民を動員した韓国非難の集会が開かれた。

他の国々の政府が、自国に対する疑いをこれだけ強く否定すれば、世界のマスコミに「韓国の方が捏造しているのかも」という論調が出るだろう。だが、北朝鮮は札付きの風変わりな独裁国家なので、日米では「また北は、おかしなやり方でウソをついている」という報道が主流だ。「金正日は、息子の金正雲に後継したいので、北の国内を結束させようと、天安艦を撃沈した」といった「解説」も流布している。

とはいえ、韓米英豪の調査報告に対して疑問を呈しているのは北朝鮮だけではない。ロシアの外務省は5月27日に「北朝鮮が天安艦を撃沈したのだと100%考えられる証拠が出てこない限り、この件で国連が北朝鮮を制裁することにロシアは賛成できない」と発表した。ロシアはその前日、ソウルに専門家団を派遣し、韓国政府や在韓米軍に接触する独自調査を開始した。ロシアは、米英韓の調査報告に納得していない。

調査結果に疑問を呈する中露

5月29日、韓国で日中韓の定例首脳会議が開かれ、出席した中国の温家宝首相は、韓国の李明博大統領から、天安艦問題で北朝鮮の肩を持たず、韓国に味方してほしいと要請された。これに対して温家宝は「天安艦を沈没させたものが誰であれ、中国はその犯人を擁護しない」「朝鮮半島の平和と安定を破壊する者は許さない」と述べた。マスコミはこの発言を「温家宝は北朝鮮を擁護しないと言った」という意味に受け取り「温家宝は、まさに李明博が望んでいたコメントをした」と報じられている。

しかし同時に中国側は、温家宝の訪韓直前に中国で開かれていた「米中戦略対話」の席上、米国に対し「国際社会を納得させるためには、韓米英豪の側だけで天安艦沈没の調査報告をするのではなく、北朝鮮の代表団も入れて、南北合同の調査団を結成するのが良い」と提案したと報じられている。この件について何の続報もないので、おそらく米韓の側は、中国の提案を受け入れなかったのだろう。

こうした提案をすること自体、少なくとも中国政府は、国際社会が韓米英豪の調査報告に対して納得し切っていないと考えていることがうかがえる。温家宝の「中国は犯人が誰であっても擁護しない」「朝鮮半島の平和と安定を破壊する者は許さない」という言い方は、犯人が北朝鮮でなく、たとえば米韓の軍艦が合同軍事演習中に間違って同士討ちしてしまったのが真相だとしても、十分に成り立つ発言だ。米韓の同士討ちが真相の場合「朝鮮半島の平和と安定を破壊する者」は、北の犯行だとウソを言って濡れ衣をかけて北を激怒させた米韓の方になる。

北朝鮮側は5月28日の記者会見で「北朝鮮にとって、韓国や米英豪は朝鮮戦争以来の敵国だ。朝鮮戦争は停戦しただけであり、敵国である状況は変わっていない。敵国だけで集まって、北朝鮮が魚雷を撃って天安艦を撃沈したとする調査報告を発表しても、それは客観的に見て、公正であると考えられない」「韓国が公正な調査をしたいなら、北朝鮮は専門家の代表団を派遣するので、南北合同で調査をやり直すべきだ」という趣旨を述べている。

北朝鮮は、5月20日に韓米英豪が「北朝鮮犯人説」に基づく調査報告を発表した直後に「専門家の代表団を派遣するので、証拠の品々を見せ、検証させてくれ」と申し入れた。だが韓国政府は「殺人犯が刑事になるようなもので、許すわけにはいかない。こんな申し出をしてくる北に対し、強い怒りを感じる」と強く拒否した。

韓米英豪の調査結果が正しいものであるなら、韓国が北朝鮮の代表団を受け入れ、米英中露が監督する中で再調査をやれば「北の魚雷の残骸」という強力な物的証拠の正しさが改めて示せるはずだった。北朝鮮は反論しきれず、調査結果は世界の誰にも反論できない強いものにできたはずだ。調査報告を世界が納得できる強いものにすることは、たとえ「殺人犯に刑事をさせる」ことだとしても、遺族や韓国世論は納得するだろう。しかし韓国政府は、殺人犯に墓穴を掘らせることができたはずの、この良い機会を自ら拒否してしまった。

米英豪だから正しいと思うのは危険

 ここまでの話をまとめると「北朝鮮が天安艦を撃沈させた」と米英豪韓が言い切ったのに対し、中露が疑問を発し、北朝鮮は強く否定した。「誰の発言か」だけに注目すると、日本のような冷戦型の対米従属の国是に固執する国の当局やマスコミ(学界、評論家など)は「米英豪韓が正しいに決まっている」という論調になり「中露朝の肩を持つのは、非国民(左翼)か敵のスパイか隠れ朝鮮人だけだ」という話になる。

米英が今後もずっとダントツに強い覇権国であり続けるなら、このような「無条件降伏」を経た後に「鬼畜米英」を単にひっくり返したような日本人のあり方で良い。むしろ難しく考えない方が、覇権国に対する直裁的かつ自滅的な反逆を繰り返す可能性がなくなるので得策かもしれない。

だがもし、米国が北朝鮮に対してやっていることが濡れ衣戦略だとしたら、イランに核武装の濡れ衣をかけて潰そうとしているうちに、国連(NPT)でイランではなくイスラエルの核武装の方が問題にされているように、覇権を振り回しすぎて(意図的に)自滅する米国の隠れ多極主義につき合いすぎることは、日本にとって危険なことになる。愛国的な日本人は、こっそりで良いから、本当に韓米英豪の調査報告が万全かどうか、いちど疑ってみた方が良い。そのような観点で、韓米英豪などが5月20日に発表した調査報告を見ると(困ったことに)かなり粗悪なものであることがわかる。まず形式的なことから書くと、あの調査報告書は「名無しのごんべえ」である。誰の署名も入っていないし、そもそも各国の調査団のメンバーすら発表されていない。 米英豪というアングロサクソンは、強力な公文書を作るとき、筆者の署名をつける。閣僚、軍司令官、議員、貴族(英国)などが、自分の名前の権威を賭けてその文書の正しさを主張すべく署名する(イニシャル署名だと権威が落ちる)。もし調査を行った韓米英豪などの人々の名前がずらりと署名されていたら、報告書の権威は高まった。だが実際には、署名がないだけでなく、調査団の名簿も発表されていない。無署名の報告書は、米英が「信憑性を疑ってください」と言っているようなものだ。

(ここで、韓国が米英とは違う文化だということを重視するのは間違いだ。朝鮮戦争をめぐる国際政治の枠組みでは、韓国は米英より格下の「傀儡級」である。北は1953年の停戦会議に出席したが、韓国は出ていない。だから北朝鮮は、韓国よりずっと貧しいくせに意気揚々と韓国を「傀儡」と罵倒する)

魚雷残骸の意味づけの確定不能性

調査報告書が「北の犯行」と断定する、ほとんど唯一最大の根拠は、天安艦の沈没現場の近くの海底から引き上げられたとされる魚雷の残骸(スクリュー、シャフト、モーター)である。公開された魚雷の残骸は、調査報告書によると、北朝鮮が輸出用に開発した魚雷「CHT-02D」のパンフレットや設計図と酷似している。これが「北犯行説」の唯一最大の根拠である(報告書は、それ以外の根拠を示していない)。  だが調査団は、この断定の根拠となったパンフレットや設計図を公開していない。北朝鮮はいくつかの国にこの魚雷を売り込み、その中には米国や韓国とも親しい国があり、そのルートでパンフレットや設計図が調査団に漏洩したという推測が報じられ、漏洩した国を北が特定する恐れがあるため、パンフレットや設計図を公表できないのだろうとされている。しかし、公表されないので、人々は「酷似している」かどうか確認できず、納得したくてもできない。

韓国当局が公開したのが、本当に北朝鮮の魚雷の残骸であるとしても、それが5月15日に天安艦の沈没現場の近くから引き上げられたものだという確証も発表されていない。北朝鮮が主張する「魚雷の残骸は、米韓がどこか別の場所で拾ってきてでっち上げた」という説を一蹴できない状況になっている。

北朝鮮や中露が提示する疑問に米韓の調査団が丁寧に答えていくなら、調査結果の信頼性が上がるが、今のところそのような展開になっていない。逆に、調査団に参加するスウェーデン人や韓国人の一部が、調査の結論に対して疑問を呈したが米英に無視されたとか、辞任に追い込まれたといった話が指摘されている。

このほか、魚雷の残骸に書かれていた「1番」というハングルの書き込みをめぐる疑問(「北朝鮮では1番と言わない」「いやいや言うよ」という論争。以前に韓国軍が入手した北の魚雷には「1号」と書き込まれていた)とか、1カ月しか海底に置かれていなかった割には、魚雷の残骸の腐食が激しすぎるといった疑問(天安艦の船体も1カ月でかなり腐食したから矛盾はないと当局が反論)などがある。

報告書では、魚雷を発射したのは新型探知機を備えた小型潜水艇とされているが、北朝鮮の潜水艦は割と大きなサンオ級でさえ最新探知機を備えておらず、潜水艇が新型探知機を使いつつ魚雷を発射したとは考えにくいとの指摘もある。

韓国当局が発表した、天安艦が写っているペンニョン島の監視所から撮った熱線画像データ(TOD)は、沈没前後の決定的瞬間が抜け落ち、非公開のままになっていることや、当時、沈没現場の海域では米韓軍事演習が行われ、最新の探知機を備えた13隻の米韓の軍艦や潜水艦がいたのに、なぜ誰も北の潜水艦の接近に気づかなかったのか疑問が解けないままになっているとか、私が以前の記事に書いた、KBSテレビが報じた「第3のブイ」の問題などが、韓国で指摘されている。

事件の生存者(天安艦の乗組員)が韓国当局の監視下に置かれ、自由な発言を許されていないことも、人々の懐疑心を煽っている。疑う者が「非国民」なのではなく、韓米当局の方が、人々に疑いを抱かせるような、まずいやり方をしている。

韓国政府を濡れ衣発表に誘導した米国

全体として「北朝鮮の潜水艦が撃沈犯なのだが、その証拠をうまく米韓側が示せていない」という可能性もないわけではない。だが、天安艦の沈没当時、米韓軍事演習が行われ、米韓軍が北の潜水艦の潜入を察知できなかったとは考えにくいことや、米韓がこの件でまだ隠し事を続けている感じがぬぐえないことから考えて、やはり天安艦の沈没は、米韓の誤射による同士討ちの可能性が高いと私には思える。(米海兵隊の潜水部隊が、北との戦争を煽るため、意図的に天安艦に爆弾をセットしたとの説も出てきたが、信憑性は不明だ)(Beijing suspects false flag attack on South Korean corvette) 5月20日の合同調査団が北朝鮮犯人説を発表して以来、韓国と北朝鮮の対立が激化し、開戦一歩手前の状況になった観がある。しかしよく見ると、たとえば北朝鮮が韓国勢を追い出したとされる開城の工業団地では、追い出されたのは韓国政府の事務所の要員だけだ。開城で事業を展開している韓国企業の幹部や技術者はその後も毎日38度線を超えて開城に通勤しているし、開城市内からも北朝鮮の4万人の従業員が毎日通勤し、工場を稼働させている。「南北経済交流の象徴だった開城の工業団地はもう終わりだ」というイメージが喧伝されているが、実際には、開城の韓国企業はほとんど通常どおり操業している。

天安艦が米韓同士討ちで沈没したと考える場合、その後の展開を主導しているのは韓国政府ではなく米国(米軍)である。韓国政府は、事件後の1カ月あまり対応を迷っていた。天安艦沈没の濡れ衣を着せたら北朝鮮は激怒して戦争になりかねず、韓国にとって危険すぎる賭けだ。しかし韓国政府は、同士討ちを発表することもできなかった。

同士討ちの韓国側の当事者である天安艦は大々的に報じられているが、米国側(第3のブイ?)の存在は未確定だ。米韓軍事同盟は、米国の方が上位だ。韓国政府が同士討ちを発表したら、米国は怒り、米韓同盟は解体する。韓国政府は、北朝鮮に濡れ衣を着せるか、事件の原因を発表しないままでおくしか選択肢がなかった。だが、これだけ大騒ぎになり、韓国の右派が活気づいてしまうと、韓国政府が原因を特定しないわけにはいかなかった。韓国政府は、6月2日の地方選挙というタイムリミットの2週間前に、北朝鮮に濡れ衣を着せる発表をした。米国は、韓国政府が自ら北に濡れ衣を着せる発表をするのを待っていた。

米軍の艦船が沈み、米兵に死者が出たことを、米政府が隠しておけるはずがないと考える人が米国にもいるが、米軍の情報管理力は、日韓政府よりずっと強い(逆に日韓の政府は、情報管理力を意図的に弱いままにしておくことで、自国を対米従属から出られないように自ら縛っている)。

米国の潜水艦や特殊部隊は、世界各地で秘密作戦を展開しており、死者を出す事態が時々起きるはずだが、それらの一部でも報道されたら、作戦対象(敵)に勘づかれ、作戦そのものが失敗する。潜水艦が沈んだり、特殊部隊員がたくさん死んでも、米軍はマスコミも巻き込み、それが報じられない態勢を作っていると考えるのが自然だ(そんなことないよと言って笑う米国の研究者が、実は米軍の諜報機能の一部だったりする)。

(引用終わり)

なかなか興味深い指摘であろう。ところで、米国の意図通り、周辺国、中国、日本、韓国をコントロールできたなら、日本のマスコミの論調とは、逆に北朝鮮との劇的な融和政策の進展も有り得るのではないかと考えられる。注意が必要である。

ところで、イラン経済制裁も全くのヤラセであることを、元外交官の原田武夫氏が暴露している。

(引用)

日本では全く話題になっていないものの、昨年(2009年)秋に発刊されて以来、公開情報インテリジェンス(OSINT)の世界で大変な話題となっている本がある。シェリー・A・スターク著『隠された信託会社(“Hidden Treuhand”)』だ。スタークは1957年生まれ。この本は米国のフロリダで出版されたものだ。「隠された信託会社」というのは、このコラムの読者の皆様を含め、日本人にとっては全く馴染みのない言葉であると思う。しかし、ドイツ法系の国では、しばしば使われる用語であることをスタークはまず説明する。「隠された信託会社」、すなわち“verdeckte Treuhand”とは誰が信託したのか(それによって会社を創ったのか)、あるいはその信託を通じてどれほどの利益を得たのかといった「信託会社」にまつわるほとんど全ての重要情報が、一切対外公表されなくても良いとする制度である。「そんな便利なシステムがあるのか」と思われるかもしれない。しかし、現にオーストリア民放では、1002条以下の「信託」に纏(まつ)わる条文の中に、この制度がれっきとした形で記述されているのである。

問題はここからだ。――誰が信託したのか、また誰がどれくらいそこから利益を得たのか分からないということであれば、これを“悪用”する“越境する投資/事業主体”が出てきても全く不思議ではない。そして現に米国におけるネオコン勢(新保守主義者)の中でも首領格であるチェイニー前副大統領が、かつてCEO(最高執行責任者)をつとめていたハリバートン社がこの制度を用いていたことをスタークはつぶさに検証するのである。しかもこのハリバートン社がこの制度を一体何のために用いていたのかというと、驚くべきことに「対イラン取引」だというのである。つまり、本来は経済制裁の対象であるはずのイランとの取引を行うために、ハリバートン社はオーストリアにまずは「隠された信託会社」を設立。これを通じてイラン側のカウンターパートと商業取引を行い、利益をあげていたというのである。

オーストリアといって日本人が思い出すことといえば、「音楽の都・ウィーン」や「ザッハトルテ」、あるいは「シェーンブルン宮殿」といった優雅なお国柄だろう。しかし、分析を進めていくスタークの描くオーストリア像は全くそれと異なっている。そしてそこで描かれる実像としてのオーストリアは深く、暗い闇に包まれているのである。

上記のとおり経済制裁を米国勢から講じられているはずのイランが、よりによってその原因であるはずの「核問題」に関連し、「核兵器廃絶サミット」を4月17日からテヘランで開催するというのである。しかも、イラン外務省報道官いわく、この“サミット”は「多くの国々によって歓迎されている」のだという(4月4日付イラン・プレスTV参照)。

これは実に奇妙な話である。なぜなら、「核兵器開発」を糾弾されているからこそ、イラン勢は国連を通じて各国から経済制裁をかけられているのだ。ところが、そのイラン勢がよりによって「核兵器廃絶」を訴え、しかも堂々と国際会議を開催するのだという。確かに不可思議なことが多い外交場裏ではあるものの、ここまであからさまな“矛盾”が露呈する事態は珍しいといっても過言ではないであろう。なぜなら、これは素で考えてみると「盗人が防犯のレクチャーを行う」ようなものだからだ。

しかし、先ほど紹介した「隠された信託会社」なる制度をご理解頂ければ、なぜこうした矛盾がまかり通っているのかについても、納得頂けるのではないかと思う。なぜならば、この制度を用いれば「経済制裁」を課しているはずの西側諸国であっても、イラン勢と“合法的”に取引を行うことが出来るため、イラン勢は実のところ痛くもかゆくもないのである。しかも米国勢の中でもとりわけ「イラン脅威論」を説いてやまなかったネオコン勢こそ、この制度をフル活用していたというのだからあきれたものである。そして米欧勢は右手で拳を振り上げながらも、左手ではイラン勢と握手をし続けているというわけなのだ。

(引用終わり)

これが国際政治の実態なのである。

ところで、米国の会計検査院(GAO)が5月6日に機密扱いを解いて発表した1978年の報告書によると、米国はCIAの戦略により、1957年からの10年間に、核兵器開発に必要なウラン235を合計22トン、イスラエルに送っていた。

国連でイスラエルの核兵器が問題になるのと時期を合わせて、米政府の機関が、かつて米国がイスラエルの違法な核武装を手伝っていたことを示す文書を機密解除して発表するとは、まさに驚きだ。今後、イスラエルは核武装とパレスチナ問題の両面で、世界的に非難される傾向を強めそうだが、イスラエルは有効な対抗策を持ち合わせていない。その一方で、レバノンのヒズボラは、イスラエルに攻撃された場合の防衛策や反撃策を練っている。クリントン米国務長官は「国連でイラン制裁が決まらない場合、中東で戦争の危険が高まる」と述べている。深読みすれば、米国は、イスラエルの暴発を促しているとも言える状況なのである。そしてその事は、核エネルギーの独占化を狙っている現在の米国の利益に繋がっていく。

このように、国際政治の世界は、高貴なる嘘の世界なのである。普通の人々が、それを真に受けているのは、仕方がないが、多くの人々の生活を預かる企業経営者や政治に携わるものは、冷静に状況を認識することが求められていることは言うまでもないだろう。ところで、高貴なる嘘が、だいぶ低級(金儲けに直結している)になったと感じるのは、小生だけだろうか。

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