*3月のレポート「悪夢のシナリオ」の続編としてお読み下さい。

前回のレポートでも指摘したように郵政資金を日本政府と米国政府で取り合うのですから。政府が郵便貯金の限度額を引き上げるのも当然です。

前にも紹介した朝倉 慶氏のレポートです。              正 樹

以下

郵政改革の裏



郵政改革が迷走しています。国民新党の亀井金融・郵政担当相が郵貯の限度額を1,000万円から2,000万円への引き上げを発表しましたが、仙谷国家戦略担当相らが「待った」をかけました。

鳩山首相も同調、議論のやり直しということになってきましたが、この問題では閣内の対立が激化してきたようです。しかし、大事なことはこの問題の奥底に隠された「日本国債の危機」をしっかり認識しておくことです。



3月26日、日本の債券市場で長期国債先物相場が続落、なんと4ヵ月半ぶりの安値(金利上昇)となったのです。一般的には報道されていませんが、日本国債の先物市場の動きをみる限り、昨年後半から明らかに、ヘッジファンド筋からの仕掛け的な売りが見受けられるのです。日本国債はその94%を国内で消化されていますが、この先物市場のシェアは5割近くを外人投資家が握っています。彼らは日本国内の混迷した状況を見ながら、いつ本格的に日本国債を売り叩こうか狙っているのです。

「日本はもう戻れない地点を通過してしまった」

ヘッジファンド、グリーンライトキャピタルのデビット・アイホーンの言葉ですが、これは日本の財政の話をしているのであって、日本国の累積債務は約1,000兆円。GDP(国内総生産)の200%となっていて、この金額は決して返すことはできず、やがて日本は国家破綻へ至る、そういう意味で戻れない、「もう健全な経済、財政には戻れない、日本は国家破綻への道を歩み始めた」と言っているのです。そして彼のような意見やそれに付随するレポートが外人投資家やヘッジファンドの間では山のように提供されているのです。



「大きすぎて変われなかった」郵政がいまや・・・



そして実は、今回の郵政改革の混乱も彼らからすれば、非常に面白く映っていることでしょう。熱狂的な小泉政権下の選挙で決まった国民の審判を受けた郵政改革、一体何が変わったのでしょうか? 小泉、竹中コンビの目指したものは、郵政の持つ巨大な資金、これは国家管理のような形となっているわけなので、この巨大な資金を民間に回すことによって、日本経済を活性化しようということでした。私もこの考えは正しいと思います。

しかし、この根本、いわゆる郵政の資金を民間に回すという主題、もっとも大事な命題は成就できたのか? と言えば実は何も変わっていないのです。郵政改革の本丸であるその巨大資金の民間への移行は一向に実現されないどころか、変わらないままです。郵貯銀行は2008年度177兆円のうち約8割に当たる155兆円が国債で運用されているのです。貸出のノウハウがなく、どうしてもたまった資金が国債に回るという姿は、実は郵政改革をしようが、小泉、竹中コンビが何をしようが、たとえ、この鳩山内閣でどんな施策をとろうが、変わらない、というか変われないのです。

当たり前です。郵貯のこの8割に上る国債運用を放棄し、民間に資金を回すために国債を売却しようものなら、一気に日本国債の相場は暴落(金利上昇)となり、ついには日本の国家破綻の引き金を引くことになるのは必至だからです。郵政民営化とか官から民へ、とかけ声をかけ、あれだけ制度改革をしても、その中核となる資金の移動、いわゆる日本国債を売却、民間へ金を回す、という根本的な作業をすることは不可能なのです。郵政改革など表の看板を少し変えたにすぎません。

よく大きすぎて潰せないと言いますが、この郵政の場合は日本国家の財布となっている関係上、今や大きすぎて変われないということなのです。その巨大な資金の配分を変化させることはできないのです。

しかし今回の亀井担当相のいう郵貯の預け入れ限度額の引き上げという提案はもっと深い意味を持っていると捉える必要があるのです。今までこの郵政問題について大きすぎて変われないということを書きましたが、実は今、この郵政をもっと大きくしないと日本国家が潰れるという事態が迫っているという冷静な根本認識が必要でしょう。



日本の国家破綻は現実味のあること!?



一方、民間の国内銀行の日本国債の買い付けに目を向けると、日本の国内銀行(郵貯は除く)の国債保有額が過去最高を更新、今年1月末の残高は126兆4,000億円となりました。実は2008年リーマン・ショック直後の残高は83兆4,000億円、これを比べると、なんと国内銀行の日本国債保有残高は約1年あまりで1.5倍となったのです。驚くべき増え方です。これは拙著『裏読み日本経済』(徳間書店)でも書きましたが、銀行は日銀から資金を0.1%で借りてきて1.3%の日本国債で運用して利ザヤを稼ぐという取引をしているため、この1年あまりで日本国債の保有額が爆発的に増えることになったのです(詳しくは拙著をお読みください)。

そして国内銀行も今やこの取引はもう危ないと感じ始めているのです。何故かというと今世界中で、しきりに「出口戦略」と言われていますが、実は世界的に少しずつ金利が上がり始めてきているからです。この金利が上がるということは債券価格が下がるということなのです。 となるとどうなるか? もう段々に債券は買わなくなっていきます。誰も下がると思うものは買いませんよね、同じです、銀行ももう値下がりし始めた債券、日本国債は買いたくないのです。生保も損保も機関投資家も同じです。ところが前述したように山のような日本国債をすでに保有してしまって、今や日本の民間金融機関は動きが取れなくなってきています。いざ資金が必要となれば国債を売るしかありません。



債券の神様と言われるアメリカ最大の債券運用会社ピムコのビル・グロスCEOは「もう債券の時代は終わった」と述べました。これは、これからは金利は世界的に上がっていく、(債券価格は下がっていく)、ないしは暴落していくと言っているのです。そして彼の指摘の通り、これからは世界的な金利上昇、それに伴う大混乱が始まろうとしているのです。実はこれは株の暴落よりも恐ろしいことなのですが、日本国も当然この流れに無縁ではいられません。

では債券価格が下がったらどうなるのか? 通常一般的な経済において、その金利は5%位がちょうどいいと言われています。日本のケースをそれと当てはめますと金利5%の国債となりますが、これが普通ということでそうなると、日本の債務はおよそ1,000兆円ですから金利負担は年間50兆円となります。今年の税収は37兆円、ついには税収で金利すら払えなくなるというわけです。そしてこれは絵空事ではありません。実は確実にその方向に向かっていくのです。国家破綻です。



そして今回の郵貯の預け入れ限度額の引き上げには、この国家破綻、日本国債暴落の速度をなんとか抑えようという切羽詰まった日本国としての事情が存在しているということを見逃してはなりません。再三書きましたように、郵貯の資金の8割は日本国債で運用されているわけですが、これはどんなことがあっても売るわけにはいかないし(小泉改革はできないしできなかった、なぜなら国家破綻となるから)、今後さらに民間の国債の受け皿となって肥大化しなければならないのです。1991年、郵貯の預け入れ限度額を700万円から1,000万円に引き上げた時、郵貯残高は前年比14.2%も急増しました。狙いはこれです。日本国債を買う受け皿が早急に必要なのです。

郵政改革が今の鳩山政権でどのような決着をみるのかはわかりません。ただ、言えることはこの政府の動き、ごたごたを見ながらヘッジファンドを中心とした外人筋は日本国債を暴落させるタイミングを虎視眈々と図っているということです。不思議なことですが、日本国の動向を決めるような重大な決定は誰よりも早く正確に彼らに耳には入るのです。



3月31日に鳩山首相は、亀井金融郵政担当相の意見を飲んで、郵貯の預け入れ限度額を1,000万円から2,000万円にすることに決めました。これは重要です。

郵貯の預け入れ限度額を引き上げれば、郵貯に資金が流れるのは疑いがなく、明らかに信用金庫や地方銀行のような中小金融機関のみならず、大手も含めた金融機関の経営を圧迫するのは必至です。このような政策は誰が考えても理に合っていませんし、現に新聞各紙は批判のオンパレードでした。

当初、鳩山首相は亀井金融郵政担当相に対して、「まだ決めていない」と限度額引き上げを認めないような発言をしていたのに、最終的に認めたのはなぜか? ずばり亀井大臣から郵貯の現状を聞いたからに違いないでしょう。もう郵貯はぎりぎりの状況なのです。ほおっておけば日本国債を売らなければならない状態となっていたとみればいいでしょう。考えてみればわかりますが、すでに資金の8割を国債で運用しているわけで、これ以上買えません。このまま郵貯の資金を下ろされれば国債を売るしかないのです。このように考えると今回の決断は日本国債の値崩れを回避するためのやむを得ない決断だったのでしょう。巷で言われているような選挙対策ではありません。もっと切実な問題が水面下に存在していて真実を話すことはできないのです。亀井金融郵政担当相は日本を救った気分かもしれません(一時しのぎにしかすぎませんが)。目には見えませんが、日本国ももうギリギリのところにきています。







<参考資料>



現在、世界の先進国の財政を預かる、また、中央銀行の金融政策を預かる超エリートの頭の中にあるのは、おそらく、2008年の金融危機以来、異常に増えた財政支出の帳尻をどうやって合わせることしかないのではないか。もちろん、答は一つである。

ハイパーインフレーションを引き起こすことしかないことは、太平洋戦争後の通貨価値の大変動を考えても、明らかであろう。 正 樹



ところで、 3月19日の日経新聞で次のような報道があった。



「首相、政権発足後にデノミ検討 藤井財務相辞任で頓挫?」



鳩山由紀夫首相が昨年9月の政権発足後、デノミネーション(通貨呼称単位の変更)を検討していたことが18日、明らかになった。周辺によると、首相は「政権交代の象徴として藤井裕久財務相に頼んでいたが(1月に辞任して)いなくなってしまった」と漏らしたという。デノミ論議は過去にも浮上したことがあるが、景気対策としての効果が不透明などの理由で立ち消えになってきた。【日経ネット19日】



記事の中では、デノミは通貨呼称単位の変更と記されているが、無論それだけのことではない。すでにご存じのように北朝鮮はデノミを行い、失敗した。インフレを抑えるためと資産の炙り出しの目的で行われたが、経済が混乱し、多数の餓死者がでたという。そして、責任者が銃殺までに処された。また、昨今ではアフリカのジンバブエがハイパーインフレに見舞われ、デノミに行ったのも記憶に新しいところだろう。



実は政権交代直後にもデノミが画策されていたらしい。



(G20ピッツバーグ・サミットから)日本へ帰ってきた鳩山首相は、国家戦略局に対策を諮問するだろうが、すでに腹案はできている。

それは、次の目的を達成する手段である。

●このままではGDPの200%に膨れあがる財政赤字を解消しなければならない。

(ゴールドマンサックスによれば、実質円の価値(購買力平価)は1ドル=195円であり、貯蓄率も減っている現状では、国家破綻は必然である)

●金融危機第2波により更なる失業者増大と消費低迷が続き、国民生活が破綻しつつある。そのための雇用を創出する必要がある。

●世界も同時に経済危機に見舞われ、特に米国経済は実際には、破綻している。



そして、これらから導き出された答は「デノミネーション=通貨切り下げ」である。

これにより、100円の物が10円で買えるようにするわけだ。これで消費を回復させる。同時に借金も10分の1になり、赤字を減らす。資産も10分の1になり、10分の9が消滅!無論、給料も10分の1になる。

そして、この変更により、各種コンピューターや経済システム、流通など様々な変更事項が生じ、そのための特需が生まれ、雇用が創出される。(なお、100分の1にするという案もある)

国家破産により紙くずになるよりはまだマシかも知れないが、メリット・デメリットは受けるのは出るのは仕方ないと考え、新政権は断行する可能性がある。



どうもこの計画は、藤井財務相の辞任により、頓挫したとなっているが、果たしてほんとうだろうか。



鳩山首相が政権発足後、デノミを藤井財務相と検討していたということだが、十分秘策としてあり得ることである。

もちろん、通常のデノミはハイパーインフレ状態の時に採られる措置である。

つまり、物価上昇に通貨の価値が追いつかず、高額紙幣がどんどん刷らなければ状態に陥った時に通貨単位の切り下げを行い、通貨の価値を強制的に上げ、物価上昇に対応するとういうものである。

無論、それに付随して、新紙幣との交換のため預金封鎖を行い、資産を把握、資産税導入というケースがかつての戦後の日本にもあった。

しかし、現状、日本には40兆円デフレギャップが存在する全くの逆のデフレ状態である。景気浮揚策としてのデノミに効果が期待できるのかという問題があるが、今回の件はおそらく、日本一国だけの問題ではないはずだ。

すでに米国も100ドル札を導入することを決めているが、世界が絡んでいるはずだ。

おそらく、デノミの前に、世界同時ハイパーインフレーションを引きおこし、世界の天文学的負債をチャラにした後、デノミを行うという算段を超エリートたちは目論んでいるのであろう。

どのようなタイミングで世界同時ハイパーインフレを引き起こすか、一番の引き金は米国であるということは言うまでもない。注意深く見守る必要がある。

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