鳩山総務大臣は管轄大臣であって,旧郵政省の立場を引き継いでいる。対して財務省は日本郵政の株主という立場で,株主としての責任を果たすべき位置にある。こういう立場から,鳩山総務大臣は日本郵政現社長・西川善文を更迭することを主張し,与謝野財務大臣は株主として西川氏の続投を支援している。

鳩山総務大臣は「簡保の宿」巡る払い下げ問題で当然の正論を吐いていて,西川社長の国民に対する罪深き裏切りを告発しているのである。発表されている事実が本当なら、背任罪の適用すら考えられるケースである。本来、西川善文氏は更迭するにふさわしいどころか,犯罪者となるかどうかの際どい立場にいるはずなのである。続投なんてとんでもない話なのである。

一方の与謝野財務大臣の主張は、続投支持の根拠が実に薄弱である。郵政改革を後退させるなということは、過去に通用した呪文に過ぎない。なぜ西川氏でなくてはいけないのか,と言うことに対して,まったく彼の話には必然性も説得力もない。

ここまでは構図としては実にわかりやすい。しかし,鳩山大臣はなぜあれほど更迭にこだわり,与謝野大臣はなぜあれほど続投支援を曲げないのか,それから鳩山氏と盟友の麻生首相はなぜ第三者的な顔をしているのか,不可思議である。 もちろん、鳩山大臣が旧郵政官僚の代弁者であり【注1】,与謝野大臣が財務大臣の代弁者であることは明白なのであるが,ではなぜ旧郵政省=総務省と財務省がこれほどこだわるのかということがどうにもわかりにくいところである。

つまり,これは官僚同士の争いなのであるが,一体何を争っているのか,ということがポイントである。『改革か後退か』の争いではこんなことにはならない。 現在の愛国心を失いつつある(国益のことを考えなくなっている)官僚にとっては本来はどちらでも良いことなのである。



要約すると

1.旧郵政省(総務省)は,郵政改革で大きく損をした。(利権を失った)

2.郵政改革の結果,大きく得をしたのは財務省である。(株式上場の利益も   見込める)

3.今回の郵政改革に伴い,巨大な不正問題,背任事件,ひょっとしたら横領,   汚職事件までもが起こっている可能性が大きい。

4.西川善文を解任したらそれらが明るみに出される。西川善文はパンドラの   箱の蓋である。

5.まともに解明されたらかなりの大疑獄事件となる可能性も考えられる。

(りそな問題以上)

6.党内基盤の弱い麻生総理は中立的立場を装っている。





<推論の根拠>

1:郵政改革によって全省庁が太ったのであれば,郵政官僚の『反改革』への   執念が説明しにくい。

2:財務省の郵政改革推進にかけるこれほどの執念は,逆のことが言えるから   である。振り子のように,改革が多少戻ったにしても,そんなに深刻に捉   える必要はないので非常に不自然に思われる。

3:社長が変わることで,どのように『改革が後退』するのだろうか?ほかに   改革推進の人材がいないわけでもないだろう。そして社長自ら,『民営化   はやめました』などと言えるはずはないのだし。すると,残る可能性は,   すでに巨大な不都合問題が生じているからとしか考えられないではない    か。そのために当初から関わっている人物に続けてもらう必要がある。    ただし,西川善文自身が汚れているとは限らない。事情を知っているだけ   かもしれない。それでもそれは続投の大きな要因となる。

4:株主は国民である。その株主を裏切る所業を為したのであるから,本来は   財務大臣の方が更迭を強く求めるはずのものである。それを逆に推進する   とは不自然であり,よほどのことがあると想像できる。

5:疑獄事件とは政治家を巻き込んだものだ。小泉・竹中氏を中心とした悪巧   みがもしあったとしたら,それが暴かれるのを恐れているのである。中川   元幹事長を中心とする西川続投の必死のキャンペーンがこれらを暗示して   いる。(米国をバックにしているから、彼らは強気なのだろうが、米国経   済自体が迷走しており、彼らが米国のバックアップを失うのも時間の問題   だ。とするなら、今後、一般国民が驚愕するような事態が起こることも十   分考えられる。)

6:麻生政権は霞ヶ関の傀儡だ。したがって,郵政対財務に関しては中立であ   るが,総務大臣経験もあって実は総務省に近いと思われる。しかし,官僚   の現在の主役は米国にコントロールされている財務省。本音は総務大臣側   であるが,自分の地位を維持するために西川続投支持に動かざる得なかっ   たのである。





【注1】 鳩山大臣は一見、純粋な正義感に基づいて行動しているように見える     が,実は総務官僚の傀儡に過ぎないことは明白である。なぜなら,二     三ヶ月ほど前の話だが,官庁人事権に関して,政府官邸の力を弱め官     庁主導で行使できるような改革の推進に一役も二役も買ったからだ。     そういう時,官僚側の利害は一致する(何々省に関わらず)ので,鳩     山大臣は全省庁の意を挺した行動を行ったのである。もっとも,こぶ     しを振り上げた手前,西川辞任を貫徹する行動はますます純化してい     くものと思われる。鳩山邦夫氏による新党結成の芽も出てきたと考え     るべきであろう。兄の由起夫氏もそれを待っているのかも知れない。            いよいよ政界再編である。



*<参考資料> 4年前のレポートから一部引用

2005 9/17



「マスコミによる衆愚政治の始まり」

正 樹



~否決された竹中郵政民営化法案とはどのような法案か~



今回の衆議院解散劇の主要テーマであり、参院本会議で否決された「竹中郵政民営化法案」とはそもそもどのような法案だったかを考えてみる必要がある。

ご存じのように、2001年4月1日に「財政投融資制度」(財投)が廃止されて、郵便貯金や年金積立金を「官から官へ」資金運用を預託する制度が廃止された。

そして「日本郵政公社」が設立されて、郵便貯金については官僚たちの国策運営ではなく、金融市場で自主的に運用されることになった。それでも郵便貯金230兆円と簡易保険120兆円の計350兆円もの膨大な資金が、官僚組織によって非効率に特別会計という制度によって、運用されてきたのは、紛れもない事実である。この郵政公社を当初の約束では5年間の移行期間は存立させるとしていたのを、なぜか急にたったの2年半で急いで完全に民間企業に転換しようというのが今回の法案である。

もちろん、このような急な動きの裏には、アメリカのからの強い圧力があった。

このために、小泉首相や竹中平蔵郵政民営化担当相の政府側から、また松原 聡東洋大学経済学部教授をはじめ政府の“御用学者”や、今や公然と米国の“手先言論”と化している日本経済新聞を中心とする大新聞、テレビ局の大手メディアから急速に郵政民営化=改革というアジテーションが流されることになったのである。それが今年の4月からの流れである。

政府と同調する法案賛成論者たちの専門的な用語を使った説明を聞いていると「民で出来ることは民で」と、いかにももっともらしいことを語っているように聞こえるが、実際には、こうした論理はこの問題の本質を巧妙に覆い隠しているものと言わざる得ない。

なぜなら、この竹中郵政民営化法案が基本テーマは、はっきり、言ってしまえば、米国のロックフェラー財閥を中心とするニューヨークの国際金融資本が、日本の60歳以上の高齢者3000万人の“国民の最後の虎の子”である郵貯や簡保の350兆円の巨額の国民資金を奪い取ることにあるからである。



ところで、現在、全国に2万4700個もの郵便局がある。このうち各市の中央郵便局のような大型郵便局が5000個ほどある。そして残りの1万9000個が特定郵便局と呼ばれる小規模な「町(村)の郵便局」である。こうした郵便局のネットワークが全国津々浦々で営々と営まれてきたことで高齢者から貯金や保険の形で資金を集め、それらの安全な保管機能も果たしてきた。そして、意図したわけではないが、この国民の財産が米国に奪い取られない仕組みになっている。

国会議員たちの間でこの4月ごろから、郵政民営化法案とは、ハゲタカ外資による日本国民の金融資産の乗っ取りのことなのだという意見が沸き起こるようになった。国会議員たちの中から「構造改革、規制緩和」という耳障りの良いスローガンの陰に隠れて本当に大切な論点がすり替えられている、という疑念がやっと広がり、それで今回の参院本会議では「法案の審理があまりに拙速である」という意見が起きて否決されたのである。

確かに自民党の旧橋本派の中の野中広務元幹事長につらなる「郵政族」と呼ばれ政治家たちは特定郵便局長による自分たちの集票基盤が失われることで民営化に反対していることも事実である。しかし、この法案が施行されると本当に日本国民のためになるのか、逆に不利益をもたらすのではないかという観点から信念をもって純粋に反対している政治家たちも数多く出てきたのである。



ほんとうの事を言ってしまえば、「竹中郵政民営化法案」は、竹中郵政相の背後にいるグレン・ハバード元CEA(米大統領経済諮問委員会)委員長、ロバート・ゼーリック米国務副長官主導でまとめられたのである。今度の法案では、「三分社化」という大方針の下に、郵政株式会社という持ち株会社( ホールディング・カンパニー )を設立する。

そしてその下に、郵便貯金業務、簡易保険(郵便保険)業務、窓口ネットワーク業務、それに郵便事業を行う業務を管轄するそれぞれ四つの子会社を創設することになっている。この中でも郵便貯金銀行と郵便保険(旧称、簡保)会社の株式については2017年までに、政府保有分の株式を「必ず」全て放出して手放すことが法案第7条で義務付けられている。この点がおかしいのである。

その他に日本政府からの郵便貯金銀行や郵便保険会社への法的な規制が全て排除される条文がいくつも見られる。上記の二つの会社は、会社法(今度、慌しく商法が大改正されて「会社法」となった)が適用され、特殊法人や公社でもない、「商法会社」という純然たる一般的な事業会社にならされることがこの法案の最大のポイントである。一般の事業会社ということになってしまうと、銀行法の適用さえも除外されることになる点がこの大事な点なのである。これが外資の狙い目である。



そもそも、金融業というのは信用業務であり一国の経済活動の根幹的な部分であるから、銀行は商法会社と同じ民間企業と異なって国家統制による制約を受けざる得ない業界である。だから銀行業は免許事業なのである。銀行法には「銀行が自らの影響下にある事業法人(一般会社)の株式を総発行残高の5%以上を握ってはいけない」(銀行法16条の3)という条文がある。銀行法の適用を受けない商法会社とはこの点が根本的に異なる性質である。

ところが、郵政民営化法で一般的な事業会社と同じ扱いになってしまうと、米国の巨大な金融法人グループが放出された郵貯銀行と郵便保険会社の株式の大部分を取得して、その50%以上を握ると完全に子会社にできる。そうすることで経営権も握ることが可能なのである。そうすれば米国資本は、日本企業(国内資本)というダミーを使わないで経営権を取得することができる。

その上で、その郵貯や簡保の膨大な資金を海外に流出させて、たとえば米国債の更なる購入(現在、日本政府は政府発表の資料だけでも85兆円の米国債を買っている、実際は、官民あわせて500兆円以上買わされている。)に向かわせることがいくらでも自在にできるのである。このように日本国民の資金の保全に対する歯止めが全くないのである。だから今度の法案には、竹中郵政相を介した米国の国際金融資本のそうした狙いが込められている。    ~以下、省略~

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