アメリカのトランプ大統領は、特定の大手メディアのニュースをフェイクニュース(偽ニュース)だと断定し、ツイッターで直接、情報を発信し、3000万人以上のフォロワーを獲得しています。過激な独自情報を発信し続けるトランプ氏が世界の覇権国であるアメリカの大統領を務めていることは、前代未聞の出来事だと言えましょう。日本においても、官邸御用達記者と言われていたジャーナリストの「準強姦もみ消し疑惑」が週刊誌やテレビで報道され、「現在の政治主導は、本来あるべき公正な行政を歪めている」という異議申し立てをしたキャリア官僚に対しては、大手新聞が官邸の意向を忖度(そんたく)して<新宿・歌舞伎町の出会い系バーに通い>という異例の報道をしています。このように一昔前とは、メディアを取り巻く環境、その報道姿勢も大きく変わろうとしています。考えてみれば、インターネットが普及する前までは、全国紙は数千万人の読者を誇示していました。そして、私たちはその中から好きな論調の新聞を読んでいれば、自分の意見に近い言論を簡単に見出すことができました。インターネットによる情報のビッグバンと新聞情報の相対的劣化が状況を決定的に変え、私たちが共有する情報のプラットフォームが限りなく細分化され、今やなくなろうとしています。高度成長の一時代、すべての国民が同じような事実しか知らず、同じようなことに興味を持ち、同じような意見を口にしていました。「巨人・大鵬・卵焼き」という当時、流行した言葉がすべてを物語っています。紅白歌合戦という番組の視聴率が軽く80%を超えていたのもこの時代です。現在、NHKの朝ドラで「ひよっこ」が放送されていますが、そんな時代の雰囲気をよく伝えています。

そして21世紀に登場したウィキリークスというインターネットメディアがマスメディアの言論状況を決定的に変えてしまいました。次々と内部情報(イラク戦争の民間人殺傷動画公開事件、アメリカ外交公電ウィキリークス流出事件、CIAによるハッキング関係機密文書公開事件等)が暴露されることによって、国際情勢そのものが突き動かされていくことになります。その結果、私たちは米国有数の情報機関NSA「国家安全保障局」(National Security Agency)の活動の一端を知ることになりました。NSA本部だけで推定2万人が勤務、米国最高の数学者、語学者、電子技術者の集団で、半導体工場まで所有、海外に無人局も含め約3000の受信所を設け、総人員は約3万人、NSA傘下には陸、海、空軍、海兵隊、沿岸警備隊などの「保全」(実は傍受)部隊計約10万人がいるとされています。ところで、世界最大のマスコミ機関であるNHKでも職員は約1万人しかいません。上記のように権力、人員、お金をかけて圧倒的な情報を収集している機関からの内部情報が暴露される時代を迎えたわけです。そのために私たちは、自分が知っている情報の価値、知らない情報の価値を客観的に判断する能力が求められる難しい時代を生きることになりました。その意味では偽ニュースを偽物だと言っていても全く問題は解決しません。

<私たちはある種の情報の組織的な欠如や歪曲からも真実を推理することができる。嘘をついている人間についても「この人は嘘をつくことによって何を達成しようとしているのか」考えることができる>ということです。

これが情報リテラシーの一歩です。

*東愛知新聞に投稿したものです。

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