いよいよドルがその馬脚を顕し始めている。米国がこの10年間で作り出した金融バブルの大きさは、1980年代の日本のバブルの比ではない。一説によると日本円にして4,000兆円は、何らかの処理が必要だとも言われている。

リーマンショックから、FRBの資産は、米国債やほとんど無価値のものを含む各種債券を買いまくったとは言え、たかだかまだ、200兆円ほど資産が膨張したに過ぎない。

とても追いつく数字ではない。我々は、基軸通貨ドルの終焉過程の歴史を目撃しつつあるのかもしれない。

(引用始め)

「東京円は84円台前半 介入警戒で神経質な値動き」

8月25日10時6分配信 産経新聞



25日午前の東京外国為替市場の円相場は、前日のニューヨーク市場で1ドル=83円台まで上昇した流れを受けて続伸し、1ドル=84円台前半で取引された。ただ、野田佳彦財務相が為替介入も辞さない姿勢を示したことや日銀の追加金融緩和観測を背景として、ドルの買い戻しも入り、神経質な展開となっている。

午前9時現在は、前日比38銭円高ドル安の1ドル=84円17~19銭。ユーロは39銭円高ユーロ安の1ユーロ=106円35~42銭。

前日のニューヨーク市場では、米中古住宅販売が市場予想を大幅に下回ったことをきっかけに景気減速の懸念からドル売りが加速し、円は一時1ドル=83円台と約15年ぶりの高値を付けた。

東京市場も、この流れを受け、ドル売り円買いが優勢となった。しかし、円買い一巡後は、為替介入への警戒感も広がり、ドルが買い戻され、一進一退の値動きとなっている。

(引用終わり)

昨年、エマニュエル・トッド氏の日経ビジネスに掲載されたインタビューを再度紹介させていただく。

以下。

*日経ビジネス2009 11・2号より「今週の焦点」より

エマニュエル・トッド氏(歴史人口学者・家族人類学者)

ドルは雲散霧消する

問 2002年の著書「帝国以後~アメリカ・システムの崩壊~」で「前代未聞の証券パニックとそれに続いてドル崩壊が起こる」と予言しました。今や現実となっています。

答 確かに私は2つの予言をしました。昨年のリーマンショックによって証券パニックは現実におきましたが、ドルの崩壊はこれからです。

リーマンショック後にドルが世界の資金の避難先になったことは正直驚きでした。

しかし、これはドルの内なる力ではなくて、世界中の指導階級たちが依然として米国、そしてドルの世界の調整者としての役割を信じようとしているからです。まだ、何も実績を残しておらず、戦争状態にある国の大統領にノーベル平和賞が与えるなんて不条理の極みとしか言いようがありません。しかしこれが、世界が米国という存在に幻想を抱いていることの表れです。

問 今後、ドルの崩壊はどうやって起きると予想していますか。

答 金融危機が落ち着き、通常の経済活動に戻れば、ドルの下落が始まるでしょう。しかし私が恐れているのはドルの為替レートが上がるとか下がると言ったレベルではありません。経済力の裏付けのないドルは雲散霧消すると考えているかです。

ドル崩壊のシナリオは2つの観点から考えられます。1つは経済的な観点。これは米国経済の衰退が限界点を超えると、中東の産油国や中国がドルに見切りをつけることです。もう1つは軍事的な観点です。グルジアとロシアの紛争で何もできなかったように、アフガニスタンは、米国の無力を象徴する出来事になる可能性があります。

問 ドルの崩壊後、別の基軸通貨が誕生するのでしょうか。

答 私は経済学者ではないので、答えがあるわけではありません。しかし、20ヶ国地域首脳会議(G20)など世界の指導者が集まる場で、ドル崩壊後の世界について真剣に議論すべきです。ドルに代わる基軸通貨がない現状で、世界各国がドルを買うことは、解決できない矛盾を積み重ねて、近い将来の大暴落の被害を大きくしているだけです。私はアジアの中央銀行の総裁だけにはなりたくありませんね。

問 ドルの崩壊と同時に、自由貿易への警鐘を鳴らしています。

答 今、必要なことは、世界の需要をどう作り出すかです。第2次大戦後は自由貿易の時代でした。輸出によって新たな需要が生み出され、生産が増えて賃金が上昇し、需要を創出する好循環が続いていました。しかしそれは賃金の低い新興国の存在がなかった場合にのみ成立した枠組みです。自由貿易の名の下、世界の労働者の賃金は単なるコストを見なされた。企業はコストが低い新興国に生産拠点を移し、賃金は下がり、世界中の需要は縮小する負の連鎖に陥ったのです。

この世界の需要不足を補うために調整役を担ってきたのが、米国の過剰消費だったのです。米国はその役を担うために、大量の国債を発行して借金を増やし、その借金を日本や中国が支えてきました。世界各国が、この枠組みを支えてきたのです。しかしリーマンショックによってその歪みがあらわになりました。

問 保護主義への回帰には批判が強いと思いますが、

答 私は自由主義の代わりに保護主義を取るべきだと主張しているわけではありません。しかし保護主義がタブーとされ、全く聞く耳を持たないことは問題です。歴史の一場面においては、一時的に特定分野での保護主義は必要ではないでしょうか。そして世界の需要がある程度の水準まで回復したら、また、自由貿易に戻せばいいのです。

(引用終わり)

ところで、米国政府(連邦政府と地方政府)は、本当はどれぐらいの財政赤字を抱えているのだろうか。

新聞や米政府の伝える情報を真面目に信じている人なら、1000兆円程度と答えるのだろう。しかし、ほとんどの人は莫大な負債があるとイメージしていても、具体的な数字は頭に浮かばないはずだ。米連邦政府の借金時計を基に計算すれば、連邦政府の借金は円換算で1069兆円(1ドル=94.85円、11兆2734億ドルの債務)となる。しかし、これらは、表向きの数字であり騙されてはいけない。

わが日本もすでに3月の政府発表で政府の借金が846兆円(国民一人あたり663万円の貸し付け)であることを表明しており、もし、アメリカ政府の借金が本当に1069兆円程度であれば、ここまで金融危機が騒がれることもないはずだ。(GDP1355兆円の範囲内)現実には連邦政府、州政府含めると累積した米国の財政赤字は5700~6000兆円になる。もちろん、これには民間と不確定項目の債務は含まれていない。こうしたことを考えると米国は現実には、経済破綻している状態と言えよう。

それでは、アメリカが復活するためには手段はあるのか。

5月19日、ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン教授はソウルの講演にて、こう答えたそうだ。「輸出先にもうひとつ惑星をつくるか、第三次世界大戦が起きない限り不況は続く・・」と。どうも米国に残された道は、計画倒産による借金踏み倒ししかないようである。

冷静になって振り返ると、昨年と今年だけで米政府は総額330兆円以上の借り入れをする計算になる。昨年、米国は不良資産買い取りと景気対策で、総額141兆円(1兆4870億ドル)の公的資金注入をすでに行っている。そして、今年は長期国債の買い取りを含め総額190兆円(2兆ドル)の公的資金注入が必要だと米政府は試算している。

このような現状を考えるなら、世界一の対外純資産を持つ、世界一の現金、預金を持つ日本の円に対して米ドルが安くなるのは、当然だと言えよう。

ところで、現在の円高について、上久保誠人 [立命館大学政策科学部准教授]がダイヤモンドオンラインにおもしろいことを書いているので、要約して紹介する。

(1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。博士論文 タイトルはBureaucratic Behaviour and Policy Change: Reforming the Role of Japan’s Ministry of Finance。)以下。

欧米諸国が自国通貨安による輸出主導の景気回復を目指し、その影響で急激な円高が進んでいる。これを放置すれば日本の輸出企業の競争力は失われ、生産や設備投資の海外シフトがさらに加速し、国内の雇用がさらに減少する「産業の空洞化」が起こると懸念されている。

日本の識者・マスコミには、政府・日銀が円高阻止の円売り・ドル買いの為替介入も辞さない断固たる対応を取るべきだという論調が多い。しかし日本では、日銀が政策据え置きを決めるなど動きが鈍い。現実的には、政府・日銀にできることが限られているからだ。為替介入は、日本が欧米などとともに、中国に人民元相場の柔軟性向上を求めており、日本が円売り介入に踏み切るのは理解を得にくい現状がある。

円を貿易の決済通貨に使用するための基盤は整備されてきた

円高が輸出産業の収益を悪化させるのは、ドルなどの外貨を貿易の決済通貨に使用しているからだ。逆に言えば、円が決済通貨として使われるならば為替リスクはなくなり、円高でも輸出企業の収益は悪化しないということになる。このような、円が貿易の決済通貨として使用されるようになる「円の国際化」のために、日本の財務省(大蔵省)は、法令・制度面の整備を約20年前から少しずつ進めてきた。

「円の国際化」には、国内金融制度の自由化・規制緩和が必要だ。それは大蔵省内や日銀、業界間の対立などの調整に長い時間がかかったが、90年代後半の「金融ビッグバン」で結実した。また、97~98年の「アジア通貨危機」の後、財務省、通産省、自民党などで「円の国際化」の議論が始まった。そして、30億ドルの経済支援策である「宮澤プラン」、アジア地域の金融セーフティネット網「チェンマイ・イニシアティブ」など、アジア通貨協力体制の構築に貢献してきた。これらの財務省などの行動を通じて、アジア地域での円流通を拡大する基盤は整備されてきているのだ。

一方、日本では通貨当局が為替相場に介入することで円高を阻止するという政策が定着していた。特に、03~04年には約34兆円の円売り・ドル買い介入を実施したのである。また、日銀が量的緩和政策を行い、円を過剰なまでにあふれさせた。

産業界も、為替市場が円高方向に動けば、財務省・日銀が即、それを阻止するとの期待を持ち、円を積極的に使っていくことで、為替リスクを軽減しようという熱意に欠けた。結果として、円の国際通貨としての価値は下がり、「円の国際化」は財務省などの狙い通りには進まなかった。

しかし、円安政策へのこだわりを捨てれば、財務省が主導してきたアジア通貨協力の枠組みは動き出しているということだ。これが実効性を発揮するには、アジア域内でのモノやサービスの取引決済に自国通貨を使う比率を高め、域内通貨を外貨準備に組みこむことや、域内通貨による為替相場介入を可能にしていくことであり、円にはこうした役割を積極的に果たすことが求められているという現状もある。

また、08年秋以降の世界金融・経済危機に対して、日本は数次にわたり経済対策を打ち出したが、その内容は景気底割れ阻止、景気浮揚、成長戦略で、「円の国際化」策は盛り込まれていない。しかし、危機の根源はドルに対する信認低下であることを考慮すれば、円安誘導こそが国益という通貨政策の呪縛から抜け出すべきなのではないか。

むしろ円高のメリットを生かすべき

円高にはメリットもある。円高は輸入を促進し、物価を抑制する要因がある。特に、輸出企業にとっては、原材料費・エネルギー価格のコストダウンが可能になる。また、円高で日本の貨幣的信用が高まると、海外から日本に資金が集まってくる。

そして、日本企業が海外企業を積極的に買収することも可能となる。日本企業が海外企業の買収によって、大幅なシェア拡大を果たすこともあり得る。食料品や資源の関連企業を買収できれば、日本は世界的に熾烈な食糧・資源の獲得競争を有利に展開できるかもしれない。

これまで日本では、現地化のメリットは単なる企業のコストダウンという限られた範囲で考えられてきた。しかし、円高によって海外企業買収が増加すれば、日本企業のより世界的な展開が拡大し、日本企業が持つ高い技術力が生かされる場面は増える。高品質製品の生産拠点を日本国内に残すという日本企業の努力も、円高のメリットを生かすことで、実は可能なのではないだろうか。

更に、識者・マスコミが最も懸念する国内産業の空洞化と国内の雇用縮小について。アジア各国が生産基地としての実力を急速に高め、もはや「日本でしかつくれないモノ」は数少ない。今回の円高にかかわらず、中長期的にみれば、製造業が国内で生産能力を維持するのは高品質の製品を除いては難しい。今後、日本国内の雇用が劇的に回復することはない。

日本の若者の雇用問題は、日本国内の少ない雇用のパイを奪い合うのではなく、アジア地域を日本のジョブマーケットと一体化しなければ解決しない。「仕事がある国に行って働く」という、中国や東南アジアの若者なら当たり前のことを日本の若者ができなければならない。

つまり、日本の若者に語学とスキルを身につけさせる海外留学や海外インターンの積極的な推進こそが雇用対策だ。海外での学費や生活費が下がる円高は、グローバル化の時代に対応する人材育成面でも悪いことではない。

政治家がやるべき事は何か

円高のメリットを生かす方向転換は、日本企業が個別に決断できることではない。これは政治家が決断すべき事である。政治家は実効性が乏しい「円高」牽制のポーズに終始して、指導力欠如を世界に曝け出すべきではない。

日本の長期低落は、製造業・土木建築業などの第二次産業を中心にすべき時期が過ぎたのに、産業構造の転換が進まないことが根本的な原因である。円高対策など安易な産業保護はもうやめるべきだ。

むしろ、政治家はあらゆる批判に耐えて、円高のメリットを生かし産業構造転換をめざす厳しい決断をすべきだ。政治家は、国民の機嫌を取るためにあるのではない。政治家は、つらく厳しいが必要な決断をせねばならない時にこそ必要な存在であるはずだ。(引用終わり)

兎に角、日本人は、訓練してでも米国に対する幻想を捨てるべき時代に入っている。

このことがわからないといつまでも為替仕組み債等の金融商品での損失を日本人が負担することになってしまうだろう。

ところで、朝倉 慶氏も指摘するように、この円高により、短期的には、日本政府と日銀は、為替介入、少なくとも大幅な金融緩和に踏み切らざる得ないと思われる。

その場合、日本政府の方針転換を契機に、為替も株も日本の相場は一変する可能性がある。

現在の情勢では日本が単独で為替介入しても大きな効果が望めないと言うが、そうだろうか? 為替介入するということは具体的にはドルを買って、円を売ることだ。

仮に円を売ってその円を回収せずに放置すれば、これは不胎化といって市場に売った円が放置されることになる。そうなれば当然、円の供給量が増えるからインフレ気味になる。円の供給が突如増えることになるのだから当たり前だ。

たとえ円高の勢いが止められなかったとしても、大幅に介入すればするほどデフレ阻止の大きな効果となる。前回2003年の時は35兆円という膨大な額を為替介入をしたが、仮に100兆円も介入してその円資金を不胎化で放置したら、たちまちデフレギャップなど解消されるはずだ。財務省や日銀からすれば絶好のデフレ阻止の機会だと言える。注目すべきであろう。

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