今回は本の紹介です。  

副島隆彦氏の「ドル亡き後の世界」(祥伝社)です。

後で目次で紹介するように、内容は大変ある意味過激とも言える予想になっています。しかしながら、その論理は明快で大変わかりやすいものです。

米国の強大な軍事力を背景にした政治力がどこまで、空洞化した米国の経済力をカバーできるかの判断で、今後の見方が変化するということだと考えられます。そう言った意味で、ソビエト連邦の強大な軍事力が、その崩壊を防ぐことができなかったことを我々は思い出すべきかもしれません。また、恐るべき炯眼の持ち主エマニュエル・トッド氏の日経ビジネス誌インタビュー、投資家として著名なジョージ・ソロス氏のFT紙のインタビュー、同じく著名なジム・ロジャーズ氏のFT紙のインタビューを参考資料として紹介させていただきます。大変興味深いと思います。

おそらく我々は1944年のブレトン・ウッズ協定以来の大きな変化を数年以内に目の当たりにすることになると思われます。その意味で、日本国内においては今秋、歴史的な政権交代が起きましたが、まだ、まだ、現在の日本の政治の枠組みで、予想される世界経済の大きな変化に対応できるとは考えられませんので、日本の政治もこれから、さらに大きな変化が起きることになると思われます。副島氏の衒いに満ちた文章を嫌う人もいるとは思いますが、非常にわかりやすい本です。



1 章   2010年末、恐慌突入

●「景気底打ち」は大本営(だいほんえい)発表

●アメリカは2012年の「大底」に向かう

●金融商品への愚かな投資で損をするのは自業自得である

●冬のオリンピックが終わってから景気は崩れ出す

●今は落魄(らくはく)した「日本叩き」の責任者

●アメリカの中央銀行(FRB)の負債が危険領域に入った

●金融危機でアメリカ政府が取った4つの対策とは

●株価上昇で儲けたのは「プロ」たちだけだ

●なぜゴールドマン・サックスだけが「一人勝ち」したのか

●日経平均株価は一瞬、5000円を割り込む

2 章   1ドル=10円の時代

●やがて中国が米国債を売り始める

●長期金利が跳ね上がり、アメリカは恐慌に突入する

●アメリカの不動産市場はどれほどひどい状況か

●「テール・リスク」とは何か

●ヨーロッパ諸国にもたらされる大打撃

●世界はドル基軸通貨体制から離脱する。私たちはどうすべきか

3 章   中国が引き金を引く「ドル亡き後の世界」

●誰がホワイトハウスで財政・金融政策の主導権を握っているのか

●ガイトナー財務長官が中国で話したこと

●中国の中央銀行総裁は「ドルに代わる国際通貨が必要」と表明

●「超国家通貨」と「超銀行」

●ケインズから75年、スティグリッツも「新通貨構想」を唱えた

●アメリカの追加景気対策も、2010年初めに効果がなくなる

●日本一分かりやすい「金融政策」と「財政政策」の違い

4 章   「金融時限爆弾」が破裂する日

●アメリカ自身もドルの信用力を疑い始めた

●〝マッカーサーの再来〟の退場

●「ストレス・テスト」は八百長だ

●隠された「簿外の債務」

●「劣悪銀行」の資本不足分は低すぎる

●予測がつかない、シンセティックCDO(合成CDO)の負債総額

●〝日興(につこう)証券買い戻し劇〟を支配したデイヴィッド・ロックフェラー

●デリバティブの処理から導かれる「1ドル=10円」の理論

●金融核爆弾の破裂で大損をした農林中金

●農林中金は解体の運命にある

●日本人が理解できない「格付け」の考え方

●通信簿に「下駄を履(は)かせる」インチキがまかり通っている

●「時価会計」の恐るべき欠陥

●年金も大学も巻き込まれた「日米振り込め詐欺構造」

5 章   日本は米国債を売り払え

●やはり震源は米国債の暴落だ

●米中の綱引きは、かつての「米英覇権争い」に通じている

●日本からアメリカに流れ出した800兆円を取り戻せ

●中川昭一氏の死は日本国民の〝見殺し〟である

●売国官僚たちを厳罰に処せ!

●新興4カ国(BRICs)一致で描く「ドル亡き後の世界」

終 章  「ドル亡き後の世界」を生き抜く

●金地金とレアメタル(希少金属)が暴騰する

●日本企業は中国の「内需」に引きずられてゆく

以下、参考資料

*日経ビジネス2009 11・2号より「今週の焦点」より エマニュエル・トッド氏(歴史人口学者・家族人類学者)      

ドルは雲散霧消する

問 2002年の著書「帝国以後~アメリカ・システムの崩壊~」で「前代未聞の証券パニックとそれに続いてドル崩壊が起こる」と予言しました。今や現実となっています。

答 確かに私は2つの予言をしました。昨年のリーマンショックによって証券パニックは現実におきましたが、ドルの崩壊はこれからです。

リーマンショック後にドルが世界の資金の避難先になったことは正直驚きでした。

しかし、これはドルの内なる力ではなくて、世界中の指導階級たちが依然として米国、そしてドルの世界の調整車としての役割を信じようとしているからです。まだ、何も実績を残しておらず、戦争状態にある国の大統領にノーベル平和賞が与えるなんて不条理の極みとしか言いようがありません。しかしこれが、世界が米国という存在に幻想を抱いていることの表れです。

問 今後、ドルの崩壊はどうやって起きると予想していますか。

答 金融危機が落ち着き、通常の経済活動に戻れば、ドルの下落が始まるでしょう。しかし私が恐れているのはドルの為替レートが上がるとか下がると言ったレベルではありません。経済力の裏付けのないドルは雲散霧消すると考えているからです。

ドル崩壊のシナリオは2つの観点から考えられます。1つは経済的な観点。これは米国経済の衰退が限界点を超えると、中東の産油国や中国がドルに見切りをつけることです。もう1つは軍事的な観点です。グルジアとロシアの紛争で何もできなかったように、アフガニスタンは、米国の無力を象徴する出来事になる可能性があります。

問 ドルの崩壊後、別の基軸通貨が誕生するのでしょうか。

答 私は経済学者ではないので、答えがあるわけではありません。しかし、20ヶ国地域首脳会議(G20)など世界の指導者が集まる場で、ドル崩壊後の世界について真剣に議論すべきです。ドルに代わる基軸通貨がない現状で、世界各国がドルを買うことは、解決できない矛盾を積み重ねて、近い将来の大暴落の被害を大きくしているだけです。私はアジアの中央銀行の総裁だけにはなりたくありませんね。

問 ドルの崩壊と同時に、自由貿易への警鐘を鳴らしています。

答 今、必要なことは、世界の需要をどう作り出すかです。第2次大戦後は自由貿易の時代でした。輸出によって新たな需要が生み出され、生産が増えて賃金が上昇し、需要を創出する好循環が続いていました。しかしそれは賃金の低い新興国の存在がなかった場合にのみ成立した枠組みです。自由貿易の名の下、世界の労働者の賃金は単なるコストを見なされた。企業はコストが低い新興国に生産拠点を移し、賃金は下がり、世界中の需要は縮小する負の連鎖に陥ったのです。

この世界の需要不足を補うために調整役を担ってきたのが、米国の過剰消費だったのです。米国はその役を担うために、大量の国債を発行して借金を増やし、その借金を日本や中国が支えてきました。世界各国が、この枠組みを支えてきたのです。しかしリーマンショックによってその歪みがあらわになりました。

問 保護主義への回帰には批判が強いと思いますが、

答 私は自由主義の代わりに保護主義を取るべきだと主張しているわけではありません。しかし保護主義がタブーとされ、全く聞く耳を持たないことは問題です。歴史の一場面においては、一時的に特定分野での保護主義は必要ではないでしょうか。そして世界の需要がある程度の水準まで回復したら、また、自由貿易に戻せばいいのです。

著名なヘッジファンド・マネジャーであるジョージ・ソロス氏のインタビュー記事

「「ジョージ・ソロスが語る世界経済と金融」

2009年10月29日号

英フィナンシャルタイムズ紙 ジョージ・ソロス・レクチャー (JBプレス社訳)

本紙(英フィナンシャル・タイムズ、FT)の米国マネジングエディター、クリスティア・フリーランドが、ファンドマネジャーのジョージ・ソロス氏にインタビューし、世界経済の状態や米中関係、自身の投資パフォーマンス、金融機関の報酬制限などについて聞いた。以下はインタビュー全文。

FT ソロスさん、インタビューに応じてくださり、ありがとうございます。

ソロス どういたしまして。

FT 世界経済の状態をどう評価していますか。世界は2007~08年の危機から回復したのでしょうか。

ソロス 確かに金融市場は落ち着きを取り戻し、再び機能し始めています。また、世界経済もショックを乗り切りました。一時はすべてが動きを止めましたが、今では物事が動き始めていますから。

世界が危機の現実を消化するには長い時間なので、確かに回復は見られますが、私としては、世界が危機の現実を完全に消化するまでにはかなり時間がかかると思っています。問題の主たる原因は、米国にある。米国は25年にわたって消費者が稼ぐ以上に消費した国であり、ピーク時にGDP(国内総生産)比6.5%に達する経常赤字を積み上げた国だからです。

実際、赤字拡大はもっと続いた可能性がある。絶えず黒字を出して、我々米国の赤字を喜んで埋めてくれる国――特に日本、中国とアジアの虎と呼ばれる国々――があったからです。つまり、経常赤字の拡大は続くこともできた。けれど、家計は過大な債務を背負い込みました。そして消費が米国経済の70%を占め、支出を抑制しなければならないのがその消費者である以上、かなり時間がかかる。

また、基本的に破産状態だった銀行システムがあります。銀行は今どん底にあり、利益を上げてこの穴から抜け出さないといけない。ただ、それはかなり速いペースで実現しつつあります。銀行はゼロ金利でお金を借り、利回りが3.5%の10年物米国債を買っているからです。リスクがゼロにしては、かなり手っ取り早い儲けですよね。なので、銀行は利益を上げて穴から抜け出すでしょうが、これにもやはり時間がかかる。

また、商業用不動産市場という、まだ損失が実現損になっていない分野があります。つまり、世界の弱さの源は主に米国の消費支出と、そうですね、銀行セクターの衰退にあると言っていいでしょう。

FT そうした米国の弱さは、今の景気回復がW字型になる、つまり、今後二番底があり得るほど深刻なものでしょうか。

ソロス 確かに、株式市場では再び下落局面があり得るでしょうね。というのは今、我々は信頼乗数(confidence multiplier)を謳歌しているところで、今回の危機は過去の危機と同じで、我々は何とかV字回復を遂げるという期待のようなものがあるからです。ですから、その期待がかなわないと・・・

FT かなわないと考えているわけですね?

ソロス かなうとは思えませんね。私は間違っているかもしれない。過去にも間違えたことがありますし。しかし、米国経済の成長が一体どこから来るのか、私には全く見えませんね。ドルだけではなく、通貨からの資金逃避が起こる可能性が高い。

FT 米国経済が引き続き弱いとあって、人々がドルを心配し始めていますが、それは正しい考え方ですか。

ソロス もちろん、そうですし、ドルはほかのすべての通貨を除き、非常に弱い通貨だとも言えます。つまり、通貨に対する全般的な信頼の欠如があり、通貨から現物資産への資金の逃避が起きている。中国は引き続き多額の貿易黒字を出し、まだ資産を積み上げていて、人民元はドルに連動しているために永続的に過小評価されているわけです。

今、通常中央銀行が保有する類の資産から、ほかの資産への分散投資が起きています。特にコモディティー(商品)に資金が流れ込んでいる。だから金が上昇していて、石油が強い。これはある意味で、通貨からの資金逃避です。

FT いずれドルが致命的に弱くなる局面、ある種の臨界点が訪れるのでしょうか。それとも、ただ今の状態が続いていくのでしょうか。

ソロス 人民元がドルに連動している限り、ドル安が本当に行き過ぎるような事態は考えられません。もちろん、ある程度、ドル安は有益ですよ。米国の消費者が貯蓄を増やして支出を減らす中で、輸出は米国経済のバランスを是正する手段になります。ですから、秩序だったドル安は実は望ましいんです。

FT ドルはいずれかの段階で、人民元に対しても下落する必要があるとお考えですか。新しい世界通貨協定のようなものが必要になるのでしょうか。

SDRに大きな可能性

ソロス 私は、現行制度は壊れていて、再構成する必要があると考えています。国際金融の世界で、慢性的かつ拡大する不均衡を抱え続ける余裕はない。だから、新しい通貨システムが必要になります。実際、SDR(特別引出権)には新制度になる素質がある。米国がSDRの活用拡大を拒むのは、思慮を欠いていると思いますよ。

世界的な需要不足が起きている時には、SDRはとても、とても役立つ可能性がある。SDRを通じて国際的に通貨を作ることができるし、実際、既にやったんです。我々は既に2500億ドルのSDRを発行した。これは非常に、非常に有効なステップです。

ただし、先進国は追加的な準備金を必要としていないから、先進国にできることは、SDRをショーウインドーに飾り、ほら、これだけ余計に準備金がありますよ、と言うだけ。けれど、実際に使うことはできないんです。

私はこれを、グローバルな公共財の提供に使えると思うんです。先進国は自分たちの割り当てを第三者に預託すればいい。問題は、SDRの利用にはコストがかかるということ。現時点では、非常に小さなコストで、0.5%にも満たないレベルですが、コストであることに変わりはないから、誰かが負担しないといけない。

我々にはその手段があると思うんです。なぜなら、IMF(国際通貨基金)には莫大な金準備金がある――それも非常に安い値段で簿価に計上されている――し、こうした金準備金を最も発展の遅れた国の利益になるよう使うことは決定済みです。ですから、IMFはSDRを払うコストを負担できるんではないかと・・・

FT 金準備金を使ってですか?

ソロス そう、それも実際、既に起きているんです。全く報道されませんでしたが、私の理解では、イスタンブールの会議で合意文書が交わされた。英国とフランスがSDRの20億ドル分、つまり20億SDRを最後進国に移転し、IMFがコストを負担するという内容だと思います。ですから、これは既に使われたことのある道であり、もっと大きな規模で利用できる。

中国を新たな金融秩序に引き込む

FT 来月中国を訪問する際、オバマ大統領は金融の分野でどのような合意を目指すべきなんでしょうか。

ソロス まさにいい時機だと思いますよ。なぜなら今本当に、中国を新たな世界秩序、金融の世界秩序の創設に引き込まなければならないからです。中国はIMFでは、言ってみれば気乗りのしない加盟国です。つき合いはするけれど、自分たちの組織ではないから、大した貢献もしない。中国のシェア・・・彼らの議決権は国の重みに見合っていないんです。なので、中国が必ず創設プロセスに関与し、必ず加盟するような新たな世界秩序が必要です。言ってみれば、現行秩序であるワシントン・コンセンサスを米国が所有するように、中国が新秩序を所有しないといけない。こうした新秩序は、各国間の政策の協調が見られる、より安定した秩序になると私は思います。その土壌は既にある。G20はピアレビューに合意し、事実上その方向に動き出しているんですから。

FT 中国に人民元の上昇を容認するよう説得することは可能だと思いますか。

ソロス そうですね・・・中国は熱心に提唱してきたんですから、言葉通り受け止めますね。人民元をSDRとしてもっと頻繁に使い、兌換性はないにせよ、人民元をSDRの通貨バスケットに入れていく。言い換えると、人民元をSDRの通貨バスケットに加えるべきで、そうすれば中国を取り込むことができるんです。

FT 人民元に兌換性がなくても、それは可能ですか。

ソロス ええ、ええ、その通りです。これまでにも検討されてきたことです。ブラジルのレアルもSDRの通貨バスケットに加えるべきだと思います。バスケットを構成する通貨の数は増やせるし、増やすべきでしょう。

FT これは世界の準備通貨としてのドルから離れていく動きですが、その流れを後押しすることは最終的に米国経済の弱体化につながるという米国の懸念については、どうお考えですか。

ドルが唯一の世界通貨であることは必ずしも米国の利益ではない

ソロス いえ、それは違うと思います。つまり、我々はそれ(ドルが世界の準備通貨であること)から多大な恩恵を受けましたが、悪用してしまった。それに、どのみちこれ以上悪用することは不可能でしょう。ですから、ドルが唯一の世界通貨であることは、必ずしも我々(米国人)の利益ではない。世界経済が拡大するに従い、補足的な通貨が必要になります。そしてドルがその補足的な通貨だとすれば、それは米国が慢性的な経常赤字を抱えることを意味します。それは適切ではない。通貨制度を改革することは、我々の利益にもかなうと思います。

FT しかし、少なくとも短期的には、世界が米国の支出の財源を提供してくれていることは米国にとって非常に都合のいいことではありませんか。

ソロス 確かにその通りです。しかし、世界がそうする意欲は大幅に後退しています。中国は米国債の買い入れをどんどん減らしていくでしょうね。対米黒字が小さくなっていくし、中国は多角化を進めていくからです。中国はブラジルや南アフリカなどにもっとお金を貸すようになる。財源を与えて、そうした国に対する輸出を増やすためです。ですから、これは痛みを伴うものであっても、世界が通らねばならない健全な調整だと思います。

FT もし米国が、こうしたグローバル金融の再交渉に積極的に参加しなかったとしたら、何が起きますか。ソロスさんの念頭にある悪夢のシナリオはどんなものですか。

ソロス 中国は2国間取引に向かうでしょう。既にそうしています。中国は既にアルゼンチンと貿易決済に関する協定(通貨スワップ協定)を結びました。ブラジルとも交渉していると思いますし、2国間協定はもっと、もっと増えていくはずです。ですから、ドルは依然として、主たる国際通貨であっても、その利用は減っていく。

2国間関係から成る世界よりは、多国間体制の継続の方がまだ望ましいと思います。しかし、現行制度は壊れてしまった。我々がはっきりそれを認識していないだけです。だから、我々としては新たな制度を作る必要があり、今そこそれをやるべき時なんです。

FT 米国についてうかがいましょう。米国の財政赤字と、インフレの可能性については、どれくらい懸念されていますか。

中国という小さなモーターで動く世界経済

ソロス まあ、間違いなく、米国経済が当面弱いまま推移し、世界経済の足を引っ張るという事実を考慮すると、それを埋め合わせるためにドル安は必要でしょう。米国の消費者に代わるモーターとして中国が台頭しますが、中国経済は規模がずっと小さいので、もちろん、それは小さなモーターになります。

世界経済は小さなモーターで動くようになるから、過去25年間と比べると、成長ペースは遅くなりますよ。けれども、世界を前進させるエンジンは中国であり、米国は緩やかなドル安によって何とか引っ張られていくような世界経済の重荷となる。

FT 国内的には、インフレはどうですか。インフレは心配の種ですか。

ソロス 融資活動が再開して、米連邦準備理事会(FRB)のバランスシートがそれに沿って縮小されなければ、そうなる可能性はあります。ただ、これは采配が難しいけれども、実行可能なことだと思います。緩やかなドル安、管理されたドル安はあるでしょうし、それは何とか達成しなければならない調整です。

ただ、事態が手に負えなくなる可能性はあるし、インフレ懸念はインフレそのものに先んじて発生する。実際、市場におけるインフレ懸念――金利を押し上げる動きと言っていいでしょう――は、インフレの機先を制し、経済を再び景気後退に追い込む恐れがあります。つまり、1970年代に似たような、パタッと止まっては再び動き出すような経済になるんではないでしょうか。

FT FRBが利上げに関して今よりタカ派の姿勢に転じ、早計な利上げに踏み切ってしまうことは、どれくらい心配していますか。

ソロス FRBがですか? その可能性は低いでしょうね。FRBには目の前に日本の例があり、日本は実際にそれ(早計な利上げ)をやって、経済が後退する結果になったことは分かっているんですから。ですから25年間にわたる過剰は、取り去らないといけない。

FT では、(バラク・)オバマ大統領はどうでしょう。大統領は財政赤字をもっと心配すべきなのか、景気回復が勢いを失っていくことをもっと心配すべきなのか。

ソロス 彼は景気回復が弱まっていく方をより心配しているのでしょうね。失業について心配しているし、その懸念は正しいと私は思います。問題は、企業が極めて慎重で、景況が回復し始めていても、人を採用しないことです。企業はコスト削減のおかげで結構いい利益を上げているから、失業問題はまだ続くでしょう。

FT 1年余り前、リーマン・ブラザーズが破綻し、世界は、多くの人が大恐慌並みに深刻になると恐れた金融危機に直面しました。それが今、特にウォール街では、回復が見られます。どれくらい「本物」の回復なのでしょうか。

株式市場の回復は年末まで続く

ソロス 株式市場はかなり本物でしょう。膨大なカネが使われずに取り置かれていて、全く利息も生まないから、それが次第に市場に吸い込まれていって、相場が上昇した。年内は、そのプロセスが続くでしょうね。

FT 年末にかけて、市場は上げ続けると?

ソロス こういうことは、予想できませんよ。いつ転換点が訪れるかは分かりませんからね。けれども、相場の上昇が続くように思えるのは、雇用情勢に回復が見られないために、金利が上がらないことが確実視されるからです。そして同時に、企業収益は割と好調で、取り置かれている資金が潤沢にある。

なので、今から年末にかけて、緩やかに市場回復が続く条件がかなり整っている。

しかし、経済がこのまま動き続けていくためには、さらなる刺激策が必要になります。今の景気回復は基本的に、こうした支払いの移転と各国政府が出している赤字が原動力になっているからです。こうした対策が打ち切られたら、経済が二番底をつける。なので、それを避けるためには継続的な刺激策が必要になります。

それが政治的に実現可能かどうかは、もちろん、まだ分かりません。それでは債務が積み上がっていきますし、将来の世代への負担になりますから。しかし、やらなければ再び景気後退が起きる。あるいは、もっと長引く景気後退に陥るでしょうね。

FT 今回の危機におけるご自身の投資家としてのパフォーマンスを、どう評価していますか? 今は何に賭けていますか。

金融危機で引退生活から一時復帰

ソロス 私は自分の資産を守るために引退生活から復帰し、それに成功しました。今ではまた引退生活に戻って、ファンドは引き続き手堅いリターンを上げていますから、非常に満足しています。

FT あなたが再び引退生活に戻れるほど、世界は安全になったと思いますか。

ソロス 今の状況で私がファンドの運用に貢献できるとは思いません。私の知識は時代遅れになりつつあって、嵐から資産を守るためにマクロのツールを使わざるを得ませんでした。しかし、その嵐は過ぎ去った。今は嵐の余波で、再び個々の企業を知っているかどうかが問われます。私の知識は時代遅れになってしまったので、私が市場に参加するのは適切じゃない。

FT 投資は、世界の金融のあり方についてどう判断を下すかという問題でもあるのでは?

ソロス 私としては、もっとお金を稼ごうとするよりも、システムについて考えることに時間を費やした方がもっと貢献できるのではないか、とも思っているんです。私に残された時間というのは、システムの改革について考えることにかける方が有効に使えるだろう、と。システムには間違いなく改革が必要で、そこでは私には貢献できるものがあると思うんです。

FT 具体的に、米国の金融制度改革についてうかがいます。最も必要なのはどんな改革でしょう。一番必要な対策は何だと思われますか。

ソロス 銀行システムを規制することが必要です。基本的に、大きすぎて潰せない銀行に暗黙の保証を与えたのですから、今度はその保証の履行が発生しないよう銀行を規制しなければなりません。それが規制当局の仕事です。

彼らはそれにしくじった。当局は銀行に自己規制を認め、銀行はそのチャンスを手にして逃げ出し、トラブルに陥った。だから、もう二度と、銀行がまんまとやりおおせるようなことは許してはならない。

銀行を規制し損ねた当局の責任

銀行が利用を認められるレバレッジの量を減らす必要があるでしょう。理解しておかなければならないのは、個々の市場参加者が必ずしも考慮しなくてもいいシステミックなリスクが存在するということです。なぜなら個々の参加者は、誰かほかの人に証券を売ることを期待できる。けれども、すべての人が同じ側に立った時は、売れません。全員が売ろうとしたら暴落します。実際それが起きたんです。

ですから、個別参加者が抱えるリスクとは同一ではないシステミックなリスクが存在し、それに対して防御策を取るのは規制当局の役目なんです。

それから、金融市場の機能に関するコンセプト全体が間違っていたということも認識する必要があります。すなわち、金融市場は均衡に向かう傾向があるという考え方です。市場は均衡に向かったりしない。実際、市場は資産バブルを生みがちなので、規制当局は責任を持って、そうしたバブルが自己増殖して暴落を招く事態を防がないとならない。

当局はあからさまにその責任を取ることを拒んだ。彼らは言ったんです、「我々はマネーサプライをコントロールすることはできるが、資産バブルは無理だ」と。しかし、当局は必ずミスを犯すと分かっていても、その責任を負う必要がある。

ただし、クレジットをコントロールすれば、それは1つのステップになり、市場からフィードバックを得られます。それで当局が十分な手を打ったのか、まだやらねばならないのかが分かる。こうしたフィードバックは、調整を図り、バランスを維持する方向に向かう助けになります。

これは規制当局が避けてきた責任であり、当局は今それを受け入れなければなりません。そのためには、お蔵入りしていたような道具を使う必要があるでしょう。つまり、委託証拠金と最低資本要件です。こうした要件は、市場で優勢なムードと釣り合いを図るよう、折に触れて変える必要があります。市場が高揚している時は、委託証拠金の要件を引き締めないといけない。逆に、今のようにムードが落ち込んでいる時は、緩めてもいい。

そのため、今は実際こうした要件を課すべきタイミングではないんですが、そうする準備はしないといけない。経済が再始動する時に、融資活動も再び動き始めます。そのタイミングこそが、銀行により厳格な資本要件を課すべき時なんです。

FT 状況が改善し、経済や金融セクターが活力を取り戻した時に、今お話しされたような制約を課すだけの政治的意思があると思いますか。

生き残った大手銀行の政治力

ソロス いえ、ないでしょう。というのは、銀行は政治的に非常に強い影響力を持っていて、残っている銀行・・・米国では銀行界を支配する大手が3~4社になっています。彼らは半ば寡占的な地位を占めていて、その力を使ってその地位を守ろうとしている。ですから、正しい種類の規制を通すうえで、政治的に大きな戦いがあるでしょうね。

FT オバマ政権が戦いに勝つと思いますか。あるいは、政権はその戦いに取り組んでいるのか、それとも諦めてしまったのか。

ソロス 残念ながら、これまでの取り組みは十分ではない。けれども、これからもっとやってくれると期待していますし、私は個人的に、そうするよう迫っていきますよ。

FT 大きすぎて潰せない金融機関の自己勘定取引には制約を設けるべきですか。

ソロス 報酬やインセンティブの体系は統制すべきだと思います。というのは、保証を与えた以上、そうした銀行が自己資本でリスクを取って、追加的な資本投入を余儀なくされるような事態は防がないといけない。大きすぎて潰せないというコンセプトには、銀行の従業員が受け取る報酬を規制する必要性が伴うんです。

FT 政府は、例えばゴールドマン・サックスの報酬を規制すべきだということですか。

ソロス その通りです。

FT どう規制すべきなんでしょう。銀行の報酬を制限すれば、優秀なリスクテーカーはヘッジファンドに移る?

ソロス それに、規制すれば、リスクを取るのがうまいリスクテーカーはゴールドマンを去って、ヘッジファンドに移るでしょう。それが彼らの本来の居場所ですよ。ヘッジファンドは自分たちの資金でリスクを取るんですから。預金でもなく、政府の保証でもなく、ね。

FT 大きすぎて潰せない銀行の報酬はどう規制すべきだと? 報酬に上限を設けるべきなのか、一度支払われた報酬に返済条件をつけるべきなのか。

ソロス まず何より、報酬が支払われる期間を今よりずっと長くする必要があります。デリバティブ(金融派生商品)の場合、契約の全期間をカバーするような長い期間が必要でしょうね。

私が思うところ、今、銀行は非常に多額の隠れた補助金を受け取っている。事実上ゼロ金利でお金を借り、利回りが3.5%の10年物国債が買えるんですから。

こうした儲けは、リスクテーカーが上げた成果じゃない。これは贈り物、政府からの隠れた贈り物ですから、そうしたお金は、例えばボーナスの支払いに使われるべきではない。だから今銀行に怒りが向けられている。正当な怒りだと思います。

銀行が上げている利益は政府からの「隠れた贈り物」

FT では、大統領、あるいはティム・ガイトナー(財務長官)はどんな手を打てばいいのでしょう。ゴールドマンの幹部は今年500万ドル以上の報酬を受け取ってはならない、とでも言うべきなんでしょうか。どんな手を打てばいいのか。

ソロス そうかもしれませんね。正直言って、この問題についてじっくり考えたことはありませんが、預金が保証されている銀行で働いている人には、報酬に何らかの制限があるべきです。

FT 例えば、政府が上限はいくら、と金額を明示することが適切だと、お考えなわけですか。

ソロス ええ、そうです。まあ、絶対額の上限が必要かどうかは分かりません。それについては、じっくり考えたことがないので。

FT 思うんですが、もしこの議論にロイド・ブランクファイン(ゴールドマンのCEO)が参加していたら、こう言うんじゃないでしょうか。「ソロスさん、あなたは自分の都合のいいように、優秀なリスクテーカーはゴールドマンのような銀行ではなく、ヘッジファンドで働くべきだと言っているのではないですか」と。どうお答えになりますか。

ソロス 私は公にヘッジファンドの規制を提唱していますし、システム改革について話す時は私個人の利害を考慮しないよう最大限の注意を払っていますから、それについては私の意見は変わりません。

FT ウォール街の大手は、今年一部の金融機関が上げている巨額の利益に対する一般市民の怒りを十分認識していると思われますか。今は彼らにとって危険な時なのでしょうか。

ソロス 認識しているかどうか分かりませんが、確かに今怒りが存在し、それは必ず伝わると思います。それが容易に、誤った類の規制につながりかねない。規制について何が危険かと言うと、こうした感情的な問題のせいで間違った規制ができてしまうことです。ですから、銀行が自分たちの地位を守ろうとして熱心にロビー活動をしすぎるのは、彼ら自身のためにならないんですよ。

FT ソロスさん、どうもありがとうございました。

(以上 JBプレス社訳)

「ジム・ロジャーズが語るドル安と通貨危機」

(2009年11月2日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

著名投資家で、執筆業にも勤しむジム・ロジャーズ氏が、本紙(英フィナンシャル・タイムズ)の東京特派員リンゼイ・ウィップの取材に応じ、米ドルに対する懐疑的な見方や通貨危機が起きる恐れについて語った。以下はビデオインタビューに編集を加えた概要である。

FT かなり前から、ドルに対してネガティブだとおっしゃっていますね。今も懐疑的な見方は変わりませんか。

ロジャーズ ええ、変わりません。今、ありとあらゆる人がドルに懐疑的になっています。ドルは欠陥のある通貨です。今や何年ぶりかの安値水準にあります。

ただ、悲観的な人がこれだけ大勢いますから、ドルが高騰する局面があっても驚きません。悲観派が大勢いる時――私を含めて――は、大抵、相場は反発するものですから。

悲観一色、ドルが反発すれば「売り」なので、仮にドルの上昇局面があったとしても、それが長続きするとは考えられない。長くても、1年か2年程度でしょう。私としては、その上昇局面で売り抜けるだけ賢明でありたいと思っています。

一方で、ドルの上昇局面がなく、このままドル安が進むようなことがあれば、私は恐らくほかの人たちと一緒になって、パニックしてドルを売るんでしょうね。いずれにせよ、今後10年から20年について言えば、ドルには悲観的です。

FT ドルが準備通貨であることに対しても懐疑的だ、ということですね?

ロジャーズ ええ、そうです。多くの人が今、言っていますよ、「一体どうしたらいいのか」と。中国は特別引出権(SDR)を提唱しました。ほかの人々も様々な提案をしています。それが仮に「我々はどうすればいいんだ」と言うだけであったとしても。

米国と敵対する国は、ドル以外の通貨を使い始めています。ベネズエラはユーロを使い始めているし、イランは日本円を使っている。米国の友好国も心配し始めています。

そう、だから必ず何か手は打たれるでしょう。市場がそれを強要するか、人々が迫り来る問題を認識してそれを解決するか、どちらかです。後者については、疑わしいと思っています。世界がそれほど賢明であることは、めったにない。特に官僚はそうです。ですから恐らく今後数年内に、市場が我々全員に解決策を強いることになるでしょうね。

FT それは、どんな解決策になると?

ロジャーズ もし米国が今日海に沈んだとしたら、それ(解決策)はユーロなんでしょう。というのは、代わりとなる通貨がユーロ以外にないからです。今から20年後であれば、人民元かもしれません。

現時点では馬鹿げた考えですよ。人民元は小さな通貨で、兌換性もありませんから。しかし、今後20年内にこの問題を解決し得るような、大規模な経済と人口、そして十分な外貨準備を持った国の通貨は、人民元しか考えられません。

今から20年後までの間には、人はしばらくの間ユーロを試すかもしれない。いざとなれば、すてばちになってやるしかないでしょうね。あるいは、通貨バスケットやSDRを試すこともできる。ただ、長続きするとは思えません。コモディティー(商品)のバスケットをベースとした別の通貨を試すこともできるかもしれませんが。

1~2年以内に再び通貨危機が起きる。

これだけ多くの不均衡が存在しているので、私は今後1~2年内に、通貨危機、あるいは半ば危機のような「セミ危機」が起きると思っています。極端な話に聞こえるかもしれませんが、常にそれが繰り返されてきたんですよ。多くの問題が重なった時は、必ず、為替市場で問題が生じた。

FT 通貨危機とおっしゃる場合、もう少し詳しく言うと、どんなことが起きるんでしょうか。

ロジャーズ あなたがアイスランド人だったら、通貨危機がどんなものか分かっているでしょう。23年前に自国の通貨が崩壊し、すべてを失ったか、資産の大部分を失ったわけですから。

何が起きるかと言うと、ある特定の通貨がほぼ完全にその価値を失うんです。人々はもう、その通貨を受け入れなくなる。人々は破産していきます。

次の危機は恐らく・・・どこで起きても不思議じゃない。ウクライナなのか、アルゼンチンなのか、私には分かりません。もしかしたら今回は、英国で起きるのかもしれないし、米国かもしれない。

通常は、我々が普段考えもしないような小さな国があって、そこで何か問題が起き、どんどん雪だるま式に問題が膨らみ、ふと気づけば誰もが「一体どうしてこんなことが起きたのか」と口を揃えて叫ぶことになる。それが再び起きるでしょう。それも、さほど遠くない将来に。

FT 金についてはどう見ていますか。

金は数年内に2倍になる

ロジャーズ 金は持っていますよ。売ってはいません。金相場が下がれば、恐らく買い増すでしょうね。もし米国がイランを侵攻して、金相場が上昇すれば、その他の世界情勢次第でもっと買います。

いや、でも金はもっともっと上昇しますよ。今後数年で、今の水準から少なくとも2倍にはなるでしょう。そうならないわけがない。

FT あなたは英ポンドにもネガティブですね。政権が代われば、懐疑的な見方が和らぎますか。

ロジャーズ 私はポンドは一切持っていません。今も、英国経済と英国の貿易収支の状態については心配しています。政権交代が役に立つとは思えません。

先日、お送りしました緊急レポート:中川昭一元財務大臣の変死について、月刊テーミス11月号に前回のレポートを補強する記事が掲載されました。

これだけのメディアにこうした記事が掲載されたことの意味も本当は考える必要があるわけですが、(その件はまた、後日レポートで分析しますので、)取りあえず、現在の日本の政治状況を考える上でも、極めて重要な内容だと思いますので、是非、ご一読下さい。

たとえば、日本の財政赤字を日本の財務省、マスコミはここ数年来、騒いでいますが、米国はこの記事に書かれているように、裏では日本に平気で100兆円の米国債購入を求めてきているわけです。要するに米国政府は、日本のことを「金のなる木」=金持ちだと認識しているわけです。しかるに日本人全体の生活実感は、おそらくこの数年來、全くよくなっていないと思われます。日本という国は、国民の生活を犠牲にしても米国を助けないと生きていけないとほとんどの日本のエリートは信じこんでいるのです。

その結果、現在、補正予算を3兆円削ったとか、もっと削れるとかいう日本国内向けの馬鹿な報道が一般大衆向けにされているわけです。しかしながら、そろそろその裏でこんなことが行われていることをもっと多くの日本人は知るべき時代がきたと思われます。                                 

(以下引用)

2009年テーミス11月号より

CIA関与の噂が、中川昭一元財務金融相「変死」にちらつく米国の影

~G20でブッシュに恥をかかせ、米国債の購入要請を値切り、

日本核武装にも言及したが、~

兄貴分の亀井大臣も号泣

「日本が危ないから」この言葉を残して「隠れ反米派」の保守政治家、中川昭一氏は死出の旅に出た。しかし、その死には不審な点が余りに多い。日本の警察の鑑識でも死因は特定できなかった。酒に酔い抗鬱剤を飲んだという傍証があるだけで、真因は誰も明らかにできていない。ある公安関係者は、世界の公安の常識をこう語る。「重要人物の死亡について警察当局による死因不特定という発表があれば、それは暗殺の可能性をほのめかしたとみなされる」どこの国でも警察権力で遺体解剖すれば何らかの「死因発表」は朝飯前でできる。だが、警察が敢えて「不明」として発表することに、重大な意味が含まれるのだという。実際、通信社の報道によると、中川氏を見かけた近所の住人は、直前まで元気だったと語っている。最後のブログには。「日本を守り、真の意味で国民を守れるかを真摯に議論してほしい。心ある国民はそれを是非応援してほしい」と呼び掛けていた。「真の意味で」日本を守ることの難しさを切々と訴えていたが、中川氏は一体、誰から日本国民を守ろうとしたのか。

北朝鮮や軍事大国化する中国を批判した中川氏の言動は知られているが、実はその華々しい大臣としての活動の中で、決定的な点で米国と対立した政治家であったことは、意外と知られていない。氏の兄貴分であった国民新党の亀井静香金融・郵政改革担当相は、最近、テレビで「亀井静香がCIAに暗殺されない限り、新政権が米国に従属することはない」と暗殺の可能性を予告して見せた。視聴者の中にはCIAの暗殺予告を冗談とみたかもしれないが、身辺に危険を感じた72歳の亀井氏が、事前にCIAの暗殺を予告することで、CIAの魔手を牽制したとの指摘もある。

中川氏は自民党旧亀井グループに属していた時期もあり、亀井氏は中川氏にとって兄貴分の役割を果たした盟友であった。亀井氏は弔問に訪れ、柩に納まった顔を見て号泣した。米国と対峙する政治家の1人中川氏に、「変死」という不幸が訪れたのだ。中川氏が米国と正面衝突したのは、米国がメンツをかけて開いた世界初の金融サミットだ。08年9月のリーマンショックによる世界的な金融危機、この危機を乗り越えるため当時のブッシュ大統領は11月、歴史上、初めてのG20をワシントンで開催した。米ウオール街発の金融危機、ドル暴落危機を、新興国までに手を広げて乗り切るというのがブッシュ政権の目論見であった。

内々に米国債購入の打診が、、、

このとき、 ブッシュの面前で米国批判を展開、堂々と苦言を呈したのは、中川氏であった。「米国はしっかりしてもらわねば困る!世界に放漫財政を垂れ流すだけでは立ち行かなくなる」公式会見の場で受けた忠実な同盟国による堂々とした批判にブッシュの口元は大きく歪んだという。

世界中から対米批判が巻き起こる中、ブッシュ肝煎りの世界初の金融サミットという大舞台で、各国リーダーから米国大統領が批判の血祭りにあげられるのは、米国が最も避けたいシナリオであった。確かに招かれた世界のリーダーは、米国に来る前は自国で次々に米国批判をぶち上げていた。しかし、サルコジ仏大統領もメドベージェフ露大統領も、G20では「ドル防衛」の掛け声に唱和し、協調を訴え、米国の機嫌取りに終始した。主要国と米国の対立を想定した世界のマスコミは、肩透かしを食らった格好になった。日本の元財務官はこの顛末を中川氏から聞き、膝を叩いて喜んだ。「ブッシュに直接言ったのか。よく言った!」

だが、このG20は中川氏に致命傷を与えてしまった。

「日本、IMFに10兆円を拠出・世界貢献に」新聞の各紙朝刊に華々しい見出し踊った。G20に乗り込む日本の国際貢献策である。資金が枯渇するIMFに日本政府が新たに10兆円もの大金を献上するという貢献策で「中川構想」と呼ばれ、マスコミにもてはやされた。すでにIMFは途上国の緊急融資で融資するキャッシュが不足し、日本政府の5億ドルの緊急融資で初めて融資可能となり、当時のIMF理事会は日本政府の緊急融資決定の報がもたらされると拍手が起きた。その意味でこの貢献策は米国に大きく評価されてよかった。

しかし、米メディアの反応はなぜか冷淡だった。実はG20会議の開催前に米国は当座の金融危機を乗り切るために、内々に日本側に大規模な米国債の購入を打診したというのだ。その額は80兆円とも100兆円ともいわれる。米国経済の命運は毎週発行する巨額の米国債の入札の成否にかかっている。世界金融危機に沈む米国は日本にSOSを発し助けを求めてきた。

「中川は大丈夫か」と心配の声

中川氏は盟友の亀井氏と同じく、日本の歴代自民党政権が無制限に唯々諾々として米国債を購入する姿に危惧を抱いていた。氏は財務省で腹心と言われる玉木林太郎国際局長に相談したという。そこで代案として打ち出したのが。「IMFへの緊急10兆円融資」だった。世間で喧伝された「中川構想」も、米国当局から見れば米国の100兆円国債購入の要求は、中川氏によって10兆円に「値切り倒された」形になったのだ。歴代の自民党政権で米国の国債購入要求を十分の一にまで「値切り倒した」財務相はいなかった。小泉政権まで順調だった米国の対日工作は、一敗地にまみれた。

国内で中川氏の快挙をほめそやす声が上がる一方、事情を知る自民党の財務省経験者から「中川は大丈夫か」と心配する声も出るほどだった。

さらに、財務省関係者によると、驚くべき措置を中川氏は指示した。それは日米同盟の琴線にふれる内容だった。10兆円の資金を新たに米国債の購入ではなく、外貨準備の活用、すでに購入した米国債の売却で充当するように指示したという。日本政府が購入した米国債はどこにあるのか。日本政府は明確に回答していないが、日本の金庫にはないとの指摘が多い。多くは米国の財務省の金庫に眠ると言われており、日本政府の米国債購入の証書を米政府に発行してもらうだけで、実際の米国債は日本の封印付きで米国にあるというわけだ。つまり、中川氏は米国に眠る古い米国債の売却を命じることで、米国の資金拠出要求に答えた。米国に生きたドルのキャッシュは振り込まれないどころか、日本政府からの借用書を自分で処理しろと命じられたようなものである。

当時の麻生首相も財政負担の懸念を示す民主党の追求に「外貨準備を使うのだから」と胸を張って答えている。国益重視の保守主義者、中川氏の真骨頂が発揮されたのだ。致命傷というのはここだ。「触れてはいけない封印措置だったのです」とある財務官僚は指摘する。購入した米財務省証券の現物が日本にないことを明らかにすること、さらに日本が購入した米国債を大量に売却するということ、この二つの「禁じ手」に中川氏が手を出したことが米国の怒りを買った、という。

当時、中川氏はロバート・ゼーリング世界銀行総裁に何度も会談を求められ、交渉を繰り返していた。今は亡き中川氏に真相を聞くことはできないが、日本の資金貢献を求めるぎりぎりの交渉が行われたことは想像に難くない。

米大統領も驚愕した核武装論

危機の米国を助けず、裏切った中川昭一。

米国が国益を進める中で、一度は衝突しなければならない政治家として、氏は深く刻まれたのか。さらに米国の世界支配の道具である核武装問題でも、逆鱗に触れた。

「原爆投下は米国の犯罪です」当時(06年)、自民党の政調会長であった中川氏は長崎で講演し、過激な対米批判を繰り返した。「原爆投下を決断した米国の判断は許すことができない。これはまさしく犯罪なのです。」当時は小泉政権で防衛相を務めた現役閣僚の久間章生氏まで講演で長崎の原爆投下について「あのような状況では仕方ない」と発言。ネオコン率いる米国に阿諛追従を述べる始末だった。まして、被爆地・長崎は久間防衛相の選挙区である。選挙区の有権者の心情より米国への追従を優先させた現役の防衛相に比べ、中川氏の対米批判は際立っていた。

中川氏は専門である日本の核武装論議にまで踏み込み、日本核武装という米中両国が最も恐れるシナリオに触れことについてもいささかのためらいもなかった。民放のテレビ番組(06年)で「北朝鮮の核兵器実験の動向を受けて、非核三原則の約束を見直すべきか議論を尽くすべきだ」と語り、日本に核武装という選択肢があることを公言したのである。これには米国大統領も驚愕したとの指摘もある。

中川氏の父の一郎氏は旧ソ連との漁業交渉を主導した北海道出身の政治家であり、旧ソ連との関係が深い政治家としてマークされていた。一部では旧ソ連の情報機関KGBのエージェントだったという指摘する声まで出る始末であり、その自殺劇の真相はいまだに謎に包まれている。そうした父の一件もあって、「戦争犯罪」で米国を糾弾する、親米派にみられた中川氏の面従腹背ぶりは、米国の情報機関にとって「要警戒」人物のトップリストに加わっていたとみられても不思議ではない。

中川氏は保守連立を目論んだ

世界金融サミットで中川氏に煮え湯を飲まされた米当局にとって、溜飲を下げる機会は早々と訪れた。今年2月、ローマで開かれたG7財務省会議である。資金協力で再び、ロバート・ゼーリック世界銀行総裁と激しい議論を繰り広げた中川氏を待っていたのが、世界に放映された自身の泥酔会見だった。中川氏のワインを注いだとも言われる財務官僚は薄笑いを浮かべ、そばに座るだけで、中川氏の政治家としての生命を絶ったのである。泥酔会見に不審な点が多いのはこれまでの報道の通りだが、中川氏が、ワインを口にした際に、睡眠薬をもられたとの指摘も多い。さらにこの事件には、邦人2人がイタリアから米国債13兆円を持ち出そうとして逮捕されたという奇怪なニュースのおまけまでついた。問題の米国債13兆円とは、ニュージーランドのGDPに匹敵する巨額な数字である。

なぜ、邦人がそれだけ巨額の米国債を所持していたのか(後に米国債は偽物と報道された)なぜ、サミットが開かれているイタリアから持ち出そうとしたのか。

本物の米国債であればこれだけの米国債を動かせるのは、日本以外には米国、中国しかない。日本政府が極秘に米国債の売却を進めたとの憶測も流れたが、真相はいまだに藪の中である。

実は「日本が危ないから」との言葉を残して変死した中川氏は、自民党の殻を飛び出して保守勢力の大連立を目論んでいたという証言がある。

反米や非米勢力の大連立、その中には政界の兄貴分であった亀井金融相との連立も射程に入っており、行く末には同じ自民党の仲間、150人の国会議員を抱える民主党の小沢グループとの連携も視野に入る。

民主党の小沢一郎氏は米国が最も警戒する政治家だ。「在日米軍は海兵隊以外いらない」と発言し、米国の世界軍事戦略の根幹である在日米軍を「不要」と言って米国軍事関係者の度肝を抜いた。この小沢氏と中川氏の連携が生まれれば、日本に強力な反米政権が誕生する可能性がある。民主党左派の抽象的な反米発言に比べ、小沢氏や中川氏の保守政治家の反米政策は、政策の実効性を見極めた対応だけに、一度実施されれば、米国を震撼させるだけのインパクトがある。鳩山由紀夫民主党政権と自民党の保守主義者の連立政権。保守反米主義者と左翼反米主義者の結託、これこそ米国にとって悪夢である。日本が、米国の世界戦略の根幹であるドル支配に対抗し、核支配に牙をむくアジアの大国として再登場する可能性があるからだ。

「今や中国より日本が危険だ」これが米国のアジア専門家で密かに議論されているテーマだ。

米国にたてついた中川氏。その存在は国内で見ると落選した政治家という落魄感でみられたかもしれないが、外から見ると違う。対米関係で隙間風の出始めた鳩山政権の誕生によって、中川氏の重みはぐっと増していた。野に下った自民党の保守勢力を中川氏が糾合し、亀井氏を連合すれば米国にとって厄介な政権になるのは火を見るより明らかだ。

泥酔を座視した官僚栄転の裏

「自然死」「事故死」「自殺」

CIAが画策する暗殺のベストパターンは、この三種類という。

その意味で中川氏の酒癖の悪さは周知の事実であり、氏の弱点が露呈していたことは確かだ。

中川氏死去のニュースで日本の関係者が悲嘆に暮れている10月上旬、ワシントンのIMFから財務省に吉報がもたらされた。篠原尚之財務官がIMFナンバー2のポストに、日本の財務官僚が世界の金融機関のリーダーとして迎えられたというわけだ。

しかし、この篠原氏は中川財務相時代に玉木国際局長(当時)とともに、ローマのG7財務相会議に同行し、泥酔会見を座視していた人物である。泥酔会見を阻止できなかった2人の財務官僚には、いまだに責任論がくすぶっている。その不満をよそに、ワシントンから抜擢人事の吉報が発令されたのだ。中川氏の麻布高校同級生だった玉木国際局長は、篠原氏の後任の財務官に出世するというおまけまでついた。何があったのか。

実は中川氏が仕掛けたIMFへの10兆円出資の外貨準備による運用は、米国の怒りを買ったため、実際の契約は、日本政府がIMFに対して日本の円を現金で融資するという方法にいつの間にかこっそり切り替えられていたのだ。麻生首相も中川氏も「日本政府は新たな負担なしにIMFに協力できる」と胸を張った方式は、日本政府が現ナマの巨額の円を融資するという米国が歓迎する方法に変貌していたのである。そしてこのお膳立てをIMFとともに粛々として進めたのが、財務官を中心とした財務省の少数の官僚だったといわれる。

「米国式の徹底した論功行賞です。米国の意向に逆らった中川氏には悲惨な運命が、大臣とは別に米国の意向を忠実に実行した官僚には栄転の道が開けたのです」と米国のストラテジストは指摘する。

地下に眠る愛国政治家、中川氏は どう思っているのだろうか。



2009年10月9日、ノルウェーのノーベル賞委員会は、米国大統領バラク・オバマに2009年のノーベル平和賞を授与すると発表した。その理由は「核兵器のない社会」の実現を掲げたことが「人々に未来への希望を与えた」ためと説明されている。現職の国家指導者の受賞は2000年の韓国・金大中以来のことである。



しかし2000年の金大中は、韓国現職大統領として初めて北朝鮮を訪問し、歴史的南北会談を実現させた“実績”を持つ。同じように現職国家指導者として1994年にノーベル平和賞を受賞したイツハク・ラビン(イスラエル首相)は、受賞前年の1993年にアラブ側との和平を進めるオスロ合意に調印し、翌1994年にはヨルダンとの平和条約にも調印した“実績”を持つ。今回受賞のオバマは、平和に向けての“意思表示”はしているものの、実績は全く残していない。この論法でいけば、国連で1990年比で2020年までに二酸化炭素25%削減を宣言した我が国の鳩山首相にも何らかの賞が与えられてもおかしくはないことになってしまうではないか。

オバマのノーベル平和賞受賞が発表されても、米国内ではそれを祝う雰囲気は少なく、市民は戸惑いとも驚きともとれる表情に溢れ、さらには批判の声すら聞こえてくるほどだった。オバマ大統領の受賞直後に行われたホワイトハウスでの定例記者会見は、記者たちからの「おめでとう」の言葉もなく始まり、平和賞受賞に対する厳しい質問が相次いだ。大統領報道官のギブスも困惑し、「私はノーベル賞委員会のメンバーではない」と答えるしかなかった。

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*今回は本の紹介です。

小生は、ある書店の歴史ジャンルのコーナーで高橋五郎著、「天皇の金塊」「天皇のスパイ」を求めることができたが、人によっては、これらの本をトンデモ本に分類するのかもしれない。


十代の頃、司馬遼太郎の小説が好きでよく読み、「竜馬がゆく」の愛読者でもあった。本当の歴史もこう言った小説に書かれていたようだったら、どんなにか楽しく、明るい気分になれるというものなのだが、いろいろな本を読み、少しは政治の世界の話を聞き囓った小生は、現実はどうも全く違うと現在では確信している。


そう言った意味で大変、興味深いエピソード=俄に信じがたい話に溢れている本である。


おそらく、こういった歴史の裏話というものの真贋は、表面に表れた事象との論理的整合性の筋が結ばれるかどうかで判断するしかないのではないか。


間違いなく、普通の人は、今までに教えられた歴史との違いに愕然とするしかないのであるが、


真贋はともあれ、大変興味深く、おもしろいことは間違いない。取りあえず、小説として読むことをお勧めしたい。残念なことは、この本の文書が大変読みにくいことだ。


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「現在、日本の政治で何が起きているのか」

~小沢一郎氏の狙いはどこにあるのか~



ご存じのように、8月30日に行われた総選挙では民主党が308議席を獲得して歴史的勝利を収めた。社民党や国民新党との連立協議もまとまり、9月16日に鳩山由紀夫政権が誕生。これから、同政権は総選挙に際して公約した「脱・官僚依存=政治主導」に向けて大規模な行政改革に取り組むことになり、また外交政策についてもうまくいくかどうかは別にして米国一辺倒からの軌道修正が図られていくことになる。



まず、対米関係で焦点となるのが、在日米軍再編問題の行方だ。

ここで問題となっているのは、海兵隊のヘリコプター基地である沖縄県の普天間基地のキャンプ・シュワブ沿岸部への移転をめぐるもの。在韓米軍がこの基地に移るにあたり、海兵隊9,000人の移転先として以前には鳩山新首相は県外移転を主張していた経緯があるが、それを他の都道府県が受け入れるはずがないので、グアム島に移すことになった。(鳩山総理は、最近になって沖縄県内の移動の可能性も示唆し始めている。)

この移転にあたり、日本政府はすでに2兆円ほど支払っており、アンダーセン空軍基地以下、住民地区も含めてすべての電力設備を施設し直した。ところが、2月24日に小沢一郎新幹事長が米軍の日本防衛は「第七艦隊で十分」と発言したように、6,500億円もの「思いやり予算」をも含めて民主党はその資金を支払わない姿勢を崩していない。これに対し、米国としては従米政権だった小泉純一郎政権が結んだ協定に基づいて、移転費用をしっかり支払ってくれるかどうかについて図りかねているのが、現在の状況である。

そこで、国務省とは無関係のジョン・ルース駐日大使が新しく赴任したのである。

今、新大使がすでに動き出している。バラク・オバマ政権が打ち出している「グリーン・ニューディール政策」でグリッド(送電線網)や光ファイバーの敷設、環境関連での先端企業の交流を名分に米国から大勢の企業経営者に日本を訪問させる計画を打ち出しており、それに着手し始めた。新大使を選んだのは友人であるオバマ大統領自身であることがはっきりしており、大統領選挙の際にカリフォルニア州で資金を集めていたことに対する“論功行賞”である。

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