m.yamamoto

ベーシックインカムは可能か(2)

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9月 112017

2033年に人口の3人に1人が高齢者(65歳以上)になると言われる日本では、若者世代が高齢者を扶養する現行の賦課方式(世代間扶養)の年金制度は、このままでは立ち行かなくなると考えられています。現在、さかんに言われ始めた働く意欲や体力のある高齢者には短時間労働などでも働いてもらうという「世代間の所得と労働の再分配」という点からもベーシックインカムの導入を真剣に検討する価値が出てきたと考えるべきでしょう。それでは、現在の日本でBI(ベーシックインカム)導入の可能性はどの程度、あるのか具体的に考えてみることにしましょう。

 そのためには、これまで日本政府がどのような政策により仕事をつくってきたか、守ってきたかを振りかえってみる必要があります。それには公共事業、農業保護、中小企業保護、直接、生存権を守るための生活保護に現在、どれだけ予算を費やしているかを考えてみればいいということになります。簡単に言えば、これらの予算を直接給付し、BIに代替したら、どれだけのことができるか考えればいいということになります。ということは、基礎年金のために使っている予算、失業保険のために使っている予算もベーシックインカムに代替すると考えることになります。例えば、20歳以上(1492万人)の人に月7万円(年84万円)、20歳未満(2260万人)の人に月3万円(年36万円)のベーシックインカムを給付するには、96.3兆円の予算が必要になります。日本の一般会計予算は約100兆円ですから、そんな予算はどこにあるのかという誤解で現在、議論が止まっているわけですが、元々、BIは所得控除の代わりになるもので、同時に所得税に課税するものであることを頭に入れておく必要があります。現在、雇用者報酬と自営業者の混合所得は257.5兆円ほどありますので、これに30%の税率で課税すれば、77.3兆円の税収を得ることができます。これを財政的に考えると、96.3兆円から77.3兆円を引いた19兆円に現行の所得税13.9兆円を足した32.9兆円をどこから捻出するかがBI支給のポイントになります。現在、日本政府は老齢年金に16.6兆円、子ども手当てに1.8兆円、雇用保険に1.5兆円あわせて19.9兆円支出しています。これらはBI導入で廃止できますので、あと13兆円をどのように捻出するかということになります。ご存じのように政府の一般関係予算の中には、生活保護負担金以外にも公共事業関係費、中小企業対策費、農林水産省予算、地方交付税交付金等、所得を維持するための予算と考えられるものが多く存在します。詳細は省きますが、おそらく、公共事業予算5兆円、中小企業対策費1兆円、農林水産業費1兆円、民生費のうち福祉費6兆円、生活保護費1.9兆円、地方交付税交付金1兆円、計15.9兆円ぐらいは削減することは可能でしょう。もっとも給付額を月7万円と低く見積もっているので、このような試算が可能になるのですが、ここで忘れてはならないことは、日本国憲法第25条に「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と高々と謳っていることです。その意味で、非正規雇用が増え、終身雇用制度が崩壊しつつある今、19世紀に始まった会社・企業を安心の起点とする考えを改め、国が社会の安心を直接保障するべき時代に入ったことを多くの人が理解すべき時代に入ったと言えるのではないでしょうか。

*東愛知新聞に投稿したものです。

ベーシックインカムは可能か(1)

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9月 012017

リーマンショック(2008年)以後、世界を席巻した新自由主義の行き詰まりが表面化し、それとともに世界の富豪62人が下位35億人に匹敵する資産を持つなど極端な富の集中が起き、貧富の格差が世界的に拡大していることを多くの人が知るようになってきました。また、日本においても失われた20年間を経て日本社会の影の部分の一つである子供の貧困問題が識者に指摘され、注目を集めるようになってきました。実際に日本は先進国の中で突出して相対的な貧困状態にある子どもが多い国になっています。特に大人が一人の世帯では相対的貧困率が50.8%にも達し、平成26年度版「子ども・若者白書」によれば、子どもの相対的貧困率はOECD加盟国34カ国中10番目と高く、OECD平均を上回っています。子どもがいる現役世帯のうち大人が1人の世帯の相対的貧困率はOECD加盟国中、最も高いのが日本の厳しい現状です。現在、日本では、約一千万人の人が年に84万円以下の所得で暮らしていますが、この人たちの所得を年84万円に引き上げる為の金額はわずか、2兆円に過ぎません。これだけの金額で基本的には日本の貧困問題を大幅に改善できるということになります。

ところで今、世界的に話題になっているBI(ベーシックインカム)とは、「勤労するかどうかにかかわらず、国がすべての個人に無条件で一定の所得を支給する」というものです。20166月にはスイスで「大人には月2500スイスフラン(約28万円)、子どもには625スイスフラン(約7万円)を支給する」というBI導入の是非を問う国民投票が行われました。結果は反対多数で否決されたものの、国内外から大きな注目を浴び、投票者の4分の1弱に当たる23.1%が賛成票を投じています。また、世界各地において給付者を限定した形での給付実験が始まっています。フィンランドは本年1月、失業者2000人を無作為に選び、毎月560ユーロ(約7万円)を2年間支給する実験を開始しました。支給されたBIは課税されず、仕事に就いて収入を得ても失業手当のように減額されることはありません。また、カナダのオンタリオ州は今春から1864歳の低所得者4000人を対象にBIを実験導入しています。実験は3年間で単身者には年最大16989カナダドル(約140万円)、夫婦には年最大24027カナダドル(約199万円)が支給されます。

それではなぜ、今、ベーシックインカムが注目されているのでしょうか。その背景には、労働が人工知能に置き換わることで失業が急増するとの予測があります。2013年、オックスフォード大学の研究チームは今後1020年間に米国の総労働人口の47%が機械に置き換わる可能性があると指摘しています。その中には製造業などの単純労働だけでなく銀行員、ファイナンシャルアドバイザー、コンサルタント、法律家といった知的労働も含まれています。人工知能によって人の仕事がどの程度奪われるのかについては、まだ、未知数ですが、多くの仕事が人工知能に置き換わっていくことが確実な時代に私たちはどんな仕事で稼ぎ、政府は社会保障制度をどう維持していくのかが、問われています。その一つの答えとして浮上してきたのが、BIです。

日本では、まだBI(ベーシックインカム)の議論はどこか遠い国の話のように受け止められていますが、若者世代が高齢者を扶養する現行の「賦課方式(世代間扶養)」の年金制度が立ち行かなくなることが確実なわが国こそ、BI導入の可能性を真剣に考える必要があるのではないでしょうか。

*東愛知新聞に投稿したものです。

クールジャパンの裏側にあるもの(3)

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8月 202017

社会学者のエズラ・ヴォーゲルが「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言う本を書いてから、40年近い歳月が経ちました。そして現在、名門企業東芝が解体の瀬戸際に追い込まれ、シャープが事実上倒産し、外国企業に買収され、民営化した日本郵政は数千億円の巨額損失を計上、中央銀行である日本銀行はGDP80%にあたる400兆円の日本国債を抱える異常事態となっています。1989年には新規国債の発行が必要なくなると言われていたことを考えると、劇的な変化です。また、現在の世界情勢も中国の台頭に象徴されるように、その当時とは全く違ったものになっています。さらに昨秋、登場したトランプ大統領によって世界の体制も新たな段階に入ろうとしています。その象徴的な出来事がイギリスのEU離脱です。

ご存じのように1951年のサンフランシスコ講和条約によって、日本は独立を回復しました。それは冷戦下において、日本国が米軍に占領されているというきわめて特殊な条件下のものでした。このサンフランシスコ体制の意味するところは、米国からの日本の再軍備、日本における米軍基地の存続、講和会議からの中華人民共和国等の排除という要求に日本が同意する見返りに表面的には寛大な講和条約によって独立し、安保条約を結ぶことによって、米軍による保護が確実になるということでした。その結果、講和条約第6条には、「連合国のすべての占領軍は、この条約の効力発生の後なるべくすみやかに、且つ、いかなる場合にもその後九十日以内に、日本国から撤退しなければならない」と、前文に明記されているにもかかわらず。終戦後も占領期と同様に治外法権的特権を維持したまま、米軍が日本に駐留し続けることになりました。そして民主的な憲法と外国軍駐留の矛盾を露呈させないために1959年、有名な砂川事件において最高裁は、欧米先進国では例のない「統治行為論」を持ち出し、日本国憲法第81条に「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と明記されているにもかかわらず、憲法判断を留保する状況に逃避し、現在に到っております。その結果、日本には<安保法体系>と<憲法法体系>の二つが存在し、日本国憲法98条第二項の「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」という条文によって安保法体系が国の最高法規である憲法法体系の上位に位置するという主権国家とは言い難い状況になっています。

安保法体系と憲法

ところで、本年53日、安倍首相が自民党の憲法草案の内容を無視する「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」というビデオメッセージを発表し、自民党内外に大きな波紋を拡げています。30年前、平和国家を標榜する国の首相である中曽根康弘氏が「日本をアメリカの不沈空母にする」と発言、物議を醸しましたが、事態はそのように進み、2004年、後藤田正晴元副総理が「日本は米国の属国である」という考えを大手メディアのインタビューで明言するに到りました。その意味で、憲法が最高法規として機能していない日本という国の不都合な真実を直視する勇気が今ほど、求められている時はありません。

*東愛知新聞に投稿したものです。

戦後はいつ終わるのか

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8月 152017

本日、815日は終戦記念日です。日本の長い戦後は、「敗戦を終戦と言い換える」ことによって始まりました。8月によく放映されるアニメーション「火垂(ほたる)の墓」の原作を書いた作家の野坂昭如氏は、「敗けるということが、どういうことなのか判らぬまま70年、敗戦後、立ち止まって考えることをしなかった。そのツケがボディブローのように効いてくる」と書いています。

考えてみれば、戦後の復興も奇跡とも言われた高度経済成長も冷戦下において、それしか選択の余地がなかったとは言え、戦争に負けた国に抱きつくこと(対米従属を通じて国土を回復し、国家主権を回復する戦略)によってもたらされたものです。その結果、冷戦という僥倖に恵まれていたこともあり、日本は世界に冠たる経済大国になることができました。しかしながら、この経済的成功によって、「対米従属を通じて独立を回復する」という戦後の国家戦略が現状維持の空気のなかで風化していくことになります。

その結果、日本には占領期と同様に米軍が、駐留し続けることになりました。昭和44年時点では、「わが国の外交政策大綱」に「在日米軍基地は逐次(ちくじ)縮小・整理するが、原則として自衛隊がこれを引き継ぐ」と明記されていたことも忘れてはならないところです。ちなみに現在、千人以上の米軍兵士が駐留している国は、世界で9カ国しかなく、米国国防総省の発表によると日本は、世界最大の米軍駐留国で、その基地面積は世界第3位、その駐留経費負担は世界第1位となっています。また、最近のウィーキーリークスの暴露によって世界に展開する米軍の情報管理システムが青森県の三沢基地、東京都の横田基地、沖縄のキャンプ・ハンセンに集中していることも明らかになっています。

まさにかつて中曽根康弘元首相が「日本列島を米国の不沈空母にする」と語った通りの日本が現実化しているわけです。ところで、1951126日に安保条約生みの親とされるジョン・フォスター・ダレスが日本との交渉に先立ち、スタッフ会議で「われわれが望む数の兵力を、望む場所に、望む期間だけ駐留させる権利を確保することがわれわれの目標である」と語っていました。そして、その目標が実現し、現在でもその状況が続いています。

この日本の現況を米国の映画監督であるオリバー・ストーン氏は「日本はアメリカの衛星国(Satellite state)であり、従属国(Client state)である」と断言し、日本の政治家は戦後の国際社会において、いかなる大義名分も代表したこともなく、日本は、米国の政策に追随する以外に国際社会に向けて発信する構想を持っていない国だと、2013年の広島における講演で発言しました。その発言に対して日本の大手メディアは、記事にして反論することすらありませんでした。

日本の戦後史の分岐点は、冷戦の目処がつき始めた1985年のプラザ合意で、ここから日本経済の転落が米国によって仕掛けられてきます。このことを経済通の宮沢喜一氏は「日本の不良債権の問題をたぐっていくと、どうしてもきっと、プラザ合意の処へいくのだろうと思います。これに対して日本経済が対応をしたり、しそこなったりして、結局今の姿は、どうもその結果ではないかということを、いろいろな機会に思います」と語っています。(「聞き書 宮沢喜一回顧録」)そして現在、英国のEU離脱、反グローバリストであるトランプ米国大統領の誕生など、国際情勢が大きく動き出しています。その意味で今ほど、立ち止まって戦後の現実を直視し、未来を構想する勇気が求められている時はありません。

*東愛知新聞に投稿したものです。

クールジャパンの裏側にあるもの(2)

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8月 102017

「私日本人でよかった。」というポスターがBBCニュースでも取り上げられる騒ぎになっています。「そわそわする」「なんか落ち着かない」など、違和感を覚えるという声が上がり、発行主体が明示されていなかったこともあり、誰がなんの目的で作ったのかという憶測をよび、ネット上で拡散したものです。さらにポスターのモデルの女性が日本人でなく、中国人であることもわかる驚きの展開になっています。

元々このポスターは、神社本庁が6年前に祝日に国旗を掲げることを啓発しようと作ったものでした。この「日本人でよかった」という言葉は、東日本大震災で苦難に立ち向かう人たちの間で自分たちを励ます言葉として頻繁に使われてようになり、広まっていたものでした。注目すべきは、失われた20年と言われる閉塞状況が続く日本社会であのような大震災が起き、絶対安全だとされていた原発がメルトダウンするという未曾有の大事故が起きたことです。大きな自然災害とともに多くの日本人が信じていた「原発は絶対安全だ」という共同幻想が崩れたわけですから、その時、関係者が味わったその屈辱感と不能感の大きさは想像するに余ります。それでも日本、被災地域で生きていかなければならない人たちが選んだ言葉が、合理的に考えれば、矛盾する「日本人でよかった」という言葉でした。

この言葉は、「官も民も、皆で助けようとしている。トラックの運転手も有志で物資を運んでいるらしい。最近、日本に対して誇りを持てないことが続いていたけれど、そんなことない。日本人でよかった。」という文脈で使われました。これと同じような倒錯の構図が戦後保守政治のなかでも起きています。戦争に負け、米国の占領下にあった日本には、「対米従属を通じて段階的に国土を回復し、国家主権を回復していく」という戦略しか選択の余地はありませんでした。たしかにこの戦略は、1972年の沖縄返還までは、戦争を良く知る戦前生まれの政治家によって実行され、一定の成果を上げていきましたが、冷戦下における経済成長によって経済大国になると、いつのまにか「対米自立=主権国家」という国家目標を忘却の彼方に置き忘れてしまう事態になりました。

その結果、「対米従属を通じてさらに対米従属を深める」という不条理な状況に現在、日本は陥っています。ところで、鳩山由起夫元総理がマスコミのインタビューで総理在任中は、その存在を知らなかったと明言している「日米合同委員会」なるものをご存じでしょうか。日米合同委員会とは、日米地位協定第25条に基づいて日本における米軍の基地使用・軍事活動の特権などの具体的な運用について協議するための機関です。この組織が1952年以降、1600回以上も日米地位協定の解釈や運用について協議を重ね、米軍の特権を維持するために数々の密約を国権の最高機関である国会の審議を経ることなく生み出してきました。しかもそれらの密約は、日本国憲法に基づく日本の国内法の体系を無視して米軍に治外法権に等しい特権を与えています。その典型が首都圏を中心に一都九県の上空に広がる米軍が独占的に使用できる「横田空域」です。驚くべきことにこの米軍の特権には国内法上の法的根拠が全く存在せず、日米地位協定にも法的根拠は明記されていません。

長い戦後を終わらせ、真の主権回復と主権在民を実現するためにも国会のチェック機能が期待されるところです。「他国の軍隊を国内に駐屯せしめて其の力に依って独立を維持するという如きは、真の独立国ではない」と安倍首相の祖父である岸信介氏も明言しています。

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