m.yamamoto

消費税を社会保障目的税化することに財務省はなぜ、こだわるのであろうか。

 当然、財務省には戦略・意図があるはずだ。

それには、消費税について基本的なことを考えてみる必要がある。

消費税は、1954年にフランス大蔵省の官僚モーリス・ローレが考案した間接税の一種である。消費税を定義すると、次のようになる。

「消費税は、財貨・サービスの取引により生ずる付加価値に着目して課税する仕組みであることから、欧米では、VAT──バリュー・アッデド・タックス/付加価値税、もしくは、GST ──グッズ・アンド・サービセズ・タックス/物品税と呼ばれる。」                    ウィキペディアより

 ・VAT──Value-Added Tax

 ・GST──Goods and Services Tax

 元財務官僚の高橋洋一氏によると、消費税は海外では地方(州政府)の財源にするのがオーソドックスであるとのことである。消費税は受ける行政サービスの対価として課せられる「応能税」的な性格を持つ税金なのである。そのため、応能税である消費税は、細かなところまで住民へのサービスが行える地方に納められるのがスジであるといえよう。(*今でも1%は地方消費税となっている)

つまり、市民に対して基礎的なサービスをするのは地方なので、地方税にするのが最も合理的なのである。

現在、日本が当面しているさまざまな難問を解決するには、権限や財源が中央に集中している明治維新以来の中央集権官僚国家の体制改革をする必要があると、この二十年来語られてきた。2008年4月に当時、与党だった自民党のまとめた道州制案などもその国家改造計画の一つである。 

よく言われる「地域主権」を確立した地方分権国家への道である。

地方分権を本当に実現するための国から地方への財源委譲は15兆円~20兆円程かかると言われている。これほどの巨額の財源を委譲できるのは、消費税以外には考えられない。

つまり、真の地方分権を実現するまで可能な限り、消費税の低い税率を上げたとしても7~8%を維持して、地方自冶体の基幹税として消費税を国から地方へ税源移譲すべきだということになる。もちろん、このことを一番嫌っているのは、当然、財布の紐を握る財務省である。

地方への税源委譲などとんでもないし、消費税を地方税にするなど絶対に認められないというわけである。

そのためにそうさせない仕掛けを今回の「社会保障と税の一体改革」の中に仕組んだのである。おそらく、それが「消費税の社会保障目的税化」なのであろう。

 

ところで、この「社会保障と税の一体改革」だが、肝心の社会保障の中身がほとんど議論されず、はじめから消費増税ありきで進んでいる。そのために民主党の国会議員の先生方の中には、「税と社会保障の一体改革」と言い間違えするケースが目立つ。

 表看板はあくまで「社会保障と税の・・」であるものの、社会保障を議論しないで、増税だけを推進したい本音が思わず洩れてしまっていると考えてもよいのではないか。

 消費税は徴税コストが安いにもかかわらず、巨額の税収が安定的に得られるので、財務省にとっては、メリットの多い税金だ。しかも消費増税をスタートさせた後で、一部の物品に関しては軽減税率を適用する計画であり、それを決める権限を財務省が握ることになる。

 情報によれば、新聞購読料金の消費税に関しては英国のように税率をゼロにするという確約を既に与えていて、増税やむなしの世論づくりに大手新聞社を協力させているという噂までも聞こえてくる。その意味で、新聞の増税やむなしの論調は、本当の意味で国民の声を反映しているとはいえない営業努力とも言えよう。

 頭のいい財務官僚エリートが考え出したのが、「消費税の社会保障目的税化」である。そうすることによって、将来税率をさらに上げるとき、社会保障の財源が足りないことを理由にできるので引き上げやすいということに加えて、何よりも消費税を国税として固定化できるという大きなメリットがある。

 したがって、民主党が「社会保障と税の一体改革」を進めるということは、地方分権はやらないということをアッピールしているのと同じだと我々は考えるべきである。

 本来であれば、「社会保障と税の一体改革」検討チームは増税の前に増大する社会保障費をいかに軽減するかについて、真剣に検討すべきだったはずだ。

 社会保障の財源問題を軽減するためには、社会保障の運営を効率化することが必要だ。そのためには国と地方の役割分担が重要で、年金は保険としての機能を生かすためには全国をカバーするほうがいいに決まっている。一方、医療・介護など他の社会保障では、人口1000万~2000万人程度の「道州」を単位とするほうが、地域特性を生かして効率的な保険運営できるのではないか。しかし、今回の政府の「社会保障改革案」では、地方分権と社会保障改革の関係について、ほとんど言及されていないのが現実である。  

あまりも不思議なのは、いつも「地域主権」を主張している地方議員、首長が、異議を唱えないことである。

地域主権を目指す時にいつも問題となるのは、地方行政費用をどのように賄うかということだったのではないか。民主主義の根本原理として歴史の教科書にも載っている言葉に「課税なくして代表なし」というものがある。これは税が政府の形を決めている基本となっていることを示している。

そして、国全体の税収のうち、地方がどの程度を占めているかも現在の政治のあり方を決定づけている。

 

2012/01/21 20:01 【共同通信】  .

原発事故、最悪シナリオを封印 菅政権「なかったことに」 

 

~これだけの失態を重ねているにも拘らず、当事者は誰も責任を取らず、東電に公的資金を投入した上で存続させ、あろうことか電気料金の値上げも強行しようとしている不可思議な状況だ~ 

 

 東京電力福島第1原発事故で作業員全員が退避せざるを得なくなった場合、放射性物質の断続的な大量放出が約1年続くとする「最悪シナリオ」を記した文書が昨年3月下旬、当時の菅直人首相ら一握りの政権幹部に首相執務室で示された後、「なかったこと」として封印され、昨年末まで公文書として扱われていなかったことが21日分かった。複数の政府関係者が明らかにした。

 民間の立場で事故を調べている福島原発事故独立検証委員会(委員長・北沢宏一(きたざわ・こういち)前科学技術振興機構理事長)も、菅氏や当時の首相補佐官だった細野豪志原発事故担当相らの聞き取りを進め経緯を究明。危機時の情報管理として問題があり、情報操作の事実がなかったか追及する方針だ。

 文書は菅氏の要請で内閣府の原子力委員会の近藤駿介(こんどう・しゅんすけ)委員長が作成した昨年3月25日付の「福島第1原子力発電所の不測事態シナリオの素描」。水素爆発で1号機の原子炉格納容器が壊れ、放射線量が上昇して作業員全員が撤退したと想定。注水による冷却ができなくなった2号機、3号機の原子炉や1~4号機の使用済み燃料プールから放射性物質が放出され、強制移転区域は半径170キロ以上、希望者の移転を認める区域が東京都を含む半径250キロに及ぶ可能性があるとしている。 

 政府高官の一人は「ものすごい内容だったので、文書はなかったことにした」と言明。別の政府関係者は「文書が示された際、文書の存在自体を秘匿する選択肢が論じられた」と語った。

 最悪シナリオの存在は昨年9月に菅氏が認めたほか、12月に一部内容が報じられたのを受け、初めて内閣府の公文書として扱うことにした。情報公開請求にも応じることに決めたという。 民間の立場で事故を調べている福島原発事故独立検証委員会(委員長・北沢宏一(きたざわ・こういち)前科学技術振興機構理事長)も、菅氏や当時の首相補佐官だった細野豪志原発事故担当相らの聞き取りを進め経緯を究明。危機時の情報管理として問題があり、情報操作の事実がなかったか追及する方針だ。

 細野氏は今月6日の会見で「(シナリオ通りになっても)十分に避難する時間があるということだったので、公表することで必要のない心配を及ぼす可能性があり、公表を控えた」と説明した。

 政府の事故調査・検証委員会が昨年12月に公表した中間報告は、この文書に一切触れていない。

  

【解説】検証阻む行為許されず

 東京電力福島第1原発事故の「最悪シナリオ」が政権中枢のみで閲覧され、最近まで公文書扱いされていなかった。危機の最中に公開できない最高機密でも、公文書として記録しなければ、次代への教訓を残すことはできない。民主的な検証を阻む行為とも言え、許されるものではない。

 民主党は2年半前、政策決定の透明性確保や情報公開の促進を訴えて、国民の信を得たはずだ。日米密約の解明も「開かれた政治」を求める国民の期待に応えるための作業だった。

 しかし、今回明らかになった「最悪シナリオ」をめぐる一連の対応は、そうした国民の期待を裏切る行為だ。

 シナリオ文書を「なかったこと」にしていた事実は、「情報操作」と非難されても仕方なく、虚偽の大量破壊兵器(WMD)情報をかざしながらイラク戦争に突き進んだブッシュ前米政権の大失態をも想起させる。

 民間の立場で調査を進める福島原発事故独立検証委員会が文書の取り扱いをめぐる経緯を調べているのも、そうした民主的な視点に根差しているからだ。ある委員会関係者は「不都合な情報を握りつぶしていたのではないか」と指摘する。 

 昨年末に中間報告をまとめた政府の事故調査・検証委員会が「最悪シナリオ」に切り込めていないのも問題だ。政府は民間の事故調査を待つことなく、自らが経緯を明らかにすべきだ。  (共同通信)

「NHK NEWS WEB」は、1/22付でこう報じている。(http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120122/t10015450241000.html)

 政府の原災本部 議事録を作らず

東京電力福島第一原子力発電所の事故を巡って、避難区域や除染の方針など重要な決定を行ってきた政府の「原子力災害対策本部」の議事録が作成されていなかったことが分かりました。専門家は「将来同じ失敗を繰り返さないようにするための財産が失われたという意味で、国民的な損失だと思う」と指摘しています。

 

政府の原子力災害対策本部は、総理大臣を本部長とし、経済産業大臣をはじめ全閣僚をメンバーとするもので、原発事故当日の去年3月11日に設けられ、避難区域や除染の基本方針、農作物の出荷制限など原発事故を巡る重要な決定を行ってきました。NHKで、去年11月、それまでに開かれた21回の会議について「議事録や内容をまとめた資料など」の情報公開請求を行ったところ、公開されたのは、議題を記した1回の会議について1ページの「議事次第」だけで、議論の中身を記した議事録は作成されていなかったことが分かりました。

NHKの取材に対し、原子力災害対策本部の事務局を務めている原子力安全・保安院の担当者は「業務が忙しく議事録を作成できなかった」と説明しています。公文書管理法は、国民への説明義務を果たすとともに政府の意志決定の過程を検証できるようにするため重要な会議の記録を残すよう定めており、公文書の管理を担当する内閣府は、原子力安全・保安院の担当者から聞き取りを行うなど経緯を調べています。原発事故への対応を巡っては、東京電力と政府が合同で事故対応を検討した「事故対策統合本部」でも主要な会議の議事録が作成されていなかったことが分かっており、内閣府は、この経緯についても調べています。

公文書の管理や情報公開制度に詳しい名古屋大学大学院の春名幹男特任教授は「政府の重要な立場にあった人たちは、記録を残さないと責任を果たしたことにはならない。今回は、自分たちの失策がそのまま記録されると困るので、あえて記録を残さなかったと思われてもしかたない。将来同じ失敗を繰り返さないようにするための財産が失われたという意味で、国民的な損失だと思う」と指摘しています。 

*どうも、この国の政府は、国民の方を向いていないようである。

 1月17日付けで中國新聞は、こう報じている。(http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201201170089.html)

   福島事故の拡散予測、国内公表前に米軍伝達 文科省

 

 東京電力福島第1原発事故で発生3日後の昨年3月14日、放射性物質の拡散状況を予測する緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)による試算結果を、文部科学省が外務省を通じて米軍に提供していたことが16日、分かった。

 SPEEDIを運用する原子力安全委員会が拡散の試算結果を公表したのは3月23日。公表の遅れによって住民避難に生かせず、無用な被ばくを招いたと批判されているが、事故後の早い段階で米軍や米政府には試算内容が伝わっていた。

 国会が設置した事故調査委員会(委員長・黒川清くろかわ・きよし元日本学術会議会長)の第2回委員会で、文科省の渡辺格わたなべ・いたる科学技術・学術政策局次長が明らかにした。

 渡辺氏は「(事故対応を)米軍に支援してもらうためだった。(国内での公表は)原子力災害対策本部で検討していたので遅くなった」と釈明した。

 SPEEDIは放射性物質の放出量や気象データから拡散状況を予測するが、今回は放出量が把握できず、本来の使い方ができなかった。だが文科省や原子力安全委員会、経済産業省原子力安全・保安院は、放出量を仮定するなどしてそれぞれ試算。原発の北西方向に放射線量が高い地域が広がるなど、実際と同様の傾向が出ていた。

 昨年末に公表された政府の事故調査・検証委員会の中間報告によると、3月12日に保安院は「信頼性が低い」と記載した上で試算結果を官邸に送ったが、官邸職員は参考情報にすぎないと考え、当時の菅直人首相に伝えず、避難に役立てられなかった。中間報告は「放出量を仮定した計算結果が提供されていれば、より適切な避難経路を選ぶことができた」と指摘した。

 渡辺科学技術・学術政策局次長の釈明は、言い訳にもなっていない。米軍の支援よりも住民の避難を優先しなければならないことは、当たり前だ。官庁にとって、日本国民より米軍の方が大事なのか。

 そして、米国政府は在留している自国民に対し、速やかに80キロ圏外に避難するよう勧告したが、その際、安全と考えられる方向を示したと思われる。

これに対して、我国政府は、事故後2週間近く経ってやっとSPEEDI情報を公表した。こうして最も激しく放射性物質が降り注いでいた時期、住民は被曝するに任せられるままになった。せっかく官邸に届けられたSPEEDI情報を握り潰した職員は、日本国民のことをどのように考えているのだろうか。

 事故直後の原子力安全・保安院の対応は既に批判されているが、「信頼性が低い」などと余計な記述をしたことが、SPEEDIが生かされなかった一因になったと思われる。

「信頼性は低いかも知れないが、緊急時だから最悪の事態を想定して対処すべき」と書くべきだ。役人根性が最悪の事態を招いたと言えよう。

 この国の政府は明治以来、どういうわけか、国民の生命を軽んじる傾向があるが、その傾向は年を経るごとに酷くなっているようだ。現政権には、国益を考えている姿勢が全く見られない。一刻も早い体制改革が必要だ。

 今回は、「エコノミスト、浜 矩子氏」が絶妙な比喩を使っているのでそれを借用して世界・日本の政治経済を分析してみたい。それでは、彼女が「世界昆虫戦争、アリとキリギリスの戦い」としてどのように世界経済を語っているかをまず、目を通していただきたい。

*参考資料

『恐慌ドラマの行き先は? 今、恐れるべきことは何か』 

        ~エコノミスト・浜矩子講演より引用~  (2010年9月11日)

 「私が挙げました、今恐れるべきことのその2は、昆虫大戦争でございます。

これも財政恐慌と無縁では、ございませんで、どういうことかと申し上げますと、今我々はグローバルジャングルという場所において生息をしているわけでございますが、グローバルジャングルの住人たちは、次第々々に2種類の昆虫に、それこそ、仕分けされ分類されてしまって来ています。 

グローバルジャングルは2種類の虫さんたちが巾を利かせている感じが致します。

そのグローバルジャングルを席巻しております2種類の昆虫たちのそれぞれの名前は、アリとキリギリスでございます。

アリとキリギリスに、グローバルジャングルは2分されつつある訳でございます。

そして面白いことに、アリ対キリギリスの対立の構図は、色々なレベルで目撃・観察することができます。 

一番はっきり最近において出ておりましたのが、ギリシア(ギリシャ)問題を噴出させたEU、ヨーロッパにおいてギリシアが財政完璧大赤字になってしまって、国として倒産するかも知れない。

この倒産寸前国家、倒産寸前の仲間をEUのその他の国々が、果たして支えるのか、支えないのかで大もめに揉めつつ今日に至っております。

ギリシアと同様の問題を抱えている国々もありなんと言うところでございますが、差し詰め、ギリシアがキリギリスその一、という格好で出現して来たと思いますし、EUという枠組みの中でそのキリギリスをどうやって支えていくのか、支えていかなければならないのか、という事で思い悩んでいるアリさんがいる。

「我々はひたすら財政節度を守り、企業は生産性を上げ、労働者は一生懸命働いて、アリさんの見本をやっている、この我々が、ふしだらなキリギリスをどうして支えなければならないのか?」とドイツは思っていて、それに対してキリギリス国家群側からは、「アメリカたちが、アリさんたちに余りにもけちけちし、いじめ過ぎるからこういうことになる。少しはキリギリス的我々を見倣え!そのほうが人生楽だよ!」とか言ってワイワイなっている。

ということで、EUにおいてアリとキリギリスの攻防の対立の構図がはっきりと見えておりますが、決してEU固有の問題ではございません。

実を言えば、我らが日本国の国内においてもアリとキリギリスの対峙の構図がはっきりしているのです。

日本は今や、巨大な一匹のキリギリスとその他大勢のアリさんたちに二極分化しているのでございます。 

その一匹のキリギリスさんの名前は、日本国政府ということになるわけでございます。 

 巨大な赤字垂れ流し状態である巨大キリギリスを支えるために、民間の我々はみんなアリさんになって、「安いものしか買わない」、ということで「安いものしか作らない」というので、デフレの淵に我々、どんどんどんどん落っこちてゆく、民間は超アリ化する一方で、公的部門(キリギリス)はなかなかそこに歯止めを掛ける目処が立たず、そのためには「アリさんからもっともっと税金を取らなければならない」というように、日本国内にもそういう形でアリとキリギリスの対峙の構図がはっきりとしてきている。 

ヨーロッパそして日本と来たわけですが、もとより、地球経済全体としてみれば、そこに非常に本質的に大きな、アリとキリギリスの構図があるわけでございまして、地球経済はまさに著しく巨大メタボ化したキリギリス、その名はアメリカ合衆国となるわけでございますが、これが一方に存在し、そのキリギリスを支える、養ってあげるアリ集団のかつての筆頭が日本でありましたが、最近は筆頭が中国になってきていて、日本はアリさんリーグで抜かれたしまった感じあります。

日本、中国そしてEUの中ではドイツが、アリさん三大国家としてメタボキリギリスを支えるという状況でございます。 

これはどっちも「どっちがケチだ」、と争っているわけでございまして、夫々は夫々なりに、アリはアリのまま、キリギリスはキリギリスのまま来るべき財政恐慌の衝撃を何とか切り抜けていこうと振舞っているうちに通貨大波乱の淵にみんなで陥ってしまっているわけでございます。

ここで私がつくづく思いますのは、昆虫大戦争的な状況の怖いところは、ずうっと引いてですね、外から、カメラをぐっと引いて外から見ると昆虫大戦争は見えないことにあります。

例えば、27カ国で形成しているEUというものを、EUという纏まりとして外から見れば、そこで昆虫大戦争が起こっていることはわかりません。全体としてひっくくって見てしまえば、アリとキリギリスの丁度バランスが取れているので勘定が合っている。

「良いバランスですね。問題ないですね」というような健康診断的な、外から観察すればそんな感じに見えてきてしまわけです。

日本国もそうでして、外から見ますと世界最大の債権国でございます。経済の規模こそ中国に当然のことながら当たり前なことながら、あれだけ大きな国ですから抜かれてしまっていますが、貯蓄規模、純貯蓄の規模から見れば日本はまだまだ世界で一番の規模、平たく言えば世界で一番リッチな国であるといえるわけでございます。 

外から眺めるとこうなる訳でございますが、一度中に足を踏み込んで行けば、ひたすらアリさんになることを強いられて、デフレと戦う民間部門と大赤字のキリギリス国家(政府=官僚)という構図が見えてくるわけであります。

しかし、外から見れば、単にそれはどんぶり勘定の中に消えているように見えてくる訳でございます。

同じことは地球経済についても言えます。

地球を火星から見てみますと、非常に美しい青い星であって、バランスの取れたように見える訳ですが、一歩中に足を踏み入れてみますと、万年大赤字の国があって、それを嫌だなと思いながら金を貸してやって、貸した金で自分(貸した国)が作ったものを買ってくれているから、まあいいか、というような嘆かわしい支え合いの構図、人質とテロリストのような関係がアリとキリギリスの間にはある訳でございますが、危ういバランスを取り合っている、しかし、その危うさは、外から見る限りは見えません。

この問題が、このまま行ってしまえば拙いことになると思っております。

「そういう事を言うあんた(浜矩子)はグローバル時代と言うものをわかっていない!」と言われるケースがございます。

「どんぶり勘定で、全体としてバランスが取れている、そこにグローバル時代の醍醐味があるのであって、何も皆アリさんにならなくたっていいのだ。キリギリスはキリギリスで居てもらって良いじゃないか。アリとキリギリスでバランスが取れていて、いつも差し引きチャラ、そして中ではダイナミックな経済の営みが行なわれている、これが、グローバル時代なのだ」という言い方をする論者達も決して少なくございません。

例えば日頃から、私にとって心良からず思っている人、今は民主党の代表選を、高見の見物をしながら、大学の先生のフリをしながら、政界へのカムバックを虎視眈々と狙っている、あの人(竹中平蔵氏)などはですね、「そういうのがグローバル経済の注文である。キリギリス結構じゃないの」というように言っているのでありますが、今の世の中の動きを見ていると、それがはっきりと間違いだという思いを強くしておりまして、そもそもアリとキリギリスに分かれてしまっていて、そういうところに金融世界のグローバル化、まさに瞬時にしてカネがたくさんある所から最もない所に一気に動かすことができてしまう。

そしてその金融の動きに対して、非常に複雑なかたちで何ぼでも博打ができてしまうという金融のグローバル化という状況と、アリとキリギリスへの大きな別れ方、赤字部門と黒字部門がより大きく分かれて、しかもその間を実に巨大な規模で実に速くカネが流れる、こういう構図の中でリーマンショックのようなものも起こってきたわけであります。

ここまでカネの速い流れを必然化するような構図がなければ、リーマンショックのようなことも起こらなかった。

 ですから、全体でどんぶり勘定で収支が合っていることだけではダメなのであって、個別の目で見てもそれなりに収支が合っているということでないと、グローバルジャングルの健全な発展というのはないのではないかと、私は最近つくづく感じております。

これは、一つの企業あるいは組織として考えても同じことでありまして、いくら全体として括ってみればそれなりに収支とんとんであったとしても、中に踏み込んで見ると、万年超赤字部門と万年黒字部門とに分かれているような企業・組織は決して健全な経営状態にあるとは決して言えません。

そのままで行けばどこかで黒字部門の息切れがありますでしょうし、赤字部門はどんどんやる気がなくなる一方、黒字のほうは「あいつ等の為に我々は働いておるのか」と言い出す者もいて、組織内部の活力・求心力が低下して行くということがマイナスなのでやっぱり、どんぶり勘定で○○(ケツ?じゃないと思うが?)さえ合えば良いということには限界がある。

アリとキリギリス夫々が自分のやり方を変えようとすることなくアリはアリで、キリギリスはキリギリスでそのことを変えることなくグローバルジャングルの危機を乗り越えて行こうとしている限り、互いに互いを傷つけ合うばかりでまともな解答は出てこないと思うのです。 

理想的には、キリギリスはキリギリスでちょっとずつ行いを改めて、アリはアリで少しはあんまりけちけちしないという形で、次第に両者が歩み寄り、結果として皆がアリギリスになる、と言うのが最高の解答ではないかと思えるのでございます。

アリとキリギリスのハイブリッド、落としが、私のですね、落しがアリギリスというものがグローバルジャングルを支配するようになると物事は上手くいくのではないかと、そうではない状態で激突ばかりしていると非常に厳しい状態になって行く。

実はですね、冒頭でもお話しました円高ではなくてドル安、これ(リーマンショックのようなもの)は実は、アメリカという名の巨大キリギリスを次第しだいにアリギリスの方向に引っ張って来ようとしている天の神の鉄槌なのかも知れない、そうなんだという風に思います。

これ以上メタボキリギリス化すると「お前のおかげで、おまえ自身もさりながら地球経済全体も死に至った。メタボ状態をなんとかしなさい」という事でドル安がアメリカを襲っているというのが今の構図なのだと思います。

なかなかバランスの良いアリギリスにはなれないかも知れませんが、バランスが良くなって行くところまでドル安は続くものと私は感じております。

そういう流れなのであって、これは日本にとって、円高という名の危機だと思い込んで、ドル安の流れを押し戻そうと、時間とカネを費やすのは実は徒労だ、と私は思います。むしろ、アメリカがアリギリス化して行く、それを必然化するような為替関係に日本も上手に乗って、その中で生きながらえて行くことを考えるべきだと思います。

ドル安を押し戻すのでなくて、その流れの中で如何に力強く生きてゆくか、そのための知恵を働かせるときが今であって、そういう風に思いまして、

こういうお話をしておりますと、それではキリギリスがまともなアリギリス的になるような状態の連続為替レートのレベルはどの辺りか?」というお話にどうしてもなってまいりますが、これを言うと私は袋叩きになるのでございますが、私が申し上げるのは1ドル50円というところ、随分続いてまいりました1ドル100円前後の半値までドルの価値が下がる。それに伴ってメタボキリギリスもボディサイズがハーフサイズになる、そういうようなところまで行くと全体はそれなりにまともな所にランディングして行けるのではないかと思います。 

ハーフサイズというのは、笑い話ですがアメリカもリーマンショック以降状況が厳しいので、『かつては非常に流行っていた高級レストランが倒産寸前になってなりふり構わずハーフプライスステーキを売り出した、従来の半値、これが凄く流行ってですね、九死に一生を得た』と言うことですが、半値のステーキ、値段を半値にしたというのはふんふんと思うのですが、ステーキのサイズもハーフサイズにした、それではハーフサイズのステーキが何グラムかと言えば250グラム、フルサイズは500グラム。

500グラムを毎日食べていればそれはもうメタボキリギリスになるのは当たり前で、ハーフサイズ化というのはアメリカ人にとっても、アメリカ経済にとっても管理上宜しいのではないか?と考えるところでございます。

非常に大きなバランス、キリギリスのアリ化、そういう新たな均衡を目指す一環としてドル安が続いているのだとすれば、この大きな流れに日本単独で逆らうことは馬鹿らしいことであって、1ドル50円になるということは厳しいことですが、日本円の購買力は一気に2倍になるということでありますから、それをどう工夫して使っていくか、後ほどディスカッションの中でもご一緒に考えてみたいと思います。」(引用終わり)

如何だろうか。まず、世界のアリさん国家とキリギリス国家の現状を下記のグラフで確認していただきたい。

現在、この世界で進行中のイソップ物語では、キリギリスの親分米国が軍事力という暴力装置を有効に使っているために童話のようにキリギリスは、死ぬこともなくぬくぬくと冬を越している。アリさんたちが一生懸命貯めた餌:国富を何らかの形で奪い取っているからである。残念ながら、それも臨界点に近づきつつあるのが現在である。これ以上奪えばアリさんたちが死んでしまうのである。

 おもしろいことにアメリカに戦争で負けた日本国内においても、米国の言いなりのキリギリス:日本政府(官僚)がいてその他大勢のアリさんたち(国民)から税金を少しでも多く毟り取ろうと画策している。

「大阪維新の会」のブレインである堺屋太一氏が「財務省は赤字を減らそうと思っているとしたら、大間違いです。本当は、彼らは財政赤字を増やして増税をして日本経済への影響力を強めようとしているのです。」と述べているが全くその通りである。 

わが日本の官僚は、米国が日本に対してやっていることと同じことを、権力を使って同胞たちにやっているのである。

官僚の凄い所は、本当の情報を探し、知り学ぶ国民が僅かである事を知っていて、7~8割に達する物事を深く考えない一般の人たちが納得してしまう仕掛けを念入りに準備することである。それに、権力に弱いマスメディアと云う提灯持ちが加勢し、プロパガンダ情報を報じる。もちろん、財政赤字キャンペーン=増税キャンペーンもその一つだ。これで、みんなコロリと簡単に騙されてしまう。

と言うことは、現在のどじょう総理、野田佳彦氏の言っている“国益”とは何処まで行っても国民不在の国家(=官僚)利益と云う事だろう。福島県、及び周辺県の国民の健康生命よりも、明治以来の官僚国家存続の合理性がプライオリティを持っていることは、嘘で塗り固められた“原発事故収束宣言”を見れば一目瞭然である。また、TPPや米ドルに対する為替介入等の政策行動を見ても国益(国民全体の利益)よりも米国の思惑を優先していることは明らかであろう。

ここで、もう一つ、わかりやすい地図を見ていただきたい。IMFのデーターをもとに1980年から2008年までの世界各国における累積貿易収支を図にしたものである。緑の濃いところがアリさん国家でチョコレート色の濃いのがキリギリス国家である。要するにこの30年間、日本、中国、ロシア、サウジアラビア、ドイツ、スイス、北欧の国々がその他の国々を今まで支えてきたのである。

ところで、昨年、2011年は、大きな事件、出来事が目白押しに起きた。

(1)東日本大震災・フクシマ原発事故

(2)地域政党の動き「大阪維新の会」橋本 徹、堺屋太一コンビによる体制改革

  「日本一愛知の会」大村・川村コンビによる中京都構想

(3)ユーロ危機

(4)ドル危機(米国債デフォルト騒ぎ)

(5)中国不動産バブルの崩壊

(6)アラブの春、カダフィ殺害、ムバラク政権崩壊、ビンラディン死亡報道

(7)ウォール街を占拠

(8)金正日死亡

(9)世界人口70億人突破

(10)1ドル=75円台の戦後史上最高の円高

ざっと、選んだだけでも大事件ばかりである。しかしながら、日本人にとって一番の事件は、東日本大震災とフクシマ原発事故であろう。311は、日本のあまりに長かった戦後を終わらせる事になる事件であったことが、後日はっきりするのではないだろうか。

 なぜなら、311は、米国と官僚によって作られた日本の戦後システムが金属疲労して全く機能しないことをはっきりと国民に見せつけたからである。 

我々は日本のマスコミ、官僚、東電を初めとする経営者、それを取り巻く学者が全く信用できないことを知ってしまった。何となく信用していた、鵜呑みにしていたことが「全く嘘であった」ことに気がついてしまったのである。

これからは、アリさん一人一人が幸せになれる、時代にあった新しいシステムが必要である。

そのシステムをつくるためには、体制改革をするためには、少しでも多くの人が本当のことを知る必要がある。会社を経営されている方、子供たちを教育されている方には右も左も関係なく、一人でも多くの方々に本当のことを知っていただく必要がある。

今までレポートでは、マスコミで報道されない本当のこととして下記のようなことを指摘してきた。

○現在、福島県民を中心とする日本人は、低放射線の人体に対する影響調査のモルモットにされている。

(*セシウム降下と4号機(武田邦彦教授のブログより)

「12月29日、30日と高かった福島市のセシウム降下量は、いったん12月31日、1月1日と下がったものの、1月2日には「4月なみ(4月は福島からのデータはないので、茨城県北部のデータを参照した)」セシウムが降っている。

この量が続けば3月、4月と同じだから一時避難しなければならない。ただ、今の段階で間違ってはいけないことがある。それは「原因を追及するのではなく、本当に3月4月なみのセシウムが降っているのか、なぜそれを政府が警告し、マスコミが報道しないのか?である。データは文科省の正式データ(報告は福島県らしい)であり、値は1日で252メガベクレル(1平方キロメートルあたり)だから、十分に警告を出して良いレベルだ。「2,3日、様子を見る」ということかも知れないが、危険な兆候は知らせてくれないと困る。 

被曝は足し算だから、直ちに逃げなくても良いが、マスク、外出抑制はまずして、学校の開校は時期をずらした方が良いだろう。また、本当ならまもなく水道も汚れてくるはずであるし、半月後には葉物野菜が汚染されるだろう。

  第二に重要なのは原因の追及より、セシウム降下の事実を調べることだ。たとえば、このように考えたら良い。火事が起きて家族のいる居間に火が移ろうとしている。その時に逃げる準備や火がどこまで迫っているかは大切だが、火元が台所か風呂場かは当面はあまり深く追究しても意味が無い。だいたいの方向が判れば良い。

実は、私も「4号機が危ない」という情報があったので、それを調べていたら、どうも「セシウムが降ったのは4号機ではないか」と類推し、4号機の問題にすり替わったらしい。4号機かどうかなどは2,3日後でも間に合う。

  セシウムが降っているなら、それだけに注目し、逃げる準備が先である。4号機でも1号機でも、福島周辺からの2次汚染でも、同じことが起こる。でも、原因追及より、事実確認をすることが第二だ。もちろん、事実確認をしている内に被曝してはいけないから、ともかく危険なデータがでたら、即、準備をするべきだ。(平成24年1月6日 午後6時)

○現在の日本には本当の意味で「報道の自由」はないし、「ジャーナリズム精神」というものも幻想になりつつある。もっとも資本主義社会におけるマスコミの限界は世界共通である。

○現在、日本のマスコミを騒がしているTPP(環太平洋戦略的経済連携協定TransPacific Strategic Economic Partnership Agreement)は、マスコミ等で宣伝されているような開国政策ではなく、全く逆の現代の集団鎖国政策、米国によるブロック経済、囲い込み政策であり、自由貿易に逆行する政策である。

○世界最大の債権国である日本の「円」は隠れ基軸通貨である。

○現在、米ドルは、三年前のレポートでも指摘したように一ドル=50円に向かっている。

○際限なくドルを発行している米国は、石油決済通貨であるドルの過剰流動性を原油価格の上昇で少しでも補うことで、基軸通貨ドルの延命を図ろうとしている。したがって今後も石油価格は上昇する。

○リビアのガダフィー失脚は、ユーロ・ドル防衛のために欧米のエリートが仕掛けたものである。

○チュニジアから始まった「ジャスミン革命」等の民主化運動は、中東情勢を不安定にするためのものである。狙いは、石油利権の確保、石油価格の上昇、その先にあるのは、欧米が金融危機を脱するための戦争経済(WAR ECONOMMY)である。

○日本は米国の「自冶領」であると欧米のエリートの一部、特に米国のエリートは考えている。

 (*敗戦後、日本に対して米国は、つぎの三つの政策を押しつけてきている。

①日本から永遠に自主防衛能力と独立外交能力を剥奪しておくための憲法九条。

②戦前の日本は「邪悪な帝国主義国家」であり、その日本を懲らしめたアメリカは「国際正義を実現した道徳的に立派な民主主義国」であるというプロパガンダ:東京裁判史観。

③日本を属国としてアメリカの世界支配システムに組み入れ、米占領軍が日本列島に設置した軍事基地を半永久的に使用するための仕組み、すなわち日米安保条約。

  これら三つの政策が、敗戦国日本を半永久的に支配しておくために米政府が考えついた「対日支配政策・三点セット」である。)

(*ド・ゴール大統領は、「自国の運命を自分で決めようとせず『友好国』の政策判断に任せてしまう国は、自国の国防政策に対して興味を失ってしまう。自国の防衛を他国任せにするような国は、独立国としての存在理由をすでに失っている」と指摘している。)

○本当のことを言えば、日本は資源大国である。領海内の資源開発に専心すれば、長期的に考えれば、鎖国しても生きていくことのできる国である。

もっとも日本がそのような行動をとったら、ジャパンマネーで回っている「国際社会」と称するものは機能不全に陥るだろう。

「日本は、潜在的資源大国である。」このことは世界のエリートたちの常識である。

○二酸化炭素による地球温暖化は嘘である。現在の欧米のエリートは「地球寒冷化」を心配している。

 今まで、上記のようなことを指摘させていただいた。

ともかく、2012年はユーロ危機、ドル危機といった金融危機が、キリギリス国家を戦争経済へと舵を切りたい抗しがたい誘惑に晒すことは間違いない。また、それぞれの国の中でもアリさんとキリギリスの攻防戦が繰り広げられることになる。 

わかりやすく言えば、日本国内における公務員改革とは、特権階級である役人:キリギリスをアリギリスにする改革である。大阪都構想も日本国内におけるキリギリス改革を中央からでは、とてもできないので地方から始めるということである。

 

これからの大混乱時代を乗り切るキーワードは、「地域」(ローカル)である。その意味で、地域主権、地域政党、地域メディア、地域通貨、etcが、これからの時代を切り拓いていく、生き延びていくツールである。

 

 「地域に足を付けた本当の情報を共有するネットワークづくりをすることを一人一人が求められている」そのことによって生き残りをはかる時代に入ったとも言えよう。

これからは有意な人がより大きなネットワークを創り上げて地域社会からその輪を水平に拡げていく必要がある。

本当の情報を共有するネットワークが地域社会に根ざせば、グローバリズムの嵐を乗り越え、共生社会を守っていくことができるはずである。

「医者まかせ」にならないために知るべき身体の基本が書かれています。根強い人気があった本が文庫化されましたので、紹介します。



『免疫革命』の著者、安保徹氏は新潟大学医学部の教授である。

彼はこの本を書いた動機を、こんなふうに述べている。

「現代医療が病を治すどころかむしろ重くして」いる一方、「民間療法的な免疫療法、代替医療には科学的・理論的裏づけがない」。そこで「病気の根本的な謎を解き」、「免疫力がなぜ病気を癒すのか、その全体像を」明らかにする、と。いわば『がん患者学』が問いかけている問題に、学問的な裏づけを与えようというわけだ。といっても、研究書ではないから患者に語りかけるような口調で書かれている。

 著者がここで取りあげているのは、ガン、アトピー性皮膚炎、膠原病。いずれも現代の難病といわれる病気である。これらの病気に対する現代医学の療法はすべて対症療法であり、体が持っている免疫力を徹底的に抑えこむもので、病気を根本的に治すという目的には本来そぐわないのだと彼は、言う。

 たとえば抗ガン剤はガン細胞の細胞分裂を抑えこむけれど、リンパ球などほかの細胞の新陳代謝も抑えこんでしまうので、ガンは小さくなっても体力がおとろえ、体全体の治癒力がなくなってしまう。アトピー性皮膚炎に使われるステロイドは皮膚に沈着し、新しい皮膚炎や炎症を起こす。そこでさらに強いステロイドを使うという悪循環におちいって、自然治癒のチャンスを奪ってしまう。

 興味深いのは、痛みや熱や発疹というものは、体が自分を治そうとしている治癒反応なのだという指摘である。だから熱や痛みや炎症を通過しなければ、病気になった人間の体は元に戻らない。耐えられない症状に短期間、効き目の強い薬を使うのはいいけれど、長期に使えば逆に薬が新たな病気を生みだし、本当の治癒には行きつかない。

 免疫というのは、体のなかに入ってくる異物を消化したり吐きだしたりする仕組みで、白血球がこの働きを担当している。その白血球は自律神経によってコントロールされている。自律神経には交感神経と副交感神経があり、交感神経は体の興奮をつかさどり、副交感神経が働くと体をリラックスさせる。

 白血球には大きくわけて顆粒球、リンパ球、マクロファージという3種類がある。顆粒球は交感神経に支配され、リンパ球は副交感神経に支配されている。

 顆粒球は体内に入ってくる細菌を処理するが、強いストレスを受けたりして交感神経が過剰に反応すると、異常のない組織まで破壊してしまうことがある。ガン細胞はそのようにして生まれる。だからガン患者のほとんどは、働きすぎや心の悩みといったストレスを抱え、交感神経が過剰に働いて顆粒球が増え、逆にリンパ球が減って免疫が低下している状態にある。

 リンパ球はウイルスなどの抗原と戦うが、リラックスしすぎて(具体的には運動不足や食べすぎ、肥満で)副交感神経が過剰に働くとリンパ球が増え、アレルギー性の病気を引きおこす。アトピーがこれに当たる。少子化による過保護、食事の内容が良くなったこと、外で思いきり遊ばせない、炭酸ガス(飲料)の取りすぎなんかが、副交感神経を過剰に働かせる原因となる。

 要するに、人間の体は交感神経と副交感神経のバランスの上に成りたっているので、そのバランスが崩れることが病気の原因になる。交感神経が働きすぎて顆粒球が増えるとガンなど組織を破壊する病気になるし、副交感神経が働きすぎてリンパ球が増えるとアレルギー系の病気になる。 

 白血球の平均的なバランスは、顆粒球60:リンパ球35:マクロファージ5だという。

「つまるところ、病気になるかならないかというのは、私たちの生き方にかかっています」と著者は言う。「心の持ち方が体調をつくる」「意識と無意識をつなぐ呼吸が重要」「体を冷やしてはいけない」と、著者の言うことは医者というよりは民間医学の格言に似てくる。でも、免疫という学問の領域を一回りした後にそう言われると説得力を持ってくる。

 もうひとつ、著者の言葉で深く納得がいったのは、病状や検査結果を考えるとき、「数字ではなく自覚症状が大切」ということだった。数字ではなく、食事がおいしくなっている、体の冷えがなくなっている、顔色が良くなっている、疲れやすさがなくなったなど自覚症状が改善されていれば、数字が変わらなくとも、いずれ良い結果が出るものだという。

 そういう姿勢は、著者のこんな言葉に象徴されているだろう。「私たちが生きものとして本来もっている危機意識、野生動物の勘みたいなものを、もう一度呼びさますことが必要です」。

 民間医療や東洋医学ならともかく、国立大学で西洋医学を教える現役の医師・研究者の著書としては、ずいぶん思いきったことを言っている。

安保 徹氏プロフィール 

・新潟大学院歯学部総合研究所教授(国際感染医学・免疫学・医動物  学分野)。研究の傍ら、「健康と免疫」、「病気と生き方の見直し」等のテーマで全国各地を講演中。

・著書には「免疫革命」「未来免疫学」「体温免疫学」「こうすれば病気は治るー心とからだの免疫学」「絵でわかる免疫」など多数。
1947年  青森県生まれ。
1972年  東北大学医学部卒業。
1980年  アメリカ・アラバマ大学留学中、
    「ヒトNK細胞抗原CD57に関するモノクローナル抗体」を作成。
1989年  胸腺外分化T細胞を発見。
1996年  白血球の自律神経支配のメカニズムを解明。
2000年  胃潰瘍の原因が胃酸であるとの定説を覆して注目される。
 
 

<安保徹教授との一問一答> 

   ~免疫の仕組み~

問1:まず、安保教授と免疫研究についての出会いを教えていただけますか?

 

安保:わたしは大学を卒業して研修医になった頃、たまたまガンとリウマチの患者さんを中心に診療する部門に入りました。この医療現場に約2年いましたが、次第にわたしは臨床と言うものに限界を感じ「何か新しいものが見えてくるかもしれない」と思って免疫学の研究に入ることにしました。
そこで、環境の変化が交感神経の働きに影響を与え、それに伴って白血球の中の顆粒球とリンパ球のバランスが変動することを発見し「多くの病は顆粒球とリンパ球のバランスが崩れる自律神経系の破綻が原因」と結論づけました。疲れやストレスを抱えると、顆粒球を支配する交感神経が活発になり、増えすぎた顆粒球が粘膜を破壊して胃潰瘍やガンの発症原因になります。
しかし休養などで免疫力を高めるとリンパ球が再び増え、バランスが回復し、病気を治癒できるわけです。

問2:素朴な疑問なのですが、免疫はどうやってできるのですか?

 

安保:まず突然体に何かの異物が侵入すると、その異物に対して免疫が出来、免疫が一度出来てしまえば、その異物が原因となる病気にはずっとかからなくなる、という現象はご存知だと思います。
私たちの身体はいろいろな細胞から出来ていますが、ほとんどの細胞は本来持っている多様な能力の一部しか使っていません。
例えば、腸の細胞は吸収する能力、神経細胞はネットワークを作って知覚を伝達する能力、また生殖細胞だったら卵子や精子を作る能力、というようにそれぞれの細胞が使っている能力は非常に偏っています。ところが、私たちの身体の中には単細胞生物時代だった頃の細胞と同じように多面的な仕事をこなす細胞が残っています。それが免疫に関わる細胞です。
単細胞と言えば、いちばんにアメーバがイメージされると思います。アメーバは生態が行うありとあらゆる活動をたった一つの細胞ですべて行っています。そういう細胞は私たちの身体の中に今も残っています。それが白血球です。

安保:白血球は普段は身体の血液の中をくまなく循環しています。その白血球は異物が入った時にその場にちゃんとたどりつけるように、いつも体中を巡回しながら監視体制をしている細胞です。
わたしたちの身体をウィルスや細菌の侵入から守る免疫システムの要になっているのは白血球です。白血球にはいろいろな仲間がおり、それぞれが得意分野を持って免疫システムのために働いています。その仲間はリンパ球や顆粒球、マクロファージに大きく分けられます。さらにリンパ球はT細胞やB細胞、NK細胞など個性的な働きをするメンバーに分類されます。

問3:ではわたしたちが免疫力のアップを目指すために、普段からどんなことを心がければよいでしょう?

 

安保:わたしたちの心と身体は非常に密接につながっています。例えば、ひどく心配なことがあれば、食欲は落ちるし元気もなくなり、朝起きるのもいやになります。悪い精神状態では身体の動きを止めてしまうことになるでしょう。
心と身体の二つをつなげているのは自律神経です。自律神経はありとあらゆる細胞を支配し、白血球も支配しています。免疫アップを目指すなら、「ムリ」をせず「ラク」をしないことです。強いストレスを出来るだけなくし、メリハリのある心のあり方や生き方がバランスの良い状況を生みます。また食などの生活改善と呼吸も大切です。

安保:また健康を維持するためには、自分の性格や傾向を見極めて、極端な状態になってしまわないように心がけることです。もちろん人生には時折不可避的な苦しい状態も訪れます。確かにそれがストレスになることがあり、強い感情の働きは、身体に必ず影響を与えます。ちょっとしたことでくよくよ悩んだり、ねたみやひがみの気持ちを持ち続けたりすると、限度を超えたときに破綻をきたすことでしょう。またよこしまな心を持ったり、他人の足を引っ張ろうとすると、心の持ち方がゆがんで、体調もゆがんできます。心の持ち方は病気を防ぐ上でとても大切なことだと思います。体調のよしあしは自分自身にある、わたしはそう考えています。

問4:安保教授は普段の生活で、健康にどんなことを心がけていますか?
安保:わたしは以前ささいなことでしょっちゅう怒っていました。しかしある時期から怒ると言うことは身体によくないと悟り、マイペース型になりました。今はバランスよい食事をし、適度な刺激の中で楽しく生活することに徹しています。また早寝早起きを心がけています。これが今のわたしの健康法です。

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