「ビッグスリー救済法案、合意不成立で何が起きるのか?」

元外交官 原田武夫



11日(米東部時間)、米連邦議会上院は本会議を開催、下院を通過済の最大140億ドルにのぼる“つなぎ融資”を供与するビッグスリー(3大自動車企業)救済法案を審議したが、結果として賃下げをめぐる対立が解けず、可決に必要な超党派合意は成立しなかった(廃案)。これにより、振り返れば秋口より本格的な騒ぎとなってきたビッグスリーをめぐる救済策は再び暗礁に乗り上げたことになる。このまま行くと早ければ年明け早々にもビッグスリーの一部企業は資金ショートする可能性が高まったことになる。米国だけではなく、日本を含む世界各国のマーケットに対する甚大な影響を懸念すべき展開である。



金融マーケットの観点から見た時、最大の影響を被るのは米国を代表する商業銀行たちである。ビッグスリーは米国を代表する企業であり、いわば「米国そのもの」といってもよい存在だ。そのため、資金調達にあたってこれまで発行してきた大量の社債を、同様に「米国そのもの」を体現してきた最大手商業銀行たちが保有してきた経緯があるといわれる。ところが、このまま資金ショートへと向かっていく危険性が高くなる以上、ビッグスリーは最悪の場合、速やかに連邦破産法第11条に基づく「破産申請」を行う可能性が出てくる。そうなれば、当然のことであるが、これら米系最大手商業銀行たちが持っている大量の社債がいわば“紙屑”となってしまうことになる。2008年第4四半期が佳境に入ろうとする中、さらにクレジットカード関連の証券化された金融商品に基づく巨額損失に怯えるこれら米系最大手商業銀行こそ、次なる金融メルトダウンのターゲットとなる可能性が高まっている。ヘッジファンド、あるいは投資銀行といった“越境する投資主体”たちを巡り繰り広げられてきた金融メルトダウンに対し、いわば「金融メルトダウン2.0」とでもいうべき展開だ。



その次にやってくるべき「金融メルトダウン3.0」とでもいうべき事態は、これら米系大手商業銀行に対する最終的な“貸し手”であるはずの国家としての米国そのものの資金繰りは大丈夫なのかという点をめぐって生じることとなる。そして、昨年(07年)5月末の段階で邦貨換算にして6000兆円を超える金額となっていたと報じられている財政赤字による負担にもはや耐えきれないと判断される場合、「CHANGE(変革)」を訴えてきたオバマ次期大統領は来年(09年)1月の就任早々、問題のいわば最終解決手段として「デフォルト(国家債務不履行)」を宣言するかどうかが焦点となってくるはずだ。



米連邦議会関係者の間ではこれまで、「ビッグスリー側が要請してきた総額340億ドルの救済はやりすぎであるものの、少なくともオバマ新政権の成立までのブリッジ(つなぎ)は必要だ」というのが概ねコンセンサスであったと現地専門紙などを通じて報じられてきただけに、ショックは大きい。もっとも、これによって自動車セクターそのものが“終焉”を迎えると考えるのは誤りだ。なぜなら、本日取りまとめられる日本の与党税制改正大綱(平成12年度)における「次世代エコカー重量税免除」、あるいはドイツにおいて2~3週間以内に決められる「CO2排出量に応じた自動車税の導入」といった動きに見られるとおり、従来型のガソリン燃料に頼る自動車を大量生産する既存の大規模自動車メーカーではなく、電気自動車で徐々にシェアを伸ばしつつあるベンチャー企業を後押しする“潮目”が同時に見られつつあるからだ。



ビッグスリー救済案否決の向こう側に生じる「潮目」は、あくまでも複眼的な視点をもって見つめることが必要であるようだ。



「自ら没落したGM」と「ノー天気なエコノミスト」

経済評論家 三原惇雄

<裏読みをしてみよう>

とうとうトヨタの配当利回りが5%に近づき、PBR(1株当たりの資産価値)は0.8倍まで株価は下げてきた。市場は必ずしも合理的には動かず、上にも下にも時として大きく振れるものだが、それにしてもよく下げるものだ。

きっといまアメリカで大騒ぎとなっているGMをはじめとするビッグスリー(米国の三大自動車会社)を連想しているのだろう。フォードの誕生は百年前だから確かに百年に一度の騒ぎであることは間違いないが、百年も経てば世の中変化があるのは当たり前、その変化に対応できなかったのがビッグスリーであり、50年前ごろは「GMにいいことはアメリカにとってもいいことだ」なんて豪語し傲慢だったがゆえに自ら没落していっただけのこと。

ビッグスリーが無くなったって世の中困るわけではないということが見抜けなかった、歴代のトップが間抜けだったツケが回ったのが現状だろう。慢心とは恐ろしいものだ。

トヨタの関係者から聞いた話だが、今回のこの自動車業界の苦境をトヨタのトップはむしろ喜んでいるフシがあるらしい。

もちろんレイオフもしているほどの苦境だから手放しで喜んでいるわけではないが、一方では社員の浮ついた気分が緊張感に変わるのではと期待しているのも事実だろう。

最近のトヨタのトップの悩みは新入社員に東大出が増えたこと。個人情報がうるさくなった関係で出身大学や家庭の事情は伏せられたまま採用すると、やはり東大出は優秀だからどうしても増えるらしい。

その昔トヨタやホンダを目指す学生は「車が好き」という動機が主だったらしいが、この頃の学生は車が好きというよりはトヨタだから、ホンダだからと安定を求めてくる奴が多くなっているとか。そのためトヨタに勤めていると言うだけで傲慢になる社員も増えていたらしい。



<トヨタの悩み>

なまじ頭だけ優秀で車に関心がない社員が増えると、日産が好例だが官僚的になりセクト主義が横行し企業の活力が失われていく。

最近のトヨタの悩みもそこにあったのだが、今回の不況で優秀な社員の心構えが変わるのではとトヨタのトップは期待しているようだ。

アメリカでも1970年代ごろまでは一流大学やビジネススクールのトップクラスの学生はビッグスリーに沢山入っていた。そして「船頭多くして船山に登る」ということになってしまい、ついに存在そのものが危なくなった。今回のビッグスリーの苦境はトヨタなど日本のメーカーにとっては何よりの「他山の石」になるのではないだろうか。



<ノー天気なエコノミスト>

それにしても最近のエコノミストたちのお気楽なこと。「悪くなる」とさえ言っていれば良いのだから、いまの世界で最も楽な仕事はエコノミストだろう。金融危機が実体経済に悪影響を与えはじめたのは事実だし、実体経済が悪くなるのは当たり前だろう。悪くなって当たり前なのだがその先どうなるか、それを併せて考えるのも彼らの仕事であろう。

人口が減る国でおまけにこの不況で内需なんて伸びるはずもない。しかし増えてないパイのなかでちゃんとシェアを伸ばしているユニクロやH&Mのような企業もある。

円高はデフレ要因だが一方では円高メリットももたらし、賃金が伸び悩んでも可処分所得は増えてくる。電力会社など原油高に怯えて料金は値上げしたままだから、たとえ電力消費が不況で減少しても、このままなら棚からボタ餅が落ちてくるだろう。

少しは明るい方向に目を向けたらどうだ。「悪くなる」の大合唱ばかりしている場合ではないのではないか。

お気楽な連中のウラを掻くことを考えようではないか。

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