*興味深い内容です。是非、ご一読下さい。 

2009年1月号 [麻生はいつ辞めるのか」より

小沢が煽る「救国選管内閣」

進退窮まった麻生に唯一残された「話し合い解散」。

全政党合意の「持ち株会社」方式の新党構想が浮上。

「首相は指示していないし、これからもしない。何か言っていたとしても、『答えが見つかりませんでした』というのも答えのうちだろ」

道路特定財源問題に続いて2009年度税制改正でも、たばこ増税や消費税率引き上げ時期の明示といった麻生太郎首相の指示は、与党側からことごとく無視された。自民党税調幹部の身もフタもないセリフに、「麻生離れ」の実情が端的に表れている。

自民党ベテラン議員たちは口では「首相を支える」と言いながら、政策決定の根幹において首相の意向を公然と蔑ろにしている。「官邸主導」どころか「官邸無視」「首相抜き」の現状であり、もはや政権の体をなしていない。自民党挙げての深刻な政治空洞化に比べれば、渡辺喜美・元行革担当相ら中堅・若手議員が集まって「反麻生」を叫ぶのなど、かわいい悲鳴のようなものである。

これほど深刻な首相の権威失墜は、森喜朗元首相のケースを通り越し、愛人スキャンダルで外を出歩けなかった宇野宗佑元首相以来かもしれない。「能力不適格」の烙印を押された首相がいつまでも居座る姿は、見ているほうが居たたまれない。

麻生太郎首相はいつ辞めるのか。政界の関心は、もっぱらそこに注がれている。



「麻生降ろし」五つの蠢動

マスコミは、自民党内で「反麻生」勢力の抑えが利かなくなって「麻生降ろし」が始まるか、来年の通常国会で衆院採決の造反者が出たり、新党結成の動きが起きるかもしれないと、波乱の兆候を盛んに言い立てている。蠢きだした「ポスト麻生」を睨む自民党内の勢力・予備軍を整理すれば、次の五つに大別できよう。

最も賑やかなのが、渡辺元行革相や塩崎恭久・元官房長官ら安倍政権で不完全燃焼のまま終わった「安倍残党」組。ただし、当の安倍晋三元首相自身は、麻生首相を押し立てた経緯から、麻生支持の立場を変えておらず、盟友関係は股裂きになっている。

渡辺氏は12月8日に東京都内で開いた自分のパーティーで、「協議離婚型」「裸一貫型」など離党のパターンを具体的に例示し、「何も持たずに党を飛び出した議員が集まり新党を結成するハイリスク・ハイリターンの裸一貫型がインパクトもあり、大きく化ける可能性がある。覚悟さえあれば、それはできる」とマスコミの再編期待を殊更に煽った。

しかし、自民党内は冷ややかだ。「基本的に仲間と群れない一匹狼型で、資金の面倒を見ている子分もいない。といって、小泉純一郎元首相のようなカリスマ性はない。いざ立っても、ついて行く仲間が本当にどれだけいるのやら。いても数人、もしかしたら一人もいないんじゃないか。少なくとも仲間内で渡辺氏を担ごうという話にはならない」(自民党閣僚経験者)

同調していた塩崎氏は、所属する古賀派の会合で、古賀誠・党選対委員長から「後ろから鉄砲玉を撃つことは、絶対にあってはならない。どうしてもやるなら、しっかり理由を聞かせてもらいたい」と衆人環視の中、面と向かって凄まれ、表情をこわばらせた。

2番目は、小泉政権で不遇をかこった加藤紘一・元幹事長と山崎拓・元副総裁のコンビ。加藤氏は「自民党は歴史的役割を終えたのかもしれない」と離党の大義名分と可能性を限りなくほのめかし、自ら政権の座に就く最後の望みに真剣に賭けている。

山崎氏は加藤氏を担ぎ、再編の流れをつくって中枢の実権を握ろうと画策している。内実は地元・福岡市での選挙が大ピンチで、「このままやれば落選・引退に追い込まれる」(自民党選対)のは必至の情勢。山崎氏にとって土壇場での大活躍が死活の分かれ目なのだ。

2人は小沢一郎・民主党代表と密かに会談したことから、「加藤さんはたった一人で小沢氏に担がれてでも首相になりたがっている。ほとんど妄執だ」(自民党幹部)と警戒された。ただし、加藤氏は今や天涯孤独の身。山崎氏も派閥は41人いるが、甘利明・行革担当相や武部勤・元幹事長に侵食され、「いざという時に行動を共にするのは10人もいるかどうか」(山崎派幹部)と見られている。小沢氏にすれば、加藤氏を担ぐにも、参院で野党が否決した法案を、与党が衆院で再可決できるだけの衆院3分の2議席を割り込ませるのに必要な17人以上の造反を期待したいが、それを満たす勢力にはなっていない。

山崎氏が加藤氏の「代打」として、石原伸晃・幹事長代理を担ぐ選択肢もあり得る。石原氏が12月5日に東京都内で開いた自分の政治資金パーティーで、総裁を支える党執行部の身でありながら「自民党国会議員の7、8割は麻生政権で選挙して与党でいられるのかと疑問を持っている。自民党も麻生政権も崖っぷち」と、政権瓦解と選挙前の総裁交代の可能性を公言したのも、そうした展開への布石と受け取られた。

石原氏は日本テレビ出身。山崎氏は同じパーティーで、1年前の石原氏の山崎派入りについて「氏家齊一郎・日テレ取締役会議長のご指名でお迎えした」と二度も強調した。自民・民主両党の大連立を仕掛けた渡邉恒雄・読売新聞グループ本社会長と盟友である氏家氏の名前を出すことで、山崎氏が狙った意図は透ける。

民主が単独過半数の勢い

3番目は中川秀直・元幹事長と小池百合子・元防衛相のグループ。相変わらず政界再編志向を剥き出しにし、勉強会をいくつも始動・再開させて備える。だが、中川氏の長年の主張だった「上げ潮経済成長路線」は、金融・雇用危機の到来で政策として破綻した。立てる旗がないのは致命的だし、他に何を掲げても「上げ潮」の軌道修正と受け取られる限界がつきまとう。小池氏は9月の総裁選で46票の3位、地方票ゼロに終わったマイナスを引きずっている。

4番目は、与謝野馨・経済財政担当相や園田博之・党政調会長代理のグループ。与謝野氏は閣内にありながら麻生首相に半身の構えをとり、参謀役の園田氏は旧さきがけ以来一貫して政界再編を目指してきた。与謝野氏は1992年から小沢氏が会長を務める日米草の根交流のための財団法人「ジョン万次郎の会」の副会長(現在休職中)で、囲碁仲間でもある。与謝野氏は首相の座に「なれるチャンスがあるならなってみたい」というスタンスで、ダークホース的存在である。

5番目は、与党が2次補正と09年度予算の成立を条件に民主党と「話し合い解散」を取り決め、解散前に麻生首相を別の総裁にスイッチし、衆院選では「麻生不人気」の逆風をできるだけかわすという追い詰められた自民党に最も都合のいいシナリオで、「ポスト麻生」に高村正彦・前外相を担ぐというアイデア。細田博之・幹事長が「麻生首相の次に最適な方は高村さん。選挙に勝ってバトンタッチしてほしい」と持ち上げたことから、一時浮上した。

しかし、安倍元首相、福田康夫前首相と政権放り出しが2代続いたせいで、3度も首相が辞めた自民党が別の総裁を選ぼうとしても、そうした独善的なやり方自体が有権者の憤激を買うのは必定。誰を選ぼうが、国民の支持を大きく失う。麻生首相にとって何より大切な偉大な「じいさん」(吉田茂元首相)にも顔向けできぬという心理的抵抗感も大きい。

そこへ128日、全国紙3紙の世論調査で、内閣支持率が朝日新聞22%、毎日新聞21%、読売新聞20.9%と急落した。党首対決の支持率でも、麻生首相が小沢代表を初めて下回るに及び、麻生首相がもはや解散だけでなく身の去就についても、主導的に条件を選べる時機を逸した状態となった。まさに進退窮まっており、実現性はかなり少なくなった。

可能性が薄い5番目のシナリオを除けば、残り四つはいずれも民主党との連携が自分たちの造反・離党の条件としてセットになっている。

特に渡辺元行革相と中川元幹事長の2グループは、民主党内でも「反小沢」系の前原誠司・元代表や枝野幸男、松本剛明・両元政調会長らとの連携を思い描く。中川氏が「民意は政界全体がひっくり返るような変化を望んでいる」と宣伝してきたのは、自民・民主のどちらも分裂する展開だった。

しかし、12月の全国紙世論調査の結果、壊滅状態の自民党に対し、民主党はほとんど単独過半数の勢いを示したことから、民主党が割れる可能性は一気にしぼんだ。政策の旗もつぶれ、再編構想の大事な前提も消えて、中川氏は一部の勉強会に「麻生支持」の安倍元首相も交ぜて「反麻生」色を薄めることに腐心し、早くも迷走している。

予算成立と早期解散狙う

そもそも政界やマスコミでどんなに派手に騒いでみせても、議員の去就は最後は自分の選挙に有利かどうかの見極めで左右される。選挙区の支持を得られない動きは起こしようがないのは、郵政解散の造反劇でも実証済みだ。政界再編につながる離党の動きが起きるにしても、あくまでそれは次期衆院選の直前か直後、いずれにせよ解散が具体的な政治日程に上った段階で、どれだけ風を巻き起こし、それに乗れるかで決まる。

15年前の1993年に自民党が下野し、非自民の細川連立政権ができた時の政界再編も、まず宮澤内閣への内閣不信任案採決で自民党内に造反が大量に出て衆院が解散され、その3日後に新党さきがけ(武村正義代表)、5日後に新生党(羽田孜党首)が結成されたのである。

ところが現状は、麻生首相が辞任もできず、解散もあてなく先送りしている宙ぶらりん状態。いかに血気にはやり、勇ましくラッパを吹いたところで、解散の見通しが立たない限り実際には身動きが取れない。渡辺元行革相の「裸一貫型」は机上の論理にすぎず、「協議離婚型」は政界再編後に繰り返された「政党助成金目当て」新党乱立の場合で、政界再編につながる新党創設とは目的も性格も異なる。

結局、いかに低支持率の欠格首相で、政権の体をなしていなくても、自分から辞めない限り、何はともあれまず解散が行われなければ、この政局は動かないという問題の振り出しに戻ってしまう。

自民党内の当面現状維持派と「反麻生」グループ、民主党の間の奇怪な三すくみ状態である。民主党の小沢代表と菅直人代表代行が「話し合い解散」を持ち掛けているのは、それがこの状況を前に動かす恐らく唯一の現実的な方法だからだ。

自民党内の「反麻生」グループも、まずはそれに加勢し、解散機運を作り出すしかない。自民党内現状維持派は簡単に同意できないが、年明け通常国会が始まって間もなく2次補正も09年度予算も年度内に成立する見込みが立たないとなれば、話し合いに応じざるを得なくなるのは時間の問題だろう。小沢氏が「解散は年が明けて遅くない時期にある」というのは、そうした読みに基づいていると見られる。

さて、「話し合い解散」とは、自分では辞められず解散もできない麻生首相に対し、国難状況を大義名分に自公両党を含めた全政党の合意で首相の座から降ろし、予算成立と早期解散を行う「救国選挙管理内閣」を編成することを意味する。小沢氏は「首相には自民党長老を担ぐのがいい」として、中山太郎・元外相の例示に「それもいい」とうなずいたという。また一時、頭の体操として「超大連立内閣」を口にしたとも伝わる(本人はその後否定)。

前後して、自民党内から「持ち株会社」方式の新党構想が語られだした。具体像は人によって解釈が違うが、自民・民主「大連立」を全政党版に拡大し、各党から代表数名を出し合う「持ち株会社政党」の下にそれぞれの党が「分社化政党」としてぶら下がるというイメージだ。小沢氏の「超大連立内閣」「救国選挙管理内閣」の絵図とも重なる。

今はまだ荒唐無稽の域を出ないが、「話し合い解散」合意は、予算成立など重要法案の骨格についても方針をすり合わせることになり、「大連立」と発想は地続きである。自民党は基本的に「大連立」に前向きだった。仮にそれを全党に広げて編成した場合、想起されるのは細川連立内閣の政権運営スタイルである。

小沢に好都合な「二重構造」

細川連立内閣では自民・共産両党を除く与党8党派は、党首が入閣し、代表幹事・書記長・幹事長クラスは別に「与党代表者会議」を構成して、重要な政策や日程はそちらで決められた。小沢氏や市川雄一・公明党書記長、米沢隆・民社党書記長が実権を握り、事実上、内閣を上からコントロールする形となった。

「持ち株会社」方式の「超大連立内閣」は、その再現を予感させる。これは小沢氏にとり、いくつもの点で好都合だ。

まず、政権は取っても、なりたくない首相になる必要はなくなり、得意の二重構造で政権の実権を握れる。そもそも自民・民主「大連立」は、小沢氏が持ちかけたというのが定説だが、理由は①民主党が選挙で単独過半数を取る自信がない、②民主党の人材とノウハウで政権を続けていける自信がない――ということだった。この方式なら、自民党のノウハウを民主党が活用・学習することも可能になる。また、選挙結果が風向きの具合で民主党単独過半数にならなかった場合も、選挙管理内閣の実績と形態を選挙後も継続させ、安定的な政権運営体制を確保しておくことができる。

実現に動けば、細川連立政権の失敗を15年ぶりにやり直し、今度こそ成功させたいという小沢氏の執念であろう。しかし、誰もが容易に想像できるように、これは戦時中の大本営・大政翼賛会体制に極めて近似していく。麻生首相が有害無益な居座りを続ければ続けるほど、それを排除しスムーズな景気対策と衆院解散を実現させるためのプロセスが、どんどん小沢氏のペースにはまっていく。不穏な予兆が年末年始の政局を覆っている。

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