*小生の書いたものではありませんが、非常に良い内容です。読んで損はありません。

正 樹

「今後の世界経済の動きは???」

2008年 11月



<富裕層は米国外に逃亡しても捕まえられる状況に>



2008年9月15日に米証券(投資銀行)大手のリーマン・ブラザーズが破綻して以来、世界的に金融危機が広がり、実体経済の方にまで危機感が関心高まったのを受けて、米政府は緊急に最大7000億ドル(70兆円)もの公的資金を使って不良資産を買い上げることを骨子とする金融安定化法案(金融救済法案)を策定した。

ところが、9月29日に、米下院で国民の税金を使うことに対して共和党の保守派と、民主党のリベラル左派が、共同して反対に回ったたことで否決された。議会の両党の指導部の統制が効かないことが露呈した。このことで、同日の株価が暴落して、NYダウは、前日比777ドル安という一日での史上最大の下げ幅を記録した。

これまでさんだん大儲けしてきた銀行(金融法人)が急激な資金不足(資本不足)に陥った事態を救済するために、信用収縮(クレジット・クランチ)と更には、全般的なシステミック・リスク(信用崩壊)を回避するために、国民の税金を投入すること(tax money injection 公的資金)に対して、米国民から大きく反発を受けた。

このことに配慮して、当初の法案を、銀行が抱える不良資産(バッド・アセット)の買い取り分を2500億ドル(25兆円)に限定し、大統領の判断で1000億ドル(10兆円)を追加できることにし、さらに残り3500億ドル(35兆円)については議会の承認を得ることを条件とする、という三段階に法案を改訂した。



また、金融機関が破綻した際の預金保証額(ペイオフ)の上限を10万ドル(一千万円)から25万ドル(2千五百万円)に引き上げるなどいくつか修正を加えた。この後、再び上院を通過させた後で下院にも諮り、米民主党左派の議員の多くが賛成に回ったことで、金融安定か法案は、10月3日にようやく成立にこぎ着けることができた。

銀行が抱える不良資産を買い上げる機関として、法案が具体化する前にヘンリー・ポールソン財務長官は1980年代末のアメリカのS&L(貯蓄貸付組合)危機への対応を手本とした。1989年に設立されたRTC(米整理信託公社)と似た組織に今回もなると述べている。 ただ、実際にはFDIC(エフ・ディー・アイ・シー、米連邦預金保険公社)とSEC(エス・イー・シー、米証券取引委員会)が合併され、 さらに権限が強化・集中されて、STEC 、 Securities and Trade Exchange Commission  というような名称の新らしい金融検査機関が誕生することになるらしい。 日本がSECをお手本にして作らされた「金融監督庁」そのものというべきものであり、金融面での権限を一元化して強大にすることになる。既に日本では金融商品取引法が、2008年4月に施行されている。先物も現物も、また株式も商品もすべてまとめて一元化して管轄されるようになった。金融庁も権限がどんどん強化されている。こうした事態が激しく進むことは、投資家や資産家、経営者にとっては誠に大変なことである。

実際、米国では、激しい金融恐慌の様相を受けて、国外に逃亡しようとしている富裕層や資産家が見受けられる。それに対して米当局は資金を持って逃げ出す者たちを、「国家反逆罪」で逮捕する姿勢を見せている。2001年の「9.11同時多発テロ事件」直後には「愛国者法」 Patriot Actを成立させた。富裕層の資産の持ち出しに対して政府の規制を強め、取り締まりを強化するには事欠かない。少なくとも債務を背負って国外に逃亡した者たちについては逮捕され、国内に召還させられるだろう。 これまでは過剰な債務を背負っていても自己破産を申請すれば免除してくれていたのだが、これから米国では高額な報酬を得ていた経営者についてはそれが認められなくなり、経済犯罪として立件されることになるのではないか。米国は世界覇権国であり基軸通貨国なので、世界中をくまなく管理しているので、海外に逃亡してもその国の米大使館の内国歳入庁(IRS)の職員が追いかけて捕捉しに行く。現時点ではどのように当局が対処していくかこれ以上の予測は出来ない。



<米国に投資している資金の多くは焦げ付いて戻ってこない!>



一番大きな枠組みでいえば、現在、世界で進行しつつある事態は、アメリカ発の金融恐慌を引き起こしたアメリカの責任を追及して、世界各国の指導者たちが集まって、アメリカを処分する、「アメリカ処分案」が進行していると考えてもいいかもしれない。

フランスのサルコジ大統領を先頭にして、世界各国の指導者たちが暗黙の合意で集まり、その方向に一致しつつある。そこではもはや米国を交えた協議ではなくなっている。アメリカは破産した国家として被告席に座らされて、処分されるのである。  金融市場ではドルや米国株が今も激しく崩壊しつつある。唯一、米国債だけは、「フライト・トゥ・クォリティ(質への逃避)」がまだ続いている為に、資金がアメリカ国内にシフトしていることでアメリカの長期金利は今も低いままである。これが一旦、崩れだして金利が高騰(国債価格の下落)が始まると、いよいよ米金融市場がトリプル安ショックに見舞われる。日本と中国を中心として、対米債権国が自国に帰る資金還流の動きを強めるからいよいよ本格的なドル危機が到来することになる。

米金融機関は、これまで銀行間(インターバンク)での資金貸借の市場であるFF(フェデラル・ファンド)市場で思うように資金を調達できなくなっている。だから主要銀行(メガバンク)でさえ主にFRBから年率2.5%の公定歩合での資金を借り入れている。その際に自分が保有する各種の債券を担保として差し出している。

FRBが「国債貸出制度(TSLI、ティー・エス・エル・アイ)」を創設したことで、RMBS(アールエム・ビー・エス、住宅ローン担保証券)のような住宅ローン債権の仕組み債である信用力の低い資産まで担保としてFRBが受け入れ、米国債を積極的に貸し出しているからだ。

米銀はLIBOR(ライボー、ロンドン銀行間取引金利)でも、これまでは米国債の信用力を背景に2.5%で資金を調達できていた。ところが、この9月30日に、突然、四半期末越えとなる翌日物の金利が、年率6.88%に暴騰した。同じことは10年前の日本のバブル崩壊後の最大の山場だった頃に邦銀に対して起きた。邦銀が軒並み苦しい状況に陥っていた時、海外で資金調達するにあたり外銀からかなり高い上乗せ金利を求められた。「ジャパン・プレミアム」と呼ばれた。だから今回はさしずめ「USプレミアム」とでもいえるだろう。その後欧州で相次いで大手銀行が破綻して銀行間の金利が急騰しているから、米国だけの苦境の問題ではなくなっている。



ユーロ安がさらに進んでいる。1ユーロ=1.4ドルを割り込んできた。おそらくこれが最後のユーロ安になるだろう。ユーロに限らず、豪ドル、カナダドルをはじめ資源国通貨がかなり大きく下げている。一見したところ、円を除いてすべての通貨に対して米ドルが上昇しているように見える。これは確かに欧州でも実体経済が悪化していることや、ヨーロッパに金融危機が飛び火したせいもある。が、このユーロ安の原因は、米銀が事業法人(実体経済)への資金の貸し渋りの姿勢を強め、信用収縮(クレジット・クランチ)が深刻化しているからだ。事業法人(非金融部門)では、これに対して極度にキャッシュ・ポジション(現金資産)の積み増しで対抗している。銀行融資がなくても運転資金を現金決済で乗り切る覚悟だ。この他に、主にメガバンクを資金源にしている米国のヘッジファンド勢が、海外に投資してまだ利が乗っている資産を大量に換金売りしていることによるものだ。

それは例えば米国で実質破綻して国有化されたAIGグループが、日本の子会社法人の保険金の支払い部分として別建てで積み上げている部分(これは金融庁が緊急の保全命令を出して「敵性資産の凍結」よろしく確保した)を除いて、自己資産部分を売却して破たんした本社に還流させようとしているのと同じことだ。日本株が米国株に連動して大きく下げているのも同様である。米国の最後のあがきである。



日本では日銀がFRBやECB(ヨーロッパ中央銀行)の政策に協調して、ドル資金供給を拡大させて、外銀が東京でドルを資金調達することを支援している。ところが日銀は今や財務省(旧大蔵省)から人事権を奪い返して独立を果たした。米国に屈服して取り込まれた日本の財務省官僚の支配圏がもはや及ばなくなっている。だから日銀の今の「ドル資金放出」は、デイヴィッド・ロックフェラー(93歳)に対する“最後の忠誠”とでもいうべきものだろう。渡辺喜美金融担当相(当時)が、3月17日にベアー・スターンズが破綻してJPモルガン・チェースに救済合併された頃に、金融庁内部で大臣直轄の勉強会を開いて、1兆ドル(100兆円)ある外貨準備を中心に、米国に全額貸し出す――実質的には譲り渡すといった動きがあった。これら若手政治家は中川秀直元幹事長とつながっており、いわゆる「上げ潮派」に属する。おそらく竹中平蔵元総務相とも関係しているのだろう。はっきり言うと彼らは“売国奴”である。

もっとも、外貨準備として積み上げられている日本政府の資金はほとんど全て米国債で運用されているようだから、既に米国に‘供出’されているようなものなので致し方ない面もある。それ以外に日本政府が直接貸し出している長期貸付金として20兆~30兆円ほどが米国にわたっている。

またこの他に日本財務省系の政府系金融機関が持っている米国債も40兆~50兆円ほどあるようだ。こうした政府系以外では、民間では松下(パナソニック)やトヨタなどの輸出大企業がドル建て、つまり米国債で運用している分が合計で1兆ドル(100兆円)ぐらいあるだろう。更には、生保、銀行、証券を中心とする機関投資家が運用している分も2兆ドル(200兆円)ぐらいある。また国内での超低金利を嫌気して個人投資家が外債投資や外貨建て預金を行うことで日本国内から流出させた資金も同じく1兆ドル(100兆円)ぐらいある。これらの資金は各国の銀行のドル建て資産の動きとして、ドル建てのものについては全てニューヨーク連銀が把握している。

これらの大部分は最も安全な米国債で運用されていると考えると、全部で6兆ドル(600兆円)ほどになる。この日本資金は、これから米国でさらにバブル崩壊がひどくなると資産価格が崩落していくのだから、日本に還流させてもらえずに投げ捨てる以外になくなるだろう。政府資金と機関投資家の在米のドル建て資金は、せめて半額あるいは3分の1は、取り戻して持ち帰ることができるだろう、という楽観的な考えもあったが、目下の激動を冷酷に観察していると、それは甘い考えだと言わざるを得なくなった。アメリカは1ドルも返さないのではないか。

この時、「アメリカに貢いだのだから、仕方がなかった」といったことで日本国内の責任をうやむやにしてはならない。このことに関わった日本の金融系の官僚たちは全て訴追されて刑に服させるべきである。なぜなら日本国民のドル建て資産が吹き飛ぶということは、各種の年金の為の積み立て運用)資産の多くが吹き飛ぶことで、多くの日本の国民の老後の生活資金がなくなってしまうということを意味するからだ。年金は3分の1しか支払われないだろう。償還が法的に保証されている米国債で運用されているのならまだ良い(それもやがて怪しくなっていく)が、それ以外の各種の債券(公債)で運用した分については既に大きな損失を抱え込むようになっている。特にファニーメイ(米連邦住宅抵当公社)とフレディマック(米連邦住宅貸付抵当公社)が発行している機関債(エージェント債)を筆頭に、両住宅公社が保証しているRMBS(アール・エム・ビー・エス、住宅抵当証券)や、それを組み込んで組み立て直した証券化商品であるCDO(シー・ディ・オウ、債務担保証券)の購入分もかなり巨額のようだ。日本合計で23兆円(外国すべてで160兆円)と米財務省(ポールソン財務長官)が7月13日に公表して騒然となったことは記憶にあたらしい。

それが引き金となって「9・15リーマン・ショック」に繋がった。両住宅公社とこれらの仕組み債(証券化商品)で取引を大きく仲介していたのが破綻したリーマン・ブラザーズである。この特殊な商品を開発したのはモルガン・スタンレーである。この2社を中心とする大手の外資系証券会社(投資銀行とも言う)が今回もっとも矢面に立たされた。この他に、これらの大手証券会社が自分で直接発行している社債(日本に対してはサムライ・ボンド)も運用対象になっていた。これらのすべてが流動性の喪失危機で、値段がつかなくなっておりこれが今度の「アメリカ発の金融恐慌の震源地のひとつ」である。

両公社が発行している機関債や保証しているRMBSについては、7月13日に経営危機が米財務省の手で表面化した際(負債総額530兆円)に前述した通り、債権者の一覧表が公表された。日本の金融機関がどの程度投資しているのかが全て明らかになった。農林中央金庫が5兆5000億円、三菱UFJフィナンシャル・グループが3兆3000億円、日本生命が2兆5000億円投資(債券購入)していることが明らかとなった。これらの日本の大手金融機関は将来的に破綻に陥る危険性が高いと見て間違いない。それ以外にも、地銀がそれを横並びで一行あたり50億~100億円ほど買わされているようだ。証券会社の分はこの時に公表されなかったが、野村證券も2兆円(200億ドル)ほど買っているようだ。ここで明らかになった分は両住宅公社が関係している債券に限定したものに過ぎず、それ以外にもアメリカでの資金運用として、かなり焦げ付いた債券を巨額に持っていることは疑いようもない。

9月15日のリーマン破綻から金融危機が深刻化したのを受けて、21日には大手証券会社の中で生き残ったゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーの大手2社が共同で銀行持ち株会社に移行した。おそらく、ゴールドマンによるモルスタの実質買収だと思われる。銀行と異なって、証券会社は金融制度上、経営が傾いても政府から保護されないことになっている。それが銀行業に移行したことで、政府やFRBから直接救済を受けられるようになった。そして、やがてゴールドマン・サックスが、実質銀行である子会社群を介して金融の決済制度を握る伏線になる。

翌22日に、三菱UFJがモルスタに最大20%、9000億円――最終的には21%、9500億円を出資することになった。が、無理やり出資させられたといった見方が初めから根強かった。普通株を一株当たり20ドル、優先株を25ドルで買わされた契約になっていた。後者についいては普通株に転換することで株主になることができるとはいえ、それでも議決権はないため、資金だけ拠出させる感がしないでもない。ところが何と翌週にモルスタの株価は市場で売り浴びせを喰らって、10ドルを割って9.86ドルに急落した。いずれ株価が回復するといったことを理由として、アメリカにとっては‘良いカモ’である三菱を上手に騙した。三菱は始め、リーマンをそれからメリルリンチを、そしてモルスタを買い取るように迫られていたのだが、三菱は必死に逃げ回っていた。

それで韓国産業銀行(KDB)が資金力もないのにモルスタを救済するという話まで出ていた。10月14日の三菱の90億ドル(9000億円)の払い込み期限の前に、アメリカ国内はもう一度騒然となった。モルスタの株価の急落を受けて三菱UFJのトップが乗り込んで買取り契約の再交渉を要求した。もし10月13日(月)に三菱がモルスタの株式21%分の資金を払い込まなければ世界恐慌の突入の合図になっていただろう。10月10日のワシントンでのG7で「各国のすべての主要銀行を破綻させることなく公的資金を投入して救済する」という合意にもならない合意のようなものを発表した。そして10月13日の世界各国の株式市場は、株式先物指標取引(シカゴマーカンタイル取引所CME)が主導する談合(価格調整カルテル)を行って、無理やり軒並み14%ずつ高騰させたのである。



<米国は米国人が最も嫌う国家統制に向かうことに>



銀行が危機的な状況に陥ったので、米政府は、それまでの企業の市場原理重視、自由競争型の方針を大転換して、国家による干渉政策である、民間金融部門の「国家による救済」( Government Take-over )をやりだした。真実は、すでに、「国有化」( Nationalization)である。しかし、この国有化は、社会主義国家化であるから、本質的に米国人たちはこれを非常に嫌う。さらにこれが進むと、かつて米国で1回だけ行ったことがある「連邦化」(Federalization、) にまで至る。これは国家非常事態での共産主義国家化である。完全なる独裁体制化である。それは「政府直接支配」( Direct Governmental Control、) になる。まさしく共産主義 (Communism 、コミュニズム)だ。 今回は、まだガヴァメント・テイクオーヴァーと優しく表現しているものの、その実質的は、「政府のよる(支払いの」保証 」(Government Mandate 、ガヴァメント・マンデイト)を宣言することだった。ファニーメイとフレディマックの機関債は「暗黙の政府保証」があるとされていたが、10月3日に、連邦議会で7千億ドル(70兆円)の金融安定化法案(ファイナンシャル・スタビライゼイション・アクト、別名は金融救済法、ベイルアウト・ビル)がやっとのことで‘下院議員たちの叛乱‘を押さえ込んで可決した。それで、何とか「政府の保証」策が適用されて、「暗黙」ではなく「名実ともに」保証されたことになる。これで両公社の機関債や保証しているRMBSの世界的な“取り付け騒ぎ”が一旦は収まった。日本や中国、サウジアラビアといった大口の債権者も一応納得した。しかし実態は既に両住宅公社は破綻しているのであり、実際には5兆2000億ドル(530兆円)にも及ぶ機関債や保証されているRMBSは返済されることはないと見るべきだ。 公表されている分だけで日本勢はそのうちの23兆円分を引き受けている――本当は40兆円ほどだと思われる――が、中国やサウジアラビアも同じく40兆円ほどある。英国は10兆円程度保有していたことが明らかになったが、同国の規模から考えるとかなり巨額なものであり、これで国内が騒然となり、ゴードン・ブラウン政権が崩壊しかかった。英フィナンシャルタイムズ紙の一面に「世界金融恐慌突入」という言葉が躍ったのである。



ブッシュ政権が政権末期の機能停止の中でも、大規模な景気対策を打ち出し、さらに不良債務の買い取りや両公社及び金融機関の救済にかなりの公的資金投入策を発動(即座に大銀行に25兆円の投入決定)した。このせいで米国の財政赤字はすでにかなり膨張しているはず。米国では会計年度が7月末で終わり、8月1日に次年度に入る。だからこの半年間の危機を何とか乗り切っても、2009年4月(年度後半)以降になると、米国債に対する信用の失墜という形で危機が再燃するだろう。オバマ新政権は次の緊急対策を打ち出さなければ済まない。米国が現在抱えていると思われる不良債務の巨額の規模(連邦政府だけで20兆ドル、2千兆円ぐらいある)を考えると、今回の金融安定化法で決まった7000億ドル(70兆円)では焼け石に水で全く不足している。この10倍の金融救援資金が必要となるだろう。このようにして際限なく政府部門の不良債務が膨れ上がっていくことになる。ゆきつく果ては米ドルの大暴落であり、ドル覇権の崩壊しかあり得ない。

昨年の8月17日の、低所得者層向けの住宅ローンであるサブプライム・ローンの焦げ付きから勃発した金融危機だが、それを証券化したRMBSに、さらにそれを含むCDOの償還の危機に波及し、それが消費者ローン(クレジット・ローン)、自動車ローン、奨学金ローン、そしてCMBS(商業用のビルのローンの証券化商品)といった他の信用市場にも波及し次々と焦げ付いている。さらに企業の破綻リスクを売買するCDS(クレジット・デリバティブ・スワップ)の焦げ付きも懸念されている。再びモノライン4社の破綻の危機が再燃し、それらはアメリカの地方債(ミュニシパル・ボンド、カリフォルニア州債やニューヨーク市債など)を保証しているので騒ぎは大きくなるだろう。最後に公的な年金や保険を運用している非営利法人(中間法人)の危機につながるだろう。世界最大の年金資金運用団体であるCalpers (カルパーズ、カリフォルニア州職員退職年金基金)の運用が危機的な状態に陥っているようである。これまで最も尖鋭に金融市場で資金の運用をしてきた団体である。それがここに来て一挙に裏目に出ている。日本の農林中金の苦境とよく似ている。通貨先物でも大きな損を出したと噂されている。だからこのカルパーズのような、非営利(ノンプロフィットでノンコマーシャル)の法人だと見なされているNGNPO法人(非営利法人 Non-Profit Organization )にいずれは危機が波及していくのである。日本でも年金運用団体や共済団体の資金運用が急速に悪化しているが、おそらく、米国ではさらに悪い状態にあっておかしくなく。最後にこの非営利の資金運用部門が破綻するのではないか。経済危機は最後には必ず富裕層ではない一般国民に“しわ寄せ”がいくものであり、それ以上のものはない。

その途中で、米国で安定した収入を持つ優良顧客層向けの住宅ローンであるプライム・ローンまでが焦げ付くことで、“契約上”は大多数の米国民がローンを支払えなくなって家を失うことになりかねない。特にモーゲッジ・エクイティ・ローンという、上層サラリーマン層が投資用も含めて保有する数軒の住宅やコンドミニアムを担保に極限まで借りた住宅ローンが、住宅価格の下落(現在、全米平均でピーク時から20%の下落)によって、逆回転を始めており銀行からの担保価値割れを理由とする返済要求(貸し渋り・貸し剥がし)が厳しくなっているようだ。失業による住宅ローンの不払いが起きてこのプライム・ローン危機までに至りつくと、米国は国民レベルでの、下からの金融恐慌突入でもある。



それは、世界史的な基準では金融制度の問題を超えてしまうことであり、実際問題としてはローンの支払いが滞っても、家を失うことになるはずの多くの米国国民は居直ってしまうだろう。すなわちここで「当然のお金の返済の流れ」が遮断されるのである。おそらく、この時に米政府は、国内での通貨の単位を変えるだろう。その前に激しい物価の値上がりであるハイパーインフレが、アメリカ国内を襲っているだろう。 だから、ここで従来の100ドルを1ドルにする、という通貨単位の変更をするだろう。すなわちデノミネーションである。そもそもGDP(アメリカは現在14兆ドル。1400兆円)の3倍もの規模にまで膨れ上がった政府部門の不良債務(政府財政赤字、特に累積の長期の政府負債。地方政府の分も入れると概算で40兆ドル。4000兆円)を償却して金融システムを健全化するには、さらに膨大な財政負担を伴う。このために、米国のような累積債務国では「緊急の新ドル切り替え」を実施して、“徳政令”に踏み切る以外に問題の解決はあり得ない。ちなみに、米国の対外的な負債で、米国内に流入している債務性の資金は総計で4000兆円ぐらいだろう。これは前述した米政府部門の債務総額とピタリと見合っている。このうちの600兆円が日本からの分である。

「緊急の新ドル切り替え、および国内でのデノミネーション」の導入の際には、まさしく緊急の金融統制であるから、各種の統制令が緊急立法の形で一気に発動されて、これには必ず預金封鎖を伴うことになる。しかし一般の米国人は預金などあまりない。それでも富裕層にとっては大きな打撃となる。それで今回の金融安定化法案で、銀行の破綻の際の政府保証の預金払い戻しの額(ペイオフ)を10万ドル(1千万円)から25万ドルに値上げした。それでも、アメリカ国民の通常感覚からすれば、銀行が銀行強盗にあったら預金者の預金は破綻した銀行から3分の1も戻ってくれば恩の字だ。これがアメリカ人の共通感覚なのである。実際に7月に取り付け騒ぎを起こして破綻しやインディマックという住宅専門銀行(地銀レベル)では、預金者の預金は約3分の1ずつしか連邦預金保険公社(FDIC、エフ・ディー・アイ・シー)から償還されなかったのである。



<バブルが崩壊するとその開始地点を下回るところまで下がる!>



最近、自動車の売り上げが目立って落ち込んでいる。トヨタの北米の販売台数も3割減となった。アメリカ人は自動車ローンを組んで買う。信用収縮(クレジット・クランチ)による貸し渋りが起きているので、企業だけでなく個人に対してもクレジット・ライン(与信枠)が厳しく見直されているので、多くの人が新たな自動車ローンを組めなくなったことが大きな原因である。このように金融危機の影響は実体経済の面にまでどんどん波及している。

そもそも、これまで米国経済が2007年7-9月期まで好景気を維持していたのは、個人消費が好調だったことによるところが大きい。それは居住物件の資産価格が高騰していたので、それを担保にして住宅ローンをさらに借り増して、消費にも回していたからに他ならない。米国は巨大な「借金国家」なのであり、世界中から資金を流入させて使い散らかし、何とその借金した資金から配当を支払っていたのである。まさにネズミ講そのものである。

ネズミ講のことを、英語では、Ponzi scheme 「ポンツイー・スキーム」と言って、イタリア移民であるポンツィーなる人物が始めて広めて、それで事件になったのは日本と同じである。ネズミ講で外国から集めた資金で、それを実のある産業に投資して運用して真の価値を創造して利益を産み出し、そこから金利や配当を払っていたのではなく、米国がやっていたのは、諸外国から借りたカネからさえも、手数料を徴収しつつ、実需のある産業への投資を怠り、もっぱら自分たち金融業界内部でのマネーゲームに狂奔して、手数料や利益を抜きあって、複雑な証券化商品に仕立てて、転売を重ねて、さらに手数料を抜き合いをやっていたのである。

諸外国に対しては、運用している資金から金利や配当を払いつつ、また新たな資金を国外から呼び込むことを繰り返してきたわけだ。そして、ついにこの米国の巨大な「ネズミ講経済」(ポンツィー・スキーム・エコノミー)が崩壊したのである。ここに至る過程は必然であり自明の理であった。

米国は第二次世界大戦直後には圧倒的な経済大国だった。焼け野が原になった諸外国を尻目に、世界GDPの実に70%を占めていた。名実とも世界帝国(世界覇権国)であった。ところが、その後の30年で製造業では日本や西ドイツに抜かれてしまい、対外的には貿易赤字を積み上げてきた。その分、金融業を興隆させて外国の資金を呼び込み、あるいは各国の貿易黒字から生まれる資金を米国内に滞留させることで、「資本収支(国際収支)」では圧倒的な黒字国家となっていた。それを背景にして政治的な世界覇権を維持してきた。

アメリカは、金融業では得意の金融工学を開発して、1980年代末から、貿易赤字と財政赤字の二つの実体経済面での不都合を補ってきた。金融工学を駆使して相当の利益を出していた、といいながら本当はどうもそうではなくて、実際には、単に金融法人どうしで、談合にも似た取引を繰り返して手数料を取り合いして、信用乗数効果によって、資産と負債の両方を巨額に膨らませて続けただけに過ぎない。正常そうに見せかけた各種の債券市場を作って、実際は、多くの人が見ている衆人環視の公開・公共の市場などというようなものではなくて、もっぱら銀行・証券・保険会社どうしの相対取引で同じ投資対象を何回も取引していた。転売と購入を繰り返せばその資産価格は高騰するに決まっている。それこそ“倍々ゲーム”で相場を吊り上げていった。が、いつかバブルは崩壊し大天井を打って急反落していくものなのである。

それらの最も外側の膨らんだ部分は「アメリカのデリバティブ商品の取引残高の総額8京円」と呼ばれている。例えば、私たちは、死亡時に6000万円を受け取ることができる生命保険に加入しており、毎月4万円ぐらいずつ10年間払い続ければ。その総支払額は500万円近い水準になる。30年かけ続ければ1500万円の支払い総額である。満期までに死亡しなければ保険金を受け取ることはできず、支払った分の大半は掛け捨てなので戻ってこない。デリバティブの原型もここにある。

バブルが大崩壊した今、実際に処理しなければならないのは、名目上のデリバティブの残高の、不良債務の10分の1程度なのではないか。そして「真水」の実損で、アメリカが自分の身を斬られる思いで処理しなければいけない、血が吹き出しそうになる(更に金融機関がバタバタと破綻する)金額は、8京円(800兆ドル)の2%の4000兆円(40兆ドル)だろう。

たとえば、9月16日に実質破綻して米政府が救済して(850億ドル、約9兆円)で株式の大半も奪い取って半ば国有化しているAIGグループが、その日本の子会社にしていたAIGエジソン生命で、日本の自衛隊や消防庁や教員の年金運用の生命保険までを取り扱っていることが漏れ伝わった。これらの公務員系の年金や保険の運用も、外資系の団体信用生命が担っているのである。この年金資金の運用や、保険の再保険(アンダーテイキング)を米国の保険会社に出している。それとも国内で何割かは、着実に超低利の日本国債とかで資金運用をしてきたのかが目下の、大きな焦点になっている。もし後者であれば資金は日本国内に存在していることになるので、安心だ。しかし、さらにその上の運用団体が、やはり「アメリカねずみ講」方式にひっかかって、米国債への投資での運用なら、手堅いのだが、それ以外の前述した住宅公社債や、MMFなどの元本保証のない債券で運用してたとしたら大事である。これらの公的な資金運用団体の内部は今、血相を変えて内部の責任のなすりあいをやっているのではないかと思われる。

ところで、戦争が始まると、敵国性資産を凍結することで資産が国外に流出しないようにする。これは、外交上のレシプロシティ(相互性)と言って同じことを相手国もする。これと同じことで、自国内にある資金が一気に海外に送金されることを阻止する。政府は保全命令を出して国内資産が消失しないようにする。9月15日にリーマンが破綻した際に、日本ではリーマンの日本国内の子会社群の法人に対して、僅か2時間後に差し押さえた。本当は裁判所の命令が必要なのであり、手続きの開始まで1週間を要するという。それで金融庁の行政命令でこれをやってしまった。

保険会社は掛け金のうち保険金の支払いに回す部分については別建てで積み上げておかなくてはならない。証券会社はこうした分別管理が徹底的に義務付けられている。ただ、今回のリーマンの破綻については元々が紙切れだった証券化商品で運用していたので、その分については分別管理していても意味がなかっただろう。それ以外の不動産等は実質「差し押さえ」たようである。

銀行でなくても、事業法人でも、他社に融資をしたら融資額の2割程度の引当金を積まなければいけないことになっている。ところが、銀行としてはそれらを積み立てたくないばかりに、リスク分散を目的にその貸付債権を、債券に仕立てた。そしてこれを売り払ってしまい、万が一、融資先が倒産してしまえば、第三者から元利で返してもらうという取引を作った。この取引がCDS(シー・ディー・エス。クレジットデリバティヴ・スワップ)と呼ばれるものだ。いわば「企業の生命保険」とでもいうべきものであり、その債券化したものを金融法人だけで互いに盛んに売買していた。これらの特殊な仕組み債の債券の売り手としては、対象企業が倒産してしまえば代わりに、企業倒産の保険額の全額の支払いの義務を負わなければならなくなり、それにより連鎖倒産に陥ることが最も怖い。

このように、融資先の破綻リスクに備えた引当金の部分を仕組み債にしてリスクをどんどん転嫁していたのである。だから金融工学を駆使したデリバティブ商品は突き詰めると全て保険商品なのである。そしてその多くは相対取引ではあっても、その“大元”の部分は、全てシカゴ・マーカンタイル取引所(CME、シー・エム・イー)のデリバティブ市場で取引されているはずである。バブルの崩壊が進んで仕組み債の機能不全状態がこのあとさらに進行していけば、やがてCMEでの取引自体も全般的に強制的に「解け合い」をさせられることで、機能停止状態、取引所の停止、崩壊ということになっていくはずだ。

その時、それらのクレジット・デリバティブの仕組み債の「証券」だけが“紙屑”になるので、途中で手数料が抜かれながらも、これまでの取引が“リワインド(逆回転)”していき、全プロセスが元に戻っていくはずだ。そして、それまで資産価格の高騰から富裕化していた人たちは、積み上げてきた利益(資産)を持ち逃げすることなどは絶対にできない。日本の法律学でも、契約の「解約」と「解除」とは異なるものだ。「解約」とは契約を打ち切る新たな契約であり、これまで行われてきた取引については有効であるとする。これに対して「解除」では、日本では民法571条では現状回復することと定められており、契約自体を最初からなかったことにする。

つまりそれまでのすべての取引も無効にするということであり、「解約」よりもずっと強い概念である。それだけに「解除」される場合には、その原因のところで詐欺、脅迫や恐喝その他、契約原因(約因、コンシダレーション)に瑕疵(かし、キズ)があったとする問題になる。契約解除であれば、原状回復義務が生じるので懲罰を伴うことが多い。これから米国で起こるであろう事態は、それらの積み上げた巨額の8京円(800兆ドル)にも及ぶ金融取引であるから、いくら、大手金融機関が集まって、必死の談合で、「解け合い」による契約解消を画策しても、すべてが単なる解約(契約の合意による終了)では、とても済まないため、必然的にこれまで積み上げた利益は失うだけでなく、やはり巨額の損失を出さざるを得ないという懲罰の段階になる。それはまさしく「金融大破綻国アメリカの処分案」の発動となるだろう。



人類の歴史から考えて、バブルが崩壊過程に向かえば、最初にそれが始まったところにまで資産価格が下がっていくのはまさしく歴史の必然である。また相場はオーバーシュート(行き過ぎ)するものなので、それよりもさらに下がらないと大底入れはしない。1920年代の米国のバブルも、1980年代後半の日本のそれも、30年代や90年代には、その開始地点を下回る水準まで下がらないと大底入れしなかった。1929年に、NY株式市場で350ドルだった株価は、5年後には50ドルにまで落ちた。日本の1990年年初の39000円台だった平均株価は、2004年に7600円にまで下がった。実に5分の1である。 現在の米国のバブルは、ビル・クリントン政権下でロバート・ルービン前NEC(国家経済委員会)委員長が、1995年1月に財務長官に就任し、「強いドル」を標榜してドル高政策を推し進めて、NYでの株高政策を推進した時から始まっている。その時のダウ平均株価は、3800ドルだった。だからNYの株価の下落がオーバーシュートするとすれば、アメリカの金融恐慌入りのバブル崩壊の最終局面では、やはり3000ドル台、そして3000ドル割れまで下がる可能性がある。

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