<パナマ文書>が告げる新自由主義の終焉

Opinion コメントは受け付けていません。
4月 122016

日本ではおざなりの報道しかされない「パナマ文書」だが、世界は今、大きく震撼し始めている。すでにアイスランドのグンロイグソン首相は、公的資金を注入した銀行株をタックスヘイブンに隠していた道義的責任を追及され、辞任に追い込まれ、英国のキャメロン首相も亡父の資産をタックスヘイブンに隠していた道義的責任を追及され、釈明に追われている。展開によっては辞任もあり得るだろう。恐らく、今回の「パナマ文書」は、アメリカの情報機関が関与した選択的漏洩だとも考えられるが、もし、そうだとすれば、そのターゲットは中国、ロシア、英国、ドイツ、イスラエルであろう。この文書が世間に出てきた経緯を説明している報道を読むと、ブレトンウッズ体制が完全に崩壊し、中国の人民元がSDRの対象通貨になることが決定した昨年10月に、タックスヘイブン情報が世界中に拡散されたようである。

もちろん、偶然ではないはずだ。華僑との取り引きで、中国の人民元が国際通貨になるように強力な後押しをしたのは、ご存じのように英国である。

 しかしながら、このような情報戦にアメリカの情報機関が関与したとすれば、これから飛んでもない暴露合戦が展開される危険性も秘めているのではないか。ロシアも英国もイスラエルも一流の情報機関を持っている国である。ある意味そこまで、覇権国米国は追い詰められているということなのかもしれない。ところで、日本人も400人以上の名前が挙がっているということである。これからどんな吃驚する情報がでてくるのか、戦々恐々としている日本人もかなりいるということである。

 

考えてみれば、一部の超大金持ちや大企業だけが租税回避地に資産を移動させて税負担を逃れている行為は、公的財政の赤字が拡大している原因の一つである。

タックスヘイブン 図式

ところで、このような風潮を世界に広める思想的基盤をつくった男は、ミルトン・フリードマンというユダヤ人経済学者である。彼が、民営化と規制緩和と小さな政府、市場原理主義とマネタリズムで構築された<新自由主義思想という妖怪>を世に送り出したのである。そこから、タックスヘイブンという国民国家を内部崩壊させるシステムが合法化されたのであった。1964年、フリードマンが「資本主義と自由」という著書を発表したのだが、当時の日本の経済学者の多くは、奇矯な論理を弄ぶ経済学者もいるものだ、ぐらいの認識しかなかったようである。しかしながら、英国のサーチャー、米国のレーガンによって採用された新自由主義は、その後、世界を席巻していくことになる。

おそらく、現在の世界経済の状況を見て、一番皮肉なのは、「小さな政府」を標榜する新自由主義の政策を推し進めた結果、世界中の政府は、その財政赤字を巨大化し、その中央銀行は、その財政赤字を支えるために巨額の資産を抱え込むことになったことである。「小さな政府というスローガン」は、とんでもない借金をかかえる巨大な政府を作りだしたのである。

結局、現実に起きたのは、民営化という名目の国有財産の横領であり、金融の自由化という美名のもとで大企業の税金逃れが合法化され、国民国家は慢性的税収不足に悩む事態に陥ったのであった。

消費税は廃止できる?

<日銀のデータを見ると、初めてケイマン諸島が登場するのが2001年で、その額が上のグラフにあるように、186411億円。直近データが2013年で、609280億円で、この12年で422869億円増、3.2倍も増えている。このケイマン諸島で税金逃れした609280億円に、現時点の法人税率23.9%を課すとすると、145617億円の税収が生まれることになる(※実際にはケイマン諸島の大企業の資産には証券等もあるのでそう単純に計算できるものではないが、)増税前の消費税率5%のときは、消費税の税収は10兆円程度。消費税率8%になって直近の2016年度予算で消費税の税収は171850億円。これに対して、大企業のケイマン諸島のみで145617億円の税収が生まれる。これに加えて、ケイマン諸島での富裕層の税逃れと、ケイマン諸島以外での大企業と富裕層のタックスヘイブンでの税逃れ(朝日の報道にあるようにパナマでも日本の400の人・企業が活用している)を加えれば、現在の消費税率8%の税収をも上回ると考えられる。>

これから「パナマ文書」や類似する文書が暴露されることによって、現在の世界の本当の経済構造を否応なく多くの一般大衆が知ることになっていく。その先に待っているものは、大衆の怒りである。その意味で、これから大きく時代を動かす「真の政治の季節」が始まろうとしていると言えるだろう。 

以下は、参考資料 

Trendswatcherより

http://www.trendswatcher.net/03-2016/geoplitics/パナマ文章-の流出に米国の情報戦の疑い/

 

「パナマ文書」流出に米国の情報戦の疑い   20160408

パナマ文書 法律事務所

「パナマ文書」にアメリカ国籍の個人や法人が含まれていないことを、米国マスメディアが騒ぎ出したのは公表から2日後のことである。さまざまな推測のなか、「パナマ文書」の流出は米政府関与により、意図的に公表されたとの疑惑が強まっている。 

米国籍の個人と法人は含まれているのか 

米大手新聞社のマクラッチーによると、データベースには少なくとも200人の米国籍のパスポートがあり、米国に住所を持つオフショア会社の株主は3,500人とされている。政治家はいなく、脱税回避の目的でオフショア法人を設立した個人が多いとされている。特定された数人の個人名は公表されたが、正確な人数や法人名は特定できていない。また情報が今後公表されるかは未定である。 

公表に当たっての4つの視点 

エリスト・ヴァリファ

ドイツのジャーナリストで金融専門家のエリスト・ヴァリファ氏は、「パナマ文書」の流出は米情報機関による特別作戦であると述べている。スキャンダルは米国企業には影響がなく、「パナマ文書」の公表により、個人資産家や法人は今後『パナマから、課税から完全に免除されているタックスヘイブンである、米国のネヴァダ州、サウスダコタ州、ワイオミング州、デラウェア州などに資金を移すことになる。パナマにあるとされる約30~40兆ドルの資金を米国に流入させるのが目的で、このような文章流出事件が行われた』と述べている。 

ウィキリークス

ウィキリークス(WikiLeaks)は、特定ではなく、同形式の完全な情報公開を求めている。この要望に対して、調査ジャーナリストの国際コンソーシアム(ICIJ)は、完全な情報公開はしないとしている。しかし、問題はICIJが公表する情報の選別基準にある。公開されている情報は主に、欧米が批判的である、反欧米勢力のロシア、中国、イラン、イラク、エジプト、シリア、ブラジルなどである。ウィキリークスは、ICIJがフォード、ロックフェラーやソロスから資金提供を受けており、プーチ大統領への攻撃は、USAIDとソロスが資金支援している、ロシアを標的とする、組織犯罪汚職摘発報告会(Organized Crime and Corruption Reporting Project: OCCRP)の攻撃作戦であると指摘している。資金はアメリカ合衆国国際開発庁(USAID)とジョージ・ソロスが提供している。USAIDは、経済支援活動と題してCIAは諜報活動を行っていることはよく知られている。ロシアのプーチン政権の政治不安を引き起こすのが目的とされる。 

ガブリエル・ズックスマン

21世紀の資本」のトマ・ピケティとの共同研究でも知られている、「失われた国家の富:タックスヘイブンの経済学」の著者で、カリフォルニア大学バークレーのガブリエル・ズックスマン氏は、アメリカ国籍の個人や法人が少ないのは、パナマでのオフショア法人の必要性はなく、米国の有数のタックヘイブンを利用していると指摘している。実に米国は近年、「新しいスイス」とも呼ばれるほど、タックヘイブンとして有名になっている。パナマが安全でなくなると、米国のタックスヘイブンに資金を移動する個人や法人もでてくる可能性はあるとしている。 

ラモーン・フォンセカ

モサック・フォンセカ法律事務所の創業者の1人である、ラモーン・フォンセカ氏は6日に、社内調査の結果、「パナマ文書」は内部リークではなく、外部によるハッキングによる情報流出であることを訴え、司法長官にしかるべき調査と対応を依頼したことを明らかにした。外部ハッキングであれば、ますます米国関与の疑いが強まる可能性が高い。(引用終わり)

*『高野孟のTHE JOURNAL』より抜粋

 

「パナマ文書」で噴き出したグローバル資本主義の死臭

 

パナマの法律事務所──と言えば聞こえがいいが、実質はタックスヘイブンを利用した「資金洗浄マネー・ロンダリング)」幇助専門のコンサルタント会社──「モサック・フォンセカ」から流出した膨大な内部文書の衝撃が広がっている。米誌「タイム」の4月4日付電子版は、これが「資本主義の大危機に繋がるかもしれない」という見出しの論説を掲げたが、それを大げさすぎると笑うことは出来ない。

もちろん、世界中の大富豪や大企業・大銀行だけでなく麻薬密輸団やテロリストなどの国際犯罪組織などまでがタックスヘイブンを使って資金を洗浄して脱税したり秘密送金したりして来たのは、今に始まったことではなく、いわゆる「地下経済」の問題の一部としてさんざんに議論されてきた。しかし、今回の一件が特別に深刻なのは……。 

2.6テラバイトの膨大な文書 

第1に、漏出した資料の膨大さである。匿名の告発者から南ドイツ新聞に届けられた文書は、全部で1,150万件、電子データにして2.6テラバイトにのぼる。1977年から2015年末までの40年近くにわたり、モサックの本社及び全世界に35以上もある事務所と20万人/社に及ぶ顧客との間で交わされた480万通の電子メール、100件の画像、210件のPDF文書が含まれていた。2010年にスノーデンが米外交文書などを持ち出してウィキリークスで暴露した時に世界はその膨大さに驚いたのだったが、その量は1.7ギガバイトで、今回の文書はその1,500倍ほどもある。

とても1社では手に負えないと判断した南ドイツ新聞はこれを、ワシントンに本拠を置く「国際調査報道ジャーナリスト連合ICIJ)」に持ち込み、そのコーディネートによって約80カ国の100以上のメディア(日本では朝日新聞と共同通信)から約400人の記者が出て、1年間かけて解析し取材した。ということは、これまでに報じられているのはまだ概略程度にすぎず、今後恐らく1年間かそれ以上にわたってさらなる新事実やディテール他の国際的腐敗事件との関連(例えばスイスと米国の検察当局が捜査中のFIFAの底なし汚職事件でもモサックを通じての資金操作疑惑が浮上して、すでにウルグアイ出身の幹部が辞任した!)などが次から次へと暴かれていくことになろう。 

第2に、モサックの顧客たちの顔ぶれの豪華さ、とりわけ各国の大統領首相閣僚政府高官など政治指導者とその家族・親戚仲間たちの多彩さである。ICIJのウェブサイトではその主だったところを「パワー・プレイヤーズ」というタイトルで似顔絵入りで一覧に供していて「汚職と脱税のための世界首脳サミット」でも開けそうな雰囲気である。……と思っていたら、9日付朝日川柳に一句あり、「サミットはバージン諸島でどうでしょう」と。

パナマ文書 登場人物

似顔絵をクリックすると、それぞれの説明が出て来るので、詳しくは直接参照して頂きたいが、名前と肩書きだけ列挙すると(左上から)

マクリ=アルゼンチン大統領、イヴァニシヴィリ=元ジョージア首相、グンロイグソン=アイスランド首相(すでに辞任)、アラウィ=元イラク副大統領、アリ・アブ・アル・ラゲブ=ヨルダン元首相、ハマド・ビン・ジャーシム・ビン・ジャブル・アル・サーニー=元カタール首相、ハマド・ビン・ハリーファ・アル・サーニー=元カタール首長、サルマーン・ビン・アブドゥルアズィーズ=サウジアラビア国王、アフマド・アル・ミルガニ=元スーダン大統領、ハリーファ・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン=アラブ首長国連邦大統領、ラザレンコ=元ウクライナ首相(米国で服役後、財産差し押さえ)、ポロシェンコ=ウクライナ大統領。

アリエフ=アゼルバイジャン大統領の妻・子・妹、習近平=中国国家主席の義兄、李鵬=元中国首相の娘、プーチン=露大統領の仲間、アサド=シリア大統領のいとこ、キャメロン=英首相の亡父、ムバラク=元エジプト大統領の子、モハメッド4世=元モロッコ国王の秘書、シャリフ=パキスタン首相の子たち、クフオル=元ガーナ大統領の長男、ラザク=マレーシア首相の子、キルヒナー=元アルゼンチン大統領の秘書、ニエト=元メキシコ大統領のお仲間ビジネスマン、カルロス1世=元スペイン国王の姉、バグボ=元コートジボアール大統領のお仲間の銀行家、ズマ=南アフリカ大統領の甥、コンテ=元ギニア共和国大統領の未亡人……。

https://panamapapers.icij.org/

こうやって書き写しているだけで気分が悪くなってくるようなリストである。

この似顔絵リストには出てこないが、英紙ガーディアンの報道によると、北朝鮮の大同信用銀行DCB)」もモサックの顧客で、06年にバージン諸島にフロント企業「DCBファイナンス」を設立し、同国の軍需企業のための資金調達など秘密の金融工作に当たっていた。DCB13年以降、米国の制裁対象に指定されている。

ICIJによると、文書に出て来る政治家や政府高官は140人に上る。幸いと言うべきか、これまでのところ日本の政治家の名は出て来ていないが、経済界では、セコムの創業者の飯田亮と故戸田寿一=両最高顧問が大量の自社株をバージン諸島に移して管理する仕組みを作って、個人の持ち株を小さく見せかける操作を行っていた。他に福岡県のトレーダーや兵庫県の男性など400人ほどの名もあるらしい。 

「1%ワールド」への反感 

この一件が尋常なことでは済まないだろうと思わせる第3の要因は、米大統領選でのトランプ&サンダース現象をはじめ世界中で新しい格差と貧困への怒りが広がっている中で勃発したというタイミングの悪さである

上掲「タイム」誌論説の著者ラナ・フォルーハーは、この問題が米大統領選の焦点と直結していると感じている。

有権者は感覚レベルで、グローバル資本主義のシステムは「99%の人々」ではなく主に「1%の人々」の役に立っていただけだと分かっている。それがサンダーズとトランプが健闘を続けてきた大きな理由で、なぜなら彼ら2人は、別々の方法ではあるけれども、その真相をさらけ出しているからである。

パナマ文書は、グローバル化が「1%の人々」(それが個人であれ企業であれ)の資本や資産がどこへでも自由に移動出来るようにしているだけで、「99%の人々」はそんなことは出来ない。その結末は、グローバルな脱税の横行と雇用の海外流出であり、エリートは国民国家とそこで暮らす納税者が抱える様々な問題を3万5,000フィートの上空から見下しながら空を飛ぶ。

どうすればいいのだろうか。私が思うに、市場システムがいかに役に立つのか立たないのかを再評価するという根本まで立ち返らざるを得ない。自由貿易についての議論、脱税に対するグローバルなキャンペーン、金融資本の自由な移動に対する厳しい監視、等々。

行動経済学者のピ-ター・アトウォーターは言う。「金融・企業・政治のエリートの刹那性に有権者はますます怒っている。1%の人々はどこへでも移動することが出来て、その移動から大きな利益が生まれる。しかし99%の人々にそれは出来ない。もっと悪いことに、99%の人々はさびれたデトロイトの空きビルや、ウェスト・ヴァージニアの化学プラントの有毒廃棄物や、プエルトリコの到底持続不能な税負担義務といった廃墟の中に取り残されているのだ」と。 

こうしたことを解決するには「成長」とは何かを問わなければならないが、それは米国はじめ豊かな国々にとってのみの問題なのではない。最近の研究では、モサックのような金融操作によって途上国経済は0413年に7兆8,000億ドルもの損失を被っている。さらに、不法な金融取引は年率6.5%、世界GDPの2倍の勢いで伸びている……。 

世界資本主義は行き詰まった 

トランプ&サンダーズ現象が笑えないのはまさにここである。水野和夫が言うように、資本主義は(少なくとも原理的には)終わった(『資本主義の終焉と歴史の危機』、集英社新書、14年刊)。資本主義の根本原理は利潤率の増大であり、その資本主義が地球上のありとあらゆる辺境を食い尽くして、なお引き続き利潤率を確保しなければならなくなった時に何をしたかと言えば、自国の中間層の食いつぶしである。

辺境があった時代には、そこから得た利潤の一部を国内に環流させて自国の労働者を「中間層」として育て、そこそこ経済的にいい思いをさせながら政治的にも懐柔することが出来た。ところが資本はその本性として凶暴で、外がダメなら内を平気で食い尽くす。それが、米欧日の先進国で共通して「豊かさ」の中の格差と貧困が広がっている根本原因である。

ところがその時に、1%の人々は、自国の中間層以下の99%の人々の苦しみなど歯牙にもかけず、3万5,000フィートの上空をプライベート機かファースト・クラスの座席で高級ワインなど舐めながら、地上の貧民どもをあざ笑っているわけである。

注目すべきことに、ほとんどの場合、これらの政治家や独裁者や大富豪たちは、自分でモサックに電話をかけてトンネル会社の設立を依頼しているわけではない。彼らが隠し財産を預けている巨大銀行や運用を委ねているコンサルティング会社が「顧客サービス」の一環としてモサックを紹介し、脱税や資金洗浄を指南しているのである。パナマ文書には欧州系を中心に500もの金融機関がモサックを通じて1万5,600社のトンネル会社の設立に寄与している様が描かれている。そのうち最も上位の10行とそれが設立を手伝ったトンネル会社の数は次の通りである(ICIJ資料)。

エクスペルタ・コーポレート&トラスト(ルクセンブルク) 1,659
J
・サフラ・サラシン(ルクセンブルク) 963
クレディ・スイス系(英領チャネル諸島) 918
HSBC
系(モナコ) 778
HSBC
系(スイス) 733
UBS
(スイス) 579
クーツ系 (英領チャネル諸島) 487
ソシエテ・ジェネラル系(ルクセンブルク) 465
ランズバンキ(ルクセンブルク) 404
ロスチャイルド系(英領チャネル諸島) 378 

もちろん、タックスヘイヴンを利用すること自体は「今のところ違法ではないし、そこに移される資金のすべてが犯罪がらみという訳でもない。しかし、タックスヘイヴンとは「租税回避地」のことであり、それを利用する全ての人が他人に知られたくない財産を持っていて、自国で税金を払いたくないと思っている「非愛国者」であることは間違いない。各国の最高指導者が率先して脱税もしくは避税したがって、妻や子や親戚や秘書やお仲間を使ってあの手この手でモサックに頼るという餓鬼道地獄に墜ちていく。その手引きをしているのが国際的に名の知れた巨大銀行であり、その意味でグローバル資本主義はすでにその中枢部から腐り始めているのである。

ちなみに、モサックが顧客の依頼に応じて設立したトンネル会社をどこに置いたかを見ると(INSIDER No.832「パナマ文書」のきらびやかな政治家リスト)http://bmimg.nicovideo.jp/image/ch711/372355/4d6b5a36ad85fb2b6d0044d6709ff808a67f7199.jpg

、香港が2,212社で最多で、以下、英国、スイス、米国、パナマ、グアテマラ、ルクセンブルク、ブラジル、エクアドル、ウルグアイがトップ10である。資本主義はブラック・ホールだらけである。 

一服の解毒剤としてのムヒカ 

この資本主義が放つ腐臭で卒倒しないようにするには、解毒剤が必要だろう。この騒動の最中に、たまたま来日したのが「世界で最も貧しい大統領と言われたホセ・ヒムカ=前ウルグアイ大統領で、彼は2012年にブラジルで開催された「国連持続可能な開発会議」で人類がグローバル資本主義を超えて生きるべき道を説いて有名になった。その演説は日本でも書籍や絵本として出版され、とくに絵本は16万部も売れるロングセラーとなった。その絵本の出版社の招きで初来日したもので、各地で講演したりインタビューを受けたりした後、広島を訪れる予定である。

その有名な演説を今更紹介するのも気が引けるが、要旨はこうだ(英語版からの本誌抄訳)。 

質問をさせてください。ドイツ人が1世帯で持つ車と同じ数の車をインド人が持てば、この惑星はどうなるのでしょうか。息をするための酸素がどれくらい残るのでしょうか。別の言い方をすると、西洋の豊かな社会と同じ傲慢な消費を世界の70億~80億人の人ができるほどの資源がこの地球にあるのでしょうか。 


市場経済の子供、資本主義の子供である私たちが、この無限の消費と発展を求める社会を作って来たのです。私たちがグローバリゼーションをコントロールしているでしょうか。それともグローバリゼーションが私たちをコントロールしているのでしょうか。このような残酷な競争で成り立つ消費社会で「みんなの世界を良くしていこう」というような共存共栄のための議論はできるのでしょうか。我々の前に立つ巨大な危機の原因は環境危機ではありません、政治的な危機の問題なのです。

私たちは発展するために生まれてきたわけではありません。幸せになるためにこの地球にやってきたのです。人生は短いし、すぐ目の前を過ぎてしまいます。命よりも高価なものは存在しません。にもかかわらず多くの人々が高価な商品やライフスタイルのために人生を放り出しています。消費が社会を駆動する世界では、私たちは消費をひたすら早く多くしなくてはなりません。消費が止まれば経済が麻痺し、経済が麻痺すれば不況のお化けが現れるのです。

このハイパー消費を続けるには商品の寿命を縮め、できるだけ多く売らなければなりません。10万時間保つ電球を作れるのに、1,000時間しか保たない電球しか売ってはいけない社会にいるのです。人々がもっと働いて、もっと売るために「使い捨ての社会」を続けなければならないのです。悪循環の中にいるのにお気づきでしょうか。これはまぎれもなく政治の問題であり、私たち首脳は別の解決の道に世界を導かなければなりません。

昔の賢者たちは言っています。「貧乏な人とは、少ししか物を持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」と。これがこの議論の文化的なキーポイントです。根本的な問題は私たち作り出した社会モデルであり生活スタイルなのです。

私の国には300万人ほどの国民しかいません。しかし、世界でもっとも美味しい1,300万頭の牛がいて、羊も1,000万頭ほどいます。私の国は食べ物の輸出国です。私の同志である労働者たちは、8時間労働を獲得するために戦い、そして今では6時間労働を獲得した人もいます。しかしその人たちは別の仕事もしており、結局は以前よりも長時間働いています。なぜかと言えば、バイクや車などのローンの支払いに追われているからです。毎月、2倍も働いてローンを払っているうちに、いつしか私のような老人になっている。幸福な人生が目の前を一瞬で過ぎていくの
です。

これが人類の運命なのでしょうか。私の言っていることはとても単純で、発展は幸福を阻害するものであってはならず、人類に幸福をもたらすものでなくてはなりません。愛情や人間関係、子どもを育てること、友達に恵まれること、そして必要最低限のものを持つこと。こうしたものをもたらすような発展でなければなりません。幸福が私たちのもっとも大切なものだからです……。 


パナマ文書に名指された首脳たちは、それこそバージン諸島に集まってヒムカの本の読書会でも開いたらどうか。チューターは、そう、バーニー・サンダースでしょう。(引用終わり) 


高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。『インサイダー』編集長。2002年より早稲田大学客員教授。サイバー大学客員教授。東アジア共同体研究所理事。千葉県鴨川市在住。


© 2011 山本正樹 オフィシャルブログ Suffusion theme by Sayontan Sinha